社会主義的民主主義への希望を戦車で押しつぶした歴史的犯罪
6・4天安門事件10周年
弾圧を正当化する官僚体制
今年は89年6月4日、民主化運動を中国共産党が戦車で圧殺した天安門事件の10周忌にあたる。中国内外でさまざまな抗議行動が行われた。中国外務省のスポークスマンは八九年民主化運動への弾圧について「党・政府は既に正確な結論を出している。この結論は歴史的な結論で、変えることはできないし、全中国人民が一致して賛成したものだ」(朝日新聞、5月19日付)として、学生・労働者・市民の民主化運動を「反革命暴乱」としてはばからない。われわれは中国政府による民主化運動に対する流血の弾圧の正当化を糾弾する。
民主化運動弾圧に関わった政府関係者がいまだ数多く中央政界にいるということだけではなく、天安門事件以降、江沢民体制が「民主派狩り」を容認・実行してきたという事実からも、今日の中国共産党支配体制が89年民主化運動の名誉回復を認めることは難しいだろう。毛沢東の文革を批判し、被害者の名誉回復をおこなった�小平体制によって引き起こされた民主化運動への弾圧は、今後の世界史的な流れの中で審判を下されることになるだろう。
天安門事件を忘れない民衆
アムネスティ・インターナショナルの発表では、天安門事件に関連して、いまだ投獄されている人間が少なくとも241人いるという。また、中国当局による民主派への予備拘束が多発している。新聞報道では天安門広場で追悼活動を計画していた中国各地の民主化活動家20人が拘束されたとしている(朝日新聞、6月5日付)。このような当局の弾圧にもかかわらず、いや逆にこのような弾圧があるからこそ「天安門事件を忘れない」という中国人民の意志はさらに強いものになっている。
天安門事件の被害者とその家族らによる名誉回復、賠償、責任者追及を求める動きが活発化しているし、三月には、鄭州市で「4月5日の清明節(中国の御彼岸)に市の中心にある広場で天安門受難者追悼集会を開こう」という「工人協会」によるビラが撒かれたりしている(ビラを撒いた薛(セツ)紀峰は警察の事情聴取を受けた)。
以前詳しく紹介した中国民主党は、当初武漢で予定されていた人権シンポジウムのパネラーが全員直前に逮捕され、シンポジウム自体が中止に追い込まれた事態を受け、民主党杭州支部のメンバー30人が2月20日に杭州で人権座談会を開催した。
中国民主党のメンバー高洪明は全国人民代表大会に当てた公開状の中で、中国政府は民衆が清明節に天安門事件の犠牲者を追悼することを認めること、天安門事件の責任者である李鵬全人代議長は辞職することを強く求めた。
また、3月5日には内蒙古自治区の劉川と王沢民が中国民主党内蒙古準備委員会の結成を宣言した。これによって、9つの支部と19の準備委員会が結成されたことになる。在外中国人の民主化団体も各地で追悼集会や抗議集会などを開催している。中国「国内」で唯一合法的に追悼集会が開催できる香港では、昨年を上回る7万人が集会に参加した。
このように、89年民主化運動の復権と天安門事件を忘れないという思いは、今なお中国民衆をはじめとして全世界の人々の心に強く刻まれている。
事件の意味と官僚政治支配
しかし、差別と抑圧と搾取のない社会を目指すわれわれ革命的マルクス主義者にとって、天安門事件とその後の十年とは何だったのか。
天安門事件についての歴史的評価は、本誌97年12月1日号「ロシア革命八十周年にあたって――『反官僚政治革命』の時代の終焉と中国における新たな社会主義革命」(下)で高島同志がすでに述べており、私もほぼ同意見なので、ここでは繰り返さない。それは、国際スターリニズムが70年間くり返し革命的労働者階級に対して行ってきた裏切りと犯罪が、最終的に労働者人民の「社会主義」への希望を打ち砕いた歴史的な事件であった。インターナショナルを歌い民主主義を求めた学生・労働者をほぼ無条件にブルジョア民主主義の側へ銃剣と戦車で追い立てたのである。
香港の先駆社の向青同志は、90年12月、「中国共産党の階級的性格を再び語る」という文章の中で、労働者国家防衛の原則、過渡期においては経済的な下部構造よりも政治的上部構造が重要な役割を果たすという理論を擁護したうえで、次のように語っている。
