インド 当地の新型コロナウイルスパンデミック

モディ政権の自由化政策が大量死を招いた
予防接種めぐる諸問題の足下に階級闘争の姿が浮かび出ている
エカバリ・ゴーシュ

 新型コロナウイルスワクチンは、世界中の人々、とりわけグローバル・サウスの人々にとって頼みの綱となるはずだった。しかし、2021年のこの時期までで明らかになったことは、ワクチンの発売は正当な医療ニーズによって決められたものではなく、資本主義の狡猾な論理によって押し付けられたものだということである。ワクチン市場の自由化を進めているインド政府は、このビジネスを正当化するだけだった。

市場原理で有料のワクチン接種


 インドのワクチンキャンペーンは、おそらく同国がこれまでに経験した中で最悪のものである。インドの公的予防接種システムは、子どもたちのためのポリオやその他複数の効果的なワクチン接種計画を誇っているが、[新型コロナワクチン接種では]衝撃的な失敗の中に引きずり込まれている。そうした失敗はモディ政権でしかなしえないものだ。他の地方政府(とりわけ反対派政党が統治する地方政府)は、中央政府よりもほんの少しだけましなワクチン接種キャンペーンを試みてきたが、数百万回分のワクチンを入手するために、基本的には資本家にすり寄って、自由化に迎合せざるをえなかった。
 新型コロナウイルスの壊滅的な第二波の中で、インドでワクチンを手に入れるには、社会的・経済的な特権が必要であることが証明された。これは意外な結果ではない。インド政府は、全員に無料でワクチン接種する計画を持っていなかったのだ。政府は、国民の多くにワクチン代金を負担させれば、巨大な市場が形成されることになり、大手製薬会社がより高い価格でより多くの量を販売するためにその市場を利用できることを十分に理解していたのである。
 早くも2020年12月には、ラジェシュ・ブーシャン保健長官が、「インド政府は、国全体にワクチン接種をおこなうと言ったことはない」と発言した。1月には、NITI委員会[インドの政府系シンクタンク]のメンバーであるヴィノッド・ポール博士が「政府が無料でワクチンを接種するのは約3億人だけだ」と述べた。翌日(1月2日)、ハルシュ・ヴァルドハン保健・家族福祉相も同じことを言ったが、「全国でワクチンは無料だが、全部で3億人分である」と表現した。この発言は主要メディアによって、「インド人は全国で無料のワクチンを受けられる」と(言い換えられて)誤って報道された。メディアによるこのような主張は、民間メディアが、ネットユーザーがクリックしたくなるような扇情的な見出し[クリックベイト]を作りたいと必死になっているとともに、自らファシスト中央政府に加担していることの結果である。さらに、3月には、政府のワクチン接種政策の失敗について質問された際に、保健・家族福祉相は「中央政府はすべてのインド人に無料でワクチン接種をおこなうと約束したことはない」と再び述べたのである。
 そうなのだ。中央政府は約束していなかった。しかし、中央政府を支配するBJPは約束していたのだ。
 西ベンガル州議会選挙の際、BJPはもし当選したら西ベンガル州の全員に無料でワクチンを提供すると約束した[BJPはこの州議選で議席数は伸ばしたが、過半数には遠く及ばなかった]。これはワクチン接種自由化政策が出された後のことだった。西ベンガル州とビハール州におけるBJPのワクチンに関する選挙公約が示しているのは、中央政府がワクチンを医療の権利としては考えておらず、選挙シーズン中に人々を誘惑して統制するための「アメとムチ」として考えていたということである。

