欧州議会選挙・変化した勢力配置と当面する課題
フランソワ・ヴェルカマン
NATO軍によるユーゴ空爆という侵略戦争の終結から間もない6月13日、ヨーロッパ議会選挙の投票が行われた。その結果は、社民党が中心となった各国政府が自ら侵略戦争に参加し、新自由主義的経済政策を推し進めているという状況下で、きわめて複雑なものとなった。社民はいずれも大きく後退し、保守が伸長した。極右は足踏みし、緑は伸長し、共産党系は前進後退半ばし、戦闘的左派は社会的位置を確立した。 欧州議会の選挙は、国内の力関係に影響を及ぼさないと最初から分かっていたが、欧州連合加盟国と政党の大部分に重大な変動を引き起こした。ヨーロッパ人民は、ためらうことなくこの実物大の「世論調査」を利用した。
きわめて低かった投票率
2億9千700万人の有権者の半分弱が棄権した。イギリスの棄権率はアメリカと同じ水準に達した。この国の投票率は23%でしかなかった! これは、投票が強制的でない国における、低投票率の記録である。われわれに対してヨーロッパが「ユーロの出現とともに人々の意識の中に定着した」と言われていたにもかかわらずである。
この無関心の理由は単純である。欧州議会は権限をもっていない。すべてはブリュッセルの委員会によって、欧州中央銀行によって、閣僚評議会と首脳会議によって決定されている。
社民系現政権は拒否された
投票に行った人々はこの機会を捉えて、政府とそれを構成する政党とその新自由主義の政策を非難した。スペインのアスナールの国民党とポルトガルの社会党を除いて、与党が後退し、野党が伸びた。ベルギーでは、それは与党の社会民主党とキリスト教民主党にとって災厄であった。社会民主党が13カ国で政権に就いている(首相を務めているのは11カ国)ので、人民のこの拒否の意志表明をもろに受けた。彼らがわれわれに押し付けたがっているヨーロッパに対する抵抗は、広範で強固である。
ある勢力にとって、とりわけドイツとイギリスでは、この転落はすさまじい。ドイツ社会民主党は、1998年9月に劇的な津波のような勢いで政権に就いたばかりなのに、わずか9ヵ月で10%も失い、30・7%しか獲得することができなかった! その結果、危機にあるにもかかわらずキリスト教民主党が四八%と史上最高の得票率を得た!
イギリス労働党のブレアの総崩れは最悪である。この党の得票率は28%にまで転落し、分裂状態にある保守党(38%)に勝利を提供した。選挙直前でのイギリス労働党とドイツ社会民主党の共同声明――強化された新自由主義の攻勢の中にヨーロッパの社会民主主義を引き込むことを目指すもの――の発表は、両党の敗北の理由を明確に説明している。
保守系の伸長と極右の状況
社会民主党のこの後退は、ヨーロッパが「右に転換した」ことを意味しない。確かに、フランスを除いて、ときには劇的なまでに保守系の諸党が伸びた。だが、ブルジョアジーの政党は、得票率を伸ばしたが、得票数では前進しなかった。「右の伸長」にもかかわらず、社会民主党の労働者的拠点における大量の棄権は免れることができなかった。
さらに、右翼が欧州議会で多数派になるに違いないというのは本当ではない。右翼は常に多数派であった。社会民主党は最大多数の集団を形成しているが、4つ(キリスト教民主党系、自由党系、民族主義諸派、そして言うまでもなく極右派)に分かれている右翼に対して少数派であった。
問題となっている社会民主党の後退はそれほど大きなものではなく(214議席から180議席へ)、欧州議会における欧州人民党グループ内の右翼の再編が進み、そのイデオロギー的基準という点でキリスト教民主派はますます減少しており、そこにはベルルスコーニ(「フォルツァ・イタリア」)、プローディ、サルコジー、マドラン、ベイルーが登場しつつある。しかしながら、右翼の前進は、路線と指導部の深刻な危機を何ら解決するものではない。
社会の抵抗と与党に対する否認は、部分的に、緑の党や共産党や急進的左翼を支持する積極的な投票となって表れた。それは極右派を強化しなかった。ファシスト派またはファッショ的右翼は少なくとも選挙の面では足踏み状態を示した。フランスでは、ルペンの国民戦線とそれから分裂したメグレ派とを合計した得票は10・5%、11議席(1994年の欧州議会選挙)から8・9%、5議席になり、オーストリアのハイダーの自由党は4%を失い、23・5%で5議席に終わった。デンマークでは、排外主義的で人種差別主義的な国民党は、5・8%を得て議会に進出した(1議席)。ベルギーでは、極右派のフラームス・ブロックは前進し続けており、15%近くの得票率を得て、フラマン系地区では社会党を上回った。
緑の潮流は各国で前進した
社会民主党への否認からとりわけ利益を得たのは緑の党である。ドイツの緑の党は、後退し(1994年の10・1%から6・5%に)、引き裂かれた。それ以外の国では緑の党は前進した。フランス(9・71%)、ベルギー(12・1%)、オランダ(11・9%)、オーストリア(9・2%、2議席)。
ベルギーでは、その成功はまばゆいほどのものである。フラマン系地区の緑の党であるアガレフは得票を倍加させ、ワロン系地区のエコロは18%の得票率に達した。ダイオキシン汚染の危機がこの躍進を助けたことは確かである。
