米国 ヒート・ドームの下で

システム変える闘いの具体化を
フラン・ミッチェル

 北西部太平洋岸の現在の熱波は、以前の高温記録を粉みじんにした。6月終わりまでに、ワシントン州シアトルは40度Cに、オレゴン州ポートランドは46度Cに達した。そしてブリティッシュ・コロンビア州のリットンは、最高49度Cとなり、カナダ全土における最高気温記録を破りその新記録を打ち立てた。このできごとは、われわれの地球の状態とわれわれの闘いの相互連携について深く考えるために、もうひとつの機会を提供している。

地球温暖化に
さらなる例示

 このヒート・ドームは、太平洋西部の温度がこの何十年かで東太平洋よりも高くなり、東太平洋上に覆い被さる温かい空気をつくり出すような気圧差を生み出していることを理由に起きている。そして東太平洋では、ジェット気流がその温かい空気を高圧ドーム下に閉じ込めている(注1)。
 もしあなたが疑いをもっていたならば――そして報告が一見して明白なつながりを明らかにしてこなかったかもしれないとしても――、まさしくこれこそ、化石燃料燃焼のような人間の行為を通じた、大気中への温室効果ガス排出が引き起こした気候変動の作用なのだ(注2)。そのようなできごとは諸々の気候モデルで予想されていたばかりではなく、科学者たちはまた、特定の気象事象をより長期的な気候の展開に結びつける点でもっと深く達してもいた(注3)。
 われわれのただひとつの地球は今、14年前よりも2倍の熱を貯め込みつつある(注4)。何十年にもわたる全国科学アカデミーのジェームス・ハンセン、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、また他の専門家たちからの警告にもかかわらず、われわれは、化石燃料使用と二酸化炭素排出の増大を見続けている。
 熱波や気温における他の諸変動はこれまでも通常の気象の一部だったが、それらは今もっと暑くなり、長期に続き、もっと頻繁に起きている。過去40年を通じて、米国の主要都市では熱波の頻度が3倍化し、その持続期間も6週間以上延びた(注5)。その上、熱波の強さは3―5度高くなった(注6)(特に断りがないためおそらく華氏表示:訳者)。
 しかしこれは新しい正常ではない。極端な気象の頻度や強度が、まもなくいずれかの時に安定する、というよりも今後増大するからだ(注7)。この熱波は、少なくともひとつの報告が呼ぶような、1000年に1回の事象であるかどうか(注8)に関しては、あなたが単に次の1000年に代えて過去1000年を注視するならば、というにすぎない(注9)。

温暖化の問題はいのちへの危険


 われわれは転換点と悪性の循環の時代に入ろうとしている。熱波は、流域を危険にさらしさらに炭素を隔離する樹木を破壊する、こうしてより多くの温室効果ガスを放出する、そのような森林火災の可能性を増大させている。暑さを逃れるために使用されるエアコンと自動車もまた、地球温暖化に力を貸している(注10)。そしてその他諸々。
 もちろん、他の極端な気象事象同様、熱波は米国だけではなく地球中でも起き続けていた。北極圏北部のシベリアでは、近頃気温が48度Cに達し、パキスタンのジャコババドでは52度Cになった(注11)。これらの数字はすべて、通常の測定法の温度であり、湿度はまったく考慮されていない。
 より重要な温度は、暑さと湿度を考慮に入れるために温度計の表示材(たとえば水銀)溜まりを湿った布で覆って測定された温度だ。このような湿潤測定による示度が35度Cになると、体はもはや発汗によって自分を冷やすことができないために、元気で健康な人にとってさえ2、3時間のうちに致命的になる可能性がある。最近の1研究は、ジャコババドや湾岸首長国連邦のラス・アルカイマの両者ではすでに、その致命的な温度に達する短い期間が現れることになった、と見い出した。それは、気候学者の予想に何年も先立っている。
 極端な暑さは、送電網に破綻――それ自身潜在的可能性として、呼吸あるいは他の健康上の必要で機械に頼っている人々に対しては致命的――を引き起こすような需要ををつくるだけではなく、インフラにも打撃を与える可能性がある。ポートランドでは、装置の溶融が理由で路面電車が止まった(注12)。ワシントン州では、高速道路の1から5号線の部分が、舗装の崩壊が理由で閉鎖された(注13)。とはいえ、しつこく繰り返すが、極端さが致命的な湿潤測定示度よりも小さい時であっても、暑さは健康の問題なのだ。北西部太平洋岸における6月後半の熱波は、数百人の死を招いた(注14)。

