トルコ ジェンダーにもとづく暴力との対決
女性の前にある最大問題
サネム・エツチェルク
二〇二〇年は、新型コロナウイルスのパンデミックによる深刻な影響を抜きにしても、トルコの女性運動にとって非常に困難な年になったと言っても過言ではない。しかし、社会的再生産労働、ジェンダーにもとづく暴力と貧困という点で、パンデミックが女性の日常的な問題に加わった。
前史としての
恥ずべき法案
女性にとっての課題に持ち込まれた主な問題の一つは、TCK103(トルコ刑法第一〇三条)問題である。言い換えれば、未成年者への性的暴行の加害者に対する刑の一時的執行停止を言い渡すために提案された法案の問題である。
この問題全体のルーツは二〇一六年にまでさかのぼる。この年に、与党AKP(公正発展党)の国会議員が、当時立案されていた改革パッケージの中にこの法案を含めることに何とか成功したのであった。法案の内容は、二〇一六年一一月一六日以前にこの犯罪を犯した加害者は、「被害者が加害者と結婚した場合、その犯罪が暴力、脅迫、あるいは同意に対するいかなる制限もなしにおこなわれる場合」には、「刑の一時的執行停止」が与えられるというものだった。
もちろん、この許すことのできない法案は、ほぼすべての都市における抗議行動を生み出し、女性たちは法案の撤回を求めて街頭を埋め尽くした。まず何よりも、トルコの法制度には「一時的」というものはないことを女性運動はよく知っていたのである。このような法案は、将来に向けた例となり、「一度犯罪を犯した」子どもに対する性虐待者を野に放つ法律になっていくだろう。
第二に、この問題は「文化的に常態な」議論を中心に展開されているが、これこそがフェミニストが何十年も闘ってきたことなのである。というのは、女性に対する支配やさまざまな形態のジェンダーにもとづく差別と暴力が、まさにこの文化についての議論によって世界中で正当化され、常態化されているという事実にわれわれは完全にうんざりしているからである。われわれが知っているように、この文化についての議論は石の上に書かれた不変のものではないのだ。文化は変化するし、変えなければならない。実際のところ、この変容こそが、世界中の女性の闘いが実現しようとしていることなのである。
第三に、犯罪者との結婚が刑の執行停止の前提条件であり、トルコでは同性婚は違法であるため、この動議によって若年で強制された結婚や少女に対するレイプを常態化されることになる一方で、少年への性的虐待は依然として罰せられぬままとなる。これは、トルコ憲法の平等原則に明確に違反している。そして重要なことを一つ言い残したが、子どもに対する性犯罪で同意を求めるなんてことが・・・。そうなのだ、われわれはそんなことについて考えることさえ拒否する。
イスタンブール
条約脱退を策動
二〇一六年にトルコ議会に持ち込まれたこの恥ずべき法案は、トルコ全土で女性たちが立ち上がった後、野党の反対票によって撤回された。しかし、この女性側の勝利で話は終わらなかった。二〇二〇年には再び同じ法案が提案され、この問題は女性運動の課題の中で、主要な闘争分野の一つであり続けている。
しかし、今年われわれは以前よりも強くなっている。この法案に反対して設立されたプラットフォームには、三〇〇人以上の女性団体とLGBTI団体が結集しており、これまで以上に包括的なものとなっている。議会の絶対的な過半数を占め、メディアを含む生活のあらゆる領域を支配する考え方との闘いを続けるのは、依然としてかなり困難なことではあるが、女性運動が闘いから撤退する兆候は見られない。実のところ、イスタンブール条約(訳注)をめぐる最近の議論は、最新の世論調査によると、AKPの支持者からさえも、女性運動への支持が増えているようである。
イスタンブール条約をめぐる上述の議論は、女性の権利という観点から、いまやトルコの主要な課題となっている。というのは、女性に対する暴力が(特に二〇〇二年以降のAKPの支配下で)非常に増加しているからだけでなく、条約に署名した政党と条約からの脱退を求める議論を始めた政党がまったく同じAKPであるために、議論自体が奇妙なものとなっているからでもある。
いくつかの数字を見てみると、トルコにおけるジェンダーにもとづく暴力の増加について理解できるかもしれない。AKP政権の一期目だけで、フェミサイド(女性に対する殺人)は一四〇〇%も増加したのだ! 二〇二〇年七月には、三六人の女性が男性に殺害された。
女性団体で働く女性として、私にソーシャルワーカーが暴力事件の下に埋められてしまった点について述べさせてほしい。だから、次のような疑問を持つのは当然のことである。つまり、あらゆる機会に「暴力に対して闘う」と繰り返し述べている政府が、ジェンダーにもとづく暴力をなくすことを唯一の目的とする条約から必死に脱退しようとしているのはどうしてなのか? ほぼ毎日少なくとも一件のフェミサイドが起きている国で、そのことが議論の対象になるのはどうしてだろうか? AKP側からの答えは、「家族の価値観」(ご存知なように、聖なる家族が破壊されない限り、女性は拷問され続けるのかもしれない)と「『同性愛を助長する』という条約の隠された狙いを防ぐこと」(そんなものはないと説明する創造的な方法は使い果たされてしまっている)をめぐって形成されている。
AKPによる
一貫した攻撃
これらの問題は新しいものではない。これらは、AKPが権力の座に就いて以降、AKPの課題を実現しようとする上でのステップ、つまりジェンダーの平等が存在しないトルコに向けたステップなのである。このことについては、二〇〇二年以来、AKP所属の国会議員の多くが公然と言及してきた。しかし、これは女性が引き下がる闘いではない。なぜなら、一体どこで止まるというのだろうか? 引き下がったあとに何が起こるのだろうか? 女性に対する暴力に関するトルコ国内法 (6284)は、イスタンブール条約に言及してはいるが、現在も将来も同様に下位に置かれている。では、何が? 民法? 刑法? 平等原則? 憲法? われわれは、ジェンダーの平等が、法的領域に結び付けられ、議論されるものではないことを理解している。トルコにおける女性としての権利のどれ一つをとっても、それを獲得するためにはきわめて厳しい闘いをしてきたこともわかっている。だから、法的領域は一つの領域に過ぎないにしても、闘いの非常に重要な前線なのである。
現在のところ、社会的支持という点では女性が事態を掌握しているようにみえるが、その一方で、議会での議席数を見るとまったく異なる話になる。その問題は、きたるべき数週間においても論議の中心であり続けるだろう。そして、女性たちは警戒し、準備し続けるだろう。
(訳注)イスタンブール条約は、欧州評議会の枠組みの中で採択された女性に対する暴力およびドメスティック・バイオレンスに関する条約で、二〇一四年に正式に発効した。トルコも締約国の一つである。条約は三六条で、締約国にレイプを含む性暴力の犯罪化を確保するための立法措置その他の措置を講じることを義務付けている。
(『インターナショナル・ビューポイント』九月四日)
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