ノルウェー2021総選挙:左翼への転回

福祉国家の後退と分断進行の中 緑の党を含む左翼への支持増大

右翼を破った政権交代の行末は未だ不透明

ヨハネス・ヴィルム

新しい転回の下の中道左翼政権

 ノルウェーでは今年9月13日に総選挙が行われ、まったくのブレア派である社会民主主義政党(労働党、AP)が、中道派農民政党と左翼の3政党と連携して、ヨーナス・ガール・ストーレを首相とする新たな社会民主主義政府を形成する主体として現れている。そしてこの首相候補者が自由主義派―保守派の現首相、エルナ・ソルベルグに置き換わるだろう。保守党のソルベルグは政治的右翼諸政党の連携を変えることで2013年以来統治を続けてきた。そしてこの連携には、もっぱらその反移民、また反課税の点で知られたポピュリストの進歩党(2013―2020年)も含まれていた。
 引き継ぐことになる新たな連合は、イェンス・ストルテンベルグ首相(2005―2013年、後NATO事務局長)の下でノルウェーを統治した赤・緑連合に似ているように見えるが、注目すべき違いもいくつかある。
 中道側では、おそらく赤・緑連合の一部を形成する諸政党の中でもっとも保守派である地方の中道派農民の中央党(SP)が、地方病院の閉鎖のような、この国の非都会部分に極めて好ましくない諸政策への反応として、その規模が以前の2倍までに成長した(2005年の6・5%から今年の13・5%へ)。この党は、多数派を形成するために必要とされているが、その政策の多くは古典的な左翼ではない。社会民主派(AP)は、先と同じ時期に35%から26%へと後退した。
 おそらく再度赤・緑政権の一部になる3番目の政党は、社会主義左翼党(SV、1975年に共産党を含む左翼諸政党の合同として結成された)だ。2005年の政府加入以前、この党には世論調査でほぼ15%という強力な支持があった。この党にとって政権内の年月はひとつの惨劇だった。2011年、その支持は4%を僅かに上回るまでに下落した。政府参加に向けた戦略の欠落がどのようにして支持急落を引き起こしたかについては、書かれたものが多くある(たとえば、ブラーテン/エケラント、「左翼党と統治問題―ノルウェーと欧州における経験の批判的比較」、インプレコール598号)。
 それでも2017年までにSVは、指導部とスタイルの変更を経て、再び成長し始めていた。同時に他の2政党も、その左に位置するものとして議会に参入を果たした。すなわち、赤党と環境保護派の緑の党(MDG)だ。

反貧困要求基礎に赤党が伸長

 赤党(以前はレット、赤投票連合、RV)は元々、1973年に毛派の労働者共産党(AKP)の選挙用組織として形成されたのだが、党内にひとつの党を形成している毛派政党を抱えて、1980年代後半に他の政治的観点も許容する、またRV管理の一定レベルを党員ではない個人に任せる、そうしたもっと自律的な政党になった。2007年には、AKPとRVが合流し赤になり、指導的党員たちは毛沢東主義とスターリニズムから離れた。
 RVは1993―1997年の時期に議員を1人確保していた。そして赤は新しい標章の下で、2017―2021年にも別の1議員を得た。この党は今年の選挙で8議席を獲得した。この党は、1993―2013年のあらゆる選挙で1―2%を、2017年には2・7%を、そして今年は4・7%を得た。
 対比的にデンマークでは、赤緑連合が1994年以後のすべての選挙で、2・2―7・8%の得票率に基づいて国会に複数の議席を獲得してきた。国会参入に必要な得票率要件はノルウェーの場合デンマークより高く、4%になっている。
 赤はその存在のほとんどの間、SVと同じ種類の有権者を目標に置いてきた。しかし近年赤は、知識人や教育水準の高い層を目標にすることから離れようと挑んできていた。赤は代わりに、新たな労働者階級政党になろうとしてきた。赤は、党支持者の特徴を変える点で成功を見たものとなった。それは部分的に、反移民感情に合わせ、ノルウェーでの原油抽出(さらにこれ以上の原油の新たな埋蔵探査)に期限を設けるような環境保護の要求を引き下げている、とある者は言うと思われる言葉遣いや諸政策によっている。党はまた、石油に対するほとんどのオルタナティブをも拒絶し、代わりに、国際的なエネルギー生産/消費構造の一部になるよりも自給のノルウェーを創出することに焦点を絞っている(「ドイツが電力を必要としていることを理由に、なぜノルウェーの自然が破壊されなければならないのか」、赤として新たに選出された国会議員のミミル・クリスハンソン)。
 赤がその言葉を研ぎ澄ましてきたもうひとつの分野は、反貧困の諸政策分野だった。
 ノルウェーには2014年以後相続税がまったくない(スウェーデンは2005年に相続税を廃止し、デンマークはそれを今も集めている)。そして、過去8年にわたって社会計画ではほとんど発展を見なかった状態と組になって、相対的には低い水準から始まっているとはいえ、富裕層と貧困層間の分断のゆっくりとした高まりがあるのだ。そこから、炊き出しの前に並ぶ行列がもっとも見える象徴となっている。
 加えて2019―2021年には、失業者に対する規則の点で、ノルウェー全国雇用局(NAV)がEU/EEA(訳注)が認めているものよりもはるかに厳しくなっている、ということが分かった。これは、ノルウェーが世界でもっとも発展した福祉国家だという全般的受け取りに一定の疑問を突き付けた。
 赤は、不平等を低めるという諸要求に焦点を絞ってきた。そこには、公的医療保険制度に歯科医も含めること、必要としている人々に対するもっと多くの助け、相続税への復帰、貧困層や失業者に対する国家による圧力の全般的な緩和、が含まれている。他の要求は、私有化の巻き戻し、そして私的な職業紹介所の禁止だった。

