フランス NPAは大統領選挑戦で怒りに声与える

闘い迂回する統一ノー
連合して「天上襲撃」へ
ジョセフィーヌ・シンプロン

 フランスでは6月27日を決選投票として地域圏(海外圏を除き13圏)議会選挙が行われ、マクロン与党の共和国前進とル・ペンの国民連合が全敗、既成の左右中道勢力が各議会を制した。来年5月の大統領選前哨戦として、マクロン、ルペン両者共力を傾けた選挙だったが、彼らにとっては大きな打撃になった。また1回目と決選投票とも歴史的低投票率になったことも重要な特徴だった。以下は、この選挙に先立って、フランスの政治情勢を分析し、反資本主義派の考えを提起している。(「かけはし編集部」)

引き続く大独占と大富豪奉仕


 われわれがパリコミューン150年とその民主的で社会的な大望を称えていた時に、フランス政府はその権威主義的な漂流に沈もうとしている。多数派にその意志を強要する少数によって、かつて以上に権力が行使されている。公衆衛生や社会や環境、また政治の前例のない危機という脈絡の中で、金融的諸利益が、この政府の選択を導き続けている。他方で反動的攻撃が、今年6月の地域圏議会と各県議会の選挙に向かう助走の中で積み重なってきた。
 公衆衛生の危機は1年以上の間、整理解雇の広がり、職の喪失、貧困の爆発、を通じて社会的な危機を加速し続けてきたが、権威主義政策と自由圧殺政策による民主主義の危機をもかき立て続けた。この政府はさらに、環境の危機に対する対応を行わないことにも固執している。あらゆる内容をはぎ取られた「気候と復元力」法は、このもうひとつの表示だ。驚きはまったくなく、また立派な言葉はあるとしても、この1年意味のある路線変更はまったく実行されなかった、と言われなければならない。実際政府は、失業保険の広範囲にわたる改革への固執によって、その反社会政策、社会的保護と公共サービスの破壊を続けている。そして問題の失業保険改革は、年金改革が延期された(とはいえ放棄とはほど遠い)後では、この大統領期を象徴するものとなった。
 同時にこの政府は、雇用主と金融関係者を好きなようにさせ続けている。そして彼らは、彼らの株主に配当として今ほどの大枚を払ったことは一度もなく、単なる思惑的な理由で従業員を解雇しているのだ。エコノミスト全員が今後の月々における前例のない破産手続きの波と失業が爆発するだろうと予想する中、CAC40(フランスの株価指数、時価総額上位40銘柄で構成:訳者)グループは、職や税や環境事項の諸領域でどのような条件も代償もなく巨額な公的支援(短時間労働、緊急プラン、復興計画、その他)を受け続ける一方で、彼らの株主に配当として510億ユーロ以上を払うだろう。バタンクール、ボロレ、アルノー、ピノー(以上は、フランスの富豪で大実業家)、ブラックロック(世界最大の資産運用会社)、アムシディ(世界トップ10の資産運用会社)や他の同類は、前線を担う労働者や学生や不安定就労者が貧困へと沈み込む中で、再びこの危機の勝者になるだろう。
 公衆衛生危機に関しては、この政府は、利益を高める政策以外には他に何の政策もないまま、漂流し続けている。そしてワクチン接種管理がもう一つの事例になっている。政府は今そのパンデミック管理についてワクチン接種をもっとも肝心なこととし続けているが、他方ワクチンは、それを製造し、「人類の共有材」と考えるよりもむしろ高い価格でそれを売っている大独占企業によって、少量ずつの供給が続いているのだ。これは明確に、特許の凍結を、それだけではなく技術移転と社会的統制の下での製薬産業接収を求めるものだ。

