ウクライナ 東欧におけるNATOとロシアの軍事的エスカレーションに反対する

諸人民の自決へ 左翼の国際主義的連帯推進を

2022年1月30日

第4インターナショナル執行ビューロー

 われわれは、政治的不安定、経済混乱、帝国主義間の衝突という状況の中で、迫りくる軍事的脅威(と核脅威)に反対し、ウクライナ民衆の権利を守るために動員されなければならない。

世界的な地政学的側面をもつ深刻で危険な情勢


 過去1カ月間かそこらの間、われわれはウクライナをめぐる軍事的エスカレーションを目の当たりにしてきた。それは、ヨーロッパや世界に対する深刻な脅威となっており、朝鮮戦争(1950〜53年)、キューバ・ミサイル危機(1962年)、ユーロミサイル(およびソ連のSS20)の配備(1980年代初頭、その際にはロナルド・レーガンがヨーロッパ地域での戦術核兵器配備の可能性を検討していた)など、冷戦時代の頂点におけるもっとも深刻な危機を思い起こさせるものだ。
 現在進行中の言葉と軍事のスパイラル、および武力衝突に陥る危険性は、低強度なものか大規模なものか、局地的か全面的か、通常兵器によるものか何らかの核の脅威を含むものかにかかわらず、上述の諸事件よりも大きくなっている。ウクライナ民衆が最初に影響を受けるが、この脅威は、言葉による好戦的なスパイラルという現在の危機に関与するすべての当事者に関係するだけでなく、とりわけヨーロッパの民衆すべてに関係するものだ。
 したがって、われわれは次の二重の課題に直面している。
*国境に展開するロシア軍に関して、ウクライナで表明されている不安に対応すること。このロシア軍の展開は、ウクライナのNATO加盟を阻止する目的だと言われている。
*ウクライナ問題にとどまらず、戦争挑発的な言辞と行動のエスカレーションがもたらす真の危険に対処すること。
 われわれのNATOに対する全般的立場は次の二つである。第二次世界大戦後、第4インターナショナルはその発足時からNATOに反対していた。そして、もっと強い理由で、この軍事同盟はワルシャワ条約機構の解体とともに1991年に解体されるべきだと要求した。われわれはまた、ロシアの帝国主義的な言辞と行動を非難する。それが、ウクライナ民衆のますます多くの部分をNATOに向かわせているからである。外国軍隊(NATO軍とロシア軍)の撤退とウクライナの軍事的中立は、ウクライナの独立を守る唯一の手段である。しかし、NATOに加盟するかどうかは、(大国間の武力による脅しや交渉ではなく)ウクライナ民衆が決めることである。
 不安定な地政学的状況の危険をもたらす主な要因は以下の通りである。
*深刻なエネルギー問題(特に再生可能エネルギーへの移行と結びついた)。その背景には、きわめて大きな経済的不安定と新たな金融危機の非常に現実的な危険性という状況のもとで、EUとアメリカとのエネルギー事情(および依存関係)の違いを利用できるロシアの力がある。それは、欠乏とインフレの問題であり、エネルギーにともなうさまざまな困難であり、再生可能エネルギーへの移行に関する重要な問題である。
*2014年以降のウクライナにはじまり、チェチェンを経て、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンに至る旧ソ連圏における一連の武力衝突、およびロシアの軍事力を再建し、冷戦終結後に受けた挫折と屈辱を埋め合わせるための長いプロセス。そして、プーチンの大国気取りの行動を後押しするベラルーシとカザフスタンに対するロシアの比較的強固な支配力。
*そして、より具体的には、二年間にわたる世界的なパンデミックと権威主義・腐敗・抑圧に対する反乱の後での、(ホワイトハウスにすぐに復帰すると考えているトランプによって平然と行われたクーデター的な議会襲撃からやっと1年を経た)アメリカとEU、そして何よりもロシアそれ自身の政治体制の危機と国内の不安定化。
*2014年のロシアによるクリミア占領以降、ウクライナにおける紛争管理の「ノルマンディー・フォーマット」(フランス、ドイツ、ロシア、ウクライナによる四者会談)の行き詰まり。

