ミャンマー 市民的不服従から武装抵抗に至るまで

今日の挑戦から何を生み出すのか
まさに新しい時代に突入した
ピエール・ルッセ

 2月1日の軍部によるクーデターの直後、大規模な市民的不服従運動が起こったことによって、軍事政権は国全体を支配していると主張することができなかった。しかし、民衆による反対を鎮圧しようとして、弾圧のための兵力を再配備することはできた。軍隊の介入は、もはや周縁地域の少数民族に対してだけではなく、全土でおこなわれたのである。
 このような殺人的弾圧に直面して、新たな形の民衆による自衛が拡大してきた。抵抗は今や長期的なプロセスであり、大きな変化を遂げている。(選挙で選ばれた政府と軍部が共存するという)軍部のクーデター以前の状況に単純に戻ることはすでに不可能となった。今後生起する問題はオルタナティブの問題である。つまり、この地域においても、過去に戻ることはないだろうということである。われわれはまさに新たな時代に突入したのだ。現在の動員は、どのような新しいミャンマーを予告しているのだろうか?

軍事政権は「常態復帰」不能に


 国際的制裁が2月に徹底的におこなわれたならば、そして市民的不服従委員会(CDM)との連帯が課題に見合ったものであったならば、軍事政権は打倒されていたかもしれない。しかしそうはならなかった。軍部はイニシアチブを取り戻す時間を得て、民衆に対する全面戦争を遂行したのである。その戦争はますます殺人的なものとなった。というのは、中国とロシアが、軍部が以前は持っていなかった重火器(航空機、戦車、大砲)を提供したからであり、(欧米を含む)企業が最新の電子監視装置を軍部に販売しているからである。
 その結果、民衆による抵抗はきわめて困難な状況下で続けられている。市民的不服従運動は地下に潜り、さまざまな自衛行動が、少数民族が居住する周縁地域だけでなく、全土に拡大している。
 これまでのような街頭デモは不可能になり、ストライキ参加者は厳しい報復を受けている。しかし、「非暴力」闘争は継続しており、その中には(以前に比べて大幅に減少しているが)ストライキや受動的抵抗が含まれている。軍事政権は、完全には「常態に復帰」していないという事実に口先だけでも同意せざるをえなかった。実際に、銀行や行政機関では熟練した労働者が依然として不足しており、多くの医療労働者が軍の命令によって働くことを拒否し続けている。
 サガイン地方の首都(モニワ)など一部の都市部では、危険を冒してフラッシュデモが組織され、市民的不服従のシンボルを維持している。新たな学校年度は6月1日に始まったが、軍は(新型コロナウイルスのために1年間閉鎖されていた)学校の再開を効果的に実施することができないでいる。
 軍事政権は、この多様で拡散した抵抗に対して、人々の自宅からの追い出し、民兵グループによる介入、暗殺や逮捕、国民統一政府(NUG)への協力を理由とした有罪判決などで対応した。

