ドイツ 左翼党議員インタビュー:戦略的真空の克服(上)
政治右傾化抵抗主体の可視化へ
古い「経済的奇跡」追求路線に危機脱出口はない
ヴィオレッタ・ボック
ドイツの左翼党は、昨年まで支持率の低下が続き、昨年末時点では、次の選挙で国会から消えることが確実と見られていた。中心的指導者であったザーラ・ヴァーゲンクネヒトによる分裂は、この危機を前に議員政党としての生き残りを狙ったものだった。しかし今年行われた国会選挙で生き残り、むしろ躍進を果たしたのは左翼党だった。以下では、これを可能にした活動と左翼党の現状、またドイツの危機的情勢と左翼党が挑むべき課題など、日本のわれわれにも示唆に富む内容が語られている。(「かけはし」編集部)
わが同志のヴィオレッタ・ボックが以下で、ドイツの情勢と左翼党国会議員としての彼女の活動を示している。その活動は、益々不安定になっている権力の正統性を問うことと労働者階級の間に、つながりをつくることからなっている。彼女はアントニー・ララーシュのインタビューに答えた。(IV編集者)
本来の課題に背を向けた袋小路
――ドイツの情勢を、特に経済危機の影響をあなたはどう見ているか?
ドイツの情勢を明確に示す特徴は「古い西側」の後退だ。これは、米欧連合における軍事的かつ地政学的役割、およびその連合の経済的基礎両者に当てはまる。つまり、欧州工業でドイツが指導的地位を占め、世界経済で有力な役割を果たしていた時代は当面終わっているように見え、現在この進展が止められる、あるいは逆転されるのも可能というような兆しは全くない。
何年もの間、生産工程の連鎖と成長は益々アジア、特に中国とインドへの移行を続けていた。ドイツの中でこの展開は、現政権によっても、社会的左翼と労働組合運動の大きな部分によっても十分理解されていず、未来の行動を熟考するための基礎にもなっていない。
これはいわば劇的な情勢だ。今日われわれが目撃中のあらゆることが、その社会的で政治的な結果すべてを伴って急速に進行中の気候破局という脈絡の中で、先の経済的変化を先頭にして起きているからだ。
労働者階級の場合、これは戦略的真空を意味するものになる。
気候破局は今、ひとつの現実として認められている。しかしその結末に関する真剣な考察は今、それと並んで発展中の社会的かつ経済的な危機に取って代わられている。本当のところ社会が投資していなければならないのは、市民的防護と社会的インフラを強化する、人々に気候破局の結果を和らげる力を与える、そして同時にわれわれの生活条件の継続的破壊を阻止する、そのような将来の計画だ。しかしその代わりに、戦争、地政学的競争、また国民的な工業の現場の防衛が今中心的舞台を占めている。
投資が行われつつあるのは今、戦争、開発、略奪的産業複合体、および国際レベルで天然資源に関する支配を保証するすべてのことだ――換言すれば、債務化と社会的解体が軍事に役立てるため行われようとしている――。これこそが、支配階級の利益と期待があるところなのだ。
これは、物質面とイデオロギーの面双方で労働者階級への圧力を一層高めている。つまり一方で、民族主義的プロパガンダと産業と社会を幅広く軍事化する切望を通して――これはドイツでは、「ロシアが来ようとしている」という主題で変わらずに行われている――、他方で、職と生活条件を破壊するこの国の脱工業化を通してだ。
ドイツは、EU内で中心的な力を維持しつつも、英国がもつ世界的な金融力を、米国がもつ軍事的優越性を、さらに中国がもつ優越的な経済的地位さえももっていない。諸労組の上層の中にさえ、軍事化は結局かれらの利益となり、必要となればかれらの助けによってドイツは競争力競争で地歩を取り戻すことになるだろう、と期待する指導者が何人もいる。
これがまた日々の闘いを阻害している。より良い未来への強力な希望がない限り、あらゆる運動は妨害され続けるだろう。これこそが今日左翼の前にある任務だ。
右移行に対する明確な対抗へ
――この情勢下で極右が果たしている役割とは?