 プーチンもバイデンも、一方では国内の信頼性と正統性を取り戻すために、他方ではそれぞれが自らの勢力圏と考えているものを統制するために、強力で攻撃的なイメージを示す必要がある。プーチンにとっては、ロシアが数カ月にわたって経験してきたペレストロイカ以来最大の反権威主義抗議行動の高揚、および彼がロシアの勢力圏だと考える地域(ベラルーシ、カザフスタンなど)における汚職、不平等、ポスト・スターリンの家父長主義に対する反乱から立ち直るためである。バイデンは、アフガニスタンからの屈辱的な撤退の後で議会の中間選挙を目前にしており、失望をもたらしている国内政策によって、大統領任期最後の数カ月でのトランプに匹敵するレベルの不人気をもたらしたことが重荷になっている。ロシア国内でのプーチンの立場は、彼の外交政策に直接左右される。4期目の大統領任期は2024年に終了するが、その後は(人気が低下する中で)政権を維持するか、「後継者」に譲るかしなければならない。あらゆる政治制度が完全に劣化した状況下でのこの「権力の移行」プロセスは、プーチン自身の決断、および内外の脅威を前にして官僚や金融エリートを自分の周りに結集させる能力にかかっている。

60年ぶりの核戦争の脅威


 それぞれの発言の傲慢さは、彼らの政治的弱さに比例している。バイデンは「プーチンが核戦争から遠からぬところにいるのがわかっていることを望む」「プーチンは西側諸国を試したがっており、彼は自分のしたことを後悔するような代償を払うことになるだろう」と1月20日の記者会見で述べた。しかし、この種の好戦的な言動は、たとえそれが身振り手振りを交えた、ライアーズポーカーゲーム[紙幣に印刷されている通し番号を利用して行う一種の騙し合いゲーム]の結果であっても、決して無害ではなく、制御不能なスパイラルに陥る危険性もないとは言えないのだ。
 ウクライナの北部・東部国境に軍隊を大規模に集中させている背後にある決定的な要因は、もしかするとウクライナがNATOに加盟して、その結果、自国の隣に敵の核兵器が配備されるかもしれないというロシアの恐怖心である。

ソ連邦終焉とワルシャワ条約解体から30年:NATO拡大とロシア帝国主義再構築の狭間で


 30年前にミハイル・ゴルバチョフがワルシャワ条約解体を決めたとき、NATO首脳は大西洋条約の解消に合意し、将来の統一ドイツは第二次世界大戦後のオーストリアと同様に中立国になることを約束した。周知のように、再統一されたドイツがNATOに加盟しただけでなく、その後NATOは東へと拡大し、45年間ソ連圏に属していたほとんどの国を加えていった。たとえば、1999年にはポーランド、チェコ、ハンガリーが、2004年にはブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニアが加盟した。2009年にはアルバニアとクロアチアが続き、そして2020年は北マケドニアの番だった。
 NATOの維持と拡大は、大陸での諸関係を和らげるどころかむしろ緊張させている。そして、ロシアの壮大な拡張主義論理を助長するだけで、EUとモスクワが支配するユーラシア連合との間に位置する国々に不利益をもたらしている。
 ロシアのウクライナ国境沿いの軍事動員は、バイデンが戦略兵器をウクライナに配備しないようにするための交渉の用意があり、ウクライナのNATO加盟は議題に上っていないと表明した理由を説明する。しかし、われわれが忘れることはできないのは、FBI自らの報告書によれば、ウクライナのヤヌコビッチ政権が倒され、ロシアがクリミアを併合し、ドンバスで分離独立が始まって以来、ウクライナは国際ファシスト運動の訓練場となっていたことである。それは、反ロシアの戦闘員を徴募して、ウクライナの民兵に組み入れた。イスラム原理主義が、まず(CIAとパキスタン軍情報機関によってアルカイダが結成された時期に)アフガニスタンでの戦争を利用し、次にボスニアでの戦争、さらに最近では(「イスラム国」のテロリズムの起源である)イラクとシリアでの戦争を利用したのと同じように。しかし、いわゆる「ドネツ人民共和国」は、ファシストや超国家主義スラブ人勢力をも徴募している。
 ロシアのエスカレーションとバルト三国に駐留するNATO軍とアメリカ軍の動員にもかかわらず、論理的には幸いなことに交渉の余地は残されている、しかし、双方が状況を非常に緊張させ、政治的弱さと国内の体制的不安定という立場から出発しているときに、柔軟な解決に至るのは困難であろう。

