イギリス ソーシャリスト・レジスタンスの設立声明(下)

左翼の再武装が必要-歴史的社会民主主義の終焉に抗して

社会的反革命に注意せよ

 キャメロンは、常にサッチャリズム拒否と政治的中道の立場をとり、「ソフト」で「親切な」保守主義の顔を心がけてきた。しかし、新しい経済・社会情勢の中で、「傷ついた英国」に関する彼の主張は、不吉な抑圧的兆しを見せている。
 キャメロンは自伝の中で、「サッチャー夫人が経済改革者であったように、私は急進的な社会改革者を目指しており、今この国が必要としているのは急進的社会改革である。マーガレット・サッチャーは彼女の時代に大きな挑戦課題が英国経済を再生させると考えたが、われわれは現代保守主義にとっての挑戦課題がわれわれの社会を再生させることを認識する必要がある。それは、家族の断絶の問題、福祉依存、欠陥のある学校、犯罪、あまりにも多くの共同体でわれわれが直面している問題に対処することである」と語っている。
 これらの問題を「解決」する経済手段がない中では、これは家族に関する反動的主張、「自助」の重要性、「経済的責任」を取り、国に「依存」しないことの重要性を強調することしか意味しない。この反動的主張が、「無責任な」シングル・マザーを攻撃し、その状況をいっそう困難にするために使用されることはほとんど確実であり、堕胎や避妊の権利に対する新たな右翼の攻撃につながることを十分予想することができる。また、テレンス・ヒギンズ・トラスト(エイズ相談援助団体)のような組織や性的健康や避妊健康相談を提供するその他の組織への財政支出に対する攻撃の試みにつながるだろう。
 しかし、これらは、保守党の中でもおそらく分裂を生じるような危険な問題である。多くの公共サービスや一部の企業における平等な賃金、妊娠中絶の権利のような女性の社会的前進は、住民の広範な部分に深く浸透している。これらに挑戦し、デーリー・メール(保守中道系日刊紙)の社会的アジェンダに加えようとすることは、大衆的な厳しい闘いを引き起こすだろう。