命より製薬企業の利益が大事

 4月21日に発効したワクチン自由化政策のもとで、中央政府はインドの数十億ドル規模のワクチン企業(インド血清研究所(SII)およびバーラト・バイオテック)と手を組んで、中央政府は今後、州政府や民間病院にワクチンを供給しないことを決定した。それどころか、州政府は、中央政府が支払うよりも高い価格で、製薬業者から直接ワクチンを購入しなければならない。このような決定がもたらす影響は甚大である。州政府は、人々が次々と亡くなっている深刻な危機の真只中で、より多くのワクチンを入手するために、州政府同士で実際に競り合って値をつけることを余儀なくされている。
 民間のワクチン接種センターは、製薬業者から州政府よりも高い価格でワクチンを購入しているが、自分たちがつけた価格でワクチンを販売することができる。ワクチンの価格に上限はない。上流階級や中流階級の人々は、ワクチンを受けるために、こうした接種センターに殺到している。民間のワクチン接種センターでは、支払い能力のある人々からできるだけ高い料金を徴収しており、それによって予防接種を受けた富裕層と受けていない貧困層の格差が拡大している。
 SIIはコビシールド[アストラゼネカ社とのライセンス契約にもとづいてインド国内で生産されているコロナワクチン]の一回接種分ごとに300インドルピーを請求している(当初は400インドルピーだったが、批判を受けて減額された。バーラト・バイオテックは、600インドルピーを州政府に請求している)[1インドルピーは約1・5円]。中央政府が各企業に支払っているのが、一回接種分ごとに150インドルピーであるのと比べてみよ。
 民間施設では、コビシールドをSIIから600インドルピー、コバクシン[バーラト・バイオテックが独自開発したコロナワクチン]をバーラト・バイオテックから1200インドルピーで購入している。こうした民間施設は好きな価格でワクチンを販売することができるため、西ベンガルの民間施設でのコビシールドの価格は750インドルピーから1100インドルピーとなっている。コバクシンは特定の病院では1500インドルピーで買うことができる。
 コバクシン(BJPが偉大な民族主義的誇りだとしているもので、完全に「インド製」である)は、いまだに第3相試験のデータを査読付きの国際的雑誌に発表していないという事実にもかかわらず、である。バーラト・バイオテックが主張する80%近い有効性は、現時点ではワクチン開発者が言っているだけである。同様に、別の大手製薬会社であるザイダス・カディラは、5月下旬から6月上旬にかけて、自社ワクチンのインド医薬品管理局長からの緊急使用許可を申請する予定である。同社は、重要な安全性データを含む第1相試験および第2相試験のデータをまだ公表していない。これらのワクチン候補は、インド科学の勝利として祝福されている。ワクチン自由化政策による利点として、ファイザー、モデルナ、ジョンソン&ジョンソンなどの外国製ワクチンを輸入できるようになったことが派手に宣伝されている。
 しかし、インド政府が初期の段階でファイザーを冷遇していたことや保管施設が不足していたことを考えると、ファイザーやモデルナのワクチンを輸入して、現在の波の流れを変えるのに間に合わせるのは不可能に近いことは予想できた。では、政府の狙いは何だったのか? 私の仮説は、批判がほとんどできない重要な時期(感染者の増加が急速にピークに近づいている時期)に、最終的にSIIとバラート・バイオテックに利益をもたらす市場開放のために、中央政府が外国製ワクチンを利用したのではないかということだ。
 この開放された市場は、現在インドで最大の新型コロナウイルスワクチン製造会社の2社だけでなく、後から参入してくる多くの大手製薬会社にも役立つことになる。現在、インド政府は賠償契約書への署名をめぐって、ファイザーと対立している。インド政府が賠償契約書に署名すれば、(たとえばワクチンを接種された人が死亡した場合)ファイザーは損害賠償請求を免れることになる。インドのインフラや冷凍設備の不足を考えると、ファイザーが賠償契約書を求め続けるのは驚きではない。最終的には、インド政府は彼らの要求を受け入れざるをえないだろう。

延びる行列そして接種間隔延長


 反対派政党が支配する州政府は、中央政府と比較すると、行く手を阻む障壁があるにもかかわらず、ワクチン接種キャンペーンにおいてほんのわずかだが良い結果を出してきた。しかし、それは、優れた結果というハードルが、中央政府によって極端に低く設定されているからだけなのである。インドが大惨事に向かっていることが明らかになったため、西ベンガル州では、4月下旬から5月上旬にかけて、政府のワクチン接種センターの前に2回目の接種を待つ人々の列が増えた。人々は夜中から、寝るのも我慢して列に並んでいた。西ベンガル州の一部の地域では、「ラインキーパー」という新しい職業が拡がった。これは、数百ルピーを支払うことで、一晩中、列の中で並んでくれる(つまり、順番を「キープ」してくれる)人のことである。この金額を払える人は一晩中休むことができる。それ以外の人は、ワクチンを注射してもらうために、一晩中あるいは真夜中過ぎから列に並んでいなければならない。
 2回目の接種の需要が高まったため、中央政府はコビシールドの1回目と2回目の接種の間隔を12~16週間に設定した。オックスフォード―アストラゼネカ製ワクチンでは、2回の接種の間隔を12週間にすると効果が高まるという科学的根拠はあるものの、16週間の間隔を支持する文献は全くない。中央政府がこのような措置をとったのは、インドが極端なワクチン不足に直面していたからに他ならない。

