ロシア議会選:結果と展望(10月18日発行)
体制の圧勝の陰に姿見せた抵抗
不満の表明は抑圧と不正でも隠せず
ロシア議会選が9月17―19日の日程で行われた。そこには不正と恫喝が伴っていた。草の根活動家のあらゆる努力にもかかわらず、ウラジミール・プーチンの「統一ロシア」が国家ドゥーマ(ロシア議会)の過半数を獲得した。これは、「統一ロシア」が体制が必要とする法律を通すために他の諸政党との連携に入る必要がない、ということを意味する。ロシア民衆は、国家の抑圧の強化と緊縮諸政策からなるさらに5年を予期している。
スマート投票で
議会選への挑戦
この選挙は、この段階では取るに足りないとしても、どのような変化をもたらしたのだろうか? そしてわれわれは今何をすべきだろうか? これらの問いに答えるために、キャンペーンの始まりに戻ってみよう。
6月6日、モスクワで重要な出来事が起きた。2021年議会選挙に対する1候補者としての、ミハイル・ロバノフの指名だ(本紙8月30日号参照)。ミハイル・ロバノフは、民主的社会主義者であり、労組指導者だ。彼の主な設定課題は、建設業からの公園や森の保護、質がよく手頃な教育や公衆衛生システムの建設、年金と賃金の引き上げ、定年引き下げ、市民の諸権利と自由の防衛、だ。
第4インターナショナルメンバーのグループを含むロシア社会主義運動は、ロバノフの指名を力を込めて支援した。われわれは、ステッカーを貼り、われわれの機関紙やリーフレットを配って、ミハイルが指名された地区の住民に強く働きかけた。このキャンペーンの目的に費やされなければならなかった金銭すべては、普通の有権者によってロバノフに寄付された。
ロバノフがどの政党のメンバーでもないという事実にもかかわらず、彼はロシア連邦共産党(CPRF)によって指名された。ミハイルはいくつかの理由からこれに同意した。第1に、独自立候補の場合では、彼の選挙区内で有権者から約1万5千筆の署名を集めることが必要になるだろう、そしてそれは事実上一定数の官僚政治の理由から不可能、ということだ。
第2に、CPRFからの立候補は、この党に希望を繋げている人々にミハイルが訴えかけることをより容易にした。こうした人々は、その社会・経済綱領を理由に共産党を支持したひとびと、およびこの党が「統一ロシア」への最も有効なオルタナティブを代表しているとして共産党に投票した人々の両者だった。
ロシアにおける発展した議会主義の不在の中で、有権者は、もっとも政治的に適した候補者にではなく、「統一ロシア」からの立候補者を打ち破ることが可能な者に票を投じることを迫られた。この方式の旗印は、政治犯のアレクセイ・ナワリヌイと彼の仲間が考案した、いわゆる「スマート投票」だった。
選挙の2、3日前、「スマート投票」ウェブサイトとアプリは、ミハイル・ロバノフを含む推薦候補者のリストを公表した。アレクセイ・ナワリヌイは元右翼ポピュリストであるという事実にもかかわらず、推薦候補者のほとんどはCPの候補者だった。それはロシアでは、自らを自由主義者と位置づけている人々が近年の選挙では共産党に投票したという、いわば逆説的な情勢が発展してきたということが理由だ。
2019年、モスクワ市議会をめぐる「スマート投票」のおかげで、「統一ロシア」が支持した25人の議員に対し、反対派議員は20人が選出された。したがって当局は、反政府ムードに焦点を合わせ、電子投票システムを通じた票の不正操作に頼った。
権力死守へ
無数の不正
権力にとどまろうと力を振り絞った「統一ロシア」メンバーは、議会内多数を得るためにできるすべてのことを行った。5千件以上の違反が記録されたが、私は、当局の恥知らずな政策について1例だけ詳細に書くつもりだ。
セント・ペテルスブルグでは、市議会に対する1候補者が自由主義派の「ヤブロコ」メンバーであるボリス・ウィシュネスフスキーだった。彼の選挙区ではさらに2人が候補者として登録されていた。彼らの名前は、……ボリス・ウィシュネスフスキーと……ボリス・ウィシュネスフスキーだった。彼らは親クレムリン候補者のアレクセイ・シュメレフとヴィクトル・バイコフだったが、選挙直前に名前と外見を変えたのだ。反政府派の候補者を彼の「妨害候補者」から区別することはほとんど不可能だった。そして選挙後の9月22日、数々の違反について不平を訴えようと本物のボリス・ウィシュネスフスキーがでかけた時、彼は、市の地区出張所間近で殴りつけられ、その襲撃者の中には先の候補者たちもいた。
投票期間中には、立会人への攻撃があり、投票者には消えるインク入りペンが渡され、そしていくつかの投票所では、監視カメラが「突如」映らなくなった。チェボクサリ市では、委員会議長が彼の違反を隠すために有権者リストを飲み込むことまで行った。
体制は勝利した
が変化も始まる
そしてそのような条件の中でさえ、「統一ロシア」は前回比で議会の議席を19失い、共産党は同じく15を増やした。読者は民衆のムードにおける小さな変化に気づくこともできる。彼らはゆっくりと左翼へと移行中、ということだ。こうして、極右ポピュリストのロシア自由民主党は18議席を失い、中道左派の「公正なロシア―真理のために」が4議席を追加した。
さらに、民衆がオルタナティブとして左翼にだけではなく、自由主義の諸理念にも転じる可能性がある、ということも明白だ。同時に、彼らは、社会的諸問題の解決で古い自由主義の諸政党が彼らの助けになっていないことを経験し、今や彼らの見解を表現する新しい組織を探している最中だ。
こうして、ひとつの事件となったこととして、2007年以後では初めて、4政党ではなく5政党が国会に入った。新しい政党は「新人民」(しかしながら、クレムリンとの明白なつながりがあるとして責められた)だった。しかしながらこの党の成功は、当局とのつながりというよりもむしろ、ふんだんに行われた街頭でのアジテーションのせい、と言ってよい。
しかし古い自由主義派の「ヤブロコ」党は、党指導者のグリゴリー・ヤブリンスキーが「スマート投票」支持者に「ヤブロコ」に投票しないよう強く勧めたという事実のおかげで、得票率が1・34%にしかならなかった。
2003年以後では初めて、「統一ロシア」がロシア全地域で勝利、とはならなかった。ハバロフスク地域、サハ―ヤクーツク、マリ・エル、ネネツのの自治地域では、より多くの人々がプーチンの党よりもCPに投票した。そこには民衆の不満があり、不満に対する吸引口となった有望な指導者がいた。これが意味することは、モスクワやセント・ペテルスブルグといった大都市だけではなく、「周辺」においても、組織された抗議の成長に向けた将来性がある、ということだ。
電子投票による
反政府派の敗北
ミハイル・ロバノフの勝利を達成し、数々の違反を妨げる目的で、ほとんどの投票所には同候補者の立会人が出向いた。これが、ロバノフが1万851票得票することを可能にした!
