スペイン カディスで労働者が決起
権利を実質化できる権力を
ダビド・デ・ラ・クルツ/ホセ・マリア・ゴンザレス
イベリア半島南端のカディス市で、長年続いてきた国家による工業再配置に対する労働者の闘いが起きている。以下は、この闘いを支持する観点から、闘いの歴史的背景とそこに内包された未来に向けた意義を主張している。なお、カディス市市政は、スペインのアンティカピタリスタスの同志が主導している。(「かけはし」編集部)
カディス湾の産業は息を止めようとしている。それは、観光あるいは不安定さや出稼ぎの永続的脅迫にのみ依存するか、それとも質の高い仕事と共に歩む公正で革新的なエコロジカルな転換か、の間の選択に関わっている。
決起は産業転換の破綻への抵抗
今日カディス市を揺るがせ続けているカディス湾における労働者の決起を理解するためには、われわれは時間を遡る必要がある。そしてそれは、エアバス・プエルト・レアル工場の閉鎖というこの前の公表があった1週間ではない。また、造船所で10人が逮捕された2013年まででもない。さらに、デルフィ(注1)の閉鎖があった2007年まででさえない。これらの決起を理解するためには、われわれははるか先まで戻らなければならないのだ。特に、1970年代や同80年代までだ。
この紛争を描く写真を1枚選ばなければならなかったとすれば、それは、産業用自動車道上の落書きのあるものになるだろう。それは、通行が今日ナバンティア工場への進入路で封鎖されているものと同じ光景だ。それは、マドリードをまさに仰天させ、最終的に彼らを南部に焦点を当てさせているような火を燃やしているものと同じだ。正面が2語、すなわち「フェリペ、カブロン」(フェリペは失格)で塗られたものと同じものだ。そしてそのフェリペとはゴンザレスのことだった(注2)。
その失格者とは真に裏切り者を意味していた。われわれの湾岸の産業転換が実行されたのはこれらの年月の中でのことだった。そしてそれが、今も今日まで、われわれを弱らせ、われわれを苦しめている。なぜならばそれが、彼らがわれわれの土地をそそくさと歩き回り、それを不安定さ、不安定な職、観光のような季節性で脆弱な部門に基礎を置く経済、彼らが卵すべてを入れ込んだひとつの籠、に宿命付けた時のことだったからだ。
PSOE(社会労働者党、現与党::訳者)が始め、後にPP(国民党、右翼の最大野党:訳者)が続け、深めた産業転換は、それに伴う重工業の大きな部分の解体をゆっくりともたらしてきた。多くの者はそれは明確なことだったと考えているが、それはそのようだったわけではない。それは、少しずつ、時間の経過と共に、今でさえもわれわれに血を流させ続けているひとつの傷だった。
彼らにわれわれを注目させるためには火と煙が必要だった、とわれわれが主張する場合、われわれはこのことを言っているのだ。つまりこれは、40年以上くすぶり続けてきた紛争なのだ
半奴隷制度の
正統化はノー
平和的なデモが数々起きた夏と2、3ヵ月があった。その中でわれわれは繰り返し、労働や産業や経済の閣僚たちとの会談を求めてきたが、ひとつの反応すら受け取っていない。今や、まさに今が、最終的にマディア・カルビノ(注3)がカディスの紛争に出かけてきた時だが、しかしそれはまさしく労働者を支援するためではない。
これらのこの間の年月に、エアバスはプエルト・レアル工場の解体を公表した。奇妙なことにそれは、昨年この多国籍企業が26億3500万ユーロも利益を上げているにもかかわらず、閉鎖の運命にある欧州全体で唯一の工場だ。
これは、この工場がたった1%という、世界で最低の無断欠勤率をもつモデル工場であったにも関わらずのことだ。唯一の真の理由は、彼らがエタフェ(マドリード州にある都市、近くに空軍基地がある:訳者)に生産を移すつもりになっているということであり、そこにはこれまでに4億ユーロの公金が投資されていた。将来の注文と仕事は存在している。しかし存在していないのは、国の様々な部分間の公正な分配なのだ。
この理由のために、現在起きている闘いは、新たな労働協約の交渉に限定されることはあり得ず、それはまた、彼らがこの土地に宿命付けた体系的な不安定性に反対する闘争でもある。それは、この湾岸の現在と未来に関わっている。それは、われわれがまだ残している僅かなものを失わず、希望を取り戻すことに関わっている。それは、失われた労働条件によって縛られた数十年に関わっている。
彼らが従業員に従わせたがっている新協約は、最小の賃金引き上げも含んでいないだけではなく、逆に、購買力の低下を提案し、それが半奴隷制度に近い状況を正統なものにしそれを合法化することを狙っているがゆえに、労働者の尊厳を攻撃している。
