ドイツ 連立政権協定
対抗構想に基づき新連立政権に立ち向かおう
社会と環境の問題は技術への投資で解決可能、が根本精神
アンゲラ・クライン
昨年の議会選を経て、ドイツで新たな連立政権が発足した。社民党出身の首相をいただき、緑の党が支えるこの政権には、社会政策や環境政策の点で一定の進歩性を示すのでは、との期待も寄せられている。実態はどうだろうか。以下で現地の同志がそれを検討している。(「かけはし」編集部)
クライメート・ニュートラリティ
簡単に言えば、交通信号政権(今回の選挙結果を受けて発足した社民党、緑の党、自民党による新たな連立政権は、各党のシンボルカラー、赤、緑、黄色にちなんでこのように呼ばれている:訳者)の連立協定は、1・5℃目標に対する明確な拒絶だ。それはもはや言葉上でも維持されていない。
この政府が達成したがっている気候目標は、極めて軟らかく、つまり、2045年までのクライメート・ニュートラリティ、と定式化されている。クライメート・ニュートラリティが意味するものは、プロセスや活動が気候に影響を与えない、ということだ。これは、あり得るすべてのことがCO2排出を相殺できる限り、CO2排出が可能になる、ということを意味している。その相殺とは、追加的なCO2の掃きだめ、排出権取引、その他だ。さらに、石炭の漸次廃止は2030年までに実現されなければならない、と言われているが、しかし「理想的には」と言うのみだ。すなわち、それがそうして起これば、ということだ。
政府の行動を導く拘束的な目標は全くない。確かに、若い世代の未来を危険にさらさないことを目的に連邦憲法裁判所がすでに求めている仕組みも全くない。つまり、諸方策が十分か否かを点検するために利用可能な暫定的な目標が定式化されている仕組みは、全くないのだ。
化石燃料の置き換えは、もっぱら市場を基礎とした手段によって、つまり、再生可能エネルギーが化石燃料を市場から追い出す、ということを原理として機能する産品によって、達成されることになっている。これは、内燃機関の場合にはっきりと見ることができる。つまり、その終わりに向けた確定された日付はまったくない。それは2030年までの可能な限り早期に市場から消えなければならない、と言われているだけなのだ。
気候の方向転換が機能するか否かは、こうして企業の支配下に置かれている。そして国家はあらためてその保護機能を放棄している。
再生可能エネルギーへ扉開放
同時に、交通信号「政党」はその政権綱領の中心に化石燃料放棄を置こうとしている。政権は今、それを再生可能エネルギーで置き換える極度に野心的な計画を追求している。風車と太陽光電力が大々的に拡張されることになり、建築産業向けには屋根計画があり、新たな建物は低エネルギー住宅であることとなり、自動車は電力駆動に転換されることになっている。この目的のために、外国製品に依存しないよう、ドイツ国内にバッテリー工場が大規模に建設されることになっている。
しかしながら、これらの方策は重大な勧告によって妨害されている。政府の行動の主な目的は、経済成長を、こうして生産高を最大限まで押し上げることなのだ。しかしながらこれは、電力需要を大幅に引き上げることに導くだろう。実際政府は、今日の545兆ワット時から2030年の680―750兆ワット時への増大を予想している。政府は、この追加的な電力がどこから来るのかを語っていない。その些細とは言えない部分はおそらく輸入されるだろう。いずれにしろ交通信号政権は、他の諸国、東欧の国々やグローバル・サウスの国との気候連携に狙いを定めている。もちろん、ここに向けたひとつの道具が開発援助だ。
他方、十分な程度で仮定されてよいことは、単純に、化石燃料の漸次消失は実現しないだろう、また国自身の「軟らかな」気候目標すら守られないだろう、ということだ。その時われわれは、まさに残念なことになるだろう。諸企業が今賭けていることは、その時までに、過剰なCO2を大気から吸収し、それを地中に捨てるために適した技術の準備ができているだろう、ということだ。それは人々を見下すようなゲームだ。
資本蓄積の新たな局面への野望
エコロジーの観点から見た時、連立協定中の主な欠陥は、それがエネルギー転換と拡張にのみ焦点を当てている、ということだ。つまり、省エネへの言及は全くない。そしてその省エネは、一定の経済領域が刈り込まれることを求めると思われるのだ。しかしそれは、悪魔の所行となるだろう。逆に、政権の主な目標は、経済成長に向けあらゆる水門を開くことにある。
エネルギー移行はもっぱら、可能なところでのエネルギー効率改善を補足とした、駆動方式移行として理解されている。したがってこれらは、CO2排出削減に導くと想定されている純粋に技術的な方策だ。しかし、気候の破局を――そしてまた他の生態系の破局、たとえば種の縮小、水、大気汚染、その他を――本当に引き起こしているものは、過剰に生産しようとする資本主義に固有の衝動だ。結局それが、利潤を生み出す唯一の方法だからだ。