ワクチンめぐる構造的不平等

 グローバル・サウスにおけるワクチンの中心地[であるインド]が突然ワクチン不足に対応しなければならなくなった理由の一つは、インドがワクチン外交という考えられない政策をとったことにある。インド外務省は、第二波が発生する数カ月前から、他国からの[ワクチン]輸入を求めていた。この政策は、中国のワクチン外交に対抗するために作られたインドの「ワクチン友好」構想にもとづいておこなわれたもので、結果的に約6億6千万回分のワクチンが海外に輸出された。確かに、このうちのかなりの量はGAVI[2000年に設立された子どもへの予防接種推進機関]によるCOVAX事業に提供された。
 われわれは、強国がワクチンを買いだめすることを支持しない(インドはグローバルサウスの多くの国々に比べると強国になる)。その一方でインドの無計画なワクチン輸出は長期的な影響をもたらしている。感染者が増えても輸出禁止措置を取らなくてもすむように、輸出はもっと計画的におこなわれるべきだったが、そうはしなかったのだ。
 インドからの突然の輸出禁止は、より貧しい国々、とりわけSIIにワクチンを完全に依存しているアフリカ諸国にもっとも大きな損害を与えた。さらに、SIIはアストラゼネカとの契約にもとづき、輸出されたワクチンの多くをイギリスに供給していた。イギリスは、インドでの感染者数の増加と輸出禁止による供給遅延のために、ワクチン接種計画がインドのせいで変調をきたしたと主張した。イギリスは、成人人口の50%にワクチンを接種していたのに、人口のわずか3%にしかワクチンを接種しておらず、致命的な流行の波に直面していたインドに対して、さらなるワクチンを要求したのである。
 ここで繰り広げられているグローバルノースとグローバルサウスとの間の力学およびそれと資本との連携(特にアストラゼネカによる要求とSIIとの契約)を無視することはできない。たとえば、2月上旬のウガンダからの報告を取り上げてみよう。その報告によると、ウガンダはオックスフォード―アストラゼネカのワクチン1回分につき7ドルをSIIに支払っていたが、それと対照的にインド中央政府はSIIに2・06ドル、EUは同じワクチン1回分で欧米の製薬会社に2・16ドル支払っているとのことである。人口の少ない国は、大きな注文をする必要がないため、高い価格を支払っていると言われている。これは基本的には小国が一つの製薬会社により多くの量を発注する動機となる。そのことによって、独占の市場リスクが大きくなり、製薬会社は倫理的な医療を犠牲にした上でより巨大になっていくだけなのである。
 グローバルノースの先進資本主義諸国とグローバルサウスの(ファシストを含む)協力者たちは、特許や国家主義的優先[接種]などを組み合わせて使いながら、ワクチンを最貧国の手に渡らないようにしてきた。グローバルサウスの貧しい国々は、ワクチンが特許製品であるため、自分たちの接種分を製造することができない。これらの大手製薬会社がいかに倫理観に欠けているかを示す例がある。ファイザーとモデルナは、パンデミックの間、自社のワクチンから利益を上げないと約束すらしていない。アストラゼネカは、パンデミックの間は利益を上げないことを約束しているが、利益を上げられるようにパンデミックの終息を宣言する権利を持っている。なぜアストラゼネカが、パンデミックがいつ終息するのかを決めるのか? アストラゼネカのワクチンが利益を上げられるほど長期にわたってまだ必要とされているのならば、それがどのようにしてパンデミックの終息となるのか?
 このような構造的不平等はいつも明白であるというわけではないものの、他のいくつかの地域の状況を見れば、民営化されたワクチン供給政策に内在するアクセスの不平等についてより明確になる。

