リンチ警官裁判は何を伝えるか
米国
ジョージ・フロイドへのリンチ
現代の警察の根本的置き換えへ
裁判に全世界の注視
以下の論考の大部分は、ジョージ・フロイド事件裁判の陪審結論と判決宣告を待たずに書かれた。同論考は、陪審員団が有罪判断を下した後、最後の9行が加えられ、最新化された。(「かけはし」編集部)
明白な証拠は標準か例外か
「私は警察に対して警察を呼んだ」、一人の目撃者は陪審員にこう語りかけた。
デレク・チョーヴィンの裁判は、昨年5月25日にミネアポリスで警官の膝がジョージ・フロイドを殺害した9分29秒のビデオ(「929」)で幕を開けた。医療検死官と他の医師たちは、問題の膝が彼の首に押しつけられてから数分間、彼は動いていなかったと語った。
目撃者による証拠と署長も含む警官による証言は、チョーヴィンは警察執行手法に従っていず有罪を宣告されるべき、と明らかにした。沈黙の青い壁は砕かれた。
警察当局のトップは、チョーヴィンは「健全な警察行為」に対するひとつの例外、と力説している。他方アフリカ系米国人と他の多くの者はチョーヴィンを、特に黒人や褐色の民衆に適用された場合の、現代の警察行為における標準と理解している。
2700万ドルの民事和解
裁判が始まる2、3日前の3月12日、ミネアポリス市議会は、フロイドの家族に2700万ドルを払う――裁判前ではこれまでで最高の解決金――という歴史的な民事和解解決に同意した。チョーヴィンの弁護士は、刑事裁判をミネアポリスの外へ動かすためにこの解決を利用しようと試みたが、うまくいかなかった。
チョーヴィンに対する3件の容疑は、第2級重過失殺人、第3級「怠慢」殺人、第2級絞殺だ。
弁護士は、フロイドは彼の心臓の具合と薬物使用で死亡した、との偽りの主張を繰り返した。マリーランドから来た元医療検死官――以前の警官による殺人においてのべらぼうな偽りの報告を理由に、当地で訴えを起こされている最中の――は、フロイドの血中酸素濃度が正常だったにもかかわらず、フロイドの死は自動車排煙で汚染された一酸化炭素で引き起こされた、とまで語った。
弁護の狙いは、チョーヴィンは警察手続きに従ったと信じる陪審員を一人でも獲得することだ。彼らは結論の出ない陪審団と有罪判決なしを追い求めている。そうすれば州の司法長官が、事件を取り下げるか再審を行うか、の決定を行わなければならなくなるだろう。
黒人であるだけで安全でない
この裁判と「929」ビデオの背後には、国中での非武装黒人への警官による数知れない銃撃がある。
20日間のチョーヴィン裁判の間に、米国内で64人――半数は黒人か褐色の人々――が警官によって殺害された(ニューヨークタイムズ4月18日)。
シカゴでは、3月29日に裁判が始まる僅か数時間前、13歳になるラティーノの若者、アダム・トレドが警官に胸を撃たれ殺害された。ボディカメラ(2週間以上たってから公表された)は、彼が逃げていたこと、止まれと告げられ振り向いて手を挙げたこと、を示している。トレドはそうふるまい、いずれにしろ銃撃された。2017年以来4件の権力行使に関する苦情を受けているこの警官は、満額有給の行政処置としてデスクワークに就かされた。
チョーヴィン裁判が進行していた中で、裁判所から10分の、中心部地区であるミネアポリスのブルックリン・センターで1件の殺害が起こった。車を止められた中で起きた事件、20歳の黒人、ドンテ・ライトに対する警察による致命的な銃撃を受けて、幾晩も、数百人のデモ参加者が街頭にあふれ出た。
26歳になる古参警官のキムバリー・ポッターは、些細な自動車規則違反に続く警察行為の中で発砲し、ライトを殺害した。彼女の署長は、彼女は高出力テーザー銃を引き出すつもりだったが、代わりにより重大な銃を掴んでしまった「事故」だった、と主張した。テーザー銃は黄色だが、標準の銃は黒だ。そしてテーザー銃は、通常の射撃に使う手の反対側に装着されている。
翌日ポッターは辞職した――満額の年金付で――。彼女は第2級故殺で起訴され、逮捕され、警察記録に載せられ、保釈金10万ドルで釈放された。
ジョージ・フロイドの家族が語るように、フロイドには、彼にいのちが戻され得ない以上正義はまったくない。目標は説明責任になっている。チョーヴィンに対する殺人の有罪宣告は、警察と警官による犯罪行為を支えている者たちに向けて、ひとつの強力なメッセージを送ることができる。より大きな意味をもつより大きな勝利は、現代の警察行動に終止符を打つこと、およびその置き換えになると思われる。
出発点は条件付免責の廃止
出発点は警察に対する「条件付免責」を終わりにすることだ。