しかし残念なことに、草の根の活動家は誰一人、ロシアの6地域で組織された電子投票に影響を与えることはできなかった。たとえば読者がモスクワに暮らしていれば、読者には投票権があり、その時あなたはそれをどう行使するか、つまり伝統的投票か、それとも電子投票か、を選択できる。国営企業と自治体企業の多くの労働者は、彼らの職制が、解雇の脅しの下に、電子投票という「望み」について言明書を書くよう強要した、と不平をこぼした。
特定の候補者への投票を強要されることはなかったように見える。しかしながら、電子投票結果の正確さを確かめる第三者的な方法はまったくない。当局は単にわれわれに結果を告げるだけだ。
9月19日には、ミハイル・ロバノフを含む反政府派候補者が伝統的投票の結果によって、モスクワの15地区のうち9つで勝利した。しかしながら20日に当局は、電子投票結果を公表した。モスクワの選挙がもっぱら当局の候補者によって勝ち取られた、ということが「分かった」! ミハイル・ロバノフと他の8人の反政府派候補者は「敗北した」。しかし彼らは、当局が見え見えに電子投票結果を偽装したがゆえに「敗北した」のだ。
今後の課題は
草の根の運動
9月20日当日、共産党はモスクワ中心部で集会を組織し、そこには数百人の人びとが参加した。この集会が知らされたのが僅か数時間前であり、その日が休日ではなく、しかも雨が降っていた、ということを前提とすれば、それはずいぶんな数だ。この集会でCPRFは、電子投票結果は認めないと、そして議員になるための選挙に正当に勝利したそれらの候補者のために闘っていると告げた。
ミハイル・ロバノフが発言した時、群集は「ロバノフ! ロバノフ!」と唱和した。われわれの候補者は「この数ヵ月間、われわれは多くのことができるということを証明した。ロシア当局の期待を破壊したひとつの運動が生まれた。われわれは、わが国を切り裂いているとてつもない不平等に反対して人々が投票するのを見ることになった。彼らは一握りの者がすべてをもつ不平等に反対の票を投じたのだ」と語った。
ロバノフは草の根の運動を建設する必要にふれることを忘れなかった。「真の政治は選挙をめぐるものだけではない。それは、われわれの大学における、われわれの居住地における、われわれの地区における闘争に関わっている。これは、われわれの共通の利益を求める事業としての闘いだ。そしてわれわれは、この闘争を続けるつもりだ。われわれはより強くなった。われわれはこれまで以上のことを達成できる」と。
集会に参加した者すべてが心から共産党を支持していたわけではない。それゆえミハイルは演壇から「私が信じるところでは、異なった観点や立場に基づいて人々が票を投じた一人の候補者としての私の義務は、われわれを統一しているものを守ることだ。第1のことは、政治的不平等と経済的不平等に反対する闘争であり、第2は政治的抑圧と他の抑圧に反対する闘争だ。私はすべての候補者に、団結し、共通の要求を見つけ出すよう強く促したい」と表明した。
ソーシャルネットワーク上では、人々が結集でき、電子投票の廃止を求めることができるものとして、早くから9月23日と同25日に集会が告知されていた。民衆的な不平が高まる可能性に驚かされて、当局は早くも、電子投票結果を訂正するだろう、と公表した(にもかかわらず、この訂正には法的効力はないだろう、と注意を与えつつ)。
電子投票は選挙を偽装する無数の方法のひとつにすぎない,ということが心にとどめられなければならない。独立した立場の評論家は、当局は1300万票以上を偽造した可能性がある、と指摘している。そしてその票は全投票数の30%になるのだ。中央選挙管理委員会は9月24日に最終選挙結果を公表するだろう。しかしながら、できごとの真の結果は、反政府派の候補者たち、草の根活動家、さらに普通のロシア人が今後街頭に繰り出し、本当の、偽物ではない選挙結果が認められることを要求できるかどうかにかかっている。(2021年9月21日)
▼筆者はモスクワのロシア社会主義運動の活動家。(「インターナショナルビューポイント」2021年9月号)
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