ギリシア・緊急社会施策の無条件的遂行を可能とする道
アテネ反資本主義国際集会報告
反資本主義の戦略深める討論
トロイカ拒否の具体的道すじめぐり
フランソワ・サバド
以下に紹介するのは、今年三月初めにアテネで開かれた反資本主義国際集会の報告。ギリシャでは、国のまさに崩壊的危機の中で、人々の生き残りそのものをかけた実践の問題として反資本主義的突破が課題となっている。この集会では、ギリシャの危機の具体的実相を理解し、その具体性に即したギリシャでのその追及を、SYRIZA内左翼勢力の取り組みを共有し学びつつ、反資本主義勢力の戦略の豊富化に活かすことがめざされた。以下ではその観点から、ギリシャの危機の実相と力学、そこと密接に結びついたSYRIZAの特質とその現在進行形の変容、SYRIZAの取り組みにはらまれた過渡的性格とその推進に求められる課題、などが解説されている。(「かけはし」編集部)
左翼の戦略的思考を豊かにする
「プロジェクト」――SYRIZA内左翼勢力(DEA、Kokkino、Apo)の共同機関――の主導性の下に、反資本主義国際集会がアテネで三月一~三日の期間開かれ、一〇〇〇人近くが参加した。
参加者の中には、SYRIZA左派(最新の党評議会で二五%の票を得た)の指導者たち、欧州中の労組活動家(イタリアの最大ナショナルセンターであるCGILの一部であるイタリア金属労働者連合、FIOMの指導部から参加したジョルジョ・クレマッシを含む)、エコノミスト(ミシェル・ユソン、ダニエル・アルバラシン、コスタス・ラパビツァスを含む)、イタリアの批判的左翼、スペインの反資本主義左翼、スイスのMPS、ポルトガル、米国、フランスの代表団がいた。各代表団の中には、スイスのシャルル・ウドリー、スペインのホセ・マリア・アンテンタス、米国ISO(国際社会主義組織)のアハメド・シャウキ、フランスのオリビエ・ブザンスノーを含むNPA活動家がいた。ギリシャからの参加者の中には、クリストス・ラスコス(SYRIZAの書記局メンバー)、パナギオティス・ラファザニス(SYRIZA中央委員会書記局メンバーであり、議員でもある)、アントニス・ダバネロス(SYRIZAおよびDEAの中央委員会書記局メンバー)がいた。
この集会は、ギリシャ並びに欧州の情勢に関する、同じく労組運動内や公共サービス、また反ファシズム闘争内での反資本主義者の任務に関する、極めて興味深い討論の機会となった。集会の最後では、ジルベール・アシュカル並びにアハメド・シャウキの問題提起に基づき、アラブ革命が討論された。
ギリシャ情勢についての討論が特に重要だ。その理由は、欧州支配階級の攻撃においてギリシャが依然最弱の環となっているというだけではなく、この国の危機の鋭さが一連の戦略問題を課題にしているからだ。
その課題は、ギリシャの危機の内容、形態、リズムが他に転写できないからには、ギリシャを一つのモデルに仕立てるという問題ではない。あるいは、SYRIZAの例を欧州中で今一般化できると考える問題でもない。われわれは、SYRIZAが象徴しているその独自性、強さ、希望を、ギリシャの危機の深さを考慮に入れずには理解できないからだ。しかし、ギリシャから、革命派がそこで直面している諸問題から学ぶことは、欧州革命勢力の戦術的、戦略的思考を豊かにするためには決定的だ。
経済と社会と政治枠組みの崩壊
ギリシャは、EUとトロイカ(EU、IMF、ECB)の指令による緊縮政策が引き起こした崩壊を起点として一つの危機を経験中だ。そこには、第二次世界大戦後の欧州では前例のないような社会破壊が刻み付けられている。国は粉砕された。民衆階級は干からびるまで血を抜かれようとしている。実際、公式の失業率は三〇%近く、賃金は三〇~四〇%、あるいはそれ以上切り下げられ、病院には薬がなく、それらは極度に値をつり上げられ、あるいは闇市場で売られている。アテネでは、数千の店舗が閉められた。社会的保護法の中で残っているものは、解体過程の中にある。南欧の全体が攻撃を受けているが、緊縮が拍車をかけている破壊の規模ではギリシャがトップにあり、ポルトガル、スペインの上をいっている。