NUGの過去からの前進的脱却

 国民統一政府(NUG)の設立は、まさにこの状況の新しい要因の一つである。この地下政府のメンバーは亡命せずに、明らかに国内にとどまっている。NUGは、合法的な文民権力の継続を体現するものだ。また、NUGは、依然としてアウンサンスーチーを「政府顧問」としている。しかし、彼女は現在、国家反逆罪で拘束され、裁判にかけられていて、世界から完全に孤立している。それにもかかわらず、NUGは、国民民主連盟(NLD、スーチーが指導者)の伝統的な方向性から良い意味で脱却しつつある。NLDは、ビルマ族民族主義(ビルマ族はミャンマーの最大民族集団である)を特徴としていたからである。
 国民統一政府は多くの民族で構成されている。2021年6月3日、NUGは「ラカイン州におけるロヒンギャに関する政策方針」を発表した。これは多くの意味で重要な文書である。それは、将来における「新しい」ミャンマーの可能性を示すものである。
 *NUGは、ラカイン[アラカン]州での大量虐殺の犠牲者であるロヒンギャ・イスラム教徒に加えられた被害の深刻さを認めている。これは、以前はタブーとされていたテーマである。この沿岸部の州で支配的なアラカン族武装諸政党は、この声明を激しく非難している。それには彼らなりの理由がある。つまり、彼らは大量虐殺に加担しており、民主的な抵抗勢力よりもビルマ族軍事政権の側に立つことの方が多いからである。国民統一政府は「加害者に責任を取らせるよう努力することは、正義を実現する方法であるだけでなく、将来の残虐行為に対する抑止力にもなる。だからこそ、われわれはこれを優先的任務と考える。賠償と正義は、民主的連邦の将来の憲法で保証されるだろう」と約束している。NUGは、真の国際刑事裁判所の設立を提案している。
 *NUGは、連邦において真の連邦主義を確立することを提案する。「主権は連邦構成国とそれらの国民に帰属する。連邦では誰もが基本的人権を完全に享受する。連邦の先住民であるすべての民族は、個人が保有する個人的権利と、民族集団が保有する集団的権利を完全に享受する。連邦に忠誠を誓うすべての市民は、その民族的出自にかかわらず、市民的権利を完全に享受する。国民統一政府は、いかなる形態の差別も許さないだろう」。
 *NUGは、今回、新憲法の起草に向けた準備の中で、1982年制定の国籍法を改正すべきであるという、市民権についての自らの理解を明確にしている。つまり、「この新市民権法は、ミャンマーで生まれたこと、またはミャンマー市民の子としてどこかで生まれたことを市民権の根拠としなければならない」。この定義は、フランス人にとっては当たり前だろうが、ミャンマーにおける真の革命を意味する。
 1982年制定の国籍法では、市民権の3つの段階を区別しており、その違いは対応する身分証明書の色によって指定されている。すなわち、ピンク色の身分証明書を持つ人には、完全な市民権が付与されている。これは、祖先が1823年[第一次ビルマ・イギリス戦争が始まる前年]以前からビルマに居住していた人、正規の国民として認められた両親から生まれた人に自動的に与えられる。青色の身分証明書は、[独立した年である]1948年の旧連邦市民権法の下で市民として認められた「準国民」用である[その多くは中国系、インド系、英米系]。グリーン色の身分証明書は、1948年1月4日以前にビルマ国内にいたことを証明でき、1982年以降に初めて国籍申請した「帰化国民」用である。身分証明書の交付は、国家評議会が通知する、ときには驚くべき理由による恣意的な例外や制限の対象となる。たとえば、帰化による市民権を申請する人は善良な性格でなければならないというのだ(第44d条)。
 これ以上複雑なことはないだろう。
 1990年代には、これらのカテゴリーにいずれにも当てはまらない住民にホワイトカードが配布された。しかし、それはいかなる権利をも与えるものではない。
 最後に、市民権は公式に認められた135の民族のいずれかに属することで認められる[現在の国籍法は、135の民族に対して「土着民族」として市民権を自動的に付与している]。これは不平等であるだけでなく、植民地時代に生まれた区分、つまり平地ビルマ族、周辺部の少数民族、輸入された労働者の間の区分にしたがって、(「外国人」とされた集団を拒絶するとともに)こうした[民族]所属の固定化の一因ともなっているのだ。
 このような約束とそれを実行することの間には長い道程があるのは明らかだが、この約束は、実際に世代間の断絶があること、ほとんど声を上げられなかった周縁部の人々が昨日思い描いていた「可能性」が、今日では、未来やポスト軍事政権について考えるすべての人々によって広く議論されていることを確認するものである。この断絶は、武装抵抗の拡大にも表れている。