ルペンに道を清めるマクロン

 この政府の抑圧的で自由圧殺の権威主義政策は、新しいものではない。それは、この政府が権力に到達して以来その商標のひとつとなってきた。マクロンはこの政策を、すでに左右両者の前任者の大権だったと強調しつつ、数十年間存在してきた多くの治安法の強化を続けている。自由を破壊しているこの法と秩序の政策は明らかに、社会的抗議を犯罪とすることでそれを沈黙させることを狙いにしている。その一例こそ、ダルマナン内相がパリ、ストラスブール、ニースのパレスチナ人民連帯デモをどのよう形で禁止したかだ。
 公衆衛生危機はこの政府にとって、かつて以上の自由圧殺的諸法を通じて民主主義を引き下げる迂回的な口実になっている。つまり、非常事態令、夜間外出禁止、外出証明、旅行の権利や公共の場を利用する権利の制限、デモの禁止、大衆集会の規制、全面的あるいは部分的ロックダウン、こうして、1年以上続く非常体制の持ち込みがあった。
 しかしそれで全部ではない。つまり政府は、抗議行動参加者をテロリストと同一視する国際安全保障法を導入した。民衆の反対のあらゆる表現を統制し、抑制し、あるいは妨げる「法的な」手段を政府に与えるためだ。この権威主義的で反社会的、かつデマに満ちた漂流の中で、すでに十分に蓄えられている治安の武器庫を強化するものとして、新たな「反テロリズムと情報」法が準備されようとしている。
 これらのいわゆる非常方策は、永続的な非常事態の論理の中で、徐々に通常法に合体されつつある。忘れないようにしよう、この時代においては、抑圧も警察の暴力も、社会的抗議に対しこの政府がもっているただひとつの回答なのだ。まさに5月1日、警察はあらためて、いくつかの機会をとらえてパリの労組デモに催涙ガスを浴びせた。

今や極右が市民権を得ている


 マクロンは、パンデミックに関する社会的な、また公衆衛生上の収支決算を書き上げたいとは思っていないように見える。そして結果的に、われわれが彼の破局的な管理について話し回らずにいる限り、彼はいつも処方箋になっているいわば迂回路を見つけ出すことになった。すなわち、事実上はムスリムに向けてのみ言われている、「分離主義との闘い」だ。そして当然に予想されるように、あらゆる反動的メディアが中継する形で、政府メンバー、右翼、そして極右間の強硬さの競い合いが猛威をふるった。
 しかしこの迂回路だけでも十分ではないかのように、フレデリック・ヴィダル高等教育相は、大学を悩ませていると決めつけ「イスラム左翼」への調査に乗り出した。これが、諸組織と諸個人を敵視する戯画化、汚名着せ、さらに告発、という仕掛けを再始動させるために求められたすべてだった。いくつかの話題に関する限り、マクロンの共和国前進(LREM)と共和党(LR)とルペンの国民連合(RN)の主張間に区別を付けることは、ますます難しくなっている。
 マクロンと彼の支持者はすでに2022年の大統領選に向け運動中だ。そして2012年のサルコジ同様、彼は極右の主題と議論を引き受けることを選択し、こうして、マリーヌ・ルペンの権力到達に対する最良の防護壁であると主張している。それゆえダルマナンは、RN指導者の「軟弱さ」を糾弾するために進み出ている。まさにこうした背景の中で、アクション・フランセーズ(1894年のドレフュス事件を契機に結成された王党派右翼:訳者)支持者がそこに座を占めている「イスラム左翼」を糾弾しようと、オクシタニア地域圏(フランス最南端、首都はトゥルーズ:訳者)議会に押し入り、他方でファシストがリヨンの書店を襲撃し、極右活動家が5月9日の気候変動デモの際にNPAメンバーを攻撃したのだ。
 そして、軍人による2本の署名記事が2、3週の間隔で公表されたのも、明らかにこの連なりの中にある。ちなみに先の記事の中では、権威主義の権力と極度の暴力が住民の一部に向けられ、彼らに汚名を着せている。警官からの身元的紹介が職務質問もまた、われわれが経験中のこの政治的時期について多くを語っている。
 しかし間違わないようにしよう。軍人があえて先のような署名記事を公表できるとすれば、またアクション・フランセーズが地域圏議会に侵入し、ファシストが活動家を攻撃しているとすれば、それは、パンデミックで目立つものにされた社会的危機に対抗しようと、政府が何ヵ月も反動的な空気を染み込ませてきたからだ。
 この戦略の唯一の受益者は今日、まさにRNだ。そして今や、RNの主題を支持することや、地域圏議会選挙の候補者リストに公然と加わることは、ある者たちにとってもはや問題でもタブーでもない。そのようなものとして、一定のジャーナリストたち、イカサマ労組活動家、百万長者の例がある。

