チベット問題における社会主義の立場 1959年4月17日

向青

チベットで武装蜂起が発生し、中国共産党は多数の死者を出す弾圧をおこなった。蒋介石や帝国主義者は「共産主義の蛮行」「ハンガリー動乱の再演」などと叫んでいる。中国共産党は民族自決権を認めず、民族的抑圧の事実を認めようとしていない。これはチベット問題の解決において極めて困難な状況を作り出す。

だが、今回のラマ僧侶貴族による反乱を、ハンガリー革命と同じであるかのように論じるのは間違いである。ハンガリー革命の主体は労働者であり、それは反官僚革命であり、進歩的な社会主義を目指したものであった。抽象的な民族独立の思想は、階級闘争の原則に従属しなければならない。

今回のチベットでの反乱は、社会主義に反対し、民主主義にも反対しているチベットの特権的階層による反乱である。ラマたちはこれまでも、中国に頼って帝国主義に対抗してきたり、帝国主義に頼って中国に対抗してきたりした。まったく独立的な立場を欠いた階層であり、その目的は、自らの封建的な特権と搾取制度を維持するためであった。

中国がチベットを「平和的に解放」して8年がすぎた。だが、旧制度は依然としてチベットに存在している。ラマと世俗貴族の支配、封建的土地所有制、農奴制度、等級制度などは依然として存在している。中国政府は1962年まではこの制度には手をつけない、と宣言している。しかし、チベットのラマ支配層は、中国国内における支配体制の動揺(大躍進の失敗など)を見て、社会主義の失敗であり、漢民族自身も中国共産党に反対しているなどの状況から判断して、絶好の機会だと思い、独立を宣言して蜂起した。

だから、この問題は、抽象的な漢族VSチベット族という争いではなく、社会主義VS封建主義の闘争である。中国封建地主階層の最大の庇護者であった蒋介石は、その支配時代に、少数民族の自決権を弾圧してきた。それが今になってチベット民族に同情を寄せるとはデタラメもいいところである。

チベットの経済と文化の発展には、チベット族の物質的生活と知識水準の向上が不可欠である。そのためにもチベット貴族が独占する資産の没収は必須である。中国の支配してきた8年間のあいだ、チベットの社会、経済、文化において発展したことは紛れもない事実である。これはチベットにおける真の解放(漢民族からの抑圧を含む)を促し、過渡期から社会主義へ進むことにつながるだろう。

チベット民衆の真の利益とチベット貴族支配層の利益は何ら共通するところはない。チベットの被搾取民衆の利益は中国労働者階級の利益である。

現在のチベット内戦において、チベットおよび中国民衆は、チベット貴族の反乱に対して反対しなければならない。そしてすべての民衆が参加する政治機構と政治的代表機関を設立し、ラマ僧達の特権を廃止する一切の改革を支持しなければならない(それは宗教指導者の特権の廃止であり、民衆による信仰の自由を妨げるものではない)。

そして現在の中国共産党による民族自治政策から民族自決へと政策を転換させなければならない。中国解放軍によるチベット民族への差別と抑圧を停止しなければならない。中国政府とそれが支持するチベット新政府による官僚主義に反対しなければならない。

チベットにおける内戦が続く限り、われわれは中国軍隊を支持しなければならない。だがそれは現在の中国政府と軍隊による社会主義の拡大が、現在の情勢下においてもっとも適切であるとか不可避であるとかを意味するものではない。

1950年に中国軍がチベットに侵攻したさい、旧来の一切の制度には手をつけない、侵攻の目的は「国家主権」の範囲であり「領土の保全」であると宣言した。それは単に、清朝や国民党支配の時代を引き継いたものでしかなく、民主主義をチベットに拡大するということではなかった。このような政策は誤りである。

その後、「平和的に解放した」。だがそれには強大な暴力が必要であったことを、誰もが知っている。武力を用いて他の民族に社会主義を「輸出」することは最良の方法ではない。

社会主義を防衛するために近隣の民族国家に侵犯することはありえる。それに反対するのではなく、防衛するのが我々の立場だ。第二次世界大戦の初期、ソ連軍がポーランドとフィンランドに侵攻した際に、第四インターはそのように行動した。だが今日の中国とチベットの内戦は、社会主義防衛のための必要性から行われたものではない。

旧来の封建制度を打倒するには、外来の武力だけに頼ることはできない。外来の武力は、ただ内部の被搾取人民の革命的決起を推し進める効果を持つに過ぎない。軍事占領と民族自決のどちらの政策が、チベットの被抑圧民衆による社会革命への決起を促すのに有利なのかを考えなければならない。

