米中対立 新たな冷戦を前に(下)

次期大統領結果にかかわらず対立は激化へ
両帝国主義国家に対抗する連帯
下からの組織化が唯一の選択肢

アシュリー・スミス、ケビン・リン

戦争挑発と高まる中国嫌悪

 さらに不吉なことに、アメリカは中国との軍事的緊張を高めている。トランプ政権とアメリカの同盟国―もっとも重要なのはオーストラリアだが―は、南シナ海で、島々の支配権、漁業、航路、石油・天然ガスの海底掘削権をめぐって競い合う主張をめぐって、中国に対抗するために海軍の艦隊を派遣したのである。
 トランプは、特に中国との大国対決に向けて米軍の再編成を進めてきた。トランプは、中国との陸上巡航ミサイルや弾道ミサイルのいわゆるミサイルギャップを埋めるために、より多くの核兵器を製造できるようにロシアとの中距離核戦力条約からアメリカを脱退させた。彼はまた、中国との起こり得る戦争に勝つためにハイテク兵器の製造計画を強化している。
 トランプ政権は、インド太平洋戦略の一環として、これらの武器を地域全体に展開するつもりだ。トランプ政権が中国に対しておこなってきたもっとも脅威を与える動きの一つは、台湾への武器売却の増加である。中国は台湾について、勝手な動きをしてはいるが、あくまで中国の一つの省とみなしているからである。昨年、アメリカはF―16戦闘機、M1A2tエイブラムス戦車、携帯型スティンガー対空ミサイルなどを二二億ドルで台湾に売却した。そして、アメリカは、台湾に一八発の潜水艦発射魚雷を一億八〇〇〇万ドルで売却する計画を発表し、 沿岸ミサイル防衛システム、偵察用ドローン、および情報・監視・偵察支援技術のさらなる売却を約束した。
 アメリカはまた、中国の影響圏内に移るのを阻止するために、諸国家を脅かすだろう。そして、その国をアメリカの勢力圏内に取り戻すためには、敵対的な政権を従順な政権に置き換えようと軍事クーデターを企てることを躊躇しないだろう。実際、五月の『ブルームバーグ・ニュース』の論説では、「中国との対抗意識がアメリカをクーデタービジネスに戻すかもしれない」と予測していた。もちろん、実際にはクーデタービジネスを手放したわけではないので、その機会が増えるだけだろうが。
 この軍国主義を正当化するために、アメリカの支配階級は、中国に対する国家主義的な、外国人嫌悪の敵意をかきたててきた。彼らはパンデミックを人種差別に利用して、中国政府だけでなく中国人を敵として描いてきた。その結果、アメリカの支配階級は、新たな反中国の人種差別という局面を開いたのである。その中には、中国系アメリカ人やアジア系アメリカ人に対する人種差別が含まれている。
 このナショナリズム・キャンペーンは、大衆意識に劇的な影響を与えている。四月二一日にピュー研究センターがおこなった報告によれば、アメリカ人の九一%が「アメリカが主導権を握っている方が世界は良い」と信じており、七一%が習近平を信頼しておらず、六六%が中国に対して好意を持っておらず、六二%がアメリカにとって大きな脅威だと考えているとのことである。この中国人嫌悪は、アジア人に対するヘイトクライムの高まりの引き金を引いた。一五〇〇件以上の事件が発生し、それは三月以降増加している。
 トランプはパンデミックに対する政策の中で、この偏見を制度化さえした。彼は中国との渡航を早くから禁止したが、ヨーロッパとの間では渡航禁止を課さなかった。そのことは悲惨な結果をもたらした。ニューヨーク市で発生した流行の源泉は、中国ではなくヨーロッパだったが、それはすぐにアメリカ北東部やその他の部分に広がった。

