大きな危機に際して、ウクライナの抵抗闘争と連帯して、国際反戦運動を再構築しよう
ロシアは侵略戦争をすぐやめろ
マーク・ジョンソン、ピエール・ルッセ
われわれは、永久に続く戦争の世界に生きている。われわれは、第二次世界大戦の終結以降、何度も核兵器の警報を経験してきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻は転換点を象徴している。つまり、ヨーロッパの中心部における武力による戦争という状況の中で、核兵器の警報が鳴っているのは1945年以降では初めてのことである。
この紛争は、食料・燃料価格、貿易関係、地域統合に対して、そして左翼が戦争・帝国主義・連帯をどのように理解するかについて、世界的な影響を及ぼしている。
イエメン、コンゴ、エチオピア、そしてもちろん何回ものウクライナでの戦争にもかかわらず、国際反戦運動は近年、以前ほど活発ではなくなっていた。われわれはいま、国際連帯と平和運動の再構築という緊急の課題に直面している。
反戦運動の再建や強化は、帝国主義国の社会主義者とそうでない国の社会主義者に対して、異なる課題を提起している。その課題は、(スペインのように)基地やアメリカのミサイルがあるNATO加盟国なのか、(フランスのように)アメリカ基地のない国なのかによっても異なるし、ロシアに軍事的に脅かされている国(グルジア)なのか、ロシアの安全保障に依存している国(アルメニア)なのかによっても異なっている。
地域ごとの問い
かけを土台に
ここヨーロッパでは、亜大陸の東西において、戦争のあらゆる側面に対する反戦抵抗運動の結合を強化するあらゆる努力を払わなければならない。われわれは、互いの特異性を理解し、共通の動員軸を中心に大陸レベル・世界レベルでともに行動する方法を見つけなければならない。
ヨーロッパの西部にいるわれわれは、「なぜもっと早くこの戦争が起こることに気がつかなかったのか?」という問いかけから始めたほうがいいだろう。ウクライナやロシア、そしてこの地域の他の国々の左翼の同志や同盟者は、数年前から警鐘を鳴らしてきていた。しかし、西側左翼の多くは、ウクライナ国境での軍事的緊張の高まりは、本質的にはモスクワがNATO諸国に圧力をかける手段であると考えていた。われわれは、NATOという要因、つまり自らの支配階級に対する自分自身の闘争しか考慮に入れていなかったのだ。
NATOの危
機を踏まえて
いまや、われわれは事態をより明確に理解している。侵攻直前と直後のプーチンの演説は、軍事的・経済的・政治的・文化的な側面において、ロシアの帝国主義的プロジェクトを明確にしている。
この紛争は、NATOの失敗とトランプ政権期間中の緊張のあと、NATOが深い危機に陥っているときに起こった。内部分裂は明らかで、欧州のNATO諸国の中には、アメリカとの連携を弱め、西ヨーロッパの軍事的連携の強化を提案する国もあった。アメリカのバイデン大統領は、アジア太平洋地域におけるアメリカの支配力を取り戻すために他の手段を選択して、クアッドの役割を再定義し、AUKUSを創設した(一方では米英関係、他方ではフランスとの関係を犠牲にして)。
冷戦時代と比較すると、アメリカとNATOの軍事資産はヨーロッパでは弱体だった(そしていまでも弱体である)。この弱体ぶりは、ロシアの侵攻に対してバイデンがただちに反応し、「アメリカによる軍事介入はない」と表明したことに示されている。ヨーロッパのNATO諸国のうちいくつかの国々は、とりわけロシアやソ連による侵略と占領の歴史的記憶を持つ国は、全く違った姿勢を期待していたのである。
プーチンは、チェチェン、シリア、ドンバス、クリミア、カザフスタンで何度も成功を収めてきたように、素早く勝利して西側諸国の前に既成事実を突きつけるつもりだった。今回、プーチンの計画立案者たちは、ウクライナの軍隊と住民―ウクライナ人とロシア語を話す人々の両方―の抵抗を過小評価していたのである。とはいえ、プーチンの力の誇示は、NATO内の分裂を露呈させ、引き立たせることになった。ほぼ毎日、NATO諸国の指導者たちは、とりわけウクライナへの支援に関する同盟の戦略は何なのかについて、矛盾した発言を繰り返している。
欧州左翼分解
の中での闘い
