今日の左翼党はもう2012年の党ではない
ドイツ
生まれ変わる左翼党
若い世代の指導部を推進力に現代的な社会主義政党めざす
トーマス・ゲス
2021年2月27日、ドイツ左翼党は、ジャニーン・ウィスラーとスザンネ・ヘニッヒ・ウィローを共同党首に選出し、あわせて新たな執行部を選出した(訳注1)。
この指導部に新たに加わったメンバーの多くは、党の刷新、つまり左翼党を党員に基礎を置く現代的な社会主義政党にすることにとりくんでいる若い世代に属している。左翼党には大きなチャンスがあるが、同時に大きな課題にも直面している。
新しい世代の力で新たな段階へ
党は新しい段階に入っている。長年にわたる党内対立の後で、新たな息吹をもたらす新党首が選出された。この投票結果は重要だった。しかし、それがポイントではない。決定的なことはそれ以外のところにある。すなわち、今回の大会では、新しい、より若い党の側面が示されたことである。この世代にとって、1970年代、1980年代に政治的に育った活動家によって伝えられてきた古い伝統はそれほど重要ではないのだ。
この新たな世代は、(ペギータ「西欧のイスラム化に反対する欧州愛国主義者」やAfD「ドイツのための選択肢」などの)極右に反対する運動、住宅や医療に関する左翼党のキャンペーン、クライメート・ジャスティス(気候正義)を求める運動の中で形成されてきた。この人々の多くは労働組合活動の中で経験を積んできた。その中には労働組合で専従役員を務めている若者もいる。しかし、この世代のほとんどは職業高校出身ではなく、普通高校出身であり、多くは高等教育に進学していた。
党内の潮流の構成は劇的に変化した。西ドイツで長い間強力だった「社会主義左翼」は、その重要性を失った。その理由は、とりわけ「社会主義左翼」のもっとも著名な代表的人物が何人も、2012年に開始された左翼党の改革に対して、それに反対する抵抗の中心となったからだった。この改革は、人々に訴え、人々を組織することができる左翼、党員がすべての中心的な社会問題について闘争プランを試み、確立できる党を目指すものだった。44人で構成される新たな党執行部には、「社会主義左翼」のメンバーは入っていない。その一方で、20人の候補者が「運動的左翼」の支援を受けて選出された。このことを左派への移行と考えるのは早計だろう。というのは、政府参加を特に重視する改良主義潮流も、この大会に満足しているからである。改良主義者は指導部に十分な代表を送り込んでおり、この意味で、こうした方向性も党内で強固になっているのである(訳注2)。
「運動的左翼」は、党改革をめぐる闘争の中で形成された。カーチャ・キッピングやとりわけベルント・リークシンガー[ともに左翼党前共同党首]が[党改革に]関わる中で、この若い潮流は、党活動を新しいやり方で想定することを支持・擁護した。「運動的左翼」は、自らを「左翼的階級的」潮流だと考えており、階級闘争を左翼党が積極的に参加しなければならない展開の中心的原動力として考えているのである。しかし、「運動的左翼」は、階級闘争と他の形態をとる抑圧や差別との闘いを結合させようと考えている。「運動的左翼」が自らを根本的な意味でフェミニスト的・反レイシスト的・エコロジー的であると定義するのはこのためである。
この大会で印象的だったのは、「運動的左翼」に支持された20人の指導部メンバーが選出されたことではなく、戦略的刷新がどの程度実を結んだかが明らかになったという事実だった。そして、この刷新は、一つの潮流に関わるものではなく、潮流や所属のいかんにかかわらず、ほとんどの党員に関わるものだったのである。
いずれにせよ、今日の左翼党は、もはや2012年の左翼党ではない。戦略的な枠組みが変わったのである。ジャニーン・ウィスラーは、大会で「連帯は不可分である」と再確認した。これは基本的には、関わっていく範囲が拡大する兆候である。当然のことながら、左翼党は、福祉国家の社会主義的刷新を擁護し、外交政策の軍国主義化に反対する政党である。しかし、左翼党は、反ファシスト・反レイシストの抵抗運動の党、クライメート・ジャスティスの党でありたいとも考えている。「連帯は不可分である」という言葉は、この点において、政治の根本的な変化を実現することのできる社会運動の内部に、新しい同盟関係を築こうとする試みを示している。それは、不安定な生活をしている人々とまだ不安定さを経験していない労働者階級の中核的部分や中産階級の賃金所得者とを団結させることを意味する。そしてまた、さまざまな社会運動に参加している人々や社会運動に共感している人たちを団結させることでもある。
