イギリス ソーシャリスト・レジスタンスの設立声明(上) 

左翼の再武装が必要-歴史的社会民主主義の終焉に抗して

 現在の政治的危機は、少なくともこの八十年で、あるいはそれ以上の年月の中で、最悪の経済危機を背景にして起こった。この半世紀の間、マルクス主義者は、一九三〇年のような崩壊と停滞がふたたび起こり得るかどうかについて論争してきた。一九八七年にそれが起こったと考えた者もいたし、一九九七年のロシアや東アジアの危機がそうだと言う者もいたし、二〇〇〇年~二〇〇一年のドット・コム危機がそうだと言う者もいた。

経済的破局―二つの危機

 今や、われわれはこの問題の答を知っている。そのような破局は、起こり得るだけではなく、われわれは今まさにその中にいる。あるいは、われわれは破局の中にあり、停滞に向かいつつあるに過ぎないのかもしれない。たまたま回復の兆しが見えたとしても、状況の基本的要素は、景気後退の下降局面の長期波動に入ったことを示している。このことは深刻な社会的意味を持っている。目覚しい政治的展開と大きな闘いの外側で、英国の巨大な社会的危機がもたらされようとしており、政治的戦線におけるその帰結はいまだ予測することはできない。
 経済的破局は、同時に二つのものを危機の中に投げ込んだ。第一は、サッチャーやレーガンの下で作り上げられた新自由主義的蓄積の体制が、大きな危機に陥り、少なくとも旧来の形では再生不可能になったことである。
 一九八〇年代前期にマネタリズムとして始まったものが金融資本の支配へと進化したが、これを象徴したのが一九八六年のシティーの規制緩和であった。金融資本が産業に対してますます高い短期的利潤を要求するようになるにしたがって、これは最終的には経済的グローバリゼーションとなった。これは、新自由主義的な労働の体制と国際的低賃金経済をもたらし、生産は、より低い労働コストを求めて国内的、国際的に外部調達された。消費と生産を支えるために大量の過大評価された資産(主として住宅および不動産)に基づいた借金が必要であったが、この負債の山が築かれる基礎になったのは、国際的な低賃金経済であった。
 一九六〇年代後期および一九七〇年代前期に利潤が低下したとき、ブルジョアジーは経済と社会の規制緩和のもうひとつの道を求め、これが戦後の混合経済、福祉国家、国民的合意に取って代わった。何度かつまずいてやり直したが、最終的に新自由主義が行われた。今や、新自由主義を支えた負債の山は崩壊した。資本主義がこれからどのように進化するのか、誰も予言することはできない。分かっていることは、古い形の新自由主義の危機は、英国においても国際的にも、労働者階級や非抑圧階層だけでなく広範な中産階層にとってひどい結果をもたらすだろう、ということである。