温暖化影響にも差別的格差明瞭


 気候変動の諸結果や資本主義の他の結果の場合と同様、熱波はまた不平等と公正に関わる問題でもある。つまり、あらゆる者が同じように熱波を経験するわけではなく、熱の病的な作用はすでに不利な境遇にある集団にもっとも重く影響するのだ(注15)。富裕層の住宅街はより多くの樹木に覆われこうしてより涼しさを保つ傾向があるが、他方財をあまりもたない人々もまた、空調装置保有がより少なくなる傾向にある。その上、レイシズム的な居住区分けの歴史は、これらのヒートアイランドが比例を失して非白人の人々を苦しめていることを確証している(注16)。同様に、刑務所の収容者やホームレスの人々は、暑さから逃れる選択肢をほとんどもっていない(注17)。
 暑い気象はまた、いくつかの職業の労働者に特定の影響を与えている。諸々の研究はこれまで、建設労働者の中で暑さ関連の疾病や死の危険を高めていることを確証してきた(注18)。6月の熱波の中でポートランドは、数人の監視人が熱中症にかかったことを受けて、公共野外プールを閉鎖し、オレゴン州では少なくともひとりの農業労働者が暑さに関連した疾病で死亡した(注19)。そして、ポートランドのドーナツ店労働者は、不十分な空調に対してストライキを決行した(注20)。
 北西労働新聞が述べているように、1970年の職業安全・健康法(OSHA)は、雇用主には死や深刻な病害を引き起こすかもしれないと認識された危険から解放された場を提供する「全般的な義務」がある、と規定している。しかし 1970年代以来労働安全の専門家が熱ストレスから労働者を保護する全国的な規則をうるさくせき立て続けてきたにもかかわらず、連邦OSHAは熱からの安全に取り組む特別な職場保護を、まったく発展させてこなかった。2、3の州は熱の安全に取り組むためのガイドラインを練り上げたものの、ほどんどはまだそうしていない。

生き延びるための連帯に向けて


 労働者と活動家は、ヒート・ドーム下で照らし出されたこの課題や他の関連する課題に今取り組んでいる最中だ、たとえば、農業労働者組合は新たな全国的な熱規制を今迫っている(注21)。気候の活動家は、グリーンな公共住宅への要求を含んだ、グリーンニューディールの諸条項を求めるキャンペーンを続け、化石燃料インフラを止めようと活動し続けている。そのインフラには、ポートランド・ゼニス・オイル・ターミナル、エンブリッジの新ミネソタ路線3,そしてアパラチア山脈峡谷パイプラインが含まれている(最近の勝利には、キーストンXLパイプラインの終了、ワシントン州カラマの大規模なフラッキング抽出シェールガス精製プラント計画の敗北、ポートランド・クリーンエネルギー基金の発展が含まれている)。
 最新の熱波の中で、当該地方政府や社会サービス機関だけではなく、相互援助を提供しているグループも、冷房を効かせた場所を設立した。そのような相互援助グループは、ブラックパンサー党が差し迫った生き延びるための革命と呼んだもの――われわれが今気候の大変動の中での生き延びを深く考えているかもしれないもの――を確実にする助けになる可能性があるだけではなく、スキルとコミュニティの連帯の組織化を築き上げる助けになる可能性もある。われわれは増大する熱波――さらに洪水や一時的な寒冷期や気候変動で悪化させられた他の極端な気象――に直面し続けるだろう。そしてわれわれは、互いを救出するための組織化を続け、もっと生きやすい世界を生み出す必要がある。(2021年7月3日、「ソリダリティ・ウェブジン」より)
▼筆者は、ドキュメンタリー映像作品「必要:石油、水、気候の抵抗」の監督であり、オレゴン州サレムのウィラメッテ大学教授(英文学および映画研究)。(「インターナショナルビューポイント」2021年7月号)
 なお、(注1~注21)で示された参照記事には、一般紙や専門誌の記事に加え第4インターナショナルの文書も挙げられているが、分量が多いため本紙では割愛する。

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