ウクライナ侵攻をロシア人はどう解釈しているのか

ロシア イリヤ・ブドレイツキス

 ロシアのウクライナ侵攻を受けて、『ニュー・レフト・レビュー』は、攻撃の政治的背景、プーチンの短期的・長期的な軍事・政治目標、ロシア市民のこれまでの反応について、イリヤ・ブドレイツキスに話を聞いた。なぜ左翼の多くが軍事行動の規模に驚いたのか? そして結局は、われわれはいま、どのように連帯を表明したらいいのだろうか?

長期的戦争への
進展の可能性も


(問)現時点での状況はどうか? 被害はどの程度なのか?

(イリヤ)双方からの報告が大きく矛盾しているため、判断するのは非常に難しい。しかし、すでに言えるのは、数十人のウクライナ市民、ウクライナ軍人、ロシア軍人が亡くなっているということだ。ロシア軍部隊は複数の方向から(ベラルーシ領からも)進撃しており、その目的は国内最大の都市であるキエフとハリコフを掌握することである。また、ロシア国境の町ベルゴロドで爆発があったとの情報もある。今後数日間が決定的となるだろう。ロシアは明らかに、軍事的目的を迅速に達成し、ウクライナ指導部を完全に降伏させることを期待しているからだ。同時に、欧米諸国が軍事的支援を拒否しているにもかかわらず、ウクライナ軍は戦闘能力を発揮しており、プーチンが発表した「特別作戦」は本格的な長期的戦争にエスカレーする可能性がある。すでにロシア軍による徴集兵、つまり18歳から20歳までの兵士が戦争に参加するというニュースもある。今のところ軍指導部は(兵士の家族からも含めて)これを隠蔽しようとしているが、事態が進展すればそれも不可能になるだろう。

(問)欧米の主要メディアの多くは、一貫して差し迫った侵略の可能性を強調していたが、左翼の多くはより懐疑的な声を上げていた。あなたは攻撃の規模に驚いたか

(イリヤ)私もロシア国内の多くの論者と同じように、ウクライナへの本格的な攻撃が可能だとは最後まで思っていなかった。とはいえ、ロシアの外交政策が攻撃的な方向性を持っていること、そしてドンバスにおける戦争へのロシア軍のハイブリッドな関与は、私には明らかだった。しかし、直前までロシアを被害者とみなし、ウクライナ政権を絶え間なく「ナチス」と呼んでいた欧米左翼は、今や戦争に対する責任の一端を担っている。そして、もし彼らが自らとその支持者に対して誠実でありたいなら、公にその誤りを認めるべきだ。

ウクライナの
従属化が狙い


(問)プーチンの軍事的・政治的な、短期的・中期的な目標は何か? ウクライナにおけるプーチンの意図は何か? そして、ロシアの国内政策という観点からは、プーチンは侵攻によって何を達成したいのか?

(イリヤ)プーチンの狙いは、昨日の国民向け演説で明らかにされた。ウクライナの軍事インフラを破壊し、ウクライナを降伏させ、その指導者をロシアに忠実な政権に交代させるというものである。彼はまた、この「特別作戦」は強いられたもの(つまり、ロシアは攻撃によって自国を防衛しているだけ)であり、ドンバスでの「ジェノサイド」を終わらせることが目的であると説明した。彼の見解によれば、ウクライナ自体は人工的に作られた国家であり、実際にはロシアの歴史的な領土なのである。この解釈は以前の公式的な宣伝に明らかに反している。その中では、侵略の可能性そのものを嘲笑していたからである。

(問)侵攻に至る歴史的背景という点について、2021年初めからのプーチンの権力強化と組織的反対勢力の壊滅という戦略は、どれくらい重要だったのか?

(イリヤ)確かに、ここ1年の政治的弾圧によって、反戦運動の中心となりうる国内の組織的反対派を排除することができた。しかも、その弾圧の目的は、社会に恐怖の雰囲気を作り出し、政治への関心を抑制することだった。にもかかわらず、今なお、社会は始まった戦争に対する姿勢で大きく分裂しており、「国旗を中心とした結集」がないことがわかる。

(問)ドネツクとルガンスクの分離独立した2つの「共和国」は、より広範な紛争においてどのような重要性を持つのか?