既成左翼の戦略には致命的欠落

 まもなく地域圏議会選と県議会選の第1回投票と第2回投票が行われる予定の中で留意されなければならないことは、これらの選挙は多くの人々、特に労働者に活気を与えてはいない、ということだ。彼らは、これらの選挙は彼らの日々困難になっている暮らしにいかなる変化も起こさない、と考えているのだ(注1)。しかしある者たちにとっては、大統領選挙を1年先に控えたこれらの選挙は重要……なのだ。
 多くの被選出代表はこれらの選挙の後で、2022年に向けた指名をもっと容易に求めることができると思われる。たとえば、LRのグザヴィエ・ベルトラン、ヴァレリー・ペクレス、ローラン・ヴォキエといった面々だ。
 LREMにとっては、賭けられているものが違っている。2020年の地方選における敗北を受けての、大統領選を数ヵ月後に控えた新たな平手打ちは、マクロンを弱体化させると思われる。しかし彼にとって、特にマリーヌ・ルペンが彼女が候補者ではないとしても強力に運動に加わっているオ=ド=フランス(ベルギーと国境を接する北西部の地域圏、RNが制すると予想されていた:訳者)で、それはすでに大統領選に向けた全面的な予行演習になっている。おそらくこれが、マクロンが彼の司法相を落下傘候補としてこの地域に送り込んだ理由だ。
 RNにとって、大統領選の1年前に前述の地域圏やPACA(プロヴァンス―アルプ―コートダジュール)(南部の地域圏:訳者)のような地域を勝ち取ることは、非常に大きな尺度での信任を証明し、前回の地方選における敗北の取り返しを可能にすると思われる。
 制度圏の左翼にとってもまた、地域圏選挙は大統領選挙の始まりを印すだろう。そして社会党と緑の両者は地方選における彼らの結果が確証されることを期待している。これらの選挙に向けた彼らの連携戦略は変幻自在の幾何学のひとつだ。理由は、現在制度圏左翼にとりついて悩みの種となっているものこそ、明らかに大統領選挙だからだ。そこでの大きな問題は、あらゆる世論調査がルペンとマクロンの先行を示している中で、どのようにして決選投票に残るかだ。
 したがってわれわれは、左翼のさまざまな勢力間のヘゲモニーを追求する闘いを今見ている。この戦闘はあきらめることを誰も欲しない形で、猛々しくなっている。フランス共産党(PCF)は、社会的諸方策、国家への依拠、民族主義、そして治安の強調を混ぜ合わせる伝統的な主張を新たにする、アイデンティティに基づく立候補に乗りだした。メランションはすでに左翼の統一という考えを拒絶し、民衆の候補者になりたがっている。EELV(ヨーロッパエコロジー・緑の党)は、彼らを軸に運動する他の者を欲し、社会党は、そうした連携の用意があるように見えるが、しかし2017年におけるアモンの立候補が残した極めて貧弱な結果が、その保証になっていない。
 この討論にはふたつの大きな脱落部分がある。
 まず、基礎になる綱領は何か、であり、収支決算ははどういうものか、だ。まさに謎だ! 彼らにとっては、大きな政策がひとつもなくても、統一だけで十分なように見える。メランションは1981年(ミッテランを候補に立て右翼から政権を奪った:訳者)について、その裏切り、つまり1983年からの緊縮への転換がEUとドイツによって引き起こされた「凍結された革命」と呼び、凍結は「2022年までとしてどうだろう」などと語っている(注2)。
 現在の空気の中では、切り下げられた基盤に基づいた、内容のない、国家および支配階級との衝突に向けた必要に訴えることのない、そのような統一の追求からは、何ごともなされ得ない。
 そしてこれが二番目の大きな脱落部分だ。この左翼はこの衝突を欲してはいないのだ! 違いを一時的に取り繕ったこの左翼であっても、もはや信用を得ることはできず、われわれに何かに対する希望を与えることもない。確かにわれわれには統一が必要だ。しかしそれは、闘いにおける統一、われわれの決起における統一なのだ。確かにわれわれは「左翼」を必要としている。しかしそれは、現行システムの守護者の左翼ではなく、自らを否定する左翼でも、思い違いをしている左翼でもない。

