ドイツ ベルリン市民が住民投票で画期的判断(10月25日発行)
大手不動産の接収・社会化イエス
新たな社会システムへの糸口に
ヴィクトル・ムッラー
今年9月26日ドイツの首都ベルリンの民衆が主導した住民投票で、はっきりした多数(56%)が大不動産グループの社会化を支持する票を投じた。
この住民投票は、すでに何年も続いてきた民主的に自己組織化されたキャンペーンに従ったものだった。それは、各々3千戸以上の、あるいは総計で約24万戸と見積もられている住居を所有する不動産グループに関係している。大手のフランスと外国のメディアは、この事態を一面にはしないかもしれない(同日に行われた議会選結果とは異なり)。しかしそれはわれわれが見るところ、ある種原理的な意味をもっているのだ。なぜならばそれは、共産主義の歴史的な綱領の心臓部にある理念と要求が、たとえば大資本グループの収用と労働者と民衆階級によるそれらの管理が、今日の世界で、世界の帝国主義秩序の支柱である諸国内で多数を勝ち取り得る、ということを示しているからだ。
客観的に有利な
諸要求が蓄積し
この大きなできごとは、めまいがするような家賃の高騰と数を増す借家人追い出しを背景に起きた。現地の法律は、しばしば表面的な「修理」を根拠に家賃を値上げするだけではなく、この値上げに耐えられないと思われる借家人を追い出すことをも、家主に認めている。ベルリンはこのところの年月、「赤―赤―緑」(SPD、緑の党、左翼党)連立によって統治されてきた。しかし住宅投機を抑え込もうとした彼らのおずおずとした試みは、居住費用の上昇を止める上で十分ではなかった。
ベルリンの住民投票はまた、ドイツにおける体制の明確な弱体化を明らかにした議会選と同時期に行われていた。この選挙は、記録的な棄権率と票の幅広い分散を特徴とした。将来のドイツ首相は、おそらくSPDのオラフ・ショルツとなるだろうが、2政党あるいは3政党からなる脆い連合を基盤に統治にあたらなければならないだろう。
特に労働者階級に厳しい打撃を加え続けている前例のない公衆衛生危機、経済的危機、また社会的危機を通した体制の全般的弱体化が、ベルリンの住宅市場の特殊性にのしかかっていた。実際ベルリンは、抑制のない住宅投機を背景に、ドイツ再統一以後前例のない価格騰貴を経験してきたのだ。これらの要素の組み合わせが、大資本家グループの社会化のような原理的に共産主義的な要求がはっきりした多数を勝ち取ることを可能にした。そのような要求は、2、3年前には依然まったくはるかに少数の観点だったのだ。
要求の実現には
力での強要必要
しかしながらベルリンの住民投票は、住民投票の精神において法律を制定するようにという、ベルリン市上院(市議会の同等機関)に向けられたある種単純な勧告という形態をとっている。つまりベルリン市上院は、有権者多数の見解に従うよう法的に義務づけられているわけではないのだ!
