反資本主義のヨーロッパに向けた国際主義的過渡的綱領のために(下)

ヨーロッパ規模の大衆的決起に導く現実的水路の探究を課題に

オズレム・オナラン

ヨーロッパを
貫く変革必要

 債権者主導の大規模な債務支払い停止もまた、銀行にとっては同様の結果を含むだろう。したがってまさにそれゆえに、周辺と中枢双方において、労働者統制の下での銀行の社会化に対する要求は、緊縮政策、危機悪化そして救出のための財政支出という、この悪循環に終止符を打つための支払い停止にとっては、必然的な補足となる。これらの諸闘争は、所得と資産に対する累進的な、つまり危機の対価に対する責任ある支払いを行わせ危機の源である親資本的資源配分を逆転させるための租税政策、それを求めるより広範なキャンペーンの一部として調整される必要がある。統一されたキャンペーンが多国籍かつ可動的なヨーロッパ金融資本による資本逃避の脅迫に反撃するより強力な武器である以上、先のような要求が資本に対する統制と租税の協調を求めるヨーロッパ的広がりのキャンペーンの一部として定式化されるならば、これらの要求は改めて、諸大衆による広範な受容に肉薄することとなる。こうしてこのキャンペーンが支払い停止と社会化された銀行システムを伴うとき、ヨーロッパ中で、特に周辺において生産的な緑の投資のための基金に資金を供給する責任を負う真の中央銀行へと、ヨーロッパ中央銀行(ECB)を転換する要求は改めて有意義なものとなる。
 ヨーロッパの周辺諸国における諸問題に対する回答はまた、小さな諸国内における孤立した国民的解決に反対するものとしての、ヨーロッパを単位とした財政移転によっても巨大な規模で促進されるだろう。実際国民的な回答は、逃れがたい低開発へと容易に導く可能性が高いのだ。先の立場はまた、中枢諸国の勤労民衆の利害と調和的でもある。多国籍企業のための代わりとなる立地先として位置をもつ低賃金の周辺は、中枢にとってもまた賃金と職に対する脅威なのだ。
 その上でさらに私は、周辺におけるユーロゾーンからの離脱に続くと思われている、通貨切り下げの国際競争上の効果に関する楽観主義を共にしない。通貨切り下げは輸入品コストの増大を意味する。そして輸入依存国において輸入品コストが国内価格へそのまま移る効果は、国際競争上の効果をたちまち腐食させる。通貨切り下げが輸出に及ぼす初期の肯定的な効果は、輸入依存国のインフレを経由して二、三年の内に相殺される。それは経験的な証拠が示すものだ。要するに競争は、為替レートのような通貨上の変数というよりも、生産性という実体的な諸力に関わっている。そして通貨切り下げはさらに、労働者に対しては破壊的な実質的賃金喪失に導くのだ。

民族主義右翼に
余地を与えるな


 最後にしかし現在の情勢においては小さくはない問題だが、反ヨーロッパかつ反ユーロの立場は、むしろ民族主義の極右勢力を力づけるものになりがちだ。そして民族主義は確実に、中枢における労働者階級内部の問題だ。さらに極右は、周辺部諸国でもまた急速に不満層を動員しつつある。わたしは、ミシェル(ユソン、二〇一一年)と経済と政治の双方を土台とするATTACドイツ科学委員会(二〇一一年)の懸念を共有する。一方コスタスはそれに同意してはいないように見える。ATTACドイツ科学委員会が書いているように(二〇一一年)、「ユーロは依然として〝透明な通貨〟ではまったくない」、しかしわれわれは、広範な反対勢力の諸運動を結集するオルタナティブ政策については、その存在を前提に考える必要がある。セドリック・ドュランが書くように(二〇一一年)、各国とヨーロッパレベルで〝政治的展望が不在な中では〟 、これらの運動は崩壊し、すでにヨーロッパのいたるところで勢力を強化しつつあるもっとも暴力的で反動的な種類の民族主義勢力に余地を残すかもしれないのだ。新自由主義のヨーロッパの混乱は、こうして悪夢に成り果てる可能性がある。このような見解は、コスタスが見るような〝通貨同盟を崩壊させる恐れ〟に関することではなく、国際主義的戦略を築き上げる点での失敗に含まれる結果についての、冷静な認識だ。

