バイデンの時代反レイシズムの動員継続を

かけはし 第2651号 2021年2月1日

旧秩序に修復不可能な裂け目

マリク・ミオー

 アフリカ系米国人は、ジョー・バイデンとカマラ・ハリスの新民主党政権にどんな縁取りをつけるのだろうか? 死と利益の方を選び、不釣り合いな程に黒人と抑圧されたマイノリティの命を破壊して、科学と医療を否認した極右政権の四年間を経た上では、大部分にとって++の回答は、それは、原理的な変革への高い期待であるというよりも、構造的な差別を小さくするという希望だ。

レイシズムの新たな乗り物

 選挙結果は「不満/犠牲者感情」という白人アイデンティティ政治の深さを暴き出した。トランプは700万票以上の差で敗北したが、白人の男と女双方の大きな多数を含んで、73000万票以上――バイデンの8000万票を別にすればこれまでで最多――を獲得した。トランプの指揮に従う共和党員たちは、下院と州議会で議席を増大させた。トランプ主義はトランプ以上のものなのだ。
それは白人住民の中にある強力な白人民族主義的感情、およびアフリカ系米国人敵視に焦点を絞った上首尾の有権者抑圧、を映し出している。デトロイト憲章委員会副議長のニコル・スモールは「私の考えでは、それはわれわれが生きている時代の現実の一片だ」と語った。彼は、トランプ票は「有権者抑圧に向けた露骨なもくろみだった」と確信している。
「私は、トランプが民衆内部にレイシズムをつくり出したとは信じない。しかし私は、民衆が自らのレイシズムと偏見に満ちた信念を公然と実行することにもっと活動的になるための、セーフティネットと乗り物であった者こそトランプなのだ、と考える」、スモールはこう語った。
トランプは、彼の大統領職を米国人全員の代表と見たことは決してない。トランプが語り、その白人レイシズムが意味するものが何であれ、そのすべてに対するカルト風の熱の高まりは今、もっと強くなっている。

バイデンは何を守るか


ジョー・バイデンは、彼の指名と選挙の勝利には、ラティーノやアジア系米国人や先住民衆と並んで、大きな数の都市の黒人票が必要、と自覚している。一方で、11月3日の大統領選投票日以来、黒人はほとんど毎週、警察に乱暴に扱われ、殺害されている。それは偶然ではない。警察行為のイデオロギーは、レイシズムであり、現状(事実上の白人支配)防衛なのだ。
「連合報道」によれば、「ある有名な法執行訓練グループは今も、ブラック・ライヴズ・マター(BLM)活動家を暴力革命をたくらむテロリストと扱うよう地方の警察を駆り立てるような、虚偽と陰謀が一杯詰まった長々しい訓練文書を売り込み続けている」「その文書は、国際法執行教育機関・訓練機関協会によって配布されている。……それは、左翼の戦闘的活動家に対するある種包括的な用語であるブラック・ライヴズ・マターとアンティファは、『その目的が米政府の打倒である』革命運動であると言い立てて、彼らは『過激な暴力』を計画中、と主張している」。
しかしながらバイデンは、BLM運動あるいは何らかのその要求を取り込んだことはない。彼らは、ブラックとブラウンのコミュニティがどのように防衛されるかを基本的に変えるために、「警察から資金を引きあげろ」との要求を掲げてきた。しかしバイデンはその代わりに、警察行為をささやかに改善するために、いわゆる警官労組代表たち、警察署長、既成公民権グループ指導者たちと共に席に着くことを提案してきた。多人種的なレイシャル・ジャスティスデモを指揮している黒人活動家たちは招かれていない。黒人と南アジアの女性として初めての副大統領であり、同時に元カリフォルニア州司法長官であるカマラ・ハリスは、警察行為に関する先のバイデンの提案を承認している。それは、最多の人口を持つ州における彼女自身の実績と付合しているのだ。
最初の黒人大統領、バラク・オバマも、「警察から資金を引きあげろ」の要求を、心得違いのスローガンと呼びつつ、あからさまに攻撃した。しかしBLM活動家にとってそれは単なるスローガンではない。それは、ブラックとブラウンのコミュニティ内を占拠する警察諸部隊に対処する数十年にわたる経験に基づいた、考え抜かれた要求だ。
その政治が、アフリカ系米国人コミュニティに向けた実績としては、ほとんど何もしなかったという中道右派の政治だったオバマこそが、バイデンの手引きになっている。彼の内閣に対する黒人、ラティーノ、女性の「穏健な」人物の指名は、主流的資本主義社会への暮らし向きのよい中産階級と専門職民衆層の上昇、を映し出している。しかしこれらの諸個人は、労働者階級の、特のその最貧困層の、至上の利害を代表しているわけではないのだ。

