フィデルとトロツキー

革命の永続性は左翼反対派の思想の中に

ケリア・ハート

 LCR(革命的共産主義者同盟、第四インターナショナル・フランス支部)の週刊機関紙「ルージュ」の以下のインタビューは、昨年亡くなったフランスのマルクス主義歴史家ピエール・ブルーエ(訳注)を記念する研究集会に参加するために、ケリア・ハートが最近フランスを訪れた際に行われたもの。

官僚主義から
資本主義が復活

――この十五年間、キューバ社会の決定的危機がある期間をおいて定期的に報じられてきました。フィデル・カストロ自身、キューバにおける不平等の拡大を強調してきました。私たちは革命の成果を保持したり、拡大したりすることができるのでしょうか。それとも消滅が運命づけられているのでしょうか。

 私はキューバ革命に完全なアイデンティティーを持っていますが、それを代表するわけではありません。私が語ることは私の個人的意見です。キューバにおける社会主義革命の社会的成果は明らかです。つまり優れた社会的平等、すべての人びとにもたらされ、米国やヨーロッパなどの豊か国に比肩しうる教育システム、ラテンアメリカの他のどの国よりも勝っている医療システムなどです。それはヨーロッパで起こっていることとは違い、民営化されたり解体されたりしていません。
 しかしキューバ革命が、いわゆる「社会主義陣営」との貿易協定の崩壊と帝国主義による継続的な封鎖の結果である、「特別な時期」(注1)の困難――電力削減、公共交通の破綻、最小限の食料配給――に打ち勝つことができたのだとしたら、それはキューバ民衆が全体として革命を防衛したためであって、社会的利点によるものではありません。
 私たちが現在経験している諸困難は、物質的ニーズと関連したものではありません。貿易と外貨保有の自由化――それは資本主義的メカニズムの導入であり、一部の人びとは一九二〇年代のロシアのネップと対比してそれを正当化していますが――は、社会的差異化と「新しい富裕層」の出現をもたらしました。
 「指導者」(フィデル・カストロ)は昨年十一月十七日の演説で以下のように定式化しました。「この革命は独力で自らを破壊しうるが、奴ら(米帝国主義)は革命をどうしても破壊できない」「しかしわれわれは革命を破壊できる。すなわちわれわれの失敗によって」。そして彼は次のように強調しました。「数万の寄生者は、なにも生産しないですべてを手に入れる」と。
 同様に、フェリペ・ペレス・ロケ外相は、国連で「キューバにとっての危険は、ブルジョア階級の創出だ」と主張しました。官僚制の相互浸透と市場経済にこそ危険が存在しています。私たちは官僚制の基盤を粉砕しなければなりません。ブルジョア階級が発展できるのは、こうした基盤にもとづいているからです。私たちはソ連、ポーランドなどで、経営者や権力者だった官僚たちが、どのようにして所有者や資本家になったのかを見てきました。
 キューバでは、一九八〇年代のドイツ民主共和国(東独)とは違って、「レーニンが生きて」います。官僚的反革命は遂行されていません。私たちは、官僚制の残された基盤を解体するためにこうした利点を用いなければなりません。この官僚主義から資本主義復活の危険がもたらされるからです。

ベネズエラとの
実践的な連携へ


――ベネズエラの革命的プロセスは、帝国主義によるキューバへの締めつけの緩和を可能にさせています。そしてこのプロセスがほんの始まりに過ぎず、二つの革命の並行が当てにならないものだとしても、いまや私たちは相互作用的影響を語ることができるのでしょうか。

