スペイン 窓・バルコニー・テラスからの行動
連帯が持てる者への最良の防衛策
マニュエル・ガーリ
イタリアの多くの街角や都市においては、自宅の窓から歌うことを通じて、地域の住民を「再統一」するための大衆的で自発的な行動が成功した。そのあと、スペインのさまざまなネットワークでも、新型コロナウイルスに対する闘いの前線に立っている医療専門家や闘いを担う人々を拍手で支援しようという提案がわきおこった。これを介護労働など役割は何であれ前線に立つすべての人々に広げようという提案がただちにおこなわれた。と同時に、公的医療を支援し予算削減に反対するスローガンも登場した。並行して、非公式なネットワークを通じて、ポルトガルの伝統的なやり方で、「われわれはみんなSNSだ」(SNSは、現在危機に瀕しているスペインの全国的な医療システムの頭文字をとったもの)というスローガンに要約できる同様の自発的行動が生まれた。イタリアとスペインの両方で、こうした行動は成功を収めている。(訳者:スペインでは、三月一四日から午後八時になると、医療労働者に対する感謝を伝えるためにバルコニーや窓から拍手などを送る行動が続けられている。この論評は、この行動について分析したものである)
できるだけ広く草の根の団結を
われわれが毎晩、そのことにとりくみ続けなければならないのは次のような理由による。スペイン民衆のほとんどが「表に出て」きたのは、公的医療についてのかなり一般的なスローガンのおかげかもしれない。医療を含むあらゆる部門で前線に立つ人々を支援し称賛するという集団的感情もまた存在する。そして、実は、これらの専門家たちはそれを必要としているのだ。というのは、彼らは感染にさらされているだけではなく、長期にわたる人的・技術的資源の削減のあとで、崩壊はしていないとしても弱体化した医療システムの中で過重労働をしており、それにより強いストレスを引き起こしているからである。
われわれが感情的な支援にとどまるべきではないことは明らかだ。中央政府や地方政府に要求すべきものは有効な措置、スタッフの増員、相応の報酬、適切で健康的な労働条件である。そのためには、労働する上での危険を回避するあらゆる確実な防護手段を提供することが必要である。この観点は労働の際に感染の危険がより大きいすべての人々に拡大すべきである。
しかし、われわれは、ビジネスとして医療の民営化を推進し、二〇〇八年と同じように労働者を犠牲にして危機から抜け出そうとしている経済・金融エリートに対して、労働者階級の利益や社会的多数派の利益を防衛するという立場から、われわれの小さな力を最大限発揮して主張していくために、その集団的な考え方や共通の危険に苦しむ人々がコミュニティの一員であるという感情を活用しなければならない。サンチェス首相が中央政府の首相として、個々に分断され孤立した市民一人一人に直接語ることによって、人々への語りかけを独占している中では、そのことを確実にしなければならない。
団結しよう。できるだけ人々を団結させよう。数少ない方法によって少なくとも一斉に行動している人々は、誰もが自宅で孤立して嵐が過ぎ去るのを待つよりも、将来においてもっとうまく対応することができるだろう。これが新自由主義的な自己責任の考え方、つまり金持ち連中に対する最良の防御策なのである。
暮らす場からの集団実践創出へ
そして、われわれはいかなる形態であっても「抵抗」や「表現」を主導していくべきである。というのは、それが正しいからというだけではなく、その領域を右翼に明け渡してはいけないからでもある。
右翼や極右に注意を払わなければならない。各都市の「右翼への支持が強い地区」では、拍手、鍋叩き、口笛によるコンサートはなかったけれども、右翼は昨夜の行動を横取りしようとしている。そして、右翼は自分たちの歌や旗を持ち出すだろう。さらに右翼は、昨夜の大衆的団結の代わりに、ウイルスに対する国民の団結を語るだろう。
われわれはドノスティア(訳注:バスク州北部の都市)の住民たちのように、一斉にリズムをとったり、歌を歌ったり、叫んだりできるスローガンのレパートリーを持つように努力しなければならないだろう。その意味が単なるシンボリックで詩的なものであったとしても、どんな歌でもいいのだ。例を挙げると、ロックミュージックの「Resistiré(私は抵抗する)」や戦闘的な「Bella Ciao」(さらば恋人よ)でもいいし、カタロニアなら「L’estaca(杭)」の方がもっといい(訳注)。そして、もし何か持っていれば、ポスターやバナーを作って、窓やバルコニーに貼ろう。
これらは初歩的で単純なものだが、集団的なアイデンティティを創り出す必要不可欠な手段である。われわれはこうした最低限のデモンストレーションの上に、人々の暮らす街角や近隣地域で新たな自覚と新たな集団的実践をつくりあげ、発展させなければならない。われわれは、公的医療システムに賛成する陣地の一ミリメーターでさえ奪われないようにしなければならない。
私は、別の状況下でのレオン・トロツキーの「大きな計画を実行するためには、非常に些細なことに大いに注目しなければならない」ということばを借用する。公的医療の問題について言えば、私はロシア革命が勝利した後の最初の保健人民委員だったニコライ・セマシュコの「われわれは民主的であることを必要とする。もしわれわれが判断を下し、プロパガンダをおこなうことしかやらなければ、ほとんど何もなし得ないだろう。逆に、デモストレーションは、完璧に作られ編集された千冊のパンフレットよりももっと大きな影響を与えるだろう」ということばを参考にする。
まもなく議会において、医療危機と経済危機を克服するために、階級利害を超えた国民の団結が呼びかけられるだろう。その意味では、ここで私がスペインにおいて現に存在する民主主義に関する国内問題を取り上げていないのは、きたるべき社会危機に直面するときには、一つの国ではなく、二つの国、つまり頂点にいる人たちの国およびその下にいる民衆の国という二つの国が存在することになるからである。
訳注)「Resistiré(私は抵抗する)」は、スペインの有名なロックミュージック。新型コロナウイルスの流行が続くスペインで、ウイルスと闘う象徴的な歌として取り上げられている。https://www.youtube.com/watch?v=hl3B4Ql8RtQ
「Bella Ciao」(さらば恋人よ)は、イタリアの反ファシスト戦争の中でパルチザンによって歌われた。https://www.youtube.com/watch?v=4CI3lhyNKfo
「L’estaca」は、フランコ独裁政権の下で自由を求める歌として広く歌われた。現在では、カタロニア独立運動のシンボルとしても歌われている。
https://www.youtube.com/watch?v=aX4eZ1fpYwA
マニュエル・ガーリは、労働組合活動家であり、アンティ・キャピタリスタ(第四インターナショナル・スペイン支部)の指導メンバー。「ヴィエント・スール」誌の編集委員会のメンバーでもある。
(『インターナショナル・ビューポイント』四月一日)
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