国民国家の枠
を破る戦略を


 歴史はわれわれに、周辺における債務支払い停止を求める動員のどれだけ多くが中枢における反響を見出すかを示すだろう――われわれはさまざまの速度の反応を経験するかもしれない――。ヨーロッパの周辺諸国における反資本主義的急進化は初期的な成長局面にあり、同時期に、すでに債務支払いという課題を討論している大衆的な反資本主義政党をもつ、たとえばフランスのような中枢諸国がある。それでも、動員の同調があるのかそれともむしろ動員速度に重要な違いがあるのかは、今後分かることとしてある。こうしてわれわれは、国民国家レベルでのオルタナティブにより多くの希望を置くことに反対するものとしての国際主義的戦略を携えて、うまくスタートを切る可能性を得るだろう。確かに、いずれもがその最初の局面にある。
 明らかに、制度的かつ政治的な変革と並んで債務支払い停止を求める、中枢と周辺双方のヨーロッパ的広がりの大きな動員がなければ、周辺諸国の一つあるいはもっと多くで債務支払い停止を強要することに成功するとしても、また現存のEU諸制度を攻略できず、この機構が進歩的な経済諸政策に障壁を築くならば、債務支払い停止の後にはユーロからの離脱が続く可能性がある。その時社会主義者は周辺諸国の民衆に、どんな犠牲を払おうともユーロゾーンに留まるように、とは決して求めないだろう。しかしながら、これはむしろ戦術的な問題であり、決定的な出発点ではない。したがってユーロはタブーではない。その上でわれわれは、ユーロゾーンを離脱するという、連携した周辺諸国がもつ脅迫の力を過小評価すべきではない。ヨーロッパ資本主義の利害を前提としたとき、これらの諸国は確実に、いわばある種の交渉力を持っている。この段階では、通貨だけに関する今のところ先走り的で技術的な論争に従うよりも、むしろ、共同の闘争をめざしヨーロッパ中で勤労民衆を動員するために努力すること、そして先に道を開くかもしれない戦術行使の分野を利用することの方が決定的である。

国際主義的
過渡的綱領

 ヨーロッパにおける抜本的な変革は、諸制度と政治的枠組みでの大規模な変革を必要とする。その変革が、見苦しくない生活基準と持続可能な環境を求める人びとの切迫した要求から、代わりとなる民主的で参加型の、また環境社会主義的かつフェミニズムのオルタナティブへと橋を架ける。以下に、そのようなヨーロッパのための反資本主義の課題に向け、オルタナティブの概略を簡単に示したい(注三)。
 債務支払い停止と共に、国家財政の抜本的な再編は、ヨーロッパレベルで調整される高度に累進的な租税システムを含まなければならない。それは所得だけではなく資産をも対象とするものであり、より高い法人税率、相続税、金融取引税などだ。
 財政、通貨、産業政策は、完全雇用、環境上の持続可能性、そして平等を目標としなければならない。おそらくはゼロあるいは低い成長に基づく低炭素経済と完全雇用の調和は、以下の三つの政策を必要とする。労働集約型の公的職務(たとえば、教育、保育、介護住宅、保健衛生のような社会的サービス、共同体と社会に関わるサービス)の創出、公的な環境的投資、そして実質のある労働時間の短縮がそれだ。これはジェンダー平等の創出というわれわれの目的を補足する。
 この計画は労働者統制の下にある社会化された銀行部門を必要とする。金融規制と資本に対する統制は重要ではあるが十分ではない。
 所得と労働市場の政策の側面については、過去三〇年の生産性の成果を反映した、ヨーロッパの中枢と周辺双方における賃金の基本的な修正が必要である。ヨーロッパ内部における収斂を促進するために、最低賃金が調整されるべきだ。ヨーロッパのより貧しい諸国におけるより高い生産性上昇は、賃金上のある程度の接近を生み出す上では助けとなるだろうが、地域的な収斂は、貧しい地域での生産性上昇を押し上げるための公的投資と財政移転によって支えられなければならない。さらに、低失業地域から高失業地域への再配分のために、ヨーロッパ規模の失業給付システムが開発されなければならない。これは、ヨーロッパ規模の累進的な租税によって資金を得る意味のあるヨーロッパ予算を必要とする。
 最後に、しかし小さくはない課題として、経済全体にわたる重大な決定の調整は以下のものを必要とする。すなわち、公的所有制であり、それから、企業においては労働者による、また、金融、住宅、エネルギー、インフラストラクチャー、年金制度、教育、保健衛生、さらに大規模生産部門のような決定的な分野における消費者と地域代表者の参加と統制だ。そのような改革は、民主的で参加型の、またフェミニズム的な環境社会主義に向け橋を架けることとなるだろう。
▼筆者はイギリスのミドルエセックス大学の経済学先任講師。数々の経済関係雑誌にグローバリゼーション、資源配分、雇用、投資、また経済危機に関する論文を発表してきた。また、第四インター(FI)イギリス支部のソーシャリストレジスタンス並びにFIトルコ支部の出版物であるイエニヨル(新路線)に協力している。
注一)ヨーロッパ危機に関する声明、並びに第三回ヨーロッパ反資本主義評議会を参照。
注二)より詳しくはトゥーサン(エリック、二〇一一年)を参照。
注三)完全版はオナラン(二〇一〇年a、c)を参照。
訳者注)原文には参照文献目録が付されているが割愛した。(「インターナショナルビューポイント」二〇一一年四月号)

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