 キューバの医者、医療従事者、教師たちはベネズエラで働いています。しかし彼らは、この国のいかなる政治生活にも参加していません。キューバが干渉しているという非難を避けるための自制であることは理解できますが、私はこうした選択には同意しません。
 しかしベネズエラのプロセスの新鮮さ、その旅立ち、別の現実の経験、その地での参加は、豊かな経験であり、キューバ人、とりわけ青年たち――もちろんキューバ政府や国家ではなく――が、医者や教師としてだけではなく、工場や地域集会などでベネズエラ革命に参加できるのは重要なことです。
 いずれにせよ、キューバとベネズエラが打ち立てた連携は、ソ連との間にあった連携とは異なっていることが強調されるべきです。なぜならそれは、一つはすでに確立されたものであり、もう一つは始まったばかりの二つの革命過程の関係という問題だからです。両者はともに本物の革命です。ソ連との関係はそれとは異なり、国家間の関係、不平等な関係という問題でした。
 ベネズエラ―キューバ間のつながり、ボリビアがそのプロセスに統合されるという現在進行中の可能性は、永続革命を現実化させるものであり、われわれが作っている関係の基礎を、真の統一戦線を築き上げる方向に据えることができるようにさせるものです。

社会的正義と個
人的自由の両立


――あなたにとってトロツキーの理論的貢献が重要なのはなぜですか。

 キューバにおいて、私たちはモンカダ兵営襲撃(注2)以来、永続革命のプロセスを生きてきました。
 革命の継続性とその深化という問題は、キューバの革命家たち、とりわけ7月26日運動の革命家たちの思考の中心にあった問題です。最初にメリャが、次にゲバラが「トロツキスト」だとして告発されました。彼らはトロツキストではありませんでした。しかしその告発には合理的核心がありました。彼らはトロツキーを読むこともないままに、永続革命の方針をとっていたからです。キューバ革命の永続性は左翼反対派の思想の中に存在しています。
 キューバでは反スターリニスト的感情がつねに存在していました。人びとは共産主義とはスターリニズムであり、共産党だと考えていたからです。そしてキューバ共産党は革命に最後に参加した党の一つでした。しかし一九六一年にカストロがキューバ革命の社会主義的性格を宣言したとき、人びとは言いました。「フィデルが共産主義者なら、私も名を連ねていいよ」と。
 私はつねに、革命についての私の思考の中になにか欠落しているものがあると感じていました。それは、私がトロツキーを読んで発見したものでした。私は社会的正義と個人的自由は決して矛盾するものではないということ、私たちはそのどちらかを選ぶよう運命づけられているわけではないこと、社会主義はその二つを両立させることによってのみ築きあげることができることを発見しました。

(物理学者でキューバ共産党員であるケリア・ハートは、一九八〇年代に東独で物理学を学んでいた時にトロツキーの著作を発見して以来、自分のことを「フリーランス・トロツキスト」と呼んでいる。この時、彼女は、いわゆる「現存社会主義」とは頽廃した未来のない社会だということを直接に見てとることができた。キューバ革命の二人の歴史的指導者であるハイデ・サンタマリアとアルマンド・ハートの娘であるケリア・ハートは、幸いなことにドイツ民主共和国から帰国したとき、彼女の父親の書棚でアイザック・ドイッチャーの著作を見つけることができた。)

(訳注)ピエール・ブルーエ(一九二六~二〇〇五)は、フランスのトロツキー研究所所長をつとめ、一九九〇年に東京で行われた「トロツキー死後50年記念シンポジウム」で報告を行った。代表的著作として『トロツキー』(邦訳全3冊 柘植書房刊)がある。
(注1)「特別な時期」とはソ連の崩壊後にキューバが見舞われた困難な情勢を指す用語。現在は、そこからようやく抜け出しかかっているところである。
(注2)一九五三年七月二十六日、モンカダ兵営を攻撃して失敗したためフィデル・カストロは逮捕された。彼は法廷で自らを擁護する弁論を行ったが、それは「歴史は私に無罪を宣告するだろう」という名前で歴史に残っている。この弁論の中で、彼はバチスタ独裁に対する革命闘争の展望を概括的に明らかにした。

(「インターナショナルビューポイント」電子版06年5月号)

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