軍事的愚行から経済的愚行へ:バイデンによる「制裁」の脅し

 バイデンやNATOの攻撃的姿勢にもかかわらず、ヨーロッパの諸大国は何をすべきかをめぐって分裂している。フランスやドイツなど軍事的抑止に関与することに非常に消極的な国がある一方で、「進歩的」なスペイン政府の従属的な姿勢はとりわけひどいものである。論理的には、ドイツは、その経済的な脆弱性とロシアへのエネルギー依存が大きいがゆえに、このシナリオにおける重要な国である。バイデンは、世界的なSWIFT[国際銀行間通信協会]決済システムからのロシアの追放やノルドストリーム2パイプラインの切断など、かつてないほどの制裁をおこなうと脅している。それに対して、プーチンは、それに反応して、アメリカとの「完全な関係断絶」を意味することになると述べた。ロシアは、すでに数カ月前から地政学的な圧力としてヨーロッパへのガス輸出価格を意図的に引き上げてきたが、さらなる価格引き上げか、供給の直接的切断かを決定すれば、産業活動や中欧の多くへの電力や暖房の供給が大幅に低下し、その結果として社会的・経済的影響が劇的なものになることは間違いないだろう。その一方で、仮にロシアがSWIFTシステムから追放された場合、欧米の金融資産のうち560億ドルとロシア企業が持つ3100億ユーロは、ロシアがただちに標的とすることで深刻な危機に陥る可能性が高い(実際、欧米の一部の当局者ですら、これは現実的ではないと述べている)。こうしたレベルでのエネルギー・金融・貿易戦争は、2年間のパンデミックと40年間の長引く不況、金融化、新自由主義的規制緩和の累積した不安定な影響を引きずる世界経済にとって致命的となることは間違いない。そして、最後に忘れてはならないのは、それが間違いなく、ワシントンの戦略家にとって想像しうる最大の悪夢であるロシアと中国の地経学的・地政学的関係改善をさらに促進するということである。

情勢の不確実性


 アメリカとイギリスの当局は、ロシアがウクライナに侵攻する危険性があるとして、自国民にウクライナからの退去を命じている。こうした行動は戦争心理を助長し、情勢をさらに緊張させる。しかし、ドイツはバルト三国の一部が求めていた旧東ドイツの武器をウクライナに提供することを拒否してきた。ウクライナに武器を運ぶイギリス軍の航空機は、最近はドイツの上空を避けて飛行している。逆説的ではあるが、現状に対する数少ない賢明なコメントをしているのは、政治家やジャーナリストではなく、一部の軍人である。「メディアは紛争の火種を付け加えている。戦争が実際に何を意味しているのかを誰も認識していないように感じる。戦争をどのように防ぐかではなく、戦争についてだけ語るなんてありえないことだ」と述べているのは、元ドイツ連邦軍総監のハラルド・クヤート将軍なのだ。