AfD(ドイツのための選択肢)は右翼潮流の異質的な集団だ。それは当初、EUを批判し、いわゆる中産階級を組織していた。もっとも、選挙基盤ははじめから、政治システムによって下に落とされたと感じた勤労民衆から大きく構成された。
今日その構成要素は、保守派―民族主義者や徹底的な経済自由主義の主唱者から、急進的な反対派として自らを表現することができている文字通りのファシストまで広がっている。しかしながらかれらは長い間、ひとつの政府のパートナーとしてCDU(主要右翼政党のキリスト教民主同盟:訳者)にかれらの助けを提供しようと試み続けてきた。
かれらは今、進行中の2極化を通して、社会の中にかれらのレイシスト的課題設定をしっかりと固めている。そしてかれらの要求――難民申請権の解体といった――は、他の諸政党に取り上げられ、政府の諸方策の中に移されている。
われわれは現在、政治的諸部分全体を貫く(左翼党を例外として)右への移行を目撃中だ。そしてそれは、移民、労働者、LGBTQ+の人々、さらに社会的に傷つきやすい人びとすべてにとって、日々暮らしをさらに困難にしつつある。
大衆的なファシスト運動出現への怖れが今、可能な限りの幅広い連携枠組み内での中道的な対応の探求を駆り立てている。それは、あらゆるレベルでAfDを妨げることを目的に、CDU/CSU(キリスト教社会同盟)、SPD(社会民主党)、緑の党にまで広がるものだ。しかし現在ドイツには大衆的ファシスト運動は全くない。
しかしわれわれは、CDU、SPD、さらに緑の党でさえ、今後AfDとの間で政治的な共通の土俵を見つけることができるだろう、と予想しなければならない――事実上それはすでに存在している――。これこそがまさにわれわれが反対しなければならない……ことだ。
われわれはここ数ヵ月、右への移行だけではなく、特に左翼党の成長に見ることができる2極化をも目撃してきた。より若い世代の成長中の部分は、より急進的な対応を追求中であり、行動に出る用意ができている。右への移行に対する対応はそれゆえ、反AfD連合に焦点を絞るのではなく、軍事化、民族主義、また社会的分解へのオルタナティブとしての社会主義的展望をも前進させなければならないのだ。
職場内の核的政治グループが鍵
――今諸労組はどのように対応しているのか?
われわれはストライキ権や労組の権利に関する定期的で悪質な攻撃に直面している。たとえば現政府は、1日8時間労働制をあからさまに攻撃する。
2000年代にドイツの労組は、社会民主主義への幻想を脱ぎ捨てる好機を逸した。周知のように今、確固として左翼の立場に立つ相当数の労組役員がいる。しかし同時に、職場内の労働者階級指導者ははるかにもっと僅かだ。これは、1980年代に現れていたひとつの展開だ。同時に、2010年代末と同20年代はじめの短い再来の後、全体的な注目を集める社会的紛争は下落基調だ。
われわれは現在、2、3年前アマゾン、郵便サービス、病院、市民サービスで起きたもののような、何らかの大きくくっきりとした姿を取る闘争を見ていない。もちろん、われわれが全力で支えなければならないような、またわれわれに希望を与えるような、重要なイニシアチブやキャンペーンは常にある。これを行うためのいわゆる組織化手法(注1)が益々実行の途上にある。しかしそれらも、労組中央機構が設定する枠組み、決定、展望に緊密に結びつけられたままなのだ。
われわれはまた、特に中小規模企業での右翼の労働評議会の出現、および競合的な右翼労組の創出をも目撃中だ。これへの取り組みには戦闘的労組活動が必要になる。それらが攻撃するのは労組活動が弱っているところだからだ。それはつまり、労働評議会や労働協約交渉に責任をもつ委員会が、結局のところかれらの同僚の願いを反映しない妥協を変わらずに行い続けているところだ。
基本的な任務は依然、階級的矛盾をはっきりさせることや社会的展望を発展させることに専心する職場内の核となるグループを形成することだ。しかし、あるべき次の段階を提示でき、またそれをひとつのうまくいく結論にまでつなぐことができる社会主義組織がなければ、われわれは依然防衛的闘争の段階で動けないままになるだろう。
これこそがまさに今われわれが経験中のことだ。つまり多くの小規模な闘争、しかし実体的には、そのどれもがそれら自身を社会的論争として押しつけることができていない、という状況だ。サービス部門では、この目的のために市民的連携を形成する努力が行われてきた。たとえば、公共交通に関する賃金交渉期間中の交通におけるエネルギー移行を求める運動との協力、によってだ。
職場のわれわれの同志たちは、労組活動の変革、民主化、急進化に向け奮闘中だが、しばしばその単純な再組織化にも努力している。左翼党はこれに関し大きな助けになることができる。しかし、われわれが労組活動以外のわが党の政策を実行しようと挑戦する職場細胞に自身を組み付けていなければ、そうはできない。
緑の党の反動的役割にも注意を
――社会民主主義の政策はどんな形を取っているか?