「しかし、それらのすでに官僚化の深刻な労働者国家政権の堕落のテンポを注意して観察しなければならない。その変質を見過ごし、自らの手で資本主義の復活を推し進めている官僚政権を労働者階級の官僚政権と見なすのであれば、客観的に、その政権が思想的にいまだ混乱した労働者の民主化運動に抵抗することを手助けする」
「つぎに、今日の世界的情勢の下、いくつかの共産党政権がいまだ変質しておらず、いまだ労働者国家であったとしても、それを防衛する重要性、特にその具体的方法は以前とは異なっているということ理解しなければならないと思う。近年、帝国主義が力ずくで労働者国家を転覆しようとする可能性は以前に比べて明らかに低くなった。このような時に、社会主義者の労働者国家防衛の方法もそれに応じて変更されなければならないし、さらに弾力的でなければならない」
「最も注意しなければならないことは、政治的に官僚支配者との違いをはっきりさせなければならないということで、細かく事を見極めて、労働者国家防衛という方針が少しでも官僚に有利なようになることのないよう、あるいは民衆の官僚に反対する運動の障害になることのないようしなければならない。例えば、民衆が民主化運動に参加しており資本主義の復活の危険に対する警戒が十分でない時には、われわれがある程度の警戒をするのは当然でかつ重要なことであるが、しかしそれによって民衆運動の外に位置するということがあってはならない。ましてやそれと対立するということは言うに及ばない」
「大衆運動に参加している時には、もっぱら警告と不吉な予言めいた事を言うことも避けなければならない。大胆に言ってしまえば、現在の労働官僚支配の国家において最も重要なことは、民衆による民主化運動の登場を促すことであり、はじめは思想的に混乱していてもそれは重要ではなく、われわれは運動の中で辛抱強く説明と説得活動を進めることができる。さらには、はじめはある種のブルジョア階級あるいはプチブル階級の民主派が権力を握ったとしても、それは次の新たな労働者階級による社会主義革命の短い前奏曲であるかもしれない……」(「新苗」16号、「新苗」は現在の「先駆」の前身)。
急速に進行する資本主義化
それから九年、中国における資本主義化への勢いは、想像を絶するようなスピードで進んだ。それは閉塞した官僚的計画経済の合間を縫って民衆が独自のネットワークで半ば無政府的に発展してきた「資本主義的対策」が、中国共産党政権に市場の必要性を認識させたものであったが、それはこれまでのすべての経済的政策に共通する無原則な経験主義に基づいていた。
国境を越えた労働者階級の闘争と全く結びつかない無原則な開放政策は、大量の外資の流入という事態に対して官僚の権益を防衛するということ以外には、労働者階級の権益はく奪やブルジョアジーの復活などに対してほぼ無防備な状態を作り出した。
6月4日付の「朝日」の経済面に、98年はじめに中国で出版され、瞬く間にベストセラーになった『現代化の落とし穴』という本の著者である何清漣氏のインタビューが掲載されている。本書は、経済管理の不備や法の未整備、土地のリース権売買、国有企業の株式会社化、公営資金の海外投資などによって、官僚、国有企業幹部、官僚と密着した資本家などが富を集積したとする。
何氏は、「朝日新聞」のインタビューの中で「権力を握る人間が国有資産をあの手この手で自分の懐に入れる現在の中国は、いわば権力を通じての資本の原始的蓄積が進んでいる状況」と語っている(愛知大学現代中国学会編による雑誌「中国21」の5号にくわしい何氏のインタビューが掲載されているので、合わせて読むことを勧める。また、この号には「生涯にわたる左翼反対派・鄭超麟を送る」と題した長堀祐造氏の文章が掲載されている)。
ほぼ同じような状況を報告した先駆社の劉宇凡同志の論文が『香港・中国はどこへ』として柘植書房新社から出版されているので、中国の現状を理解する上で、多くの人々が読むことを勧める。
大量の失業と労働者の抵抗
中国共産党の資本主義化政策のもう一つの側面は、大量の失業者と頻発する労働者の抵抗である。中国社会科学院の憑蘭瑞氏は2000年の失業率が25%に達するという報告を発表した。憑氏の統計には政府統計には加算されていない農村の失業人口が計算されている。