至近の住民投票(2017年9月)では、多数がベルリン―テゲル空港の維持に票を投じた。しかし上院の「赤―赤―緑」多数は票決結果を無視し、住宅、建設、航空の大グループを喜ばせた。これらの者たちには、古い空港を高級住宅地区に転換し、市外部に巨大な新空港を建設する非常に収益性のある計画があったのだ。
したがって明白なことは、ベルリン住民投票の勝利は勝利への1段階にすぎない、ということだ。いずれにしろ、上院の多数派を大不動産グループの実質的な収用に向かわせるよう強要するには、熱烈な決起を必要とするだろう。これらの大グループは、ドイツ大メディア内の中傷報道協調ですでに示してきたように、あきらめることはないだろう。
利益最大化のためならば彼らの借家人を追い出すこともいとわないこれらの資本家については、収用の見通しが具体化されるに応じて、われわれは一層暴力的になる方策をも予想可能だ。それゆえ運動にとっては、恫喝と抑圧を目的としたもくろみに抵抗できるような、また国際的な連帯に依拠できるようなやり方で自身を組織することが必要だろう。
社会化にイエス
しかし補償ノー
この闘争の挑戦課題は、ベルリン市民の多数による決定を尊重するよう上院を強制することだけではなく、住民投票の表現が空白のまま残した2点を定めることにもある。まず住民投票は、収用の見返りとして、「補償は市場価値を十分に下回る」と約束している。しかし市場価格は法外であり、これこそが住民投票の理由なのだ! 市場価格を「十分に下回る」補償であっても自治体を破産させかねないだろう。明確なことだが、その時上院は、公共サービスで抜本的な節約を行い、またおそらく借家人と小資産所有者に法外な地方税をも課して、住民に重い犠牲を強要しなければならなくなるだろう。
したがって、ベルリンの労働者階級の利益という点では、大資本グループの未曾有の収用を強要することが必要だ。補償なしの収用という考えは確実に上院の多数を、そして富裕な住宅投機者……をもっと喜ばせないだろう。しかし、住宅のサメに払われると思われる「補償」のユーロすべては、残りの住民によって負担されなければならないのだ。
第2に、これらの住宅が社会化されるや否や、決定的な問題は、それらがどのように、したがって誰によって管理されるか、になるだろう。フランスの人々は、主に現地の被選出公職者と国家の代表者たちによって管理される「公共住宅事務所」の不透明さをよく知っている。ちなみにこれらの管理者の関心と心配はしばしば人々のそれらとはかけ離れているか、あるいは正反対でさえある。
住民投票は管理に対し、「職員、借家人、『都市コミュニティ』の民主的で多数の参加に基づいて」と規定している。社会的住宅の日常的管理を行う被雇用者が「参加する」こと、また借家人が「参加する」ことは最低限のことだ! しかし「民主的な参加」は曖昧な記述であり、それは、現実に誰が決定にあたるかを保証するものではない。そして、「都市コミュニティ」が何であるか――それを通して現地の被選出公職者を再導入する小さな扉とは別の――を正確に知る者は誰もいない。
社会住宅の管理には家賃水準、住宅の割り当て、さらにその修理に関する諸決定が含まれているがゆえに、上記の問題は重要だ。したがって、それらの管理は、手ごろな価格でまともな住宅を見つけることができることを死活的に必要としている人々の責務、つまりは住民の責務でなければならない、ということは正しい。
具体的には、管理はたとえば、所得と資産の一定水準を超えない市の住民全員によって選出された、社会化された住宅(および公共住宅の現在の空き家)の管理委員会に割り当てられてもよいだろう。それはもっとも公正な方法であると思われるが、しかしわれわれには、自治体レベルであろうが連邦レベルであろうが、現在正規とされている諸制度がこれを受け入れることは不可能だ、との疑念がある。
労働者のため
の権力の展望
ベルリン市上院に法制定を強制することによって、収用に対するあらゆる対抗相手を排除することによって、また労働者階級による管理を提案することによって、大不動産グループの社会化を求める運動は単一の住宅問題の先へと進むと思われる。それが自治体と連邦の諸制度の正統性に真っ向から挑戦すると思われるからだ。
こうしてそれは、富裕層の権力に対立するある種の権力を設立すると思われる。そしてそのことは自らに、ドイツの首都の労働者階級が抱える必要を満たす、また彼らの熱望を実現する綱領を課す可能性もあると思われる。それはそうすることで、労働者階級による政府の萌芽を構成するだろう。
大不動産グループの社会化は始まったばかりにすぎない。しかしそれはすでに、われわれにとって教訓が豊かだ。それは、暮らしに費用がかかりすぎている他の都市の住民に好適な考えを提供する可能性があるだけではなく、何よりも、それが提起する原理的な問題もまたもっと十分に知られる価値がある。そしてその後者の問題とは、住民の必要を満たすようなやり方で、権力を行使することがもっともよくできるのはどの社会階級か、という問題だ。それは明らかに、大不動産グループ……が属している階級ではない。
▼筆者はフランスの「ランティカピタリスト」紙(フランス反資本主義新党週刊機関紙)通信員。(「インターナショナルビューポイント」2021年10月号)
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