ポルトガル 来年1月に前倒し選挙

社会党政府の右転換策動粉砕へ社会変革争点に攻勢的選挙戦へ

緊縮逆転貫徹へ左翼ブロックの強化が鍵

アドリアノ・カムポス

 2015年末、議会選挙はポルトガル政治に前例のない筋書きのドラマを引き起こした。ペドロ・パソス・コエロ(PSD、社会民主党)とパウロ・ポルタス(CSD―PP、人民党)が率いる右翼連合は、4年間トロイカの緊縮計画を適用してきたのだが、最大票数――得票率37%、102議席――を獲得した。同時に社会党(PS)は得票率32%、左翼ブロック(ブロコ)は同10・2%、そしてポルトガル共産党(PCP/PEV)は8・2%をもって、総計122議席の権限を委任された(注1)。
 当時の大統領のカバコ・シルバの指導性の下に、右翼が政府を形成した。がこの政府は、直後に不信任投票に直面せざるを得ないことを前に、アントニオ・コスタが率いる社会党政府に道を開いた。こうして「ゲリンゴンカ」(注2)が誕生した。

2012―2019年
緊縮政治からの後退を強制

 社会党は4年間、左翼ブロックとPCPの議会での支持に基づき、政府への両党の参加なしに統治にあたった。選挙キャンペーン中にも左翼ブロック全国指揮者のカタリナ・マルティネスは、PS史上もっとも右翼的な綱領に基づいて運動を続けたアントニオ・コスタに挑んだ。こうして社会党は、レイオフの緩和、雇用主による社会的拠出の削減、さらに年金に関する16億ユーロ削減を断念した。これが2党間の対話に道を開くことを可能にした(注3)。
 彼の左に位置する100万票に強いられて、少数派である右派のアントニオ・コスタは、ブロコとPCPと別々の協定に署名した。そしてそれらには、新たな私有化の阻止からトロイカの下で削減された所得の取り戻しまで広がる、広大なリストが規定された。ちなみに後者は、最低賃金の引き上げ、および社会的諸手当の強化を通じるものだった。
 PCPは変わることなく3党協定を拒否した。そしてそれが、交渉に当たっての強い立場をPS政府に与えた。議会多数派の形成のためには左翼ブロックとPCPの両党を必要としたからだ。この4年間の成り行き全体にわたって、対立と合意された諸方策の不完全な適用の後、国家予算に関する毎年の交渉がそれぞれ続き、左翼にとっての追加的な成果に導いた。その事例が、PREVPAP(注4)、「自営」労働者の社会的保護、大学授業料引き下げ、進歩的な方向での新たな原理的な公衆衛生法、自殺幇助の脱犯罪化の進展だった。後者は今も進行中だ。
 緊縮諸方策の逆転は協定の共通の基準点として役立ったとはいうものの、特にEU諸条約の指令、金融制度に抱え込まれた寄生的な利子追求、さらにトロイカに強要された労働法といったものとの関係で、現存の妨害物がすぐさま現れた(注5)。これらの分野のどれひとつに対しても、PS政府は、左翼と交渉すべき構造的変革への積極性を自ら示すことはなかった。

2019年
文書に基づく改革実行の終わり

 2019年、議会選における民衆の投票は、PSD(28%)、CDS―PP(4・2%)、リベラル・イニシアチブ(1・3%)、チェガ(1・3%)(注7)、総計86議席という形で、PSに対峙する右翼にあらためて少数派を確定した。PSは36・3%、108議席でその立場を強め、左翼ブロックは9・5%で19議席を維持、PCPは6・3%、12議席でその支持を幾分失った。
 この新しい光景の中でPSは、もはや両党からの議員を同時に必要とはせずに、左翼ブロックないしはPCPと議会多数派を形成することに自身を限定できた。左翼ブロックは、ひとたび所得取り戻し計画の重要な部分が実行されるや、PSに議会での新たな取引に準備ができていることを明らかにした。しかしそれには前提条件があった。つまり、労働法の、トロイカが強要した後退点(時間外賃金の引き下げ、休暇日数の削減、退職金計算の基礎日数の、労働年当たり30日から12日への引き下げ)の廃止だ。
 PS政府は、この前提条件と新たな協定の可能性を公式に拒絶し、PCPの位置を高めた。この党は、合意の文書化という方法論を拒絶し、単純な毎年の予算交渉の方を選ぶと断言していた。新たな協定に向かうことに対するPSのこの拒絶に関して、理解を可能にするのは3つの要素だ。
 第1は、経済分野および労働条件における決定から左翼を排除することに賭け、権力への右翼回帰という脅威に向けた恫喝に賭け、PSを体制の中枢政党として確立するという、アントニオ・コスタのマクロンの戦術との連携だ。第2は、労働法分野におけるトロイカの限定的基準を永続化しようとの、雇用主陣営が組織した圧力への迎合だ。そして第3の理由かつ2015年以来のアントニオ・コスタの戦略的路線が、絶対的多数の追求、将来のPSを左翼に反対するものへとあらためて位置付け直すことに向けた必要な1歩、ということだ。