したがって、左翼党は、対応しなければならない一連の課題とつかまえなければならないチャンスに直面している。
政治構想および政治文化の統一
今後数ヶ月、数年の間の中心的課題は、さまざまな社会的背景や政治的感性を持ちながら左翼党に加わっている党員に共通するものを強化するという政治文化を軸としたプロジェクトを再始動させることである。団結を呼びかけることは重要ではあるが、それだけでは十分ではない。統一するとは、他の経験、他の優先事項、他の価値観に対処することであり、違いを見過ごすのではなく、共通の政治活動を通じて実りあるものにすることだからである。
政治改革のための優れた提案を発展させること、左翼党を軸にして意欲をともに生み出そうとすること、同盟関係の構築という観点からイニシアチブや組織を結びつけること、政治的敵対者[極右]を攻撃することにすべてのエネルギーを集中させるならば、その分だけこれはよりよく機能する。政治文化の統一は、意見の違いを払拭するものであってはならず、共通のものを第一に考える習慣やルールを発展させ、それによってお互いを強化できるようにするものでなければならない。そのようなつながりや合意は、現実的な課題を中心にして形成されるのが一番だ。しかし、その両方とも、好奇心、敬意、民主的な決定に従う能力を必要としている。したがって、(近年の左翼党にまん延しているような)疑心暗鬼や反感の文化を克服することは、党の存続に関わる問題である。
左派政権の先進的可能性を示す
左翼党がどのようにして要求を実現するかという昔からの問題が、再び課題となるだろう。新党首の一人であるスザンネ・ヘニッヒ・ウィローは、社会民主党(SPD)・緑の党との連立政権を主導するという積極的な野心を持っている。左翼党がドイツの左派政権を目指すべきだという考えは正しい。しかし、疑問となってくるのは(これは細かいことなんかではないのだが)、[左派政権が]可能となったときにそのことが一体何を意味するのかということであり、左翼党が「統治にふさわしい」状態になるためには何が起こらなければならないのかということである。スザンネ・ヘニッヒ・ウィローとカーチャ・キッピングは二人とも、近年はあまり挑発的な方法はとらずに同一の方向を目指してきたが、こうした戦略がもたらす課題と問題点やその戦略にともなう中間的段階について、より具体的なアプローチを提供することに貢献してこなかった。「われわれは望んでいる、われわれはやらなければならない、われわれには可能だ」というスローガンは、間違いなく主意主義的に聞こえるし、ほとんど何も明らかにはしていない。この議論はもっと集中的におこなわれることが望ましいだろう。
今秋の連邦議会選挙で、左派政権を樹立することは不可能だろう。いまのところ、「連帯と民主的刷新の政府」の基盤はないからである。諸政党間や政党と結びついている社会勢力間では、真剣な交流はほとんどない。変革のための連合は、せいぜい数人の活動家や指導者の頭の中に存在するだけで、それも良くて漠然としたものだ。しかし、政府は、対立する状況においても改革を押し進めなければならない以上、宙吊り状態でいるわけにはいかない。たとえそうであっても、懐疑的な左翼党の党員に対しては、政府の選択肢に単純な「ノー」を突きつけたり、身を守るために「赤い停止線」(訳注3)の後ろに隠れたりしないよう警告されるだろう。特に、左翼党左派に対しては、左派政権の中で権力を行使する党の能力を発展させるべきだと言われるだろう。
その不可欠な条件は、社会的矛盾を組織(あるいは共同で組織)し、そうした社会的矛盾を先進的な改革へと転化できることである。それも政府の一部・右翼・ブルジョアジー・中産階級の一部との骨の折れる衝突を通じてである。それでは、党がおこなうべき改革とは何だろうか? 左翼党には、野心的な改革政策がもたらす嵐を乗り切るだけの力があるのだろうか? われわれの政治プロジェクトはどのようなものであるべきだろうか? その政治プロジェクトは、いくつかの改革を足し算するものにとどまるべきではないし、短・中期的に国をどこに進ませたいのかを示すべきものなのである。左翼党が虎のように真の改革を主張してアリーナに登場し、緑の党やSPDの敷物になってしまう(「これ以上は無理だ、パワーバランスが悪い」)のを防ぐにはどうすればいいのだろうか? そして、今後数年間で、より統合され、より民主的なドイツのための発展モデルを純粋に支持し、推進することのできる真の政治同盟をどのように構築するのか? そして、さらに重要なことは、このようなプロジェクトがどのようにしてわれわれを社会主義により近づけるのか、どのようにして社会主義をより確かなものにするのか、なのである。
