ポルトガル苦い総選挙結果
絶対多数得て社会党が勝利するも極右伸長含め左翼にとっては敗北
急進的代替路線に獲得すべき層を極右に渡すな
デイヴ・ケラウェイ/エスクエルダ・ネット
ポルトガルの1月30日総選挙は、アントニオ・コスタ社会党(PSP)政府が提案した予算案に対し反資本主義派のブロコ・エスクエルダ(左翼ブロック)とポルトガル共産党が反対投票を行うとの決定で、昨年10月引き金が引かれた。左翼は、しのびよる私有化とNHS――全国医療サービス――に割り当てられた財源の欠如、および全国最賃を十分に引き上げることができていないことに反対した。
左翼による社会党統制強化不発
コスタ政府は2015年総選挙では絶対多数を達成できなかったが、先の両党は、生活水準と他のいくつかの進歩的な方策を守った一定の政策に関する合意の後、社会党に政府を形成させることに同意した。それは、左翼が政権に加わらず、閣僚の地位にも就かない、政策毎を基礎にした閣外支持だった。それらはこうした形で、PSOE(コスタのPSPと似たスペイン社会労働党)が率いる連立政権の完全な成員であるスペインのウニダス・ポデモスの左翼政党とは異なるアプローチをとった。ウニダス・ポデモスは、システムとの根底的な決裂という当初の立場から離れたのだ。
コスタは常に、左翼政党との間で取り決められた協定で縛られてきた。したがって彼には、左翼との決裂を実行し、絶対多数に挑むという準備が完全にできていた。彼が必要としたのは116議席だが、本稿を書いている時点で117議席を確保し、それゆえこれは、彼の党と彼にとって政治的な勝利だ。
これは、ポルトガルの勤労民衆――早くからEU内の最貧困部分に入っている――の観点からは実害のある敗北だ。ここには、PSの親資本主義的穏健化に一撃を加え、勤労民衆の生活水準と進歩的諸政策を擁護する諸政策を前に進めるために左翼の重みを強化する、そうした機会があったのだ。残念ながらこうしたことは起きなかった。
コスタには、彼がこれからたとえ開かれた対話という大芝居を行うとしても、前進に向けた左翼との協定はまったく必要ないだろう。明らかに、左翼はこれからの日々この敗北をもっと詳細に論争することになる。しかしわれわれはすでに、この後退に関する2、3の理由を示すことができる。
安定と生活への民衆的不安
人々の中にはおそらく、このコヴィッドの時期に安定と生活保障に関するより大きな懸念がある。コスタは、この切り札を極めて巧みに切った。彼はそこで、この穏健な政府が国を危機から何とか抜け出させることを左翼との取引がどれほど妨げているかを強調し、EU復興資金のポルトガル割り当て分を利用した。
政府と支持派マスメディアにとっては、左翼を「国」の復興を妨害している分裂主義者、破壊分子と押し出すことは容易なことだった。われわれは他のところでも、全国的指導者がパンデミックの中での彼らの指導性から選挙上の「活力」を得ている――ここ〔英国〕のボリス・ジョンソンですら一時利益を受けた――のを見てきた。
投票終了後のコスタの声明は、ポルトガル民衆は「政治危機に対しレッドカード」と「安定と生活保障への切望を示した」と語った。そして彼に関する限り、彼は、「他の諸政党との対話」、および「勤労民衆と雇用主間の、また議会内の必要な総意形成」を推し進めることを約束した。彼は、次の数日のうちにチェガ(後述:訳者)を除く全政党と会うつもりだ、また、「絶対的多数の理念の下にポルトガルを和解させる」使命を備えた「もっと小さい、贅肉のない」政府を形成するつもりだ、と公表した。
ついでながら、左翼を含む比例代表制敵視派に対して、この選挙はより公正な選挙制度の下でも絶対多数を得ることが可能である、と示している。さらに、左翼の敗北にもかかわらず、ポルトガルのより民主的な比例代表制は、ブロコが議員団を維持することになり、したがって敗北の中でも、メディア内の全国的存在感と議会内に保証された声から利益を得る、ということをも生じさせている(以上の指摘は、単純小選挙区制に固執し、比例代表制に強く抵抗する英国の政治風土を念頭に置いていると思われる:訳者)。
中核的支持層の壁超える道は?
