ドイツ 「左翼」の結成から1年のバランスシート
反資本主義的立場と官僚主義的体質が共存
ティエス・グレイス
政治地図に確固
たる地歩を築く
「左翼」党(ディー・リンケ)の結成から一年後、右派と左派のコメンテーターはともにドイツの政治状況が変化したことに同意している。二〇〇八年春に行われた三つの地方選挙によって、「左翼」はドイツの政治地図に確固たる地歩を築いた(1)。「左翼」は、統計的には党員数からいっても、被選出代表や、その他の国家のあらゆるレベルの政治機能の有給受託者の数からいっても、さらに財政力からいっても今やわが国で第三の政党である。
「左翼」は七万二千人の党員を持っている。下院議員は五十三人である。資本主義大国の中で、左翼としての明白なアイデンティティーを持つ党が、国会でこれほどの位置を占めている国は他に一つもない。「左翼」の国会議員は四百万人以上の支持を得て当選しており、昔からの帝国主義国の中でこの数字を超えている左翼政党は日本共産党だけである。
東部では、「左翼」は広範な地盤を持つ党である。多くの地域の地方政府レベルで影響力があり、「責任を果たし」ている。そしてその力と地盤は他のあらゆる政党をしのいでいる。ベルリンでは「左翼」は三人の閣僚を出して地方政府に参加している。西部地域で「左翼」はすべての州で成功を経験したが、低地ザクセンにおいてのみ二〇〇五年の連邦議会選挙よりも多くの票を獲得することに成功した。ドイツ全体では、「左翼」は百八十五人の州議員、五千五百六十一人の市町村議員、百七十九人の市町村長、三人の州議会議長、五十九人のさまざまなタイプの自治体連合調整議員を有している。
資本主義批判に
スペースを開く
「左翼」以外のすべての左派勢力、社会運動――まず第一に労働運動――、ますます多くの知識人と科学者たちは、今やこの新しい党を注視し、この新しい左派勢力と彼らが政治問題を提起する方法を詳細に検討せざるをえなくなっている。
政治的イデオロギーのレベルでは、「左翼」は何年にもわたって見捨てられてきた分野でその穴を埋めている。それは資本主義批判、さらには社会主義への要求を可能にするスペースを開いてきた。この意味で「左翼」は、資本と、利潤率の復活に奉仕する諸政党が仕掛けている攻撃がもたらした、すでにありふれたものとなっている勝者と敗者の間の分極化を反映している。それはすべての欧州の政権と経営者組織による攻撃的な「上からの階級闘争」の反映であり、社会のすべてのセクターに影響を及ぼしている暴力、軍事化、物質的不安定さの反映である。
社会学的レベルでは、「左翼」は歴史を超えたかに思われる階級的党のモデルを代表している。それは現在の政策の犠牲者と、社会的・政治的抵抗の組織者の間で、短期間のうちに安定した相当数の選挙での支持者を獲得する能力を示すことになった。「左翼」はそのために、単なる抵抗政党以上のものをはっきりと示している。「左翼」の選挙上の成功は、「左翼」がなければ棄権していたような人びとの票を一時的に獲得したということではなく、低下しつづけている投票率にもかかわらずこの勝利を手に入れたことは明らかなのである。
「左翼」はまず、社会民主党(SPD)の伝統的なプロレタリア的支持者の一部を動員している。新党によって、党員数でも得票数でも挑戦を受けているのが、何よりもSPDである理由はそこにある。
こうしたすべての要因は、「左翼」の登場が反資本主義的・社会主義的展望から見て積極的な政治的出来事だと見なすところに、われわれを導く。しかし、いつものことであるが、その弁証法は、発展とともに進歩的勢力が抑え込まれることを意味している。それはすでに達成された成果に満足してしまい、それと同時に、この前進の意味を十分意識しておらず、左翼の側の変化の追求と党のラディカル化のみが成功をもたらすことを実際のところ理解できない「左翼」の活動家と党員がいる、ということなのである。
党員の構造的
特徴と歴史性
二〇〇七年六月の公式結成以来、三千人のメンバーが党に参加した。一万二千人とされるWASG(訳注:「社会的公正と労働の選挙オルタナティブ」。社民党の社会自由主義的右派路線を批判して党から離脱し、旧東独の政権党の後身であるPDS〔民主的社会主義党〕とのブロックを形成して選挙戦を闘った旧西独のグループ。中心的人格は『国境を超える社会民主主義』の著者として知られる元蔵相のオスカー・ラフォンテーヌ)のメンバーの約三分の一は左翼党―PDSとの合同に同調せず、離党するか党費の支払いを停止し、党員リストから外されることになった。
党員の約四分の三は東部諸州(旧東独)居住で四分の一が西部諸州(旧西独)居住である。東部において「左翼」が組織化しているのは、ほぼすべてが旧GDR(ドイツ民主共和国=東独)の資本主義ドイツへの再統合によって犠牲となった人びとである。そのうち三分の二が大学の学位の所持者であるが、退職して久しい。東部では党員の平均年齢は六十五歳を超えている。党は新メンバーを獲得したが、それ以上を失っている。基本的には死亡したためである。
東部では党員の約半数は女性だが、西部では他の党よりも男性が支配的である。しかし国全体では平均して四一%という恥ずかしくないだけの数字を維持している。結成以後に加盟した党員は西部ではほとんどが男性である。その結果、新党員の八五%は男性であり、三十歳以下は五%、二十歳以下は一%である。
西部では党員は二つのグループに分かれている。一方には不安定労働と失業という資本主義の新たな犠牲者がいる。他方のグループは別の賃金取得者であり、その中では高等教育を受けた者がかなりの数の少数派となっている。左翼党は労働者党であり、GDR(旧東独)の清算による犠牲者を特有の構成部分とする、現代資本主義の特殊的産物である。