したがってわれわれは、ギリシャ社会とギリシャ経済が今経験中の解体の経過をよく吟味しなければならない。ギリシャは、EUの中央諸大国とその周辺の新たな対立の中心になっている。ある人たちはこのギリシャの状況を、新植民地の状況として思い起こしている。そのような定式は脇に置くとしてもギリシャの人々は、このトロイカの諸政策をまさに侮辱として経験している最中だ。そしてこのことが民族問題に新しい強さを与え、左翼の再編過程を妨害する危険を作り出している。人民主権と組になった国民主権の問題が決定的となりつつあり、それ故に、民族主義に落ち込まないために民族問題を社会問題と接合する重要性が決定的となっている。左翼の戦闘はラディカリズムと国際主義を結び付けなければならない。しかしこの国は、社会的、経済的危機の先で、政治的代表性の危機および諸制度の正統性喪失と一体となった政治的崩壊にさいなまれている。そしてそこに、特に何百万という支持者を失ったPASOK(前政権党の全ギリシャ社会主義運動)を含む、伝統的諸政党の崩壊と広範な汚職が結びついている。さらに政治的分解というこの危機には、「黄金の夜明け」というネオナチに体現されたファシスト極右の台頭が付随している。
人々は生き、なお抵抗している
これらすべてにもかかわらずギリシャの人々は生をつなぎ、生き残り、抵抗している。危機の始まり以来の二九日にのぼる全国ストライキを経て、社会的かつ政治的疲労はおのずから感じられている。しかし決起は、その潜在力を示しつつ、しかしまた諸困難を伴いながらも、そこにある。二月末日に行われた最新のストライキもまだ非常に大きなものだった。労組運動は今も抵抗している。危機によって厳しい打撃を受け、非常な成長を遂げつつあるというわけではない。政府と経営者による攻撃によって破壊されたいくつかの部門では、運動が後退過程にあるものもある。しかしギリシャの諸労組は今も、動員の重要な基礎の一つだ。「怒れるギリシャ人」による働きかけのような主導性は、他の国々におけるその種の運動と同じ規模とはなっていない。しかしそれらの運動も現在の情勢にその印を刻み付けている。ギリシャの現在の情勢では、反ファシズム運動の組織と抵抗が決定的だ。「黄金の夜明けに反対する欧州宣言」のような働きかけはこの領域における戦闘の重要性をはっきり示しているとはいえ、労働者階級居住区と移民の防衛の双方において、ネオナチとの間では時間との競争がある。社会的諸闘争以上に、民衆諸階級が生き残ることを可能にしているものは、日々の抵抗と、居住区と村々における基礎的な連帯――食料、保健……――だ。
危機と歴史が生み出した独自性
以上を背景として――ギリシャ社会の崩壊、全般的政治危機、民衆諸階級と対立する止むことのない緊縮、維持されているとはいえ資本の攻撃を阻止できていない社会的抵抗、ファシストの影響力の成長――、現在の戦略討論が生まれ進んでいる。読者は、ギリシャの危機に関する分析から出発するだけでは、SYRIZAを理解することはできない。
SYRIZAを左翼の第一政党へと押しやったものは、「徹底的な国民的諸危機」という例外的諸環境だ。その選挙結果は、四・六%から二六・八九%へと跳ね上がった! この国民的危機がないとすれば、このようなSYRIZAもなかっただろう。しかしその現在の政治的重みはまた、ギリシャ左翼の歴史の、つまり共産主義運動の危機の、その分裂の結果でもある。
実際連合の多数派潮流であるシナスピスモスは、一九七〇年代のユーロコミュニズム潮流を起源としている。この潮流は一連の内部的危機と、若者世代からの圧力の下での左への移動を経験してきた。それ故、SYRIZAがギリシャ人の社会的抵抗の政治的表現となることを可能にしてきたものは、先の一連の経験、論争、統一行動と対立の蓄積の結果だ。
ウルトラスターリニストであるKKE(ギリシャ共産党)は、SYRIZAよりももっと固く組織され、十分に根付いていた。しかしこの組織は、労働者を分裂させる政策、並びに自身を国際スターリニズムとギリシャのそれの連続性の中に位置づける全体的政治路線によって特徴づけられていた。そして近年この党は周辺化されることになった。