重要な事実はいぜんとして、ヨーロッパ・レベルで緑の潮流が強化されたいう点である。この潮流は、青年の間ではしばしば第1位か第2位の潮流になっている。この潮流は体制に対しては柔軟な対応を行っているが、それは大きな賭けである。なぜなら、緑の潮流と社会運動との有機的つながりが弱いし、そのつながりが弱まっているからである。この潮流は、体制を「管理する」立場への転換の実施に関する限り、各国レベルでもさまざまな諸国間のレベルでも均質的ではない。
共産党はさらに社民化する
共産党系勢力は、その結果に耐えなければならないだろう。スウェーデンでのまばゆいばかりの伸長(得票率16%)とドイツでの5%の最低基準ラインの見事な突破(民主社会主義党が六議席を獲得)を実現したが、これらは、社会民主主義との接近および連立政権への参加を強めることになっただけである。
ドイツの民主社会主義党は、5・8%を獲得して全体の棄権的気分の中でよく抵抗した。この点は明らかに、フランス共産党にもイタリアのコスッタの共産主義者連合にも当てはまる。フランス共産党は、革命派の接近を許し緑の党に追い抜かれてしまうというこの悲惨な選挙結果を出発点にして今後、社会民主主義への転換を徹底的に推し進めるだろう。
コスッタの(イタリア共産主義者連合)は、2%という意外な得票率にもかかわらず、ダレーマの左翼民主党に対して何ら自立していない。この右傾化は、ギリシャのシナプシスモス(5・1%)にも影響を与えている。この党は、右翼の台頭で困難に陥っている社会民主主義のPASOK(全ギリシャ社会主義運動)を「助け」たいと考えている。
ポルトガルでは、来るべき10月の全国選挙が、共産党内の「改良主義派」とクニャル支持派との間をはっきり分かつ決定的段階となるだろう。クニャル派は、自らのアイデンティティーにしがみついている。(2%増やして8・6%の得票率を得たギリシャ共産党もまた同じである)。
イタリア共産主義再建党とスペイン統一左翼は、どちらも旧共産党勢力以外の左翼にも門戸を開放して再編を行うという計画に取り組んできたのだが、良好な選挙結果を得られなかった。両党の状況と政治的発展力学は、組織の機能および政治的発言の面でも異なっている。
これらの党は今後10%以下の勢力になるが、直面する二者択一的選択は明白である。すなわち、社会党へと至る社会民主主義化かそれとも今日の社会の闘争全体を包含した急進的な再建か、という選択がそれである。
戦闘的左翼潮流の選挙結果
LO(労働者の闘争派)―LCR(革命的共産主義者同盟、第四インターナショナル・フランス支部)は、(5%から10%までの変動幅をもつ勢力の)共産党に匹敵する水準に到達したので、今後すべての急進的、戦闘的潮流との友好的論争を推進し、それらに介入できる立場にある。
急進的左翼のこの再浮上はフランスだけにとどまらない。デンマークでは、赤緑連合(議会で5議席をもつ)は独自の候補者名簿で立候補しなかったが、反欧州連合にもとづく候補者名簿(23・4%)の中で2議席を得た。スペインのバスクにおける急進的民族主義組織エウスカル・エリタロク(EH)は注目すべき成功をおさめている。今回、一人が欧州議会に選ばれ、地方議会に約30人の議員を擁している(われわれの同志も参加して、その一部が当選している)。
オランダの元毛沢東主義派の社会主義党(欧州議会に一議席をもつ)、ルクセンブルクでトロツキスト、フェミニスト、エコロジストを結集した左翼運動(国会で1議席)、スコットランド社会主義党(地域議会に一人の議員、欧州議会選挙では4%を獲得したが、当選しなかった)、国会に一人の議員(元ミリタント派)をもつアイルランドの社会主義党、欧州議会選挙では1・8%だったが、特にリスボンとポルトでは4%から7%の得票率を示したポルトガルの左翼ブロックも注目すべきだろう。
イギリスでは、急進的左翼には選挙結果は不調だった。スカーギルと彼の社会主義労働者党は、その超セクト主義とスターリンびいきによって惨めな失敗に終わった(ロンドンで1・7%)。だが、社会面と反戦の面で左翼に位置する反英民族主義的な急進性のひとつの極が登場した。北アイルランド選挙区では、IRAの政治組織シン・フェイン党は、得票率17・3%で一議席を獲得し損ねた。ウェールズとスコットランドの民族主義政党がそれぞれ2議席を獲得した。
真に大衆的な潮流めざして
正当性を獲得したこれらの勢力にとって賭けられているものは、次のように規定される。社会運動、労働組合運動、市民運動の何十万人もの活動家が関係し、その関心を引きつけることのできる政治的展望を切り開くのに貢献することである。
この複雑な過程は、社会民主党と緑の党内の左派潮流全体に向かう政治的アプローチ、さらに同じく「共産党」系の潮流内で進行する再編に対する政治的アプローチを必要とする。われわれは、何百万もの人々の日常的諸問題に答える意志と能力を確認し、これらの人々の願望と闘いに対処し得る戦闘的な政治組織を創設しなければならない。
『ルージュ』(1999年6月17日)
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
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