反資本主義的決裂迫る闘いへ


 公衆衛生危機という、社会的で経済的な危機という、この吐き気を催すような連なりの中で、労働者、若者、ほとんどの不安定就労者、労働者階級の居住域にとっての、対抗し反撃する上での諸困難は現実のことだ。しかし社会的抗議は存在している。実際、整理解雇反対であろうが、雇用、公共サービス、気候、生命倫理法令、女性の権利、これらを求めるものであろうが、警察の暴力や国家レイシズムに反対であろうが、さらにパレスチナ支持であろうが……、決起は存在している。それらは確かに未だ弱体であり分散している。しかし存在はしているのだ。
 そしてわれわれについて言えば、2022年を待つことなくわれわれは、われわれの問題を「至上の救済者」を待つことなく自らの統制下に引き受けることがわれわれの任務だ、と確信している。希望は、底辺から、街頭で、職場で……、行動するわれわれの能力、市民団体や労組や政治組織の別なく活動家勢力を、われわれの連帯を、われわれの怒りを連合させる能力、そして1871年のように「天上を襲撃する」ために立ち上がる能力、から現れるだろう。
 差し迫っていることは、現在の波の前で屈しないこと、最悪の展望にもあきらめていないすべての者たちと共に必要な橋頭堡を築くこと、そして進行中の惨害に立ち向かうもうひとつの世界の展望と連帯を生き返らせることだ。極右の台頭や権威主義権力の台頭に不可避なことは何もない。また経済危機や環境危機にも不可避なことはまったくない。労働の世界が頭を高く上げ、その強さを自覚するようになり、闘うために自らを組織し、自ら協調して動き、そして政治的目的を設定する、という条件の下でだ。
 われわれはまさにこの点で、急進的な社会的、環境的、また民主的な緊急諸方策を擁護し、それを求めて闘うことで、われわれの役割を果たしたい。そして、統一した対抗、大衆的闘争、および資本主義との決裂というひとつの綱領に対する必要を組み合わせる探求の中で、これらの怒りすべてに一つの声を与えるために、オリヴィエ・ブザンスノーとフィリップ・プトゥーが率いたキャンペーンと連続したものとして、次期大統領選に存在することによって、そうしたい。(IVによる「ランティカピタリスト・ラ」誌2021年5月号よりの英訳)

▼筆者はフランスNPA指導部の1員。   
(注1)この論考は地域圏議会選と県議会選に先立って書かれた。
(注2)ジャン・リュク・メランションのブログ参照。(「インターナショナルビューポイント」2021年7月号)

【訂正とお詫び】かけはし前号(7月19日号)3面サンケン争議での株主総会に向けた記事で、見出しとリード、そして質問書で「尾澤隆司さん」と記しましたが、正しくは「尾澤孝司さん」でした。訂正しお詫びします。

週刊かけはし

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