この紛争はまた、ヨーロッパ左翼が3つに分裂していることを明らかにした。社会民主主義者と緑の党は、以前の紛争の際と同様に、NATOの最大の応援団になっている。反資本主義左翼の一部は、非西欧帝国主義によって起こされた紛争に適応することができないでいる。こうした同志たちは混乱している。彼らは、ロシアの侵略に対するもっとも穏やかな批判をおこなう以上のことを拒否し、ウクライナとの連帯を拡大することに乗り気ではない。さらに、あらゆる証拠に反して、NATOだけに責任がある、またはNATOに主な責任があると主張し、ウクライナは西側のかいらい国家あるいは初期ファシスト国家であって、ロシアが真の被害者であると主張している。彼らの立場は「陣営主義」であり、西側支配階級に反対する者は誰であっても自動的に支持するのである。ウクライナやシリアの人々は、この行き詰った政治に対して、何年も前から西側左翼に警告を発しようとしてきた。いまや2回目のロシア帝国主義による戦争に対処すべきである以上、一部の同志たちの視点が変わることを期待しよう。
陣営論の失敗
超える視点を
陣営主義の失敗は、軍事的・地政学的な側面にとどまらない。連帯の出発点は、戦争の犠牲者である住民の防衛であることは確かである。陣営主義者は、自らのねじれた地政学的考慮の名のもとで、ウクライナ住民と連帯して行動することができないでいる。彼らは人間の苦しみを冷酷にも分断して、アメリカ帝国主義の犠牲者は認めるが、他の帝国主義の犠牲者(シリアではバシャール・アサドと彼を支持するロシア人による犠牲者、ユーラシアではチェチェン人、ジョージア人、ウクライナ人、中国ではウイグル人とチベット人)の存在を周縁化し、無視し、否定する。
われわれはそのようなアプローチを拒否する。戦争・抑圧・追放によって影響を受けた人々への共感が国際主義と戦闘的倫理の基本的な原動力だと考えるからである。
「あらゆる不正義に憤りを感じて震えるなら、あなたは私の同志である」エルネスト・チェ・ゲバラ
われわれは、とりわけ西側左翼が直面している課題についてのわれわれの理解を提起する。平和運動、ウクライナ左翼や社会運動との連帯、難民支援や反レイシズム、ヨーロッパ亜大陸の東西における帝国主義に対するオルタナティブの強化などを議論し、それらを構築していくことに貢献することを願っている。
平和運動に関するテーゼ
これは、ロシア帝国主義によるヨーロッパ大陸の最貧国に対する不当な戦争である。ロシアは、ウクライナに対するあらゆる形態での干渉をただちにやめ、軍隊と傭兵をすべて撤退させ、ドンバスの親ロシア民兵への資金援助をただちに打ち切るべきである。いわゆるドネツク人民共和国やルハンスク人民共和国、そしてクリミア地域には、近年の紛争の結果としてこれらの地域を離れた元住民を含む住民の意思にもとづいて、これらの地域の最終的な地位が平和的に解決されるまで国連平和維持部隊を配備すべきである。
われわれは、ウクライナの武装抵抗を支持する。われわれは、いかなる合法的な手段によっても、外国の占領者からウクライナを解放することを望む。したがって、われわれはウクライナ当局と人民への防衛用武器の供給に賛成である。われわれは、ウクライナ人がNATO諸国を含むあらゆる供給源から武器を入手する権利を認める。
われわれは、とりわけ民衆的抵抗のニーズにもっとも適した兵器の提供を支持する。その中には、対戦車兵器や対空防衛システムが含まれる。われわれは、極右や犯罪者の手に武器が渡らないことをウクライナがまず保証しなければならない(それは不可能だ)、あるいはNATO諸国が無償で武器を提供する場合でもウクライナは非同盟諸国からしか武器を購入してはならないと要求することによって、ウクライナの勝利に反対する人々が実現不可能な前提条件をつけ、それを口実とすることを拒否する。
侵略戦争に直面したとき、連帯とはウクライナ人の自衛権を承認することを意味する。その状況は、ウクライナ政府が資本主義政府であることでは変わらない。また、ウクライナに他の国と同様に極右が存在することによっても、状況は変わらない。実際のところウクライナの極右は、多くの国々よりも、とりわけロシアよりも少数である。
ウクライナ人のために、ウクライナ人の抵抗形態を決めるのはわれわれではない。これまでのところ、彼らは多面的な武装闘争を展開してきた。平和主義や受動的な抵抗だけでは、この戦争による悲劇や人的犠牲を回避するには十分ではなかっただろう。プーチンが電撃的な勝利を収めれば、それに励まされて彼はさらに前に進んだことだろう。
ウクライナ自身の軍需産業は、ウクライナの当面のニーズを満たすには不十分であり、戦争中に大きな損害を受けた。もっとも必要とされる特定の兵器は生産されておらず、その量も十分ではない。