ロシア政治情勢とプーチンの意図


 世界の軍事費の3%に相当する軍事予算を持つロシア(われわれが語っているのは、世界第2位の通常軍、アメリカと同等の地上軍、アメリカとほぼ同等の核兵器についてであることを忘れてはならない)は、NATOの戦略的分裂と内部的危機という状況の中で、非常に危険な不安定化ゲームをおこなっている。そのことによって、その軍事同盟が非常に攻撃的な反応を引き起こす可能性がある。冷戦時代を懐かしむ左翼陣営主義者が、プーチンの新ツァーリ主義、寡頭政治、民族主義政策(それは、シリア、ベラルーシ、カザフスタンにおける真の反乱と民衆革命を鎮圧し、ロシア連邦における民主的反対派と民衆勢力を沈黙させ、弾圧し、脅迫するのに貢献している)とレーニンの革命的・プロレタリア的・国際主義的な政策とを混同して、主張しているのとは正反対に、ロシアの外交政策は疑いもなく反動的である。
 現在、ロシア社会は大規模な貧困と(アメリカよりもさらに大きな)格差に苦しんでいる。実際のところ、ロシアが提唱する「新世界秩序」は、20世紀初頭の旧来型の帝国主義であり、そこでは世界は大国の「利益圏」に分割され、小国は自らの運命を支配する権利をすべて否定される。この観点から見たロシアのアメリカに対する主な主張は、ロシアは(プーチンの有名な言葉では)「一つの主権」世界を構築してきたので、それを他のグローバルプレーヤーと共有することは望まないというものである。
 しかし、ほとんどの西側メディアにとって、プーチンと「恐ろしい」ラブロフ[外相]は、この映画の唯一の悪役である。しかし、真実は、オスカー・ラフォンテーヌ[ドイツ左翼党創設者の一人]のようなボルシェビキの急進主義に疑いをはさまない人物の言葉を借りれば、「世界には多くの殺人集団がいるが、彼らが引き起こした死を数えれば、ワシントンの犯罪集団が最悪」なのである。ロシア民衆が必要としているのは緊張緩和である。そのことによって、プーチンによって体現される権威主義政権の基礎を形成しているポストスターリン主義的な官僚制とマフィア寡頭制の間の脆弱な同盟を破壊することができ、この反動ブロックを結合している民族主義的過剰反応を和らげ、若者・女性・勤労階級の要求を国際主義者の鍵で再始動させることができる民主的かつ大衆的な反対運動を発展させる機会を得ることができる。

われわれは何を予測できるだろうか?


 ロシアが「ウクライナに侵攻」し、国土全体を占領するということは、全く問題外である。ブダペストの街角には、1956年のソ連による占領の痕跡が今日でも残っている。そのときハンガリーで起こったことは、ウクライナで起ころうとしていることに比べれば、子どもの遊びのようなものだろう。
 それよりも、プーチンがベラルーシやカリーニングラードなど近隣の領土に「戦術」核ミサイルを配備する可能性の方がずっと高い。また、ドンバスが併合される可能性も排除できない。現在の石油・ガス価格の上昇および今後も上昇し続けるという見込みによって、クレムリンはそうした作戦の経済的コストをカバーすることができるだろう。また、可能性は低く、はるかにリスクは大きい(そして確実にはるかに血生臭い)が、南西方向に安全地帯を設定し、2つの反乱地域とクリミア半島を結ぶために、ドンバス南部地域(マリウポリ)を奪取するというロシアの軍事作戦も排除できない。

ヨーロッパと世界における革命勢力、反戦勢力、民主的勢力の任務

 現在の事態は深刻であり、ヨーロッパの平和にとって極めて危険である。われわれが知っているように、最大の緊張状態においてはいかなる当事者も事態を完全にコントロールすることはできず、いかなる事故も制御不能な状況を引き起こす可能性がある。世界的な反軍国主義・反核兵器の攻勢の基盤を築くために、国際的な動員が緊急に必要である。アジア太平洋地域の緊張は、現在進行中のウクライナでの緊張激化とも関連しており、大国の経済的・社会的・制度的危機の時代における帝国主義的誘惑はとりわけ危険である。こうした理由から、われわれは、政治・社会・協同組織、国内・地域・国際組織に対し、左翼の国際主義的・連帯的推進力と再び結びついた重要な国際的動員の機会を追求することを呼びかける。

緊張緩和と平和を求め、[軍事]ブロックの解消と諸人民の自決を求める動員を組織しよう!
(『フォース・インターナショナル』2月1日)

【訂正】本紙前号3面読書案内「沖縄出身兵170人の証言」(上)5段目中見出しから3行目「1932の国際連盟からの日本の脱退」を「1933年の国際連盟からの日本の脱退」に訂正します。

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