危機の時代にSPDは常に、独立した政策を労働者階級の利益として発展させることができずにきた。かれらの場合その成功が資本の利益から分離できないからだ。この点では何も変わっていない。
そしてそれが労働者階級内の根を大きく失っている中で、それは階級政策を行っている見せかけをどんどんしなくなっている。それは今徐々に分解中だ。
私の見解では、緑の党の役割にもっと関心がある。海外の人々は、緑の党がドイツ社会で果たしてきた、あるいは果たしている重要性をしばしば過小評価している――かれらは近頃、世論調査で左翼党に抜かれた――。かれらは長い間刷新に向けた希望、つまり環境的、進歩的、平和主義的希望、を代表してきた。現実には、常に資本と反動の利益に従い、ドイツを第二次世界大戦以後初めてのその戦争に導いたとしても、だ。
今日かれらは社会の中心にいる。しかしかれらは、資本の利益と「人道主義的戦争」の利益のために国境を開き続けるという、「人道的レイシズム」の党に成り果てた。かれらは特に中産階級内部で重要な党になっている。しかし私の見解では、かれら自身の起源に対する裏切りはずっと昔からの歴史だ。
緑の党に票を投じている者たちは今、かれらが見返りに受け取ることになるもの、つまり、電気自動車と有機コーヒーによる資本を支持する政策、を全くはっきり分かっている。
権威主義的民主主義対社会主義
――メルツ(CDUの現首相:訳者)がこれからどんな政策を実行する、と考えるか?
それはまだ決定されていない。CDU――およびその連立パートナーであるSPD――はひとつの二律背反を前にしている。かれらは、資本家の使い古した標準的処方箋、つまり過酷な社会的切り下げ、社会の軍事化、難民に対するEU国境の閉鎖、欧州資本への大量投資、に頼ろうとしている。かれらは、新たな「経済的奇跡」を通じて再配分の余地を生み出すことを期待している。
しかし、今回は世界的な経済危機という脈絡の中で、潤沢なユーロによってかれらがそこから抜け出すことはできないだろう、その方策は戦争の危険を高め広げることにしかならないだろう、と信じる十分な理由がある。実際、経済危機には現代の生産様式における底深い国際的な大変動が、力関係の帝国主義的再組織化と並んで伴っている。再軍備計画だけでこの情勢を変えることはできないだろう。
われわれは現在、CDU/CSUとSPDがAfDのレイシスト的で民族主義的なスローガンと一層提携しているのを見ている。そうであれば、メルツがある日敢えて突進し、AfDに支えられる少数政府を形成することがどうしてあり得ないと思われるのか? これはドイツ人民にとって惨事であると思われるが、現実的なシナリオなのだ。
ブルジョアメディアと主要な産業グループは今、保守派スタイルの政府を実現するために全力で圧力を行使中だ。彼らは変わることなく連立内部の危機について話し回り、あらゆる不一致をある種の破局に変え、ある種の民主主義の観念を擁護し、これは単純に今回の危機が強要するひとつの必要だと力説し続けている。ちなみにその民主主義観念とは、政府はそれにしたがって、議論や異議を受け付けずに、「ものごとを力づくで押し通す」ことができなければならない、というものだ。
これはまさに、われわれ社会主義者がわれわれの姿を研ぎ澄ますことができるところだ。われわれは見解の多様性と公然とした対立を真剣に必要としている。集団的な解決は衝突と幅広い参加からはじめて現れることが可能になる、と当然視しているからだ。これは、ブルジョア中心部がもつ権威主義的な「力で押し通す」観念と完全に異なった民主主義観念だ。 (つづく)
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