人種差別主義と極右の台頭

 欧州選挙の結果とUKIP(英国独立党)およびBNP(英国国民党)の相対的成功は、特に、なぜこのような大量の票が投じられたのか、そしてそれはどこへ向かうのかについての大きな論争を左翼の間に引き起こした。この票は一時的なものであると言うべきであり、欧州選挙におけるUKIPの得票は総選挙で繰り返されることはないであろう。しかし、これは非常に憂慮すべき傾向である。このことを理解するために、次のような種々の問題を抽出する必要がある。
 海外、特に東欧からの安価な労働力の使用が広範な産業の労働者の状態を掘り崩していることが、扇動的で人種差別主義的な考え方、すなわち「英国労働者のための英国の仕事」の広範な受け皿をもたらした。
 イスラム原理主義のテロリズムが、あらゆる種類の人種差別主義や排外主義の促進剤となった。
 二十世紀のすべての社会的危機において、特に一九三〇年代(英国ファシスト連盟創設者モズレー)、一九六〇年代後半(エノク・パウウェル)、一九七〇年代(国民戦線)、そして現在のように、極右翼と人種差別主義が前面に姿を現している。どの場合も、彼らを退けるためには左翼と労働運動は大きな努力が必要であった。また、一九三〇年代には戦争の開始が、一九七〇年代にはサッチャー政権の選挙が、人種差別主義とファシズムを追いやる上で大きな要因となった。
 反移民人種差別主義の登場の基礎には、英国のブルジョアジーおよびプチブルジョアジー内部の、それだけでなく労働者階級内部の、深層に存在する人種差別主義の泉に根源がある。この人種差別主義の社会的ルーツは、英国帝国主義の歴史と特に古い世代の人々の経験、特に軍隊にいたことのある人々の経験である。これが労働者階級を分裂させ社会的政治的保守主義を助長する基本的要因であり、決して消え去ることはなかった。言い換えれば、白人労働者階級の多数は人種差別主義者である。
 UKIPやBNPの社会的基盤は、常にプチブルジョアジー、特に多文化地域との境界、たとえば、エセックスとロンドンの境界やハートフォードシャーとロンドンの境界にある郊外の白人居住区のプチブルジョアジーであった。ここでは、裕福な労働者のイーストエンドからの移住者が小規模企業家として成功している(たとえば、チェシャントでは九人のBNP地方議員がいる)。
 しかし、多文化主義の経験が、状況を改善させている。今や結婚する十組に一組は異なる人種間のカップルである。たとえば、ロンドンの多民族区と、すべてが白人の地域や白人居住区とわずかな民族的少数派居住区に分断されている地域とでは、労働者階級の経験に大きな社会的相違が存在する。
 多民族共存は、政治的レベルでの明確な表現がなければ、それだけで人種差別主義やBNPの成長を妨げるわけではない。旧ユーゴスラビアでは、多くの相互に混交したセルビア人、クロアチア人、ボスニア人の家族が存在するが、異民族間のカップルは排除され、迫害され、民族的憎しみの嵐の中で引き裂かれる可能性があることを示している。
 しかし最終的には、上記の要因を考慮した上で、選挙における極右の進出の説明は全体としてははるかに単純なことである。労働者階級の重要な部分がニューレーバーによって見捨てられたと感じ、怒りと絶望に押しやられ、労働運動の連帯と平等主義的伝統が敗北によって後退しているような状況の中では、特に、一貫した、統一した、ダイナミックな左翼オルタナティブが存在しなければ、極右は多くの孤立した労働者やプチブルジョアジーの人種差別主義的、排外主義的感情に訴えることができる。このことは、特に大衆新聞や一部の放送メディアのような、悪意ある人種差別主義的反動的ニュース・メディアの存在によって助長される。
 このような状況を克服するために必要なことは、(a)危機の影響に対する闘いの指導権を労働運動が握ること、(b)選挙運動レベルとあらゆる社会的闘争の中で統一した宣伝活動を行う左翼を構築すること、そして(c)今すぐ左翼が反ナチ同盟タイプの大衆キャンペーンを再開し、あらゆる分野の著名人を動員して人種差別主義とBNPに反対する立場を表明することである。われわれはSWPや他の左翼勢力にこのことを提起する必要がある。
 極右を押し返すこの過程が不可能でないことを、われわれはここで確認しておこう。少なくとも一時期の間、フランスでそれは成し遂げられている。新自由主義に反対する社会的反乱のために、また非主流の政治的スターであるオリビエ・ブザンスノーとNPA(反資本主義新党)のために、ルペンは沈滞状態にある。社会的闘争の再構築、統一した左翼と反ファシズム/反人種差別主義活動の構築は、すべてこれと同じ過程である。

危機の時代のエコロジー

 ジョン・ベラミー・フォスターが指摘しているように、資本家にとって危機の時代の基本的傾向は、労働者の健康改善や環境保護のための支出への投資を減らすことである。これらの影響は、全体的生産の減少の短期的限界的効果、すなわち大気中に吐き出される温室効果ガスなどの量を減らす効果を、小さくするであろう。全体的な問題は、「より差し迫った」経済的および社会的問題が前面に出て来るにしたがって、環境問題に対する関心が後退する傾向である。
 社会主義者にとって重要な問題は、次のことである。すなわち、不合理な資本主義的生産・消費と手を切る経済の持続可能なモデルを、どのようにすれば提出することができるのか、である。一九七〇年代に緊縮財政の始まりは「消費の新しいモデル」にとってチャンスであると言った、エンリコ・バーリンガーの不幸な例を忘れてはならない。彼は、賃金が減少するなら購入を減らせばよい、と言ったのである。しかし、日常生活のモデルの転換の問題は、労働者階級の利益になるように危機を解決するための左翼の全体的計画の不可欠の一部である。

反資本主義と行動計画

 ウェストミンスター経費スキャンダル(国会議員の第二住居補助の不正受給)、欧州選挙、そして低賃金の外国人労働者をめぐるストライキが、この危機の重大な側面に注目させることになった。すなわち、銀行の役割、金融資本家や仮想銀行となっている金満企業の指導者の強欲、このひどい崩壊と不況の進展に対する彼らの責任である。
 国会議員の腐敗を暴露する必要があるが、保守党右翼と極右は、英国と世界経済の悲惨な状態に対する、またやがて起ころうとしている生活水準の急激な崩壊に対する、資本主義と資本家の中心的な責任から注意をそらせることに成功した。