自由化の下で特権とコネが横行

 5月1日から(なんという皮肉!)、18歳から44歳を対象とした自由化されたワクチン接種(ちなみに、この年齢層には唯一の実行可能なワクチンの選択肢)が開始されたため、技術に詳しい若者たちがオンラインシステムをごまかす新しい方法を開発した。極端な品薄により需要が高まり、Arogya Setu(接種枠を予約するためのアプリの一つ)上で実行できるソフトウェアコードが作成者によって公開された。これらのコードを実行するには、3級レベルのデジタル知識が必要だが、インド人の圧倒的多数はそんなものを持っていない。
 ごく最近まで、インドではワクチン接種のためにはオンライン登録が義務付けられていたため、何百万人もの人々がワクチン接種競争から脱落させられた。中央政府によれば、そうしている理由は、「混雑」を緩和するためということだった。民間のワクチン接種センターでは、コビシールドを1回接種するのに1000インドルピー近くが、コバクシンを接種するのに1500インドルピーがいまだに請求されている。インド政府が最高裁で認めたところによると、インド政府はすでにインド血清研究所とバーラト・バイオテックの両社に臨床試験中に多大な援助を提供してきた。そのことに注目すると、このことの不当性がますます明らかになる。
 これらは無関係な出来事ではなく、公衆衛生よりも利益を優先したワクチン接種戦略の結果であり、それは、(人員不足、設備の整っていない公的病院、救急車の不足など)破壊されたインドのより大きな公的医療システムの一部に過ぎない。たとえば、新型コロナウイルスの患者を治療するための治療費や民間病院が提供する「パッケージ」を考えてみよう。私立病院に2週間入院して400万インドルピーという高額な金額を支払ったという報告もある。最近では、五つ星ホテルがパッケージ料金でワクチンステイを提供するという傾向が現れた。このパッケージには、ワクチンの投与、豪華な宿泊、食事などが含まれている。このような行為には警告が発せられているが、このようなビジネススキームが存在することで、インドでの民営化がいかに野放しにされているかがよくわかる。
 地域規模では、西ベンガル州政府が、ごく最近になって、この記事の作成中に限定的な範囲で18歳から44歳までの無料のワクチン接種を開始した。しかし、西ベンガル州TMC[「全インド草の根会議派」:1997年にインド国民会議派から分裂した西ベンガルの地域保守政党で、西ベンガル州政府を支配している]の連中が、自分や家族が先に接種を受けられるように同じ情報を隠しているという不確かな情報は憂慮すべきものである。接種へのアクセスは、必要性や権利ではなく、特権やコネによって決められているのだ。

必要なのは抜本的な構造的変化

 新型コロナウイルスが新自由主義、民営化、公衆衛生への支出不足による大惨事ではないというふりをするのは一瞬たりともやめよう。もっと気になるのはおそらく、パンデミックは森林破壊および珍しい動物種と人間との接触の増加に関係しているという理論である。
 資本主義がさらなる気候変動や森林破壊を可能にしているので、パンデミックはわれわれの生活の中で常態化するだろう。資金不足の公的医療システムでは、われわれの生活はひどい扱いを受け、死者数が増えるのは間違いないだろう。唯一の解決策は、すべての人に無料の医療を提供し、特許のない医薬品やワクチンを提供し、気候変動に反対するために、あらゆる傾向の社会主義者や左翼が一丸となって、持続的な国際行動を作り出すことである。
 気候変動に反対することは、個々人の行動に注意するよう口先だけで呼びかけることではなく(いずれにしても、われわれは個人的にも行動を起こすべきだが)、環境汚染・森林破壊・気候変動の最大の原因となっている政府や企業に対する行動の強い呼びかけでなければならない。気候変動やパンデミックによるさらなる大量死を防ぐためには構造的変化が必要であり、それは国際的な社会主義者の協力によってのみ作り出すことができるのである。
 何百万人もの死者を出したパンデミックに対して、世界が社会主義者による強力なとりくみを必要としていたまさにそのときに、われわれは革新や効率を売り物にしたもっとも恐るべき新自由主義政策に立ち向かわなければならなかった。われわれに与えられてきたのは、さまざまな傾向の左翼の多くがすでに要求している民衆のためのワクチン(これは私に希望を与えてくれるものだ)ではなく、高度資本主義なのだ。世界が必要としているのはワクチン専門家ではなく、資本主義を破壊する強い意志を持つ、怒りに満ちた多くの人民なのである。

 『ラディカル・ソーシャリスト』ウェブサイト管理者による付記:これは、インド政府が2020年初頭から、独占資本の利益とインド人民党(BJP)の政治的利益のために、他のものと同じように、ワクチンをどのように扱ってきたかという重要なトピックについての社会主義者・フェミニスト活動家による寄稿である。
(Ekabali Ghoshは、インドのフェミニスト・社会主義活動家)
(『インターナショナル・ビューポイント』2021年6月9日)

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