2020年
パンデミックと構造的諸困難

 新型コロナパンデミックはポルトガルの福祉国家と経済の構造的不平等並びに弱さに脚光を浴びせた。数十万に上る不安定労働者が、特に労働の諸関係が非公式であるか顧客数に依存している人々――家内労働者や文化や旅行業の労働者――が、パンデミックの第1波でその職を失った。まともな住宅の欠落は、住民や移民労働者部分の公衆衛生的な保護を危険にさらしている。公共事業体への要求は前例のないレベルに達した。
 2020年に貧困率は25%上昇したが、一方百万長者の数は16%も増えた。政府による組になった関連する諸方策(レイオフの犠牲者への諸手当、例外的援助、水道や電力のカットの凍結)の実行があっても、ポルトガルは、危機への対応ではEU平均よりも相当に低く、非常方策に注がれたのはGDPの5・6%相当にすぎなかった。
 予算対応の弱さや不平等の広がりは、左翼ブロックが勧告した諸方策を政治討論の中央に戻した。全国医療サービス(NHS)に要求された努力は、医療労働者の不足を明らかにした。その労働者たちはそれまでに、より良い賃金を求める中で私有部門に転換されていた。
 トロイカの労働法は、大企業における大量人員合理化を促進し、不安定体制に油を注いでいた。ノボ・ブランコ(注8)がつくり出した資金の穴は公金を日干しにし続けていた。非常所得支援局(AER)(注9)は数千人の労働者を背後に取り残していた。
 これらすべての点でPS政府は左翼ブロックの提案を拒絶した。そしてブロコは予算に反対票を投じた。2021年予算の承認は、PS議員の支持投票に加えて、PCP、PEV、PAN、および無所属のクリスティアナ・ロドリゲスとホアキネ・カタル・モレイラの棄権により可能になった(注10)。

2021年
綱領への民衆的支持獲得めざし


 2021年、PS政府は左翼の前進を押さえ込むという彼らの戦術を適用し続けた。大統領職に対する保守派候補者、マルセロ・レベロ・デソウダの勝利は、支持者のほとんどを動員したアントニオ・コスタとルイ・リオ(PSD指導者)の支援に基づく、中道に向けた路線によって有利にされた。
 PS指導部は、マルセロの勝利を彼らの中道路線の強化として見られたがった。そして彼らはこの勝利を確保した。アントニオ・コスタは、文書化された協定なしに時々に応じて選択することにより、左翼から承認された予算を確保するという彼の選択を打ち固めることができた。他方で議会のPSは各月、基本的なテーマで右翼と並んで票を投じた。
 成功は見なかったもののPSが「復興・回復プラン」の資金配分を基礎に勝利を誇る主張をもくろんだ2021年9月の地方選の後、2022年予算案が10月に提出され、中道に向かう路線と予算拘束(国債制限)政策を確証した(注11)。政府は、EU予算条約の規則凍結のおかげで利用できる経済的余地を拒否し、公共投資、エネルギー危機への対応、不平等との闘い、さらに賃金引き上げの分野での任務を引き受けなかった。しかし、左翼が行き詰まっていると分かったものは、何よりも公衆衛生、年金、労働法の分野においてだ。
 左翼ブロックは交渉対象として9つの方策を提案した。しかし、そのすべては全体として、あるいは部分的に拒絶されたが、その部分も決定的な側面だった。つまり、公衆衛生の分野では、デディカカオ・プレナ(注12)と補助医療技術職の創出、年金の分野では、長期に拠出してきた、また困苦職で働いた受給者に関係する削減を廃止するための年金再計算と「引き下げ要素」の無効化だ。さらに労働法分野では、時間外賃金、休日、退職金、団体交渉に関するトロイカ以前の規則の再確立、があった。社会党は事実上これらすべての分野で、彼らが野党時代似たような立場を擁護していたのだ。
 PCPの場合、それは要求を、最低賃金、年金、無料の子どもケアサービスに絞った。そして初めて、国家予算交渉に労働法を含めた。
 この予算案が提出されるやすぐさま、大統領のマルセロ・レベロ・デソウダは、予算案否決の際には国会を解散すると諸党を脅し、彼の党であるPSD内部で新指導部の競争相手であるパウロ・ランゲルの立場を強化しようと策謀に出た。大統領の脅しは、憲法上の基礎を欠いていた(予算案不承認は議会解散を求めていない)が、交渉におけるコスタの戦術的硬直性を促進した。そして彼に再び、彼の演説から左翼への譲歩に戻る可能性を排除することもなく、こうしてブロコとPCPに双方の論点に関する圧力をかけようとしつつ、絶対多数を求めるアピールに向け政治的危機を利用する余地を与えている。
 アントニオ・コスタ政府が提案した国家予算案は、PS議員の票とPANとふたりの他政党議員の棄権しか獲得できず、2021年10月27日に否決された。11月4日、大統領は議会解散と来年1月30日に行われることが予定された前倒し選挙を公表した。