中国はもう一つの選択肢を装う

 中国はトランプの攻撃をかわし、既存の世界秩序の擁護者としての姿勢をとり、同時にアメリカとの大きな対抗関係にも準備している。中国の最初のステップは、パンデミックに対する中国自身の破滅的な対応の誤りをひっくり返すことである。
中国は当初、パンデミックの発生に関する情報を抑圧し、後にCOVID-19で死亡した李文亮医師をソーシャルメディアに投稿したという理由で懲戒処分にし、それによってパンデミックが武漢から国際的に広がることを可能にした。危機が誰の目にも明らかになった後、国家は都市を封鎖し、国内旅行を禁止し、国家の資源を動員して医療緊急事態に対処し、病院の建設、検査、感染者の隔離などをおこなった。
トランプ政権の容赦ない攻撃と誹謗中傷に直面して、政権内の強硬派は独自の陰謀論を展開して、ウイルスを放出したのはアメリカだと非難した。たとえば、外務省報道官の趙立堅は、米軍が武漢にウイルスを持ち込んだのではないかとツイートした。トランプと同様に、趙と「戦狼」外交官たちは大惨事の責任をライバルに転嫁することを望んでいた。
初期の感染流行をコントロールすることに成功した後、政権は打撃を受けた評判を取り戻すために攻勢に打って出た。政権は、国内での大衆的支持基盤を再構築するために、政権の成功を祝う国内の宣伝キャンペーンを解き放った。トランプがアメリカ・ナショナリズムを駆り立てたように、中国ナショナリズムをかきたてたのである。
中国はまた、パンデミックに対処するために巨大な経済力を動員することで、国際的な評判を回復させようとしてきた。イタリアに人工呼吸器を送り、イランとセルビアには個人用防護具を送った。その一方で、アリババの創業者である億万長者のジャック・マー(馬雲)はアメリカに検査器とマスクを届け、アフリカの五四カ国にも同じことをすると約束している。
トランプが国際的な対応を調整できなかったことを利用して、中国は世界システムの新たなリーダーという印象を与えるために、パンデミックに対するとりくみを利用したのだ。このように、トランプがWHOから資金を引きあげ、アメリカを脱退させる可能性を示唆した一方で、中国はWHOへの資金供与を増額したのである。戦略国際問題研究センターの中国専門家ジュード・ブランシェットは、「われわれは、北京が二〇〇八年の世界金融危機の後に見せた積極性のバージョン2・0を目の当たりにしている。それは、衰退しつつある西側に対して、自分たちの台頭する力を確信した結果である」と指摘する。
しかし、中国はアメリカに正面から挑戦するのではなく、競い合いながらも協力を求める存在と位置づけている。北京は、今はアメリカに取って代わることはできないと正しく判断している。だから、アメリカに対して、奇妙な陰謀論を広めたのと同じ人物である外務省報道官の趙立堅が「米中関係の安定的な発展は両国の基本的な利益につながる。双方は伝染病に対する協力を強化し、伝染病との戦争に勝利し、患者を治療し、経済生産を再開すべきだ。しかし、そのためには、アメリカが中国に歩み寄ることが必要である」と述べているのだ。

ワシントンの軍国主義への対抗


しかし同時に、中国はそのような協力はもはや起こりそうにはないかもしれないと認識しており、より積極的な地政学的・経済的・軍事的なスタンスのために準備をしているところである。あるコメンテーターが指摘するように、「現在、米中の相互依存性の重要な再評価が進行中である。習近平が中国経済への圧力を軽減するために、貿易と技術の対立を一時的に緩和したいと考えたとしても、今では『安全保障第一』の未来と呼んでもいいものの強力なモメンタムがあるのだ」。
北京はアメリカの経済圧力から逃れるために、自らの国内市場の開拓を推し進めている。『サウスチャイナポスト』によれば、「中国の国内総生産(GDP)に占める輸出の割合は、二〇〇六年の三六・〇四%から二〇一九年には一七・四%に低下した。輸入のGDPに占める割合は、もっとも高かった二〇一一年の二三・三七%から、昨年は一四・四五%にまで低下した。世界銀行のデータによると、二〇〇六年の中国経済の六四・四%を占めていた財貿易は、昨年は三二%となった」とのことである。
中国は、国内経済の可能性に自信を深め、ワシントンの地政学的な脅しに同じやり方で対抗してきた。北京のカーネギー清華グローバル政策センターの上級研究員である趙通は「集団的安全保障がますます効果的でなくなってきていると考えられているので、現在の考え方は中国の利益を尊重するように相手国に強要するようになっている」と述べている。すでに、中国は一線を越えているという理由で、それほど力を持たない国々に懲罰を与えてきた。たとえば、COVID―19の起源についての調査を求めているという理由でキャンベラを罰するために、オーストラリアの四つの食肉処理場からの赤身肉の輸入を禁止した。
北京はワシントンの軍事的な姿勢に立ち向かってきた。北京はアメリカに屈するつもりはなく、アメリカが主張するアジア太平洋地域での勢力範囲を承認するつもりもない。四月には南シナ海に自国の艦艇を配備し、同様に台湾近海に空母「遼寧」に率いられた艦隊を出動させ、台北による軍艦の緊急出動を誘発した。
中国は、トランプの新たなミサイルを配備する計画に対応するための準備をしている。ロイター通信は五月六日、呉謙上級大佐[訳注:中国国防省報道官]が昨年一〇月、ワシントンがアジア太平洋地域に陸上型の長距離ミサイルを配備した場合、北京は「決して傍観しない」と警告したこと、そして中国は新たな軍拡競争に支出するため、今年は軍事費を六・六%増加させると約束したことを報じた。