ニューレーバーの崩壊

 第二は、ニューレーバー・プロジェクトの崩壊である。今や、労働党が大敗北し、右翼的な経済・社会プログラムを掲げた保守党が選挙に勝利することはほとんど確実である。しかし、保守党政権の危険は、欧州選挙で起こった大量の棄権を投票に引き戻すだろう。ブラウンまたは彼の後継者は一五%以上を獲得するだろう。しかし、勝利は無理だろう。保守党の大勝利を阻止する唯一の道は比例代表性の導入であるが、ブラウンのニューレーバーはこれを受け入れないであろう。
 ニューレーバーは、サッチャー革命の継続に常に忠実であったし、シティーとの友好を保ち、企業に都合の良い財政制度を提供し、タックス・ヘブンやある程度の腐敗を無視してきた。とりわけ、低賃金経済と新たな厳しい労働体制を精力的に支持してきた。したがって、経済の崩壊がニューレーバー・プロジェクトの終焉をもたらし、その核心のイデオロギー的、政治的破産が暴露されたとしても、驚くには当らない。
 われわれが英国と欧州において目撃しているのは、ロシア革命後の世界労働運動の分裂から生まれた歴史的な社会民主主義の断末魔(死の苦悶)である。もちろん、これは社会民主主義を起源とする諸政党がすぐに消滅することを意味するわけではないが、資本主義の枠組みの中での連続的な改革と親労働者階級的改革を通じて社会主義の初期段階に至るという社会民主主義の企図がほぼ終焉を迎えたことを意味する。フランス社会党やドイツ社民党のような党の多数派や指導部についても同じである。
 ニューレーバーは、古臭い公共サービスを「改革」し子どもの貧困をなくすというアイデアを掲げていた。しかし行われたことは、真の改善の基盤を掘り崩すことであった。
 ゴードン・ブラウンが財務大臣として特にかかわったニューレーバー計画とはこのようなものであった。シティーはわめきたて、英国は米国とともに金融資本のセンターになるはずであった。巨大な租税収入が生じ、これを公共サービスや貧困家庭のための税額控除にあてることができるはずであった。この計画は実施に移されたが、望みの結果を得ることはできなかった。今や、政府は数千億ポンドの負債を抱え込み、この欠陥制度は当分機能不能である。銀行を崩壊から救うために政府が借りた借金を返すには二、三十年かかるだろう。
 ニューレーバーの租税・歳出計画は、その方法のために機能しなかった。その核心は「官民提携(パブリック・プライベート・パートナーシップ)」であった。すなわち、新しい病院の建設のようなプロジェクトを民間会社と協力して行うというものである。民間会社は多額の資金を与えられてプロジェクトに引き入れられ、自治体や国が行うよりはるかに少ない費用でこれを行うはずであった。この十四年間は、「コンサルタント」と「アドバイザー」の時代であった。高給を取る無数の中産階級専門家チームが、企業と公共機関の間の仲介者となった。ここにからくりがあった。金融部門からの租税収入の多くが、官民提携の民間側の主要投資者としての彼らに還流したのである。
 鉄道やロンドン地下鉄の民営化は典型的なケースである。真の改善も、もちろん行われた。その点については疑いがない。しかし、どちらのケースも、価格は世界のどこに出しても法外なものであり、関係会社を赤字にしないために多額の援助が行われ、巨額の利潤と幹部の高給がもたらされているが、これらはすべて公共の財布からまかなわれているのである。

失業の拡大と
借金の増大

 最富裕層に対する労働党の減税によって最上層の人々は贅沢な生活を享受しているが、底辺の人々の生活は沈没しそうである。しかし、中産階級や正規雇用されている労働者の多くの部分は、生活はそれほどひどいとは感じなかった。ほとんどの人々は、長時間精を出して働かなければならないが、実際の購買力は維持されているように思われた。
 トニー・ブレアがもてはやした「モンデオ・マン」(フォード・モンデオは英国フォードの人気大衆車)はニューレーバーの真の社会的基礎であった。すなわち、恒久的雇用、住宅、車、子どもと海外旅行休暇、そして中国製の安価な電気製品は、大人二人の所得によって手に入れることができるはずであった。もちろん、モンデオ・ファミリーの平均像はだれでも実現できるものではなかったが、多数の人々がこれを達成した。しかし、これはすべて幻想であった。
 この幻想は、住宅価格の上昇に基づいていた。何百万もの英国の労働者は、クレジット・カードで多額の借入をした。国際的な低賃金経済が平均的な英国の雇用労働者に課した抑制された所得レベルは、享受している生活水準を正当化するものではなかった。大多数の家庭の負債は借り換えられた。なぜなら、借り換えは常に可能であると思われたからであるが、これは致命的な幻想であった。
 今や、住宅価格は停滞し、信用は収縮しており、消費も停滞している。結果はよく知られているとおりである。失業はふたたび社会的破局となり、借金返済のためにあらゆる消費が切り詰められている。外国旅行休暇は国内旅行に代わるか休暇なしになっている。さらに悪いことに、皆が知っているとおり、二〇一〇年の総選挙後には新政府は天文学的レベルに達した負債に対応するために大幅増税に踏み切るであろう。デフレの悪循環は深まっている。失業と消費に関しては、英国の労働者階級にとって最悪の事態はまだこれから先に待ち構えているだろう。
 ゴードン・ブラウンは、負債の山を築き英国産業を停滞させたことに対する保守党の非難に対して政治的に無防備である。ニューレーバーは、次のように言うことができるはずであった。シティーを規制緩和したのはマーガレット・サッチャーであり、一九八〇年代前期に「レイム・ダック」哲学によって製造業をつぶしたのもマーガレット・サッチャーであり、金融とサービス産業に基づいて英国が「欧州の香港」になるという計画を始めたのは保守党のイデオローグたちである。しかし、もちろん、彼らはそのように言うことはできない。なぜなら、ブレアやブラウンが採用したのはサッチャリズムの中心教義であり、彼らはこれを丹念に磨き上げ、宗教的熱意でもって推進したからである。これらの問題に関するブラウンとニューレーバーに対するデービッド・キャメロン(保守党党首)の非難は偽善的であるが、否定しがたい。

