香港 粛清続く都市

近くオーウェル的な国家に合流

區龍宇

報道機関が
次々と閉鎖

 2021年12月21日、中国国務院新聞弁公室は、「一国二制度のもとでの香港の民主的発展」と題する白書を発表し、北京が香港に対しておこなったことは、香港の自治に関する約束を守っただけであると主張した。この白書の発表からわずか8日後、香港警察国家安全局は、立場新聞(スタンド・ニュース)の資産を凍結し、新旧幹部7人を逮捕した。立場新聞は同夜、事業停止を発表した。2016年と2019年の調査によれば、香港市民は立場新聞をオンライン・ニュースメディアの中でもっとも信頼できる情報源と考えていた。
 しかし、香港警察のトップはそうでないと考えていた。それ以前の12月上旬には、彼はすでにオンライン・メディアがフェイクニュースを報じているという不当な非難をおこなっていた。もうすぐ、植民地時代の法律である犯罪条例にもとづいて、立場新聞の幹部を「扇動出版物の発行を共謀」したという容疑で起訴するだろう。この強権的な法律のもとでは、ニュース報道は、当局がその報道を気に入らなければ、「扇動」とみなされる可能性がある。さらに皮肉なことは、香港「返還」から24年経った今でも、現在の法律が英国女王に言及していることだ。香港に対する北京の攻撃を「香港を脱植民地化し」「外国勢力による介入を排除し」ようとする努力にすぎないと擁護する人々について言えば、彼らは不可能なことを試みているのではないだろうか。
 立場新聞が業務停止したことの連鎖的な効果はすぐに現実のものとなった。今年1月2日、もう一つの有名なネットメディアである衆新聞(シチズン・ニュース)も、訴追を避けるために運営停止を発表した。林鄭月娥[行政長官]は、これが報道の自由に対する攻撃の結果であることをすぐに否定し、衆新聞は自らの判断で運営停止しただけだと主張した。

オーウェル的な
真実消えた都市


 報道の自由に対する北京の正面攻撃は、2020年8月、蘋果日報(アップル・デイリー)の所有者である黎智英が新たに成立した国家安全法にもとづいて起訴されたとき、すでに始まっていたのである。蘋果日報は昨年6月、当局が資産凍結に踏み切ったため、廃刊に追い込まれていた。しかし、北京の立場新聞への弾圧は、蘋果日報に対する弾圧の単純な繰り返しではない。蘋果日報は2019年の反乱に直接関与していたのに対し、立場新聞はずっと穏健だったからである。立場新聞は、民主化運動を支持する明確な立場を持ちながらも、報道におけるチェック・アンド・バランスの原則を破ってはいなかった。立場新聞を取り上げたのは、ニュース報道を全面的に違法なものとする北京の政策の明白な証拠である。
 外国の特派員も長い間、同じようにぞっとするようなメッセージを受けとってきた。昨年11月、香港政府は、エコノミスト誌の記者のビザを拒否した。これは、2018年にフィナンシャル・タイムズの記者がビザを拒否されたという同じような事件に加えてのことである。
 国家安全法施行後に最初におこなわれた大きな弾圧事件としては、黎智英の起訴、および2020年に予定されていた立法会議員選挙を前に予備選挙をおこなったとして、民主派47人が起訴されたことの2つがある。起訴には根拠がないが、このようなことは通常の専制主義政権のもとでは想定されることだ。しかし、それ以降、北京はこの限界点を超えてしまい、香港にオーウェル的[全体主義的]体制を押し付けるために勝利の行進をおこなってきたのである。

芸術的・文化的
遺産すら粛清へ


 47人の民主派が起訴されたあとに起こった2つの大きな事件をふり返れば、私の主張を理解するのに十分だろう。北京の忠実な下僕である林鄭月娥は、その極端な不人気を知りながら、パンデミックを口実に、まず2020年9月の立法会議員選挙を1年延期し、北京が2021年3月に香港の選挙制度を「改善」して、「愛国者」が支配できるようにした。その「改善」とは、直接選挙による議席を35議席(立法会の半分)から20議席に減らすことであり、その一方で立法会の定数を70議席から90議席に拡大した。そのうち40議席は「愛国者」を主体とする「選挙委員会」が自分たちで「選挙」して選ぶことで、北京が選挙を絶対的に支配できるようにした。
 そして、12月23日、香港大学の「国恥の柱」像が深夜に撤去された。この像はデンマークの彫刻家イェンス・ガルシュットが1989年の天安門広場での虐殺を追悼して制作したものである。その後すぐに、さらに2つの1989年民主化運動のモニュメントが撤去された。これらの像は、国家安全保障法にもとづいて起訴された153人がおこなったと政府が非難したこと、つまり破壊工作、政府転覆、テロ、外国政府との共謀などはやっていなかった。こうした像は、われわれを見つめながら、そこに立っていただけだった。しかし北京は、沈黙している像すら我慢できなったのだ。このことは、現在の弾圧が政治的な反対勢力を黙らせるにとどまらず、芸術的・文化的遺産ですら粛清していることを改めて思い起こさせる。独立系メディアの消滅により、大粛清はもはやとどまるところを知らない。

『1984年』が
香港の次を示唆


 国家安全法の制定以来、香港では50もの有力な労働組合や市民団体が解散を余儀なくされている。同じことは、本土の市民社会を支援することに尽力していた組織にも起こっていたが、ほとんど注目されなかった。その中には、香港で中国労働者連帯の活動をしていたグループが10ほどあったが、今日ではそのほとんどが解散させられるか、活動を停止させられている。
 これらの出来事はまた、一つのことを思い起こさせる。すなわち、2020年以降の弾圧は、「外国勢力との共謀」に対する行動というよりは、北京自らが抱く国内的悪夢、つまり人々が6月4日の虐殺[天安門事件]を記憶していることに対する恐怖であり、1989年のように中国本土と香港の民主化運動が手を結ぶかもしれないことへの恐怖なのである。
 今はジョージ・オーウェルの小説『1984年』を読む、あるいは読み直すのに最適な時期なのかもしれない。それは香港で起こっていることのために書かれた脚本のようにますます見えてきている。北京は香港の部分的な民主主義を破壊したが、それでも選挙制度を改善していると主張できた。不正に操作された選挙が30・2%の投票率しか達成できなかった(これは前回選挙の投票率の半分に過ぎない)あと、北京のメディアは故意に事実をねじ曲げて、選挙は大成功だったと主張した。北京の政策はオーウェル的な社会を香港に押し付けようとしていることはあらゆる事実が証明しているのにもかかわらず、北京は依然として香港の自治を守っていると主張している。香港で次に何が起こるか知りたければ、ジョージ・オーウェルを読むことだ。
 2022年1月16日
(『インターナショナル・ビューポイント』2022年1月24日)

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