選挙キャンペーンの中では、ふたつの多数ブロック――PSと中道右派のPSD(社会民主党、しかし実際は右翼の立場)――間の分極化が高まった。現実に世論調査は、PSDがPSと互角、と示した。これが、ブロコや共産党に前回票を投じた部分を、PSDが政権に達しないことを確実化しようと、PSに対する有効投票へと押しやったのかもしれない。
大規模な大衆闘争やキャンペーンが不在――コヴィッドの諸条件は助けにならず――の中では、左翼がその予算案拒否に支持を得ることは難しかったに違いない。原則的な立場が常に選挙の成功に導くとは限らないのだ。ブロコはその支持票の半分以上を失い、議席数も19から5へと後退した。PCPはそれよりわずかに少ない票を勝ち取ったが、6議席を維持した(PCPの選挙リストは緑の党との連合リスト:訳者)。ブロコは今、第3政党の位置から第5政党になっている。
それは、彼らが大衆の懸念や闘いと成功裏に関わり合うならば、どのような条件で約5%の強力な中核支持票を発展させることができ、さらに2倍の数に達することも可能になるか、を示している。勤労民衆が後退下にあり、右翼ポピュリズムの考えが台頭基調にある時、一定の時期が来れば票を投じることになる急進性がより低い人々の支持を維持することは難しい。
急進的左翼グループの困難な任務のひとつは、そうした困難な時期を通じて流れをどう維持するか、だ。集団の政治文化が過度に選挙主義になっていない場合、また職場とコミュニティ内で自己組織化を発展させるという第一義的路線を維持している場合、それはより易しい。
党のために利用可能な財源とメディア内の存在感は、選挙における運勢の変化とともに上下するだろう。これまでのところブロコは、たとえばイタリアの共産主義再建党の経験のようないくつかの他の潮流に比べて、こうしたアップダウンを相対的にうまく処理してきた。
ブロコは自らを第一義的に選挙政党とは見ず、むしろ地に足のついた社会主義的オルタナティブ建設のための有用な器具、と理解している。一例をあげれば、その同志のひとりであるアルベルト・マトスは、移民コミュニティとともに活動しているソリダリエダーデ・イミグランテの指導者だ。英国紙のガーディアン紙は先頃、ポルトガルの食い物にされている移民労働者が摘んだソフトフルーツ(イチゴのような皮の軟らかい果物:訳者)を英国のスーパーマーケットが今どのようにして売っているか、についての話しを掲載し、そこでアルベルトと彼の活動にふれた(注)。
伝統的中道右派の危機ここでも
極右のチェガ(文字通り、いい加減にしろ!)の伸長は、その指導者のアンドレ・ヴェンチュラが2021年大統領選で得た11%という得票率で前もって予想されていた。今回彼が得たのは約7%および彼の党としての12議席だったとはいえ、それは議会内の存在感を打ち固め、反移民、民族主義の立場に向けた定期的な放送時間を保証している。
彼がチェガを設立した2019年までは、ファシスト・スタイル体制が1974年の革命的な高揚によって一掃されたポルトガルでは、ネオファアシストの存在感は最小限となっていた。今回の選挙キャンペーンの中で、ヴェンチュラは「共産主義者」のブロコを特別の標的に定めた。これからの時期、反レイシズムと反ファシズムのキャンペーンを行うことがブロコの活動では前線に位置することになろう。
われわれはまた、チェガの伸長と並んで、「現代化した」ネオリベラル、親ビジネスの政党であるリベラル・イニシアティブへの支持上昇をも見ることになり、この党は5%近くでブロコの支持を僅かに打ち負かしている。これら両グループの成功は、中道右派政党の危機を映し出している。
2015年には閣内にいた歴史のあるCDS(人民党)は、今回初めて議会に議席を得ることがまったくできなかった。PSD支持のまったくの失速は、辞任というその指導者の公表にいたった。今日、支配階級の有力部分は、彼らの利益を守り安定性を維持する穏健な社会党を得ることで完全に満足している。
構図全体の仕上げとして、動物の権利と環境の保護の政党であるPANの場合、今回確保した議席は1のみであり、その得票率も1・6%まで半減させた。PSへと向かった分極化は全政党に影響を及ぼした。
政治からの疎外への挑戦強化を
最後に、しかし特記として、棄権率は2019年の時よりも小さかったが、それでも42%の人々が投票の労をとらなかった。コスタは、社会自由主義の彼の類型を支持する、何らかの種類の大衆的盛り上がりを率いているわけではない。