 左翼は、行動計画について議論する必要がある。すなわち、主として金持ちに以下を支払わせる問題を中心的に提起する行動計画を提起する必要がある。
 十万ポンドを超えるすべての所得に対する一〇〇%の課税。一時解雇反対。
 銀行企業の国有化。銀行家に対するボーナスや配当の停止。
 公共事業、国家が出資する仕事や訓練プロジェクト。
 すべての労働者、失業者、介護者、障害者、年金生活者の生活賃金。
 外国人労働者ではなくボスの責任を追及すること。
 公共サービスの防衛。
 外国の戦争に対する何百万ポンドもの浪費の停止。
 気候変動を止めるために今すぐ行動すること。
 保守党や労働党の賃下げ政策を拒否すること。
 ファシスト的人種差別主義的BNPを打ち負かすこと。責任は資本主義にある!

左翼の結集と政治的枠組み

 ソーシャリスト・レジスタンスは、全国的規模の行動において左翼の重要な部分を指導するにはあまりにも小さく弱い。しかし、ときには少数の地区で左翼の行動を指導することができるかもしれない。これは絶対的な数の問題だけでなく、年齢構成や健康、活動、家族や労働責任などの付随的な問題でもある。われわれは、われわれの活動家の構成を発展させ、確かなイデオロギー的政治的貢献を行うために、われわれのメンバーを更新し再動員する必要がある。
 左翼の最近の発展は、非常に複雑な戦術的問題をつくり出している。これに対処するための枠組みは、以下のようにまとめられる。
 (A) 次の四、五年間に、労働者階級の生活水準に対する大規模な攻撃が行われるだろう。英国では他のどの先進国よりも厳しい攻撃が行われるだろう。これは嵐のような共同体キャンペーンをもたらすだろうが、抵抗の中心は労働組合でなければならない。これには、なにもせず最小限で妥協する、経営陣からのちっぽけな譲歩を勝利と言いくるめるのがうまい組合官僚に対する長期の厳しい闘いが含まれる(ゲートグルメ[機内食供給会社]やビステオン[自動車部品メーカー]の闘争で、ユナイト[機械・電機・運輸部門の英国最大労組]指導部がこの道の達人であることが示された)。
 「人頭税」の経験では、われわれの一部は、組合の行動に基づかなければ敗北するという主張に固執するという間違いを犯したが、闘いの新しい形態が出現する可能性を示した。組合官僚の統制をはみ出そうとし、おそらく組合の統制をまったく外れるような闘いの形態である。最初は絶望的なほど守勢的な領域であろうと、労働者階級および非抑圧階層の歴史的敗北を押しとどめ右翼を撃退する基礎を作り出すには、闘いの再生が決定的に必要である。
 (B) 危機の影響をめぐる対立は、反資本主義的、環境保護主義的抗議運動を掘り崩すよりも深めるであろう。青年と結びつき、青年の急進化のチャンネルを提供することが決定的に重要である。
 (C) 反人種差別主義および反ファシズムの活動を深める必要があり、おそらく次の時期にはこれらの運動が不可避的に存在するであろう。BNPや人種差別主義に反対する大衆的動員は、受け入れる準備ができている支持者を青年の中に見つけるだろう。
 (D) 社会主義的左翼の同盟が選挙レベルで登場することが、決定的に重要である。これは、広範な社会主義政党を建設する問題全体の一側面に過ぎない。NPA(反資本主義新党)はこの積極的な一例である。これはもはや、単なるリスペクトの建設の提案ではない。リスペクトは、もはや、この過程を進めるためのうつわとして十分広範な勢力を組織することはできない。この過程においては消極的な「討論」では十分ではない。討論はいつまでも続けることができる。われわれは次の選挙の前に、前もって良く知れわたり広範に支持された新しい左翼の同盟を緊急に必要としている。これは新しい広範な社会主義政党に向かう一歩である。

 この決議は、二〇〇九年七月四日のソーシャリスト・レジスタンスの大会によって採択された。

▲ ソーシャリスト・レジスタンスは、英国のマルクス主義者によって二〇〇二年に創刊された月刊誌。スコットランド社会党、ソーシャリスト・アライアンス、リスペクト党に反映されたような再編成を支持した。二〇〇九年七月に、ソーシャリスト・レジスタンスの支持者たちは第四インターナショナル英国支部を再建した。

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