このような統治能力のための絶対的な前提条件は、社会的な力とともに左翼党自らの組織力を構築することである。統治する立場にある左翼政党は、闘うこともできなければならない。左翼党の現状を率直に見る人なら誰でも、そのレベルに達するにはかなりの実践が必要であることを認めざるをえないだろう。
組織力がうまれるのは、活動家が動き出したいと思い、自分自身の置かれた環境の中で熱心に活動し、自らを政治的に教育し続けるときであり、さらに、より献身的な専従ポストを作ることが可能になったときである。社会的力と組織力は、明らかに同じものではないが、この二つは密接に関係している。
矛盾を引受け権力樹立めざす
左翼党が社会的な力を持っていないのは、日常生活における政治的・社会的問題を告発すること、そうした問題をテーブルの周りで議論されるような政治的問題・考え方・要求に変えることで満足しているからである。左翼党が社会的な力を持つのは、自らの一般党員以外の人々が左翼党を守りたいと思うときである。活動家が多ければ多いほど、政治教育が充実していればしているほど、党が現場の魅力的な対話者であればあるほど、そこに到達するのがより容易になる。左翼党を、人々を結びつけ、人々の考えを発展させ、社会的対立の中でも存在できるような、社会に根ざした党にすることは、その意味で対立の中で国を統治できるための前提条件である。
闘争の党になれないまま政権の党でありたいと考えれば、それは必ず政治的敗北につながる。したがって、さまざまなとりくみや運動を支援し、地方レベルでのオルタナティブ(病院を救済するのか、交通機関における環境保護的な転換をおこなうのか、住宅を建設するのか)を明確にするために、左翼党を草の根に存在する党、つまり社会的テーマを中心にして組織され、地方議会で目に見える形で存在する党として強化することが重要となるだろう。バーデン・ヴュルテンベルク州とラインラント・プファルツ州でおこなわれた最近の地方選挙の結果は、これらの分野でやるべきことが多く残っていることを示している。また、いくつかの都市ではかなりの結果が出ており(これはヘッセン州の直近の自治体議会選挙の結果にも当てはまる[左翼党は9議席増の77議席を獲得])、そのことによって有望な可能性があることが示されている。
中央政界での激変に回答を出す
しかし、左翼党は、中央政界における三つの激変に実際に対応しながら、この社会的な力を構築しなければならないのだ。
まず第一に、新型コロナウイルス危機の経済的・医療的側面を克服するために、連邦政府は、経済援助や社会的支援(たとえば、短時間労働手当など)に多額の資金を投入してきた。SPDと緑の党の綱領上の変化はもっと興味深いものだ。両者とも、連邦議会選挙に向けて、今後数ヶ月の間に社会的約束を打ち出すだろう。
私の見解では、たとえ懐疑主義がふさわしいとしても、たとえばこれが彼らの現在の政策の変更につながるかどうかという疑問の余地が残る。試練は連邦議会選挙の後に訪れるだろう。そのときには、新型コロナウイルス危機対策の代償を支払わなければならないからだ。予測に惑わされるのは簡単だが、トップダウンの再分配政策は次期連立政府の課題にはならないだろう。CDU―CSUと緑の党の連立であればなおさらのことだ。
来たるべき年には、われわれは防衛的な闘争を展開し、さまざまな富の分配のために闘わなければならないだろう。左翼党は、これに備えて、労働組合の中で意識を高め、同盟関係に有利なとりくみを考えなければならない。
第二に、エコロジー的移行と社会的移行は、今日すでに進行中であり、今後も加速するだろう。職場では、新たな合理化の波が押し寄せている。仕事と生活は(デジタル化によって)変化を遂げるだろう。われわれは安定した時代ではなく、激動の時代に突入しているのだ。