環境派政党の緑の党も議席増


 環境保護派の緑の党(MDG)は、1988年に創立され、同じ年には似た名称の環境保護緑の党(MP)がスウェーデン議会に参入した。この党はノルウェーでは、2013年(2・8%)まで得票率1%未満にとどまり選挙での大きな成果はまったくなかった。2013年以後2回の選挙で得票率は上昇したが(2017年に3・2%、2021年に3・8%)、今もグループ全体として議会に参入するために必要な4%には足りない。それゆえ彼らは今回、議席数を1から3に引き上げるだけだろう。この党は今年もグループ全体として議会に参入はしなかったとしても、その前進はおそらく赤の前進よりも急速となった。
 この党は、それが政治的左翼の側に位置しているとの理解に基づいて出発したわけではなかった。オスロ市議会に18年間で初めて赤/緑の多数派が生まれた時この党は、彼らがどちらと連合を作るかを決めるために、まず保守派/自由主義派、そして中道諸政党の左翼と話し合わなければならないだろう、と公表した。しかしながらこの党は、SVおよびAPと連合を形成した後、この勢力編成の一部として自己を確定した。とはいえ、その言葉遣いは全般的に赤やSVのそれよりもっと国際主義的であり、より親EUであり、また資本主義批判はもっと弱い。
 MDGの特徴はもっぱら都会政党というものであり、暮らしに適した都市、化石燃料停止、より良い公共サービス、より田舎の地域で野生生物が自由に動き回る自由、といった目標を定めている。しかしながらある者たちはMDGの政策を、彼らが提案する諸々の税の多くを理由とする貧しい人々への結果に無知――選挙期間中に世論調査で党が落ち込んだことに対するあり得る原因――である、と理解した。
 赤もまた、そのまったく異なった特徴にもかかわらず、その基盤を都会地域の中に確保し、ノルウェーの都市化、およびもっと遠方のノルウェー人にも相対的な都会風ライフスタイルで過ごすことを可能にしている新技術が、部分的にこれら2政党の近頃の成功を説明しそうだ。

少数政権と左翼野党の綱引き

 長期的にはゆっくりとした成長だったとはいえ、赤は2017―2021年で得票率を2倍化し、2021年には7万票を上乗せした。MDGも2万2500票、SVも5万1000票をそれぞれ上乗せした。オスロでは、赤の得票率が8・3%になり、彼らは特に数多くの外国人を抱える地域で良好だった。オスロでは、SV(13・27%)、赤(8・26%)、MDG(8・48%)が合わせて30%以上を集めた。
 新政権の正確な姿は今も不確かだ。過半数のためには、ふたつの新規参入者である赤とMDGの票は必要でないものの、SP、AP、SVが必要になる。スカンジナビア議会人の伝統に従えば、後者の政党は建設的野党として声を上げる――彼らにとって有意義である場合は政府と協力し、そうでない時には政府反対の票を投じる――よう務めることがありそうなことだ。政府は部分的に、今は右翼野党になるはずのものからの類似した攻撃に対抗するために、左翼からの攻撃を利用できるようになりそうだ。
 知ることがより難しいことは、SP、AP、SVの力学がどれほどまで機能しきることになるかだ。一方で中道のSPは、その党勢強化が影響力増大に移されるよう求めそうだ。他方SVとAPは、どちらも議会で永続的な野党として確定することに満足はしなさそうだ。それゆえ彼らは、赤とMDGの支持者が復帰するよう説得する何らかの動きを行うことが必要になるだろう。(2021年9月28日)

【著者による追加】
 SVは9月29日、当面政府参加に向けた交渉から引き下がる、と公表した。したがって政権は、SPとAPから形成されそうだ。しかし彼らはそれでも、議会内多数を維持するためにSVに依存せざるを得ないだろう。それゆえ、これは議会内のもっと開かれた討論に導く可能性があるが、新政権が実行できる政策に対するその効果は限定されるだろう。左への共通の野党であるということが、SV、赤、MDG間の協力に対するさらなる可能性に導くかもしれない。SVはそれでも、現議会会期中の後半期に政府に加わるかもしれない、と公表した。これは、議会内過半数を欠いた政府の場合に新たな選挙を行うという、デンマークやスウェーデンにはある規定のないノルウェーでは、まったく普通の術策だ。
▼筆者は、ノルウェーの第4インターナショナル支持者。(「インターナショナルビューポイント」2021年10月号)
(訳注)EEA(欧州経済領域)は、EFTA(欧州自由貿易連合)加盟国の非EU国が、EU単一市場への参加を可能にする枠組み。


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