武装抵抗:未調整の多様な展開

 軍部のクーデターに対する民衆の反対は全国的に明らかだったが、少数民族州の議会・政党・武装部隊の反応は、実際には慎重で様子見の場合が多かった。これらの少数民族州の多くで生まれた組織の集合体では、ある組織は軍事政権と停戦交渉をおこない、ある組織は軍事政権と戦った。この(戦いと交渉の)どっちつかずというのは、独立以来の伝統のようなものだ。この分野での新しい要因としては、以下のことが挙げられる。
 *中国の役割。中国は、投資(インフラ部門で顕著)と企業(特に繊維関連企業:工業地帯で抵抗運動に攻撃されてきた)を守るために、軍事政権との合意を絶対に必要としている。また、アメリカが封鎖可能なマラッカ海峡西側のインド洋へのアクセスを可能にする「ビルマ回廊」の開発を保証する必要がある。特に、中国はそこに戦略的に重要な石油やガスのパイプラインを持っている。国境地域では、チーク材から宝石まで、さまざまな取引がおこなわれており、その見返りとして、ミャンマー軍の将校の多くが金持ちになっている。北部国境では、中国は、民族運動が軍事政権に反対しないように強力な直接的影響力を行使している。これは非常に強力なワ州連合軍(UWSA)に対してのことである。ワ州連合軍はすぐれた武器を持つ約3万人の正規兵で構成されている。
 *ミャンマー軍による空軍と重火器の使用。ミャンマー軍は、これまでの大規模な紛争ではそうした装備を持っていなかった。ミャンマー軍は村々を爆撃し、住民の大量避難を引き起こした。カレン民族同盟(KNU)第5旅団の幹部は、軍事政権と停戦した理由を「人的損害があまりにも多くなったからだ」と説明する。彼らはクーデターへの抵抗で主導的な役割を果たすとともに、市民的不服従委員会(CDM)の代表者を受け入れて保護していたのだ。しかし、その幹部は、国民統一政府が攻撃を開始すれば、それに参加すると述べている。いずれにしても、カレン州では多くの反体制武装グループが生まれ、今も活発に戦闘がおこなわれている。
 *(NUGの一部としての)人民防衛軍(PDF)の結成。連邦軍の創設という話もあった。もしそれが周縁部の少数民族州の武装部隊を含めることになれば、現時点ではあまりにも野心的な計画になるだろう。そこで国民統一政府は、自らの支配下で、イラワジ川流域全体を管轄するPDFを創設した。PDFには、警察や陸軍からの離脱者や元将校が含まれている。
 *間に合わせの手段で行動する数多くの地域的集団の自然発生的出現。それらはPDFやNUGの指揮下に入っていない。というのは、PDFやNUGを(ときには、あるいは多くの場合?)経験上あまりにも官僚的な組織として不信感を抱いているからである。学校の新年度が始まる前に、警告として学校で爆弾を爆発させたのはこういった人々である。PDFはこうした行動を公式に非難している。
 *軍事政権支持者が不安を抱いていること。低地地域では、武力行使が軍部への正面攻撃という形でおこなわれることはめったにない。軍事政権のために働いて軍に情報を提供する情報屋や反対派地方政府から引き継いだ行政官などが対象となることが多い。
 *平野部でのゲリラ戦の開始。最近の動きとして、サガイン地区やマンダレー地区において、現実にゲリラ活動が報告されている。『イラワジ』紙が入手した情報によると、市民的抵抗運動のメンバー1000人が、間に合わせの武器を使って一連の連携した攻撃をおこない、約30人の兵士を殺害したとのことだ。マンダレーでは、PDFの基地として使われていた建物に入った際に、中佐を含む3人の兵士が殺害された。
 将来において、武力抵抗の調整(と武器の改善)が問題になるだろう。闘争における女性の役割についても同様であろう。女性の役割は、2月1日の軍部によるクーデターに続く反乱の最初の数時間から、すべての大衆的な社会部門(高校生、医療労働者、繊維労働者、公務員、教育者など)で目立つものだった。それは、密かに展開されている市民的不服従行動においても明らかだった。私について言えば、軍事的な分野での彼女らの役割についてはわからない。

抵抗長期化見すえ連帯運動を


 長期的な抵抗運動は、長期的な政治的・財政的連帯の発展と一致しなければならない。フランスでは、2月初旬すぐに、連帯を構築するための動員をおこなった組織はほとんどなかった。われわれは、ビルマの軍事・経済複合体に対する国際的な制裁の拡大を強く要求しなければならない。軍事政権に代わるミャンマーの合法的代表として、NUGの正式な承認を要求しなければならない。連帯の多様な構成要素間の協力を確保しなければならない。
 ESSF(国境を越える連帯のヨーロッパ)は、ミャンマーの抵抗運動との財政的な連帯を呼びかけている。ESSFは6080ユーロを集めて送金した。われわれは最近、このカンパ資金が国境地域を経由して受け取られ、難民への緊急の食糧・医療支援、必要な通信手段の配布、CDM―NUGの組織基盤の強化、地域的連帯との結合などのために配分されたという知らせを受け取ったところだ。
 フランス政府と大統領は、ミャンマーの状況についてあまり声を上げていないと言える。しかし、彼らは、政権との過去・現在のつながりを考えると、この危機におけるトタル社の役割ゆえに、ミャンマーの現状に特に関与している(訳注)。
 トタル社の労働者は、石油会社が軍政を支援していることに抗議してストライキをおこなおうと考えているが、「国際社会」から擁護されなければ解雇されることを恐れている。エマニュエル・マクロンは沈黙したままである。
 (訳注)トタル社はフランスに本社を置く多国籍石油企業で、ミャンマーでヤダナ油田からタイに至るパイプラインを運営している。(『インターナショナル・ビューポイント』6月23日)

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