警察行為が黒人や褐色の者たちに対し公正であったこと、あるいは平等であったことはまったくない。それこそが、警察を巡る行動方法について黒人の若者が両親から「話し」をされる理由だ。7歳という若さの者も警察を恐れるよう告げられている。しかしシカゴのアダム・トレド銃撃が示すように、警察の命令にしたがうことも、読者の安全を意味するものではない。
米国最高裁は、ピアソン・v・レイ事件(1967年)で条件付免責の法理を初めて導入した。それは、公民権運動が高みにあった中で争われた事件だった。それは警官に民事訴訟からの免責――犠牲者やその家族が、「道理をわきまえた人間ならば知っていたと思われる確定済みの法定のあるいは憲法上の権利を」警官が「はっきり侵犯した」、と明確に示すことができない場合に――を与えている。ところで、「道理をわきまえた」を確定するのは誰か? 警察と政府がそうするのだ。それは、殺人警官がほとんどの場合まったく起訴されない、ということを意味する。デレク・チョーヴィンが起訴された場合でも、その理由は第1級殺人ではない。
フロイドの家族が和解金2700万ドルを勝ち取った場合でさえ、警官は自分の懐からは1銭も払っていない。また警察財政も払っていない。払う者はこの市の納税者なのだ。
もっと悪いことに警察予算は、より多くの軍装、催涙ガス、また戦争用武器と一体的に、ふくらみ続けている。次いで警察はこの力を、平和的なブラック・ライヴズ・マター運動や警察の暴力反対の抗議行動参加者に向け配置するのだ。
必要なもうひとつの差し迫った挑戦課題は、全警官が彼らが警察行動を行うコミュニティに暮らすことだ。コミュニティは、警察を雇い解雇する独立した委員会を設けなければならない。
警察組合(一種のカルテル)もまた、犯罪警官を保護できないように解体されなければならない。この「組合」は、賃金や勤務条件について話し合うだけではなく、警察行為に関するほとんどすべての監視権を警察自身に与えるよう市と「話し合っている」。しかしそれは通常、警察が殺害への青信号を得ることを意味するのだ。
あるがままの警察制度は終わりにされ置き換えられなければならない。これらの変革は、現在の政治勢力を再構想することや他の民主的な改良の先に進むことだ。それらは、奴隷制時代やジム・クローの分離(1960年代まで主に南部で続いた事実上のアパルトヘイト体制)時代以来実施されてきたような警察行為の終わりを意味する。
警察擁護論の底にあるもの
米国内と世界中で2020年に大衆的な抗議行動に火を着けたブラック・ライヴズ・マター運動は、単に歩き、自動車を運転し、あるいは息をしているだけの黒人の男や女が、警官によって銃撃で倒された時はいつでも行動する用意ができている。ある者たちが「コパガンダ」とのレッテルを貼った警察の対抗物語は、警察はほんの一瞬で決定を行っている、だからあらゆる行動は正当化できる、と語っている。黒人と褐色の人々は人間以下と、また存在だけで犯罪者と見られているのだ。
チョーヴィンの弁護士は「この法廷にあるものは政治的な主張でも社会的な主張でもまったくない」と陪審員に語りかけた。陪審員の指定された任務がブラック・ライヴズ・マター運動の嫌疑を晴らすことでも、それを誹謗することでもない、ということはその通りだ。
しかし陪審員は彼らの仕事をすることになるのだろうか?
たとえばハーバード大学の法学教授であるジーニー・スク・ガーセンは以下のように書いた。すなわち「『あなたはあなたの目を信じることができる』、そして検事は陪審員に『それは殺人だ』と告げた。陪審員の常識に対するその訴えは、『常識はあなたに、話しにはいつも二面があると告げている』との弁護士の示唆にぶつかっている。しかしこれは、政治的重大性がその法的なあるいは事実に関する困難さをはるかに超えている事件なのだ」と(『ニューヨーカー』誌4月10日号)。
全世界が見つめていた。黒人のいのちが粗末にされなくなるまでは、いのちが大切にされることはまったくない。
しかし陪審員は彼らの仕事を行った。幸運なことに、陪審員には白人と黒人の両者が、また両者混血のメンバーが含まれていた。有罪判断は3件の起訴すべてに与えられ、保釈は取り消され、8週間以内の判決言い渡しが定められた。(アゲンスト・ザ・カレント誌2021年5・6月号、212号)
▼筆者は退職航空整備士で、労働組合活動家であると共に反レイシズム活動家。アゲンスト・ザ・カレント誌編集部顧問でもある。(「インターナショナルビューポイント」2021年4月号)
The KAKEHASHI
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