1人の金属労働者は、彼の仲間を支援して作られた短いビデオ映像の中で、決起の目的は「権力を獲得する」こと、諸権利に移し替えられる権力を、と語った。それは、仕事を失う怖れなしに休暇を得る権利と権力、労災事故後の補償を求める権利と権力、病気の親類を助ける権利と権力だ。
ついでながら、ここでふれた金属労働者によるビデオは、彼の家から数百㎞遠くで記録された。彼の家族の食卓にパンを置くことを可能にするために、彼が出稼ぎに出なければならなかったからだ。
エアバス工場の閉鎖は政治問題
そして、これらの半奴隷の諸条件、あるいはプエルト・レアルの工場閉鎖は政治問題にほかならない。なぜならば、たとえばエアバスの事例では、政府による直接の関与があり、そしてそれを通してSEPI(注4)が、エアバス役員会の席を占め、カディス湾の心臓部にあるモデル工場を閉鎖するその同じ企業に対する公的な支援に傾注してきたのだ。
そしてナバンティアの例では、われわれは、下請け契約と外注契約を永続化することにより、あらゆるレベルで労働者を個々バラバラにした、そして彼らの権利を切り詰めた公的企業――そしてそれは、暴力が時にホワイトカラーのものであり、体系的なものであることを証明している――について今話している。
仕事上の事故の後救急部署に横たわることを迫られること、また事故は不注意の事故だったとの主張を迫られること、は暴力にほかならない。病院に行く病気の家族に付き添うことができないことは暴力だ。あなたの企業が巨額の公金を得ている中であなたが帳尻を合わせることを可能にしない俸給は暴力だ。彼らがあなたの所得を凍結する中での電力、ガスの費用や消費者物価指数の上昇は暴力だ。あなたの家から定期的に何百㎞も何千㎞も旅をしなければならないことは暴力だ。
この州の労働者は、ある種のルールとして、何十年もこの暴力に苦しんできた。そしてわれわれは、除外なしの全体としての労働者階級と言う。なぜならば、これらの決起が湾岸の全労働者階級を結集したからだ。造船所から航空宇宙までだ。ナバンティアの職員からその支援職員までだ。そしてわれわれはあなたに告げたい、労働者すべてがまちがっているはずがないと。彼らすべてにはひとつの大義があるのだ。
生産モデルの環境調和的転換を
造船と航空の産業は、湾岸で風前の灯火となっている。その部門は息の根を止めつつある。われわれは差し迫って生産モデルを変え、本当に再産業化に向かう必要がある。それは、新たな世代を不安定性や出稼ぎという恒常的な脅しにさらさせなければならないことを意味する観光のみへの依存か、公正でエコロジカルな再転換、科学、技術革新、付加価値、そして質の高い仕事からなる未来への賭け、この間の選択に関わっている。それがわれわれが賭けているものだ。そしてそれは急を要する。
1980年代の10年、労働者階級の居住区は支援の砦になり、隣人たちはバルコニーから拍手を送った。そしてこの市は、湾岸全体の運命が危うくなったことを知り真逆に転回した。11月18日、働く者たちの行進は上階の窓から再び支援された。
幸運なことに、これもまた変わっていないカディス民衆の忠誠といったものがある。彼らは自動車道上の落書きは消しとった。しかし、わが労働者との一体性とその共同体の感情を消し去ることはなかった。なぜならば、ディアマンティノ・ガルシア(注5)が語ったように、「そのためにわれわれが闘っている主張は困難なものだが、しかしそれらには、いつの日にかそれらにわれわれが勝利するような正しさがある」からだ。(2021年11月19日)
▼ホセ・マリア・ゴンザレス(キッチ)はカディス市長でアンティカピタリスタスのメンバー。ダビド・デ・ラ・クルツは、カディス市政府チームのメンバー。
(注1)2007年、多国籍企業のデルフィ自動車システム持ち株会社は、カディス、プエルト・レアルにあるその工場の閉鎖を公表した。そこには直接雇用の1600の職と間接雇用の2500以上になる職の喪失が伴われた。
(注2)フェリペ・ゴンザレス・マルケスはスペインの社会民主主義指導者であり、1982年から1996年までの首相。
(注3)経済問題・デジタル変革相。
(注4)産業持ち株目的の国家企業。
(注5)エル・クラ・デ・ロス・ポブレス(貧者の司祭)として知られるディアマンティノ・ガルシア・アコスタ(1943―1995年)は、スペインの労働者司祭で労組活動家、シンディカト・デ・オブレロス・デル・カムポ(農業労働者組合)の創設メンバー。(「インターナショナルビューポイント」2021年11月号)
The KAKEHASHI
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