フレキシブル労働
と低賃金構造

 低賃金やフレキシブル労働への労働党のしつこい執着によって、経済は社会的不平等を悪化させ、富裕階層や中産階級には利益をもたらしたが、社会の最貧層に打撃を与えた。労働者階級の二〇%の最下層、特に伝統的産業が崩壊している北部および中部地方の労働者階級は、負債の山が高くなっていった年月に増大した消費の恩恵を受けたことがない。賃金労働者の一〇%の最下層は、五年前よりも生活が絶対的に悪化している。何百万もの人々が、失業、没落状態、健康と生活の見込みの悲惨と絶望の状態から抜け出したことがない。
 これらすべて、高率の麻薬中毒や十代の妊娠のような社会的問題として片付けられてきたが、サッチャーが製造業をつぶした後の一九八〇年代に始まった問題である。この最も経済的文化的に排除されてきた社会の部分は、まさにニューレーバーに裏切られたと感じており、右翼ポピュリズムやファッシストBNP(英国国民党)の訴えに最も弱い。残念なことに、この士気阻喪現象の要素は旧炭鉱地帯に浸透している。旧炭鉱地帯では多くの炭鉱町が炭鉱の閉鎖とNUM(炭鉱労働組合)の敗北から回復していない。
 われわれが決して忘れてはならないことは、ニューレーバーの大失敗のプロセスの責任は、労働組合官僚の責任であるということである。シンプソン、ウッドレイ、プレンティスらはニューレーバーのほとんど無批判の側面防衛隊であった。TUC(英国労働組合会議)は、ほとんど教育・助言センターになりさがっていた。保守党政権下でもこの受動性が続くならば、反動が羽目を外すことになるだろう。

政治空白と右翼の台頭

 このようなひどい経済的社会的状況の中で、労働党国会議員が議会支出騒動に巻き込まれている。どうしてそのようなことになったのか。もちろん、資本主義社会では腐敗はいたるところにある。しかし、ニューレーバーは、富と権力に対するイデオロギー的実践的熱中のために、特にこの影響を受けやすい。
 富裕な経営者たちが労働党大臣たちの自然な社会的環境となった。労働党大臣は、自分たち(自分はVIPであると思っている)を民間部門の巨額の報酬を得ている人々と比較する。年俸十四万ポンドの政府の大臣が、その何倍もの報酬を得ている人々といつも付き合わなければならないことは、しゃくにさわることである。ビジネスと経営の効率以外にたいした信念を持たずイデオロギー的でない政党においては、政治は、単なる特権、キャリア、個人的利得の問題になり、大臣の任期が終われば、高額報酬の民間会社役員の地位に就きたい、特に任期中にひいきにした民間会社の役員になりたいのである。
 普通の人は、労働党はこれよりましであることを期待する。また、国会議員は「発言に誤りがあった」と説明することができるが、普通の人は嘘をついたら牢屋に入ることになることの違いに気づいている。これは、すべての主要政党はぐるであり、信用できないという感情をもたらす。しかし、「すべての政治家」に対する反乱やすべての主要政党に対する不信は、その反乱を指導する者やその目的によっては、ひどい結果をもたらす。
 最も衝撃的な例であるイタリアでは、キリスト教民主党と旧イタリア共産党の崩壊がもたらした真空を埋めたのは、ベルルスコーニと彼の同盟者である北部同盟の排外主義、全国的な人種差別主義、ファシスト的国民同盟、そして欧州で最も腐敗した経営者が支配する政府であった。ポピュリスト的雰囲気の外側にある異様な次元の例を挙げると、ルートンで国会議員になると決意しているエスター・ランゼンや、「非政治主義」の陪審員党があるが、この危機の受益者は保守党と右翼政党であろう(異様なケースでは、欧州議員のために数百万ポンドの支出を要求している英国独立党がある)。支出問題のスキャンダルは、圧倒的にブラウンとニューレーバーに対する打撃となっている。