党は東部において約二千、西部においては二百六十の一般党員組織によって構成されている。それらの組織はほとんどすべてが行政的区分を基盤に作られており、地域に対応している。職場グループが一つだけある。男女同数制は内部的・対外的選挙に関する規約に定められているが、地域のレベルでそれが尊重されることは稀である。それは地域組織、中間組織、そして党のトップ――二人の男性共同代表(2)は有名だ――で注意深く実施されているが、困難を伴っている。連邦レベル、そして地域議会では、この規則は男性徒党の圧力によってつねに無視されている。さまざまな選挙候補者リストが広く男女同数原則を取っているとしても、選出された議員のアシスタントや党の専従に、この原則はあてはまらない。
党の行政的機構は、中央本部での七十七、地方事務所での百六十の専従ポストによって構成されている。それは基本的には、政党財政規則の下での国家補助金と議員の党費によって賄われている。平均的な党費は一カ月に七ユーロ(約1200円)である。さらに党のほとんどの公的意見表明は、議員団、ローザ・ルクセンブルク財団とその公的財政支出を通じて行われている。したがって「左翼」の存在は、約八〇%まで国家の金に依存していると見なして間違いない。そしてそのことを恥じる必要はない。その金は、大企業からのプレゼントや買収資金とはなんの関係もない。しかしその問題は不断に留意すべき事柄である。
議会の泥沼に
沈み込む危険
こうしたタイプの組織を通じて社会内部の力関係を持続的に変化させることを願っている左派活動家は、それぞれのキャンペーン、それぞれの行動にあたって、これらの構造的ブレーキを実践において超えていくために、その欠陥を考慮に入れるようつとめるべきである。しかし起こっているのはそうしたことではない。職場グループを設立し、メンバーの党費やシンパサイザーからの寄付による党財政の比重を増大させつつ、議会外的行動によって組織構造を基礎から変革しようとする努力はなされていない。したがって、「左翼」がきわめて急速度で議会主義化しているのは驚くべきことではないのである。
現在のすべての活動は、ほとんどもっぱら選挙キャンペーンをめぐって展開されている。党員は二つの部分に分けられている。最善の場合でも選挙運動期間にだけ動員される多数のペーパー党員と、選出された議員を中心に結集する活動家たちである。この現象は、他のどの党もこうした衝撃的なやり方では提起しえない、三つの特徴によって加速されている。
第一は、とりわけ旧PDSの中で見られる、組織の基礎にある従順さである。それは敵である資本家が受け入れ、真剣に受け止めるべきものとして、憧憬の対象であった。グレゴール・ギジが自らの墓碑に「しかしわれわれは規律に忠実な人間だった」と刻まれることを望んでいるという逸話はその明らさまな証である。
第二は、ほとんどシニカルなまでのメディアへの恐怖である。本部事務所の七十七人の専従者の一人は、定期的に新聞の「良い」記事と「悪い」記事を分類し、それぞれの比率を計算している。
第三は、党代表への忠誠に反映されている権威主義的構造であり、機構の側への集権化をいささか病んだ発作的なものにし、創造性と想像力を、そして党の生きた可能性を結局のところ窒息させてしまう追従主義である。
ほとんどのすべての党の会議で見ることができるこうした「質」は、東部のPDSの古いカードルや、SPDと労組の官僚主義的構造によって訓練された西部のSPDの古参活動家に具現されている。この三つの要素の重みは増大しており、減少していない。現在党に加盟する人のほとんどはこうしたやり方を共有しており、それはポストやキャリアを求めている多くの人びとにとっていっそう有益なのである。
それは定期的に有権者から一〇%の支持を獲得している「左翼」にとっても現実である。また、反戦運動からG8サミットへのデモ、ネオナチや民主的権利への侵害に反対する行動、労働組合や職場の闘争への支援――GDL労組(3)が指導した列車運転士のストライキを例外として――したこの党は、現在までのところ精力的にこの国の反資本主義勢力を支援し、もしこの党が存在しなかったなら不可能だったような所にまで進むことを可能にさせた。しかしこの党は、その構造全体の重みによってその進歩的役割を失わせ、それ自身の勢力を窒息させ、議会の泥沼に沈み込ませ、疑いなく少数派として連合政権に向かわせるという危険にさらされている。
このプロセスを止めることは、ここに示したような構造の重圧への極度に明確な意識によって、さらに闘争と社会的動員の、猛烈な絶え間のない圧力によってのみ可能となる。もしこうした二つの要素のうち一つが存在すれば、事態は現在のまま継続する。しかし両方が失われることになれば、事態は悪化するだろう。
(ティエス・グレイスは国際社会主義左翼〔ISL、革命的社会主義者同盟RSBと共に第四インターナショナル・ドイツ支部の二つの公的分派の一つ〕の調整委員会メンバーで、「左翼」内左派潮流である「反資本主義左翼」の全国調整委員)
注1 二〇〇五年九月の連邦議会選挙で、PDS―左翼党とWASGの選挙連合は総得票の八・七%と五十四議席を獲得した。今年の地方選挙では、「左翼」は低地ザクセンで七・一%、ヘッセで五・一%、ハンブルクで六・五%を獲得した。
注2 SPD前書記長のオスカー・ラフォンテーヌとPDS前書記長のグレゴール・ギジ。
注3 この労組はDGB(ドイツ労働総同盟)に加盟していない。
(「インターナショナル・ビューポイント」08年7月号)
The KAKEHASHI
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