南アフリカ・資源採掘依存の経済から離れる必要が浮上

コロナウィルスと鉱山労働者
いのちと暮らしを守らせる闘いで成果
さらに経済構造変える闘いへ

ジョセフ・ヴシ・マチュンジュワ

 鉱山労働者・建設労組連合(AMCU)は、南アフリカ(以下南ア)の鉱業部門における新型コロナウイルス禍の中で労働者の安全を求めて闘っている。
 新型コロナウイルスが南アの海岸に到達しようとしていることがはっきりした二月後半、わが社会の一定部分は特に脆弱になるだろう、とわれわれはすぐさま実感した。植民地主義とアパルトヘイトの経済的かつ特別な遺物が理由となって、南アフリカ人の大多数、ほとんどが黒人の過半は今も、狭苦しく公共サービスも貧弱な宿泊場所で暮らしている。これらの不安定な条件の市民のほとんどは、失業者であり、また「ワーキング・プア」と言われてきた職をもつ者たちだ。

搾取と冷酷、資本主義の一世紀


鉱業部門は、南ア社会のいわば縮図であり、搾取と資本主義の冷酷さという一世紀以上の傷跡を今なお示している。一八〇〇年代後半にダイヤモンドと金が発見されたとき、安く未熟練な労働力に対する即時の必要があった。これが、移住労働者システムに起因するさまざまな社会的な病弊に導き、またアパルトヘイトの前兆としても作用した。 アパルトヘイト期、黒人鉱山労働者の賃金は低いまま維持され、彼らの労働条件もぞっとするようなものにとどめられた。これが鉱業を非常に収益性のある事業にし、それ自体でアパルトヘイトを可能な限り長く実効性をとどめることに向け刺激を与えた。

鉱山はコロナに特別に脆弱

 このシステムによる遺物の一部は、鉱山労働者が南アとその隣国のあらゆるところからやってきている、ということだった。その隣国とは、レソト、スワジランド、モザンビーク、ボツワナであり、アンゴラまでも含まれる。
先の遺物のもう一つは、鉱山労働者の多数は彼らの家族を後に残している男たち、ということだ。したがって鉱山労働者は、ほとんどいつも「家」を二つもっている。一つは彼らの家族が暮らす家であり、もう一つの住居はそこから彼らが働きに出る、寮の部屋から鉱山会社にくっついた掘っ立て小屋までの何かだ。
鉱山では、多くの鉱山労働者が男だけの寮で暮らしている。彼らはそこで、しばしば五〇人までも収容する寝室に詰め込まれている。彼らは共同炊事場で調理し、ぎっしりと混んだ食事ホールや食堂で食事する。仕事に出かけるときは、イワシのようにバスに詰め込まれ、ヘッドランプを取るために列に並び、そしてその後一五〇人まで収容するエレベーターに向かい、地球の腹へと何㎞も下降するのだ。
地下の条件はじめじめし、埃っぽく、酸素が薄い。しかも暑い。本当に暑い! 言われていることとして、もっとも深い金鉱のいくつかでは、坑内の岩の上で目玉焼きを作ることができる、との話もある。酸素はポンプで送られなければならず、汚れた空気もポンプで吸い出されなければならない。埃と有害なガスが、珪肺やアスベスト塵肺といった命に関わる職業病を引き起こしている。
これらの要素すべてが、鉱業部門を新型コロナウイルスに対し特別に脆弱にしている。社会的に距離を取るという考え方は鉱山ではほとんど不可能であり、労働者があらゆるところからやって来るという事実が、ウイルスが鉱山に入り込むというリスクを高めている。

AMCUは即座に対応したが…

 AMCUはこれらのリスクをすぐに理解した。AMCUは早くも三月五日、あらゆる鉱山会社に文書を出し、鉱業部門での緊急コロナウイルスサミットを求めた。その時AMCUは、この部門での新型コロナウィルス接触の特に高いリスクを示し、関係者は、このウイルスに対応し、用意を整え、防御する諸方策を適切に配置する必要がある、と主張した。AMCUはさらに、この国家の大統領、シリル・ラムポーザ閣下にも同様な文書を送った。これらの文書への回答は今もない。
ものごとは急速にエスカレートした……。人々は怯えるようになった。われわれは、規則的に手を洗い、大規模な集会を避けるよう告げられた。その後、三月一五日に大統領が国営テレビで災害事態を宣言、三月二三日の全国ロックダウンが続いた。われわれはさらにおびえの状態に放置されたが、全員は「家にとどまり、安全のままにい」なければならない、と知らされることで慰めを与えられた。
大手の雇用主は、二一日間のロックダウンの間労働者への賃金を維持するよう告げられた。そしてこれが不可能なところでは、失業保険基金(UIF)を通した援助のような方策を国家が適切に配置するだろう、とも告げられた。しかしながらこれは、保証……という意味では偽りだ。
われわれはAMCUとして、雇用主全員に即座に文書を送り、大統領の公表を、より特別には従業員への賃金支払いを続けるようにとの雇用主に対する勧告を、実行に移すよう丁重に求めた。何人かの雇用主はこの求めを心にとどめた。しかし他の者たちは、不可抗力、およびノーワーク・ノーペイを言明することにより、経済的な不確実さを単純に彼らの労働者に回した。彼らは明らかに、引き続いた何十年も鉱山労働者のおかげで上げた相当な利益を忘れ果てた。