大陸間戦争へのエスカレーションと核兵器の使用という危険に直面し、われわれはNATOとロシアの間の直接的な衝突に向けたいかなる動きにも反対しなければならない。
帝国主義国同士による直接的な紛争に突入すれば、はるかに大きな苦しみをもたらし、世界的な悪影響を及ぼす可能性があるだろう。ウクライナ紛争は、冷戦時代から続いてきたNATO諸国とロシア(以前はソ連)との一連の間接的対立の最新の例である。帝国主義間の直接紛争を誘発しかねない動きには、ウクライナ国内での小型核兵器や化学兵器の「戦術的」使用、NATOによるウクライナ上空の「飛行禁止区域」の設定、NATO軍のウクライナ国内への駐留などが含まれる。
防衛用武器や非軍事的援助の提供を含む、この紛争におけるウクライナへの西側の支援によって、直接的な帝国主義間戦争が起こることはない。ちょうど、冷戦中の数々の紛争が、たとえ西側とソ連が対立する陣営に常に支援を提供していたとしても、帝国主義間戦争ではなかったのと同じことである。
ボイコット・制
裁・投資撤収
ロシアの侵攻に対して、われわれはボイコット・制裁・投資撤収(BDS)を呼びかける。
われわれは、ロシアのエリート層の個人資産を対象とした国家制裁、およびロシアの国家収入とウクライナへの侵略・占領を継続する能力を削減する貿易・金融制裁を支持する。
われわれはまた、標的となる企業がロシアによるウクライナの侵略・占領を直接的に支援している場合にはいつでも、その企業をボイコットし、ロシアから撤退するように圧力をかける市民社会のイニシアチブを支持する。
われわれが国際的な制裁措置を用いることを提唱したのは今回が初めてではない。われわれは、南アフリカのアパルトヘイト政権に対する制裁を要求した。われわれは現在も、パレスチナ人を防衛するするBDSキャンペーンの一環として、また昨年の軍事クーデター以降ビルマ(ミャンマー)に関して、同様に制裁を要求している。どのような制裁をおこなうかは、明らかに根本的な問題である。われわれは、この問題について、ワシントンやブリュッセルに同調してはならない。むしろ、現在の固有の状況において、擁護できる制裁と非難されるべき制裁の性格に関して、ウクライナの進歩的潮流の意見を考慮に入れなければならない。侵攻以降、ウクライナの人々は、西側諸国政府が提案する制裁措置に圧倒的に賛成してきた。ウクライナ左翼は、これまでのところ、具体的な制裁措置に反対してこなかった。ロシアの急進的左翼は今のところBDSに反対していないし、BDSを要求しているわけでもない。
制裁は、急速に拡大する輸出入禁止リストと並んで、ロシアの金融市場や銀行サービスへのアクセスを減らすことに重点を置いてきた。東欧のEU加盟国の中には、ロシアとの貿易を全面的に禁止するよう求めている国もある。より大きな西側経済圏は今のところ、ロシア製品に的を絞った禁止措置や懲罰的な輸入税の導入を選択している。中国や他の西ヨーロッパが今のところ、もっとも効果的な制裁であるロシアの石油やガスの購入を減らすことを避けているとしても、これらの制裁は確実にロシアに深刻な不況をもたらすだろう。それにもかかわらず、欧米企業はロシアからの購入を減らし始め、アジア、とりわけインドと中国のバイヤーが石油購入で大きな値下げを得るのを可能にしている。
市民社会によるボイコットや、機関投資家に対するロシアからの投資撤収の圧力は、侵攻以降数週間のうちに広範かつ多様なものとなっている。市民社会や西側諸国政府からの要求を予想して、多国籍企業やより小規模な企業の中で、ロシアでの事業を中断したり、終結したりするところが増えてきている。また、消費者がロシアの商品やサービスを拒否する傾向もあり、ロシア経済に悪影響を与えているが、その主な影響は意思決定者よりもむしろ一般大衆に及んでいる。
また、文化やスポーツのボイコット運動もその多くが自然発生的に起こっている。これは、ロシアの政策と行動に対する欧米の非難、およびウクライナとの連帯を示すものである。
ボイコットの中には、ロシア文化やロシア市民に対する敵意を表現しているものもある。これらは不当な差別を引き起こし、悪意のないロシア人を疎外し、ロシア人を「よそ者」として悪魔化する欧米の攻撃的なキャンペーンを強化している。
差別を許すな
難民の権利を