2021年
左翼は綱領支持求める運動へ


 前倒し選挙の告知は、民衆的不信が広く行き渡った空気と左翼へのメディアによる圧力の中で到来している。左翼ブロックは、その交渉提案をはっきりと提示し、政府の柔軟性のなさをあからさまにした後でも、財政の安定性に傾いている民衆諸層との対話を断念していない。
 右翼は、計画されている3つの大会とふたつの内部的対立の進行(PSD内とCDS内での)をもって、この選挙に出発しようとしている。そして右翼はキャンペーンの中で、極右のチェガを相手とする将来の連携に関する主張を調整するだろう。この右翼が過半数の票を得ることができるということはほとんどありそうにはない(そしてそれを指し示す世論調査はひとつもない)。PSの絶対多数に関する限り、それはアントニオ・コスタの計算の中にあるだけだ。
 選挙は勘定の清算であってはならない。左翼ブロックに強さを与えることが、左翼の立場からの交渉に向けた新しい勢いに対する鍵だ。それが基本になる。(2021年11月2日)

▼筆者は左翼ブロック全国指導部の一員、およびポルトガルの第4インターナショナルメンバー。
(注1)ポルトガル共産党は1982年以来のすべての選挙に、環境政党の「Os・ベルデス」(PEV)とともに統一民主連合(CDU)として立候補してきた。後者は欧州の緑の党とは異なり、PCPからの戦略的かつ財政的自律性はまったくない。
(注2)「ゲリンゴンカ」は「奇妙な仕掛け」と翻訳できる。それは右翼のパウロ・ポルタスにより使われ始め、彼は2015年、その連合はすぐさま崩壊するだろう、と告げた。
(注3)社会党はその選挙綱領と公表文書の中で、以下のことを提案していた。すなわち、解雇手続きで雇用主にもっと大きな力を与える法的定式を考案すること、年金凍結の保証、単一社会税――労働者と雇用主が払い込む社会保障拠出――の引き下げに向けた動き、といったことだ。
(注4)ブロコと政府間交渉の一成果であり、PREVPAPは、公的行政機関における不安定契約の例外的正規化の計画だった。それは、数千人の不安定契約の正規化と永続化を可能にした。2016年には、「不安的国家」プラットホームが、不安定性に反対して闘う数え切れない団体を動員することで、国家部門の全不安定労働者の統合を求めて闘うことを目的に始められた。
(注5)2011年から2014年の間、右翼政府は労働法に関するトロイカの計画を実行した。休日数と公休日数の削減、時間外賃金の引き下げ、団体交渉の制限、退職金の引き下げ、一時的作業の臨時化と下請け化、といったことだ。
(注6)ウルトラ自由主義の政党、EU議会政党ブロックの欧州リベラル・民主主義者連合(ALDE)に参加。
(注7)アンドレ・ベンチュラ(元PSD指導者)に率いられた初発型ファシスト政党、右記政治ブロックの「アイデンティティと民主主義」(略称ID、イタリアの同盟、フランス国民連合、ドイツのためのオルタナティブ、ベルギーのヴラームス・ベラングなどが結集)に参加。
(注8)元バンコ・エスピリト・サント、ポルトガルにおける主要なポスト4月25日経済グループ、全政府に抑えようのない影響力をもち、2014年に破産にいたり、公的財政に対し約70億ユーロの損失を残した。
(注9)パンデミック期間に仕事からの所得か、社会的給付の利用権を失った人々向けの諸給付。
(注10)PANは動物愛護の政党。元ユーロ・アニマル7のアニマル・ポリティクスEU(APEU)に参加。このブロックはEUの11の動物愛護政党を結集している。クリスティアナ・ロドリゲスは元PAN議員でありこの政党から分裂した。ホアキネ・カタル・モレイラは、ルイ・タバレスが率い、DiEM25に参加するLIVRE党の元メンバー。
(注11)PSは、最大の自治体議会数に基づき最多票を獲得した政党であるにもかかわらず、首都を失った。ペドロ・パソス・コエロの元閣僚で、緊縮諸計画の実行に責任を負う主な人々のひとりであるカリオス・モエダスが、PS候補者のフェルナンド・メディナを僅差で破りリスボン新市長になった。
(注12)公衆衛生管理当局に財源を提供し、医療労働者が専任としてまたフルタイムで、NHSに自らを投入できるようにするひとつの仕組み。(「インターナショナルビューポイント」2021年11月号)

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