(イリヤ)ドネツクとルガンスクの「共和国」の独立を認めることは、軍事作戦を開始するための重要な口実となった。この目的のために、地元住民の間に(避難勧告を含む)パニックの雰囲気が人為的に作り出された。重要な点は、この承認がおこなわれた地域の国境が明確に示されていないため、ウクライナに深く侵攻する直接のルートが開かれたことである。

プーチンの計算
の根拠はもろい


(問)この紛争は、この地域やそれ以外の地域の政治経済にどのような影響を与えるだろうか? 紛争が長期化した場合、どのような結果になる可能性があるのだろうか?

(イリヤ)ウクライナとの戦争を正当化するロシア指導部の論理は、ソ連崩壊後のすべての国境線をさらに見直す可能性を容易に開くことになる(プーチンによれば、国境線も人為的に作られたからである)。このことは、ロシアへの支持を表明していないソ連崩壊後に生まれた全共和国の指導者たちによく理解されている。ロシア軍部隊にベラルーシ領土を提供したルカシェンコでさえ、戦争とは無関係だと公言し、紛争には中立的な当事者であることを示そうとしている。プーチンの計算では、核兵器を保有することで、「歴史的に」ロシアの領土だと彼が考えるものへの西側諸国の軍事介入に対する保証を得ることができる。だから、どの時点で彼が満足するかは非常に難しい。ウクライナを政治的、軍事的に支配する計画が実現すれば、ロシアがポストソ連圏に進出する道が開かれる可能性は十分にある。

(問)いまロシアでは大規模な抗議デモが発生し、多くの人が逮捕されている。侵攻に対するロシア人民の感情について、あなたはどのように感じているのか?

(イリヤ)2014年当時とは違って、今のロシアには愛国的な熱意はない。社会の一部は明らかにウクライナとの戦争に真っ向から反対しているが、その一方で大多数は単に「戦争はすぐに終わり、ロシアが平和を取り戻す」のだと信じている。戦争を歓迎し、ロシアの地政学的勝利のためならどんな犠牲もいとわないという失地回復主義者は、実際にはほとんどいない。
 他方では、プーチンによる長期間の支配の間に、大多数のロシア人は、自分には何の影響力もない、どうせ何もかも自分たちが参加しなくても決まってしまうという態度をとるようになった。このような非政治化・士気喪失という背景のもとで、当面は戦争を消極的に支持することになるかもしれない。
 しかし、戦争が長引き、その経済的・社会的影響が大多数のロシア人に感じられるようになれば、ロシア人の気分は劇的に変化するかもしれない。また、ロシアにとって、ウクライナ人が文化的・歴史的にもっとも近い民族であると考えられており、そのことは非常に重要であるのをまた忘れてはならない。また、多くのロシア人がウクライナにルーツを持ち、親族がウクライナに住んでいる。こうしたことすべてが、下からの戦争支持を継続するのにきわめて不安定な基礎を作り出している。

まず戦争の終結
次いで国連管理


(問)ロシア国外での左翼の対応はどのようなものであるべきなのか? われわれは自国の政府にどのように圧力をかけ、どんな要求をすべきなのか?

(イリヤ)まず、ウクライナにおける戦争終結およびプーチンとゼレンスキーとの直接会談を要求する必要がある。ドンバスでの武器撤収と国連による管理を要求することが必要だ。誰がこの戦争を始めたのかをはっきりさせ、いかなる言い訳も探さないことが必要である。
 このことすべては、問題となっている諸国政府を支持すること、いわんやNATOブロックを支持することを意味しない。プーチンは明らかに、NATOの存在とヨーロッパにおけるその強化を理由として、正当化を与えるために多くのことをおこなってきた。同時に、ロシア国民全体を対象とした制裁は、政府だけでなくロシア社会の国際的孤立を深めることになり、逆効果をもたらして、政権の強化につながることも理解しなければならない。
2022年2月25日
(『インターナショナル・ビューポイント』2月26日)
(イリヤ・ブドレイツキスは、2011年のロシア社会主義運動(RSD)の創設に参加した第4インターナショナル・ロシア支部「前進」の指導者)

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