最新の評議会の後、SYRIZAは自身を党として確立したが、事実上それは諸潮流、諸党、諸個人の連合だ。それは、多元的であり、ギリシャ左翼の最大の統一的枠組みであり、しかしまた、改良主義から革命的左翼にまで広がる諸潮流間の戦闘対象でもある。
SYRIZA指導者多数の観点は一九七〇年代のユーロコミュニズム的対処方針がますます強められたものであり、国家の改変と漸進的改良による社会主義への移行という戦略的展望の観点だ。左翼ユーロコミュニズムを発想の源とする諸潮流は、諸制度の漸進的変革と大衆運動の関与を求めている。それらは、はっきりとした緊縮策拒否と連立の誘惑あるいは支配階級の一部との合意の追求、この間で揺れている。
反資本主義あるいは革命的左派潮流は、資本主義論理との絶縁という展望の中で緊縮諸策に正面から対決することに向け努力している最中だ。前回の全国評議会では、「左翼潮流」と「左翼の極」は独自名簿を提出し、総投票数の二五%を獲得した。
シナスピスモス多数派は依然として左翼改良主義の立場を保持しているものの、連合の不安定性、大衆運動からのその動かされやすさ、反緊縮諸勢力を惹き付けるその能力、その内部の革命的左翼が占めている場というこのすべては、例外的環境の中で、フランスの左翼戦線とは非常に異なる急進的役割をSYRIZAに与えることに寄与している。SYRIZA内部には、PCF(フランス共産党)PCE(スペイン共産党)、あるいはギリシャとポルトガルの共産党のそれのような、改良主義官僚といった強力な結晶体は存在していないのだ!
「左翼政権」と激突への力学
SYRIZAの基本的な強さとその勢いは、トロイカのメモランダに対する急進的な反対、緊縮諸政策に対する拒絶、社会的諸権利や公共サービス、また正統性のない債務の取り消しや社会的統制下の銀行国有化、これらを志向する綱領の防衛から来ている。鋭い衝突という現在の情勢において、これらの要求は過渡的役割をはらむ。SYRIZAは、KKEとANTARSYAに向け統一の申し入れを押し進めてきた――両党はそれらをはねつけてきた――。そして諸闘争に、かかわっている諸部分と歩を並べて活力をもって専心してきた。SYRIZAは反メモランダ運動の表現となっている。それはまた、反緊縮綱領に基づいて左翼政権の提案をも大衆化してきた。そしてその綱領の内容は、連合の左派と右派間論争の対象だ。
以上を背景に集会における討論が組織された。中心軸は、緊縮に対決する現在の大衆的動員から、サマラス政権打倒の、また反緊縮「左翼政権」確立の社会的かつ政治的運動の構築へと、決起の性格を動かすことにかかわる諸任務だった。そこにおいて「左翼政権」は、EUの緊縮政策との絶縁を表現する過渡的政権、PASOKあるいはブルジョア諸勢力を除外した政権を意味する。DEA指導者のアントニス・ダバネロスが説明するようにそれは、「民衆諸階級を守り」、SYRIZA指導者の何人かがここ何週間かの中で防衛したような「救国あるいは資本家代表との挙国一致政府」ではない、そのような「左翼政府」――SYRIZA、KKE、ANTARSYA――のために闘うという問題だ。ギリシャ資本主義の一定部分と共に国の再構築のための連合を追い求めることは、民衆諸階級の利益を防衛する綱領に反するものとなるだけだ。この段階でSYRIZAの強さは、社会的抵抗を、EUの緊縮駆り立て指令に対する政治的拒絶と結び付けることの中にあった。左翼政府は事実上、そのような基盤の上でのみ何らかの意味をもつだけだ。つまり、メモランダの拒否、正統性のない債務の取り消し、住民の「基本的な」社会的必要を中心に経済を再組織することを目的とした経済の中心部門と銀行の国有化、がその基礎だ。