諸危機への運動の対応


さまざまなBLMグループは選挙の前に、根底的な変革を実行させるために、街頭の抗議行動をもって、また民主党を含む市、州、連邦の公職者たちへの要求を携えて、警察のテロに対抗し続けるだろう、と語った。その鍵は、アフリカ系米国人コミュニティの利益を前進させるために、政府権力と企業権力を強制することだ、そして「われわれに似ているように見える」資本主義政治家には頼らないことだ、と彼ら全員が語っている。
同じことは、コロナウイルスからもっとも厳しい打撃を受けているアフリカ系米国人、ラティーノ、アジア系米国人、先住民コミュニティが直面する、公衆衛生上のパンデミック危機にも当てはまる。バイデンと民主党は、これらのコミュニティがワクチンを最初に得ることを保障するだろうか? またそれは、健康保険をもたない人々に無料にされるだろうか?
バイデンは国民皆保険(全員のためのメディケア)に反対している。また彼は、農業で働いているラティーノ(多くは労働許可証をもたない)を含む低賃金のエッセンシャルワーカーがどのように安全にワクチン接種を受け、移民警察の標的にならずに済むか、を説明していない。バイデンは、米国をWHOに復帰させるつもりだ、と語る。しかし彼は、全世界が、特に「グローバル・サウス」諸国が確実に低費用でワクチンを確保できるようにするための計画を、まったくもっていない。諸々の大製薬企業は、医療ケアではなく利潤のために存在しているのだ。
パンデミックは、公衆衛生ケアシステムの不平等を暴き出した。ブラックとブラウンの民衆は、全体としての白人に比較して、常に質の劣った医療ケアを受けてきた。多くのアフリカ系米国人は、過去と進行中のレイシズム的諸政策を基礎に、医療の既成エリートを信用していない。

活動家たちは民衆行動推進


アフリカ系米国人の活動家と論者は、二極化の根拠を理解している。つまり、白人アイデンティティの「不満利用」政治が、最貧困労働者階級の白人を説き伏せて、黒人と非白人を敵とする億万長者との連合に引き入れている、ということだ。黒人はこれを理解している。それは、米国の歴史の血と骨としてある。社会―経済的進歩への反対に白人のレイシストグループを獲得するために、白人政治家と権力をもつ者たちによって、人種の切り札が常に切られてきた。
バイデンの政府に関する考え方は、よりリベラルな立場を犠牲にしても保守派と取引する、ということにある。彼のチームは、進歩的な政策を推し進めることよりも、主流の共和党と協力する方をもっと気にかける、そうした親企業民主党を反映することになる。
ブロンクス選出ニューヨーク下院議員のアレクサンドリア・オカシオ・コルテスは、中道右派に向かうバイデンの動きに反対して、もっともはっきりと声にしてきた。彼女の要求と他の進歩派のそれらには、バイデンのチームに圧力をかける意図が込められている。
しかしそれは、ひびの入った戦略――社会的、経済的変革を届けるために民主党内で活動――だ。それは機能しない。
トランプに対決する、またバイデン支持では不在を通して、多人種と労働者階級の連携に火をつけたものは、幅広い基礎をもつ黒人率いるレイシャル・ジャスティスの反乱だった。反警察のその運動は、レイシズムと闘う一つの有効な虹の連合を積み増している。
現代の日々における白人至上主義者の政治であるトランプ主義に対する回答は、実体的変革を求めて動員を続けることだ。BLM運動の指導者たちは、警察の暴力と政治腐敗と闘うと最大級に誓約してきた。女性の権利、ゲイの権利、労組の権利の指導者を含む他の者たちも同じことを行わなければならない。(「アゲンスト・ザ・カレント」誌210号、2021年1・2月号より)

▼筆者は、退職航空機整備士、かつ労組、反レイシスト活動家。「アゲンスト・ザ・カレント」誌編集顧問。(「インターナショナルビューポイント」2021年1月号)

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