ルールを変え資本を守る国家機関


平行した形で、鉱物資源・エネルギー局(DMRE)は大統領による公表を彼ら自身のやり方で解釈し始めた。DMREは、発電所に石炭を供給している鉱山(だけ)はロックダウンから除外されるだろう、と大統領が合理的で理解できるコメントを行ったところで、この除外を体系的に広げようとした。
この拡張化は最初、基本的に全炭鉱に関するもののように見えるものを含んでいた。しかしそれはその後、リスクはより低いとの仮定を基礎に全露天掘り鉱山へと動いた。そしてその後驚くことではないが、この除外は金鉱に対しても容認された。利害関係者に対するいわゆる諮問手続きが、三月二五日付けのDMRE意見に反映されているこの緩和に導いた。ちなみにこの意見は基本的に、不可欠なサービスとみなされたサービスの安全に対して、最低基準を全く設けていない。主な焦点は、生産を保証する操業の除外、それによって鉱山労働者を働き続けるよう強制すること、に当てられていた。
AMCUとしてわれわれは、対応しなければならないと直ちに悟った。われわれは、全体としての鉱業は不可欠なサービスと見られ得る、との主張によって仰天させられたのだ。この事業が人々にとって不可欠なわけではなく、鉱山の経営者にとって不可欠、ということははっきりしていた。利害関係者にとどまるために最善を尽くしていた弱い労組に支援されて、DMREが鉱山会議(元鉱山会議所として知られていた)によって組み込まれるようになった、ということも明確だった。AMCUとその傘下諸組織は戦闘的な労組として、脇に置かれ、一二九という衝撃的な数の鉱山が、不可欠なサービスであることを基礎に、ロックダウンから除外された。

AMCU、労働者のいのちを守る


われわれは、「鉱山衛生・安全法」二四条に規定されたこととして、危険な条件の下で働くことを拒否する権利があることをわれわれの組合員に思い起こさせた。そして雇用主たちに、彼らの従業員の衛生と安全を保証するよう促した。われわれは、鉱山の操業に反対してはおらず、何よりもまず労働者の衛生と安全が保証されなければならない、と強調した。
しかしながら、国家と雇用主に対するわれわれの請願が事態を動かす力を得ることはほとんどなく、われわれは最悪なことを恐れた。AMCUにとって唯一の実行可能な選択肢は訴訟だった。そしてわれわれは、階級行動を扱う有名な法律事務所、リチャード・スプール事務所に、労働法廷で基本的な安全問題を引き受けるよう弁護を依頼した。
はじめから、AMCUが強力な論拠をもっていたということははっきりしていた。何人かの雇用主は、AMCUの提訴に対する支持を表明し、DMREでさえ、法廷に出る以前に問題を解決しようともくろんだ。AMCUはその提訴を支持する五人の進歩的な衛生専門家(ロドニー・エリッヒ、ジル・ムレイ、ラジェン・ナイドー、デイヴィッド・レリーズ、パム・ソーネンブルグの教授たち)の助けを得た。そして彼らは、全国最低基準がどのように見られるべきかに関し、価値ある勧告を諸々行った。
五月一日、労働法廷のファン・ニーケルク判事はDMREに、鉱山衛生・安全法の見地から最低基準を設けるよう、また五月一八日までに官報に掲載されるよう指令した。同法廷はまたある種特別な成果として、鉱業とエネルギー部門の全雇用主に対し、AMCUと鉱山会議間で交渉された操業手続き基準(SOP)を適用可能にするよう指令した。
労働者の記念日に労働者にとって何という勝利だろうか! AMCUは、国家を強要して、彼らが奉仕する資本家たちの声だけではなく、労働者の声をも傾聴するよう迫るために、司法制度を利用することができた。これは、AMCUおよび鉱業とエネルギー部門にとっての勝利であるだけではなく、最低基準が実効性をもつ以前に働くことを拒否することにより、他の労組が組合員を守る上での事例をもつくり出した。