反対派への弾圧と移民への非難

 中国は、香港、新疆、チベットの反対派を取り締まるために、パンデミックを利用してきた。中国は、香港政府に対して、元議員を含む民主化運動の主要人物を逮捕するように圧力をかけた。習近平はまた、香港の新しい国家安全保障法を制定することを計画していた。その法律では、すべての政治的反対派が中国政府に対する「反逆者、分離独立派、扇動者、破壊活動分子」として扱われることになるだろう。さらに不吉なことに、この法律は、北京が国家安全保障部隊を派遣して、「外国に支援されたテロリスト」から中国国家を守るという名目で、あらゆる種類の活動家を逮捕・投獄するための扉を開くことになる。
同様に、習近平はチベットや新疆において、いかなる反対派も容認しないだろう。新疆では、政権が大規模な監視体制を構築し、一〇〇万人ものウイグル人を強制収容所に抑留している。政権は西部地域において、国内経済と市場を発展させようとしており、そのことはこの抑圧された国家および国内少数民族への弾圧を倍加させるだろう。
この弾圧は、これらの地域で抵抗を生み出すだろうが、おそらくもっとも重要なのは香港であろう。香港では、昨年、何百万人もの人々が定期的に街頭で大規模なデモ行進をおこなった民主化運動が展開されたからである。すでに何千人もの人々が北京の新国家安全保障法に反対して街頭に繰り出しており、今後数カ月のうちにさらに多くの人々が参加するだろう。香港は台湾とともに、ワシントンと北京の対立の中で、最大の発火点になる可能性が高いだろう。
香港での抵抗にもかかわらず、習近平のナショナリズム・キャンペーンは国内での支持を安定させてきた。実際のところ、コーネル大学のジェシカ・チェン・ワイス教授は五月に『フィナンシャル・タイムズ』に、パンデミックと地政学的な対立への彼の対応は「感染流行が最初に送ったシステムへの衝撃波にもかかわらず、習近平の権力掌握力を強化した」と語った。
しかし、このナショナリズムには外国人嫌悪という邪悪な側面がある。中国はアメリカと同じように、移民を抑圧し、国境規制を強化し、外国人がウイルスの再流行に責任があるとほのめかしてきた。スケープゴートを作ることによって、移民に対する差別と憎悪犯罪、とりわけアフリカ諸国からの移民に対する差別と憎悪犯罪が拡大することに引き金が引かれた。

新自由主義秩序の断末魔の叫び

 このようにして、私たちはアメリカと中国の間の新冷戦に突入したのである。パンデミック、世界的な不況、ワシントンの新自由主義的世界秩序の崩壊は、今後一〇年間にこの対抗関係に拍車をかけることになるだろう。既存の傾向、つまり、アメリカの衰退、ますます強まる中国の積極性、国家間の対立の激化、グローバリゼーションに対する保護主義への傾斜が加速している。
オーストラリアのケビン・ラッド元首相は、『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載された明確な記事の中で、「国際的な無政府状態に向かって、ゆっくりとではあるが、着実な変化が起こるだろう。それは、国際安全保障から貿易、パンデミック管理に至るまで、あらゆるものにわたっている。誰も交通整理をする人がいない中で、さまざまな形で横行するナショナリズムが秩序と協力に取って代わりつつある。それゆえ、パンデミックに対する各国および世界の対応の混沌とした性質は、より広範な規模で何が起こりうるかを警告するものである」と予測している。
この危機の中で、ラッドは「戦略的な対立は、軍事、経済、金融、技術、イデオロギーなど、米中関係の全領域を定義し、北京やワシントンの第三国との関係をますます形作っていくだろう」と主張する。こうした軌道が明らかである一方で、二国間の公然とした対立を緩和する逆の傾向も残ったままである。
第一に、中国は、いまだにアメリカよりは弱く、アメリカの支配的な地位に取って代わる準備ができていない。中国は経済大国として台頭しつつあるが、ハイテク研究やデザインは依然としてアメリカに依存しており、通貨は世界の基軸であるドルに取って代わることはできない。軍事力は地域的には強いが、世界的な規模ではアメリカには敵わない。また、地政学的にも、パンデミックによって深く不信感を抱かれており、中国への深刻な債務を抱えている国々からの恨みが次第に強まっている。したがって、直接的な対立には尻込みする可能性が高い。したがって、中国から協力を求める一方で、競争力を構築し続けることになるだろう。
第二に、両国の資本家階級は依然として深く統合されており、これもまた、公然とした対立をさらに緩和している。両国の経済を切り離すことは、どれもまだ初期段階にある。アメリカでもっとも重要な企業の一つであるアップルは、中国本土での生産の一部をベトナムのような他の国に移転することを検討し始めたばかりである。
最後に、両大国はより大規模な核兵器を保有しており、またその備蓄を進めているため、軍事的な衝突は相互破壊で終わることになるだろう。このように、紛争は、前回の冷戦と同様の方法や違ったやり方によって、代理国や同盟国を通じた他国をめぐる争いへと押し込まれたり、それぞれがより明確に勢力園を分割しようとすることで「地政経済学」へと押し込まれたりすることになるだろう。しかし、その危機、およびナショナリズムを強め、国家安全保障を理由に保護主義に拍車をかけ、サプライチェーンを影響力のある領域に再編成しようとする傾向は、アメリカと中国を古典的な帝国主義同士の対立へと駆り立てている。