この外観は、EU内の他のところでも見られるひとつの傾向を表し、政治過程からの高まる疎外を映し出している。それは左翼に対し、われわれが話しかけ、急進的なオルタナティブに勝ち取る、そうした目的のために必要な聴衆を提示している。同時にそれは、右翼ポピュリストとネオファシストに対する潜在的な支持の貯水池でもあるのだ。(2022年1月31日)
「われわれは、わが国と勤労民衆に対するわれわれの責任をいかに果たすかを今後知るだろう」
カタリナ・マルティンス(ブロコ・エスクエルダ世話人)
カタリナ・マルティンスは投票日当夜、党は「現在の諸困難」を直視し、闘いを継続するだろう、と次のように声明した。
今回の選挙結果はまた、極右の成長という理由のためにも悪いものであり、「ポルトガル議会に選出されたレイシスト議員各々は」ブロコが闘うことを約束する「もうひとりのレイシスト代表だ」。この結果は「われわれに託されたことを忘れさせるものではなく」、今後この票の結果をいかに「耐え忍ぶ」かをブロコが理解することになるものだ。
ブロコの世話人は、「人為的な危機をつくり出すというPSの戦略はうまくいった」と考えた。この声明の時点で、PSは「絶対多数間近かそれをすでに勝ち取っていた」。選挙キャンペーンの中で発展した2分極化は「偽物だった」、そしてそれが、左翼〔PSの〕に位置する諸政党を害する「有効な」投票への巨大な圧力をつくり出したがゆえに、キャンペーンが「非常に困難」になった理由だ。
この国にとっては悪いニュースである絶対多数という見通しは別にして、カタリナ・マルティンスによれば、「チェガ党が確保した極右票を理由として」結果もまた質の悪いものだった。その結果は大統領選でアンドレ・ヴェンチュラが獲得したもの以下だったとはいえ、「ポルトガル議会に選出されたレイシスト議員すべては多すぎる」。「われわれはそれと闘うためにそこに存在するつもりだ」、彼女はこう約束した。
当夜の結果を前提とした場合、NHS防衛やまともな俸給のための闘い、また不安定職に反対する闘いのような運動は、「より容易になるようなことは決してない」。しかしわれわれもまた、「われわれがこれらの闘いから消えないということ」そして「その闘争の中で人々と並んでいるだろう」ということを分かっている。
カタリナ・マルティンスは、予算案への投票について再度質問されたことに応えて次のように付け加えた。
つまり「われわれは何らかの選挙戦術を理由に予算案を拒否したわけではなかった」「われわれは選挙に関しリスクを犯しているということは分かっていた」。またわれわれは、問題の予算案がNHSの状態、労働で暮らしを立て、まさに長期にわたって「俸給が凍結されてきた」者たちの状態、を悪化させるという「深い確信」に基づいてそう投票したのだ。「年金生活者もまた、彼らの年金価値がますます低下しているがゆえに大きな損害を受け続けてきた」。この投票日に起きたことは、「PSの予算案が良いものだったとわれわれが認めはじめることを意味するものではない。それはよいものではなかったのだ」。
ブロコに関する限り、「予算案に反対する理由はわれわれの結果によって無効になるものではない」、そしてそれどころか「諸政党は選挙を理由にシャツを替えるようなやり方でその信念を変えてはならない」。
こうして彼女は次のように結論をまとめた。すなわち「われわれの要求のために闘い続けることが必要だ。100万人が家庭医をもっていない。病院の緊急処置室は日々、この国の必要に対応できていない。まさに多くの人々が、彼らの俸給が最低賃金に張り付き、10年以上もの間引き上げられてこなかったために、一層悪化した条件の中で暮らしている」と。(2022年1月30日、「エスクエルダ・ネット」より)
▼筆者は、英国のアンティキャピタリスト・レジスタンス内の、ソーシャリスト・レジスタンスおよび第4インターナショナル支持者。
▼エスクエルダ・ネットは左翼ブロックのウェブサイト。
(注)ガーディアン紙、2022年1月25日、「英国スーパーマーケット向けイチゴの摘み取りのための労働者賃金は最低賃金以下」。(「インターナショナルビューポイント」2022年2月号)
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