民衆が革命的決起の覚悟がない状況で、軍事的「促進剤」は、かえって冒険主義であり、危険であり、害のほうが多い。チベット民衆のなかに、旧来の封建的体制を打倒する機運が高まっていなかったことは明らかである。今回の内戦は、民衆による反封建貴族蜂起ではなく、封建的貴族が比較的安定した支配状況を保っていた地域において、中国軍を駆逐するために行われた反乱が発端である。

中国が支配してから8年たつが、中国政府は、徹底した改革を呼びかけるのではなく、従来どおりの支配構造を維持することを宣伝することで、地元の支持を得ようとしてきた。1951年以来、チベットの支配グループは、中国の宗主権を承認せざるを得なかったが、現在、かれらは「改革は永久にしない」と公然と打ち出して独立を掲げた。かれらは情勢を見誤ったのであろうか。そうではない。かれらは中国国内の力関係については見誤ったかもしれないが、チベット民衆の革命的圧力を感じてはいない。この点は彼らははっきりと理解している。

蜂起失敗と支配グループ(ダライラマ)の国外逃亡の後も、チベット民衆が旧来の封建的制度に反対して立ち上がったという状況はまったくない。中国政府は、パンチェンラマ派を持ち上げて、チベット民衆も中国を支持していることを演出しているが、パンチェンラマ派も、旧来の支配層でありごく少数を代表するに過ぎない。

チベット民衆の革命的覚悟が成熟していない状況において、中国の軍隊を進駐させておく政策は誤りである。たとえ中国の軍隊が、チベット民衆に対して差別や抑圧することを限りなく回避し、民族感情を侵害する行為を慎んだとしても(官僚支配の軍隊にそれはできないだろうが)、軍事行動それ自体が、チベット民衆に不信感と抑圧(進歩に向けた抑圧ではあるが)を想起させる。それはチベット民衆の反感を増幅せずにはおかないだろう。それは反乱分子に民族独立というプロパガンダの余地を与えるものである。

われわれは以下のように主張する

中国政府はチベットの独立と自決を認めると宣言し即時停戦すべきである。そして反乱軍に対して中国軍の撤退の具体的方法の交渉を行うよう呼びかけるべきである。チベットの前途はチベット民衆によって決定されなければならない。

もちろんそれによって、旧来の支配層が復活して統治し、中国から独立することは容易に予想される。だがたとえそうであっても、中国の労働者農民とチベットの被抑圧民衆との連帯は疎遠になることはない。強制された国家連邦における関係よりも、いっそう緊密な関係をつくり上げることができるだろう。そうすることによって、いまチベット封建支配層に握られている民族自由の武器を、チベット民衆の側に奪還することができる。それによってチベット封建支配層の復活および中国からの独立は、歴史のほんの短い一エピソードして記録されるに過ぎなくなるのである。

また中国の労農政権は、チベットだけでなく、すべての民族の自決権を宣言しなければならない。そして各民族が共和国を建設し、漢族の(中華人民)共和国といかなる関係を構築するのかを、各民族自身によって決定させなければならない。チベット問題は、それらの問題の中で最も先鋭な問題であり、今回の事件を教訓にしなければならない。真の社会主義的民族政策を実施しなければならない。それは中国国内の民族だけでなく、すべてのアジア、そして全世界の被抑圧民族の労働者農民を社会主義へ向かわせることを促進するだろう。

現在進行中のチベット侵攻を支持しながら、停戦を呼びかける我々の主張に対して、矛盾しているのではないか、と疑問を呈するものもあるだろう。矛盾はしない。われわれの目標は、チベットの民主主義革命と社会主義革命である。軍事占領はこの目的を達成するための最良の方法ではない。だからわれわれは最も良い方法である停戦およびチベットの独立を認める戦略を主張した。だが最良の方法を採用するにいたるまでに、あまり効果的でない方法ではあるがチベットの封建反動勢力へ行われる攻撃に対して、われわれはやはりそれも支持するだろうし、それが最も効果的になるように努力するだろう。

それは次の二つの例にたとえることができる。ある軍隊が、友軍のある軍事行動が誤りであり、危険であると知ったとき、その変更を勧めるだろう。しかし友軍の行動がいまだ継続しているときには、共通の敵に対する同盟軍的責任から、友軍をできるかぎり支援するだろうし、友軍の勝利のために努力するだろうし、あるいは損失と危険をすこしでも減らすためにできるかぎりのことをする。

イギリスの労働党は、保守党のスエズ運河侵攻とキプロスに対する強硬政策に反対しており、一方で国会で政策の変更を要求するが、同時にイギリス軍の行動には祖国防衛主義を採っている。労働党は保守党とおなじくイギリスブルジョアジーの利益に奉仕しており、同じ階級的立場に立っているので、労働党がこのような行動をとることは階級的利害からみても正しいのである。

われわれは労働者階級の側の立場に立つ。中国共産党の誤った政策に反対しつつ、階級敵に対する攻撃には支持を与えることは、それと同じ道理である。

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