ワシントンでも北京でもなく、国際主義的な社会主義を


米中対立は、左翼にとってきわめて重要で、避けて通れない問題になるだろう。両国では、支配階級―とりわけその中の右翼強硬派―は、システムの深い危機の責任を相手国に転嫁するために、ナショナリズムに転じ、労働者階級をそれぞれの帝国主義的計画の背後に集結させるだろう。左翼は、アメリカと中国の両方に対して、労働者階級の連帯のオルタナティブな道を描かなければならない。
アメリカでは、左翼の第一にして最大の義務は、ドイツの革命家カール・リーブクネヒトのことばを借りるならば、主要な敵、つまりわれわれ自身の帝国主義国家に反対することである。それは、世界中の平和、平等、民主主義の最大の敵であり続けている。もしこの発言に疑問を持つ人がいたら、一九六〇年代のベトナムや二〇〇〇年代のイラクで、アメリカがもたらした破局的な状況を見てほしい。
しかし、アメリカ国家に反対するというとき、私たちは中国国家を支持すべきではない。これは、トランプ政権が中国を攻撃するために、皮肉にもパンデミックをあからさまに利用していることを考えると、理解できる誘惑ではある。しかし、私たちは「敵の敵は味方」という悲惨な論理を採用することに抵抗しなければならない。
中国の支配階級とその国家は、アメリカに比べれば力は劣るが、負けず劣らず資本主義的であり、帝国主義的である。中国の支配階級とその国家は、労働者階級と農民を搾取し、チベット人やウイグル人のような国家や少数民族を抑圧し、アメリカに対して、そして発展途上国全体に向けて、その力を誇示している。われわれは、この抑圧的な国家を支持するのではなく、自らを組織化し、抗議し、自分たちの権利および賃金・労働条件の改善を求めてストライキをおこなってきた労働者や抑圧された人々と足並みをそろえるべきである。
それこそが、各国の労働者と抑圧された人々の間に国際的な連帯を築く唯一の方法である。アメリカでは、私たちは、右翼国家主義者およびリベラルで社会民主主義的な保護主義者の両方によって歌われている経済ナショナリズムという、一見魅力的に見えるが、実は危険なアピールから労働者を引き離さなければならない。
また、トランプの中国叩きと人種差別に反対するために、動員されたアジア系アメリカ人グループとも協力しなければならない。中国系アメリカ人コミュニティは、アメリカ国家の論理や行動に直接影響を受けており、米中対立に抵抗する動きが強まっている。グローバル経済の中で、私たちにとって、両帝国主義国家に対抗して、国境を越えて下から組織する以外に道はない。つまり、真の反帝国主義と国際主義的社会主義の政治以外には選択肢はないのである。

(訳注一)オルタナ右翼は、従来の共和党による右翼・保守思想に対するオルタナティブとして登場した。その主張の特徴は、反フェミニズム、反多文化主義、反ポリティカル・コレクトネス、白人への「迫害」に対する被害者意識、レイシズム、ミソジニー(女性嫌悪)などがあげられる。
(『インターナショナル・ビューポイント』八月一〇日、もともとは『ニュー・ポリティックス』二〇二〇年夏号に掲載されたもの)
(アシュリー・スミスは、『スペクター』誌の編集長で、DSA(アメリカ民主社会主義者)のバーモント州バーリントンにおけるメンバーである。ケヴィン・リンは、DSA国際委員会のメンバーで、活動家であるとともに中国労働運動の研究者でもある)。

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