迫り来る経済的・社会的危機

 銀行救済に支出された数兆ポンドは、二、三十年にわたって国家の支出に仕掛けられた爆弾となった。今年だけでも、政府は一七五〇億ポンドを借り入れる必要があった。借入の返済が始まれば、現在の政府支出のレベルを維持することはできなくなる。単純な結果は、公共部門のあらゆる部分の支出の大幅削減である。
 保守党影の内閣の健康大臣アンドリュー・ランズレーは、キャメロンの保守党は公共支出一〇%削減を計画していると口を滑らせた。キャメロンは健康と教育は別枠にすると主張している。保守党が国防と警察の削減を避けようとするとしても、この約束は意味がない。約束が本当だとしても、社会的サービス、公務員や自治体労働者の削減が行われるであろう。すでに右翼新聞で公共部門の「非効率性」に対するキャンペーンが始まっている。
 「保守党は削減し、労働党は支出する」というのはジョークのひとつである。いかなる資本主義的政府も、まさにキャメロンが意図するところを行うことを強いられるであろう。一〇%というのはもちろん作業仮説に過ぎず、上限ではない。それは経済で何が起こるかに依存する。しかし、全般的パターンは明白である。
 何万もの公共部門労働者が解雇されるだろう。これは主要には国の布告の形を取るのではなく、NHS(国民健康保険)トラスト、学校や大学、自治体の金がなくなったという形をとるだろう。政府は各省庁の規模を縮小するだろう。
 失業の拡大によって失業手当の支払が増加すれば、国家財政に対する圧力が増大するだろう。おそらく、現在のレベルの失業手当や社会保障の支払は維持できない。その結果、審査のための収入調査の厳格化、支払の絶対的レベルの凍結や削減が行われるだろう。年金についても同様である。
 国民健康保険は、無料国民健康保険は削減によって縮小され、薬の提供は根本的に削減され、実質的に二層サービスになるだろう。歯科医療に続いて、最終的にはより複雑な手続きが行われるだろう。すなわち、「国民健康保険はここまで、それ以上は保険適用外」ということになるだろう。
 貧困者、病人、老人、失業増大地域は、ますますサービスが縮小され、この危機によって打撃を受けるだろう。老人向け訪問介護のようなサービスが有料化され、価格は上昇するだろう。
 所得税や国民保険料は大幅に上昇するだろう。特に付加価値税が引き上げられるだろう。
 公共部門に対するこのような巨大な(不可避的な)攻撃が大衆的闘争を引き起こすことは言うまでもない。これは、失業に対する広範な闘いとともに、労働組合が直面する課題の核心となるだろう。このことが、逆説的に、労働運動がふたたびこの国の社会生活の中心舞台に復帰するための枠組みを提供することになるだろう│労働組合指導者を闘いに向かわせることができれば。
 若者もまた、危機によって厳しい打撃を受けるだろう。今年、四万人の大学卒業生が仕事を見つけることができないだろう。来年は、大学卒の職はさらに三万人も減少するだろう。ほとんどの学校卒業生は、仕事を見つけることがますます困難になっている。これは義務教育年齢を十八歳に引き上げることによって部分的に緩和されるだろうが、最終的には、政府の十四~十九歳教育改革への財政支出が可能かどうか疑わしい。保守党政府はこれをホゴにする可能性がある。いずれにせよ、数十万の若者が、失業者リストに加わるだろう。
 今年末までに、実際の失業レベルは四百万人に達し、さらに上昇するだろう。犯罪やその他の反社会的活動も急激に増加しそうである。この社会的絶望が真の急進化、真の社会的政治的反乱をもたらすかどうかは、難しい質問である。

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