症状チェックではなく検査を


われわれは、最低基準を設けるよう国家を強要できたとはいえそれでも不幸なことに、鉱山部門でのウイルスの相当な爆発を経験してきた。この論評を書いている時点で、一週間前に操業を開始したアングロ・ゴールド・アシャンティで感染発見が一六四件になったという衝撃的な数字と共に、鉱業部門での感染件数が三二〇九になっている。
これらの感染ではほとんどが無症状であり、症状のふるい分けだけでは有効性がない、というAMCUの主張を確証している。症状ふるい分けは大きな程度で、仮想的な結果をもたらす仮想的なプロセスでしかないのだ。しかし検査はその本性上、労働者が感染しているか否かの客観的な証拠になる科学的に証明された手続きだ。これこそが、全員検査という政策を実行し、そしてそれによって鉱山労働者全員が新型コロナウィルス症状でふるい分けされるだけではなく検査も受けるよう、われわれが鉱山会社に訴えてきた理由だ。
われわれは、検査が雇用主からの一定の資本経費を必要とする、という事実を完全に認識している。しかしわれわれは、これがこの疾病を管理する持続可能な唯一の方法であり、その間鉱山の継続的な操業をも確実にする、と心から確信している。このウイルスは増殖に最大五日かかり、その一方感染者は最大一四日まで無症状である可能性がある、と知られている。特に鉱山環境のような高度にリスクがある職場で最大の危険を持ち込むのは、特にそうした無症状の者なのだ。

経済の再構築も闘いの対象に


しかしながら、敵対的な双方を満足させるこの行為はわれわれにとって新しいものだ。資本家は一つのことしか気にかけず、それは利潤だ。安全と労働者の福利に対する彼らの懸念は単なる見せかけに過ぎない。それはピーアール……行為だ。これは、今回のウイルスにどう対処するかで極めて鮮明になった。彼らはテストにかけられ、資格を欠いていると気付かれた。労働者の安全は、彼らが気にかけるものではない――それは一八〇〇年代以来彼らの懸念であったことなどない――。彼らは日々鉱山労働者を殺し続けているのだ。鉱山労働者が一八〇〇年代に自分の布団と安全具を自費で買うよう強要されたこととまったく同じに、今日同じことが今も続いている。
彼らはまた、労働者の暮らしをも気にかけていない。といっても彼らはそれは経済の問題とのふりをする。しかし経済は何らかの抽象ではなく、介入が必要な独自の実体だ。経済は民衆によって作られ、民衆に役立つような仕組みにされなければならない。経済は、もっとも貧しい者たちの家計経済が良好である場合にのみ同じく良くなる。われわれはAMCUとして、南アの各労働者と全労働者に経済の解放を与え終わるまで、力を惜しまないだろう。
この新型コロナウィルスはしばらくの間われわれと共にあるだろう。そしてほとんど確実に、多くの産業内で職の大量虐殺が起きるだろう。これは、職を機械化し取り上げるために資本家によって利用されるだろう。労働関係法は利潤を保護しているが、最大利潤のために数千の家計を取り除く雇用主に対する法的な許可は、一八九条にすぎない。われわれは準備を整えなければならない! われわれは経済を再構築しなければならない。
しかしそこにはまた新しい好機もあるに違いない。われわれは、労働者と全体としての社会に加わる打撃をやわらげる方法と手段を考察する必要がある。これは、われわれの労組と産業の政策の中にある欠落、に取り組む上での比類のない理想的な機会だ。たとえばわれわれは、新型コロナウィルスを管理するためのわれわれ自身の装備と個人防護具(PPE)を制作可能にするために、われわれの製造能力を広げる必要がある。今はわれわれの経済構造を変えるときなのだ。
われわれは、資源採掘依存の経済から離れる必要がある。われわれは、われわれの社会の必要に奉仕するために、当地での製造と利益還流に焦点を絞る必要がある。これは明らかに、職の喪失すべてに取り組むものにはならないだろうが、しかし成功を見るだろう。
時として、絶対的に何かが変わったことは一度もないように見える。今もなお、生産手段をもつ者はほとんどが白人であり、地球の腹の中で汗をかき骨を折っているのはほとんどが黒人の鉱山労働者だ。悲惨な条件の下で奴隷的な賃金と引き換えに働くことは、今も家族を残して来ているわれわれの父親、兄弟、息子の問題だ。職場で搾取されている者たちは、今もわれわれの母親であり、姉妹であり、娘なのだ。
一九九四年以来、AMCUにより、南ア鉱山労働者の前にあった社会・経済の現実に対する唯一の真の変化がもたらされてきた。AMCUは、貧困からの抜け道、および鉱山経営者と国家により組み込まれてきた御用組合の掌握からの抜け道、を労働者に提供することにより、その基調を設定した。AMCUは貨幣価値引き上げの概念を届け、要求を消費者物価指数を基礎としたパーセンテージから引き離した。AMCUは月額一万二五〇〇ランドキャンペーンを提案した。
われわれは労働者にとっての社会的公正を確保する必要がある。われわれは、一方では命と生活条件間の均衡を、また暮らしを立て経済に参加する彼らの必要を見出す必要がある。(『アマンドラ』誌、二〇二〇年六月、七〇号より)

▼筆者は、AMCUの創設者でその代表。(「インターナショナルビューポイント」二〇二〇年七月号) 

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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