ドイツはこの計画に基づいて、2・5―5℃という地球温暖化への道筋上で、G7の仲間と取引の最中だ。その道筋をこそ、国連「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が今予想している。これに向けて交通信号連立が差し出しているただひとつの予防策は、対洪水惨事防護の個人的、技術的拡張だ。
われわれはそれを冷静に凝視しなければならない。交通信号連立の主な目標はパリ協定の遵守ではないのだ。彼らの終極的目標は、環境的再構築を資本蓄積の新たな局面に向けた跳躍台として利用することだ。
ドイツ資本の重要な部分は、再生可能エネルギーへの移行とデジタル化に、大きな市場を、また競合相手にまさる技術的優位性を獲得し、こうして彼ら自身の世界市場での存在を拡張する機会を感じている。
協定全体はこれを導きに書かれ、それはまさしく始めに次のように語っている。すなわち「気候危機はわれわれの暮らしを危険にさらし、自由と繁栄と安全保障を脅かしている。強まる世界的な競争を前に、ドイツとEUは、その経済的強さを再確立しなければならない。国際的な系統的競争の中で、われわれは民主的な連携相手と共に、断固としてわれわれの価値を守らなければならない」と。
そして「社会的―エコロジカル市場経済」の章もまた、以下の文で始まっている。つまり、ドイツ経済は世界的競争の中で遠大な移行プロセスを前にしようとしているがゆえに、したがってわれわれは「わが国の経済的強さに新たなエネルギーを与えるという任務」を理解している、と。
おとりとペテンの市民参加
この綱領の内部的矛盾が今後すぐさま露わになることは避けがたい。この交渉に対する全体的評価の中で、ロベルト・ハベック(緑の党、新経済相)はすでに、「問題はあらゆる藪の背後に隠れている」と述べている。実際この綱領には、あらゆる種類の社会グループとの間でトラブルを起こす契機がある。したがって政府は内部的に、諸々の労組、環境団体、その他をその計画の中に可能な限り早く巻き込もうと、またあらゆる種類の「連携」を築き上げようと努力中だ。その連携の例としては、「移行のための連合」、あるいは「自動車工業転換戦略プラットホーム」などがある。そしてその努力の目的こそ、あり得る抵抗を可能な限り素早く中立化することにある。
綱領はこれを参加型民主主義として売り込んでいる。国会が選出する(原文通り!)と想定されている「市民評議会」と同様だ。この手順は分裂に向かう潜在的可能性を内包している。読者は、労組や環境団体の指導者たちがそうした手順に巻き込まれる、と賭けてもいいだろう。事実としてはこれは、数多くの他の社会的分野に対する共同管理の実践を拡張するもの以外何も意味していない。
市民参加の裏面はもっと荒っぽいように見える。つまり、早期にまたより効果的に法的抵抗を排除する目的で、承認手続き(たとえば、主要構想に対し)と管轄確定が加速されることになっている。市民参加は限定的でさえあり、つまり、手順の初期段階に対するものなのだ。後の段階での反対は、計画に重要な変更が行われた後でのみ可能とされている。
エコ自由主義競争国家への行進
福祉国家は一層弱体化されようとしている――今や環境保護という言い分の下で――。
その諸計画に向けて、交通信号システムによる政権は、紛れもない行動開始ムードをつくり出したがっている。何よりも、彼らの遠大なデジタル化計画は――それが具体化されるならば――、社会の構造に底深い影響を及ぼすだろう
野心的な投資計画は、追加的な労働者を渇望している。そしてすべての水門が開け放たれようとしている。低賃金部門が拡大されようとしている――ミニ・ジョブは少しばかり多くのカネをもたらす――。ハルツⅣ(労働力市場改革をめざす法、勤労促進として、戦後の失業補償制度を大きく改悪し、さまざまな劣悪化された制度で置き換えている)の上で人々にはもっと多くの資格が生まれることになっていて、追加的所得制限も引き上げられようとしているが、しかし制裁制度はそのままだ。個人自営主向けにはより良好な社会保障が計画されている。
これらの底辺領域での所得調整は笑止千万なものだ。実際、基準率は今年1月1日から大げさに3ユーロだけ引き上げられるだろうが、ほとんど笑いものだ。そして、12ユーロの最低賃金は早くもインフレで食いつぶされ、さらなる調整をひとつの使命にしている。