ウクライナからのすべての難民は最高の歓迎を受けなければならない。欧州連合(EU)は初めて、これらの難民のために「一時的保護」指令を発動し、仕事、学習、社会的保護へのアクセスを可能にした。この先例は、他の難民(シリア人など)のためにも活用されなければならない。市民社会からの圧力により、ヨーロッパのいくつかの国はすでに「一時的保護」と他のその国独自の措置(無料輸送など)を、すべてのウクライナ難民(以前ウクライナに居住していた市民や外国人)に拡大している。われわれは、他の国からの難民とも連帯して、圧力をかけ続けるべきである。われわれは、他の紛争や大災害からの非白人難民の苦しみと比較して、ウクライナ人の苦しみに対する西側の人道的対応がはるかに大きいことで露呈した制度的かつ広範なレイシズムを糾弾する。
ウクライナからの難民の多くは、近隣のEU諸国とモルドバに集中している。これらの国はヨーロッパでもっとも貧しい国々である。こうした国の難民支援サービスのほとんどは市民社会によって提供されている。国は住宅や社会的保護を提供することができず、滞在する難民に必要な医療・教育施設の拡充も遅すぎる。国はもっと多くのことをしなければならない。
すべてのEU諸国は、難民危機に対する財政負担を分担すべきである。
難民の殺到はこの戦争の極度の暴力を証明している。これほど短期間にこれほどの流出を目撃することはめったにない。それは、「新ロシア」植民地の計画された領土から、ウクライナ人と忠実でない要素をジェノサイド的に「浄化」し、排除することを示唆するものである。
「親西側」的連
携論ではなく
国際反戦運動は大国から独立したものでなければならない。そのことは、西側のリベラル派、社会民主主義者、緑の党がおこなってきたような西側勢力(アメリカ、欧州連合、イギリス)との連携論をとらないという意味である。それはまた、(欧米帝国主義に反対する「陣営」なら何でも支持する)「陣営主義」の立場から、ロシアや中国の側につくことでもない。
平和運動内部で親ロシア的、陣営主義的な連携をすることは、ロシアの地域的な帝国主義的拡大に対する批判を避け、ロシア語を話すウクライナ人に対する大量虐殺というロシアの主張を無批判に受け入れ、ドンバスのロシア支配下のかいらい小国家を正当化し、ロシアが軍事支配する地域に対してロシアに支配されたプロセスでの自決権(ウクライナからの分離とロシアへの統合)を要求することになるだろう。そのことはまた、ウクライナのブルジョア政権をファシスト政権、あるいは正当性をもたない西側のかいらい政権と偽って描き出し、ウクライナの民族主義極右の規模と影響力を誇張し、同時にモスクワ政権自体の権威主義的・反動的性格が強まっていることを最小化したり、無視したりすることになるだろう。
親西側的な連携が意味するのは、NATOの軍国主義やEUの東欧への新植民地的経済拡大への批判を避けるということである。それは、ウクライナの政治・経済エリートによる反民主主義的な動きを正当化することを意味する。そのことは、西側諸国における市民的自由の制限を正当化し、反西側的な意見や政治活動を犯罪化することをますます意味するようになるかもしれない。
NATO拡大
論を取らない
われわれは、NATOの拡張と侵略に反対している。われわれは、NATO諸国によるすべての軍事費増加に反対する。われわれはむしろ、とりわけ社会・医療・教育部門の利益となる軍事支出の削減を要求しているのである。われわれは、ヨーロッパにおけるすでに大量に存在するNATO施設のあらゆる将来における拡張に反対し、東ヨーロッパ空間の非軍事化の本質的な要素としてNATO軍の削減を提案する。われわれは、加盟国以外へのすべてのNATO軍配備に反対する。われわれは、いかなる国のNATO加盟にも反対する。われわれは、いかなる国のNATOからの脱退、および同盟の解消にも賛成する。ヨーロッパ諸国、とりわけ最貧国の将来の安全保障は、広範かつ非対立的な枠組みにもとづくものでなければならない。
西ヨーロッパ全域で、軍事予算の増加が予想される。とりわけドイツは、軍事的関与という点で歴史的転換を遂げつつある。ヨーロッパのNATO諸国は、伝統的なアメリカ主導の統合と、より自律的な欧州統合(ドイツとオランダはすでに戦車大隊と海兵隊を統合し、さらに共同部隊、共同の武器調達・後方支援も計画されている)の間で躊躇し続けている。どちらの選択肢も帝国主義的野心を持っている。欧州主導のアプローチは、旧ソ連邦諸国に再び焦点を当て、アメリカ主導の世界遠征軍における関与を低下させることを意味するだけだろう。
NATO諸国の軍事費削減を求めることと、ウクライナに武器を供給することは矛盾しないと考える。実際、NATO諸国の軍事予算を増やさずにウクライナに兵器を提