鋭い危機というこの情勢において、基本的な要求――それは字の通りの基本的というよりも命にかかわっているものだ――のための闘争は、いわば正面対決という問題を提起している。雇用の防衛、賃金下落の停止、私有化諸方策の拒否、EU指令の拒否といったもののためには、富の異なった配分を用いた政策、並びに経済の中心部門と銀行の国有化を含まざるを得ない、そのような経済の再組織化への資金投入を必要とするだろう。これが意味するものは、支配階級と欧州帝国主義との一つの激突に向けた準備だ。それゆえこれらの要求には過渡的性格が含まれる。すなわちそれらは、それらを実行できる政府という問題、社会主義の展望に沿った反資本主義的変革の始まりという問題を提起する。できる限り素早く進むためには、この展望は動員と社会的自己組織に依拠しなければならない。「われわれはこの路線を固く守らなければならない」、SYRIZA左派はわれわれにこう説明した。
ユーロのための犠牲は拒否する
ユーロ離脱か否かに関する論争が起き進行しているのも、またこの枠組みの中のことだ。ギリシャ左翼の全体――KKE、ANTARSYAの支配的部分、他のギリシャ左翼潮流――は、ユーロ離脱を支持してきた。資本主義の諸条件下でのユーロ離脱は、この国の輸出競争力の弱さを前提とすれば、資本家の観点から見てさえギリシャ経済を回復させることはなく、労働者階級の状況をさらに悪化させる残酷な通貨切り下げに等しいことになるだろう。SYRIZA――そして特にその左派――は、別の観点を防衛している。つまり彼らは、ユーロ防衛のための犠牲を一切受け入れない。中心問題は反緊縮綱領の適用であり、EUの指令や脅迫に屈しないということだ。ユーロに関する協定についても、緊急社会方策への条件付けは認めないということであり、それはEUに屈しないということを意味する。労働者階級の生活諸条件防衛に向けた諸方策を変えない政府を前に、絶縁の責任を負わなければならない者は、ユーロから離脱することになる左翼政権ではなくEUの方だ。そうすることはEUにとって、法的形態の観点――関係諸条約の中には、一国の排除を規定する条項は一つもない――からしても、ギリシャの社会的かつ経済的絞殺に対して責任を負うという側面においても双方の点で、そうたやすいことではない。欧州内の民衆の反応と支配階級の諸矛盾が、「左翼政権」に時間的余地を与える可能性がある。それは、左翼政権がEUとギリシャの資本家階級との激突という路線を確固として保持するという条件を前提にした場合、つまり、離脱の主導性を取らずにEUと堂々と対峙し、同時にあらゆる攻撃に準備する場合のことだ。これが、もっとも困難な諸問題の一つに対する、SYRIZAの戦術的対応だ。あらためて言うべきことだが、EUの圧力は恐るべきものであり、脅しも全面的だ。しかし今のところ、SYRIZAはその路線を守っている。
あらゆることがあり得る
情勢にはきわどいものがある。SYRIZAに賭けられているものは非常に大きい。決定的なことは何もない。政治闘争は、進行のさなかにあり、SYRIZAの綱領のあれやこれやの要求をどのようにはっきりさせるかを軸に準備が進められている。あれやこれやの指導者に対する誘惑は大きい。しかしあらゆる段階で、SYRIZAの基層部分からの圧力と民衆の圧力が今なお左に向けかけられている。その一方EUと支配階級の右への圧力がある。支配的な改良主義路線、並びに選挙で表現されたその強さと組織としての弱体性との間にある不均衡は、SYRIZAの行動能力に限界を設けている。しかしその対極において、急進的左翼と革命的左翼の統一、自己組織、また社会的動員が、非常に重要な役割を演じる可能性がある。それは特に、最初の数歩に向け緊縮諸条件を拒否することから始めて、資本主義システムとの断絶に向け創造的にものごとを生み出す側面の役割だ。
▼筆者は、第四インターナショナルの執行ビューローメンバーであると共に、フランス反資本主義新党(NPA)の活動家。フランス革命的共産主義者同盟(LCR)では、長期にわたって全国指導部の一員を務めた。(「インターナショナルビューポイント」二〇一三年四月号)
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