難民申請者の帰化の容易化もまた、「労働者新規募集」の項目に入っている。政権はドイツを移民の国と見ているが、血統原理を基礎にしている市民権法は先のことには不向きだ。その法が基本的に改正されることになっているという事実は、歓迎されるべきことだ。しかしそれでも事実としては、先のことも難民制度をいくらかでももっと人道的にすることはないだろう。というのも、EU対外境界におけるすでに軍事化された移民敵視の防衛が、全EU化され、もっと効果的にされることになっているのだ。そしてフロンテックス(主に地中海を活動領域にするEU共同の海上警備部隊)も拡張されることになっている。
それは、楽観主義の精神としては貧弱すぎる。交通信号政権はしたがって、そのザックの中に一定数の拡張された市民的自由を抱えている。そして政権はそれに基づいて、確実に承認を受けるだろう。しかしながらそれらには、ある種の分極化作用もあり得るのだ。たとえば、中絶に関する医療情報提供を処罰に値する攻撃にしている219a(中絶を原理的に処罰可能にしていることは変えられないままにある)の廃止だ。さらに大麻の合法化(しかし家庭栽培は依然禁止されている)、投票年齢の16歳までの引き下げ、政治に関与する市民団体にも非営利資格を復活させること、などがある。
魔法の言葉、デジタル化、を柱に
エコロジー的転換の社会的コストの緩和に対する言及も一切ない。それでも、自動車産業だけでも何万人という人員整理の怖れがあるのだ。「労働時間法」が試行されることになっている。雇用主団体は、1日当たり最長労働時間の廃止を求め続け、政府は、もっと多くの柔軟化に対してさえ労組からの同意を求め続けている。そして彼らはその見返りとして、労組に、団体交渉は重要であり、企業内の労組と労働者評議会の諸権利は強化されることになっている、とのキャンディーを投げている。
国家は、全体の利益からなるサービス供与から引き下がり続けている。そして、投資不足、要員不足、貧弱な労働条件、といった主要な赤字は、多くても看護ケアの領域でしか取り組まれていず、症例毎料金システムは不変だ。医療部門は今「医療経済」と呼ばれ、それに捧げられた15行は、もっぱらハイテク医療の拡大に関係している。そして、公衆衛生相のカール・ラウターバッハは病院私有化事業家として知られている!
年金保険への資金充当を将来的に保証するという目標は、交通信号連立によってもはや設定されてすらいない。将来、国家が支える公正年金は、法定年金の一部を資本市場へ移すだろう。
たとえば、教育部門あるいは州行政の要員不足は、デジタル技術で置き換えられることになっている。デジタル化は魔法の言葉であり、連立綱領全体のもっとも重要な支柱だ。つまり政府はそれを、実効的な筋肉質国家に対する鍵と見、あらためて、社会的問題と環境の問題は技術に投資することで解決可能だ、と示唆している。
大国主義的野心と対外的攻撃性
対外的に、エコ自由主義競争国家は、EU化と軍事化を通じてその大国主義的野心を支えている。メルケルとコールが追求したロシア(そして中国)に向けたバランスを取る政策は、より攻撃的な立脚点を重視する形で放棄されようとしている。
ドイツの大国主義的野心はより露わになリつつある。EU内の権力配分は、より共同体化された構造を支持する形で再び移行することになっており、より多くの決定がメンバー国の多数によって行われることになっている。これは特にEU軍創出に関して重要だ。この古くからある構想は、これまで一度もメンバー国内部で満場一致になったことがなく、今もそうなっていないからだ。
ドイツは将来、「国際行動」にGDPの3%を支出することになっている。これは同じザックに外交、開発、そして軍事を詰め込んでいる区分けであり、おそらくそこには、算術的な表現だけではなく政治的な表現の意味も込められている。
そしてドイツは、その領土に核兵器を保管している国家として、将来赤ボタンが押される場合は一言言いたいと強く思っている。これまでのところ、これを認めないことが可能だった。
このすべてを現実に移すことが可能かどうかは、もちろん確定しているわけではない。ロベルト・ハベックは「問題はあらゆる藪の背後に隠れている」とコメントした。この点では彼は正しい、と確かなものにしよう。反対勢力は些細な点に迷い込んではならない。反対勢力は対抗構想に基づいて交通信号連立に立ち向かわなければならない。(2021年12月18日)
▼筆者は、以前の公的二分派、国際主義社会主義左翼(ISL)と革命的社会主義者同盟(RSR)の合同により2016年に形成された第4インターナショナルドイツ支部、ISOの一員。月刊誌SoZ「ソツィアリスティッシェ・ツァイトゥング」の編集者でもある。またドイツ内の欧州行進ネットワークでも活動している。(「インターナショナル・ビューポイント」2022年1月号)
The KAKEHASHI
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