アルゼンチン 与党敗北の議会選

ファシストへの反撃も見すえた闘いへの極左の統一した運動を
シルヴァン・シャルドン

ペロン派敗北し
右翼が立場強化

 9月12日のPASO予備選挙(アルゼンチンで制度化されている、候補者確定に向けた本選前の予備選挙:訳者)結果が前もって示したように、中道左派のペロン派政権は、急進化の中で可能となった僅かの社会的方策にもかかわらず、その民衆的な社会基盤に基づく信頼を取り戻すことができなかった。次のことを言わなければならない。つまり、南半球の夏の戻りでもほとんど減退していないパンデミックによって、アルゼンチン統計調査所の最新データによれば、10月にはインフレが41・8%に達し、貧困指数が住民の40・6%におよんだということだ。
 下院議員の半数、上院議員の3分の1、またいくつかの地方議会が刷新された。中道左派ペロン派のアルベルト・フェルナンデス大統領の政党である「フレンテ・デ・トドス」(全員の戦線)(得票率34%)は、諸州の過半で得票率42%の右翼野党(「フントス・ポル・エル・カムビオ〈変化のための連合〉」)に数で大きく後れをとり、上院では絶対多数を失い、下院では相対多数になっている。世界のメディアは、この事実のみに注目している。本当の分析は、別のことを示している。そしてそれは帝国主義の権力者世界を心配させるものになっている。

歴史的成果
極左の突破

 投票が義務的である国における今回の選挙の中心的事実は、棄権だ。フェルナンデス政府は、労働者階級の失望と棄権が原因で300万票を失った。勝者である右翼野党もまた、2019年選挙との比較で、「ボルソナロ主義的」諸傾向を伴った自由主義者のハビエル・ミレイから50万票を奪われた。しかしミレイの支持者は、首都の外側の選挙構図からはほとんど消されている。
 とはいえこのグッドニュースがあるとしても、もっとも血に飢えた軍事独裁のひとつが君臨した国であるアルゼンチンの左翼では、「ポルテナ」(首都ブエノスアイレスの住人)プチブルジョアジーの心臓部におけるこの「ファシスト」の突破を、誰一人過小評価しないし、してもならない。特に、極左が中道左翼から失われた票の3分の1しか取り戻していない場合はそうだ。
 しかしながら極左の突破は、得票率が全国平均で6%以上、最貧困地域で25%の記録をもって国のあらゆる州にそれが影響を及ぼしている以上、歴史的だ。FIT―U(左翼と労働者の統一戦線)は、この国の群を抜く第3の選挙勢力になった。6%以上、140万票というこの得票は、都市域のペロン派拠点すべてでの選出された極左代表の参入のおかげで、前例のない質的重要性を帯びた。何十年も労働者階級を形作ってきた古いアルゼンチンポピュリズム運動の堤防は、最終的に破れ始めたのだ。
 「全員の戦線」のペロン派政府がこの国に押しつけた飢えと悲惨という条件にもはや辛抱できない、何十万人という若者、労働者が自由な状態に解きほどかれた。彼らはもはや、詐欺的な対外債務(そのほとんどはマクリ前右翼政権からの継承だった)への返済を欲していない。また、パチャ・ママ(地球)を汚染している収奪主義的企業や大実業家の利益を大きくしたくもない。

先住民地区で
極左大量得票


 アルゼンチンは、白人の国と見せる旅行会社の表層的イメージとはまるで異なって、この領域上に30もの先住民族を抱え、白人上流階級のレイシズムの犠牲者である「ビラス」(スラム街)の「ネグロス」は、ほとんどアフリカ系ではなく、主にはこの地の先住民かメスティソだ。彼らは歴史を通じて虐殺され、文化的にさげすまれ、財産や土地をはぎ取られてきた。
 しかし彼らはなお存在し、彼らのチリの隣人同様、何年も抵抗を続けてきた。それは、リーヴァイスやベネトンといった西側企業の利益のためだけに私有化された彼らの先祖伝来の土地を取り戻そうとするマプチェであろうが、土地や水や文化的な場を汚染し続けているカナダや中国の収奪主義的企業に今抵抗しているコラスやケチュアや他のトバであろうが、区別がない。
 2017年、マクリの憲兵隊と地方管区部隊が、先住民を悪の権化のように描くレイシズムキャンペーンに乗りだし、サンチャゴ・マルドナドとアファエル・ナフエルを殺害した。彼らは、フェルナンデスも継続した抑圧を正統化するために、テロリズムグループをでっち上げるところまで進んだ。
 これこそが、ネウクエン州やチュブト州のマプチェ人口が集中している地域がFIT―Uに15%以上、またフフイのアンデス民衆が同じく25%以上票を投じた理由だ。もっとも不遇な境遇にある人々が政治をわがものにする時、レーニンやアルゼンチン人のチェが言うように、情勢は極めて急速に変わり得るのだ。

選挙協定超えた
民衆運動創出を


 これらの選挙の成果を打ち固め、エコ社会主義的解決策へと進むことには、単純な選挙協定(何もないよりはマシ、ということは認めよう)をはるかに上回るものが必要になるだろう。それは、勤労民衆と若者のはるかに大きな諸部分に働きかけ、階級闘争を示す要素と多くの無党派層を結集する、あらゆる極左勢力の幅広く統一した、そして民主的な運動を必要とするだろう。われわれはまだこれからは遠いところにあり、FIT―Uの構成部分各々は今、それ自身の総会と勝利のデモを組織中だ。
 しかしながら、創案過程にあるIMFとの新たな協定を巨万の規模で拒絶し、労働者階級の居住区と若者の組織化で前進し、労働者の闘争、環境の闘争、またジェンダー抑圧との闘いにエネルギーを与えるためには、大きな統一した運動の建設が基本になる。(2021年11月25日)

▼筆者はNPAメンバー。(「インターナショナルビューポイント」2021年11月号) 

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