憑氏によると、1996年から2000年までの第9次5カ年計画のあいだに都市だけでも5400万人の労働人口が増加した一方で、同じ時期に3800万人しか就業できず、1600万人が失業する。また、市場経済の深化に伴い、国有企業のレイオフ労働者は1600万人を超え、今も増加し続けており、2000年には3000万人に達する。
また、この5年間に農村で新たに増加する労働人口は2億1000万人となるが、耕地が限られており、最大8000万人しか就業できず、1億3000万の農村余剰労働人口が出るという計算から25%の失業率をはじき出している。
これに対して、最も保守的な数字は中国国家発展計画委員会から提示されている。失業者数は、都市部では620万人、農村部では1億3000万人、レイオフ労働者は1300万人のうち、98年末時点で610万人が再就職していない。これによると都市部での失業率は6%を超える。
国有企業の改革によって、富を蓄積した官僚や経営幹部とは反対に、「改革」によるしわ寄せはもっぱら労働者が被っている。昨年5月に爆発で23人が亡くなった四川省成都の都江炭坑では、事故に加えて経営が悪化しており、今年に入って閉鎖された。これによって3000人が失業した。
しかし、約束の生活給付金が3カ月も滞っており、国家が支給した7000万元のうち、労働者に支払われたのは4000万元前後だけで、残りは経営幹部連中が着服したのではないかと考えられた。生活もままならない炭鉱労働者は3月15日から連日の抗議行動に入り、毎日200人が市役所を取り囲んでいたが、警察の介入によって10人がケガをして、5人が逮捕されたままとなっている。
同じ四川省の遂寧市の機械工場は、昨年工場が土地とともに売却され1300人の労働者のうち1200人がレイオフされた。しかし、生活金が受取れないことに不満を持った700人が遂寧市の大通りを占拠して抗議行動を行った。
陝西省西安市では、3月31日に西安鋼鉄工場を解雇された400人の労働者が、市の中心にある道路を占拠して市が生活の問題を解決するよう訴えた。占拠は副省長の説得によって夕方には収束した。この工場は5000人の労働者を抱える国有企業だったが、経営不振でレイオフを進め、1700人にまで削減したが、昨年「酒泉鋼鉄グループ」に買収された。買収の後、このグループは八百人の労働者との雇用契約を破棄した。
4月29日には、西安市農業機械工場の200人の労働者が4ヶ月間支払われていない賃金の支払いを求め道路を占拠した。占拠は工場の幹部が労働者大会の開催を約束して正午に収束した。午後開かれた労働者大会では2カ月分の賃金の支払いをかちとった。
国境を超えた連帯の強化を
これは労働者の抵抗のほんの一部である。向青同志の文章が書かれた頃よりも、さらにわれわれ革命的左翼の任務がはっきり認識できる状況になってきているのではないか。いまだ強固な支配体制を維持する中国共産党のもとで、このような労働者の闘争が全国的なつながりを見せ、政権と対決すると考えるのは当面、難しいだろう。また現在の状況に不満を持つ労働者が社会主義にどのような思い入れを持っているのかについても、幻想を持つことは控えた方がいい。
しかし、われわれのいう社会主義革命運動の再生は、決してわれわれ日本の労働者人民だけで行うものではないし、実際にありえない。社会主義を目指した革命運動は常にインターナショナルなものであったし、これからもそうだろう。そうした時、WTOの加盟によってさらなる国際資本の攻勢をうけるであろう中国の労働者の闘いに対して、社会主義革命に向かうインターナショナルな闘いの再生をめざして連帯していくことは当然のことだろう。日本で、朝鮮半島で、中国で、台湾で、さらに続くアジアの各国・地域で社会主義をめざした労働者階級の闘いを、各国・地域の同志や友人たちとの連帯の中で形成していこう。
6・4天安門事件10周年にあたって、われわれが再確認しなければならないのは、このような歴史的課題である。 (早野 一)
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
・購読料 1部400円+郵送料
・申込先 新時代社 東京都渋谷区初台1-50-4-103
TEL 03-3372-9401/FAX 03-3372-9402
振替口座 00290─6─64430 青年戦線代と明記してください。