自動車産業では、大規模なグループでも下請け企業でも、こうした状況はすでにいたるところで見られる。社会的左派―とりわけ左翼党―が介在しなければ、このエコロジー的移行と社会的移行は上から形成されることになるだろう。企業・金融投機家の利益ではなく、労働者・従業員・失業者の利益が問題の中心となるためには、何をおこなう必要があるのか? 定式化された提案―たとえばベルント・リークシンガーによる「左翼・緑の移行」提案―にもとづいて、職場協議会や従業員代表委員会、労働組合活動家、環境・気候正義運動の活動家との綿密な議論の枠組みの中で、実際的な答えを見つけることができるだろう。
保守政党と緑の党による連立政権下での経済・社会の変革を望まない人々は、オルタナティブな社会主義的・エコロジー的解決策を実践しなければならない。これは、明確な改革案を意味し、ある程度ユートピア的でなければならない。つまり、想像できることだけでなく、必要なことを明らかにするのである。
党としては、社会的関心事を気候正義・環境正義をめざす運動の中に持ち込み、その中で積極的に行動することが必要である。また、左翼の対応についての議論に耳を傾け、発展させることもまた必要である。われわれが実行するのに十分な(ケインズ主義左派から革命的伝統に至るまで)真理の蓄えを持っていると信じることによっては、どちらにしても多くを付け加えることはできない。
第三に、この国で急進化している極右は敗北していないということである。最近AfDが勢力を伸ばしていないとしても、そうなのである。危険なのは、AfDがもっともファシズム支持者の多い東ドイツで発展し続けていることである。AfDの危機に欺かれてはいけない。とりわけ、AfDを生み出した社会的毒素(社会的不安、伝統的な政党への信頼の失墜、既存の人種差別や権威主義的な態度)はまだ存在しており、危機の時代にはさらに広がる可能性があるからである。課題は、失望した人々の大部分が左派に失望した有権者であるからと言って、彼らが過激なナショナリストになる誘惑に駆られているという誤った結論を導くことなく、失望して極右に転向した人々の正当な怒りを表現することだ。
(訳注1)ジャニーン・ウィスラーは、WASG(労働と社会的公正のための選挙オルタナティブ)出身で、左翼党の政権参加に批判的立場を代表している。スザンネ・ヘニッヒ・ウィローは、PDS(民主的社会主義党:旧東ドイツの支配党だった社会主義統一党の伝統を受け継いでいる)出身で、政権参加に積極的な立場を代表する。
(訳注2)左翼党は2007年の結成以来、いくつもの内部潮流が形成されてきた。その代表的なものには、旧PDS系の「改革左翼ネットワーク」「民主社会主義フォーラム」(いずれもSPDや緑の党との連立による政権参加に積極的)、「共産主義フォーラム」(スターリニスト的傾向が強い)、WASG出身者が多い「社会主義左翼」、政権参加に批判的な「反資本主義左翼」などがある。また、トロツキスト各派も左翼党の中で活動している。「運動的左翼」は2018年に結成された新しい潮流で、そのメンバーは社会運動や労働組合運動に積極的に参加し、労働者の階級的利益と抑圧・差別との闘いを結合させようとしている。
(訳注3)「赤い停止線」とは、2010年に左翼党綱領が採択された際、その中に盛り込まれた政権参加にあたって左翼党がクリアーしなければならない客観的基準のこと。その内容は「生活基盤サービスの民営化を企て、社会福祉の縮小を進め、公共サービスの課題遂行を悪化させる政策をとる政権には参加しない」というもので、州レベルや自治体レベルでの他党との連立の決定は当該地域の党大会でおこなわれる。現在、左翼党は旧東ドイツにある3つの州で連立政府に参加している。チューリンゲン州では州議会第1党として、SPD・緑の党との連立政府で首相を出し、他の2州ではSPDと連立している。
(訳注4)3月におこなわれた両州の州議会選挙では、左翼党はバーデン・ヴュルテンベルク州(緑の党が第一党)では得票率3・6%、ラインラント・プファルツ州(SPD・緑の党・FDPの連立政権が継続)では得票率2・5%で、前回同様に議席を獲得できなかった。
(『インターナショナル・ビューポイント』4月30日)
(トーマス・ゲスは、ドイツ・ニーダーザクセン州ゲッティンゲン在住の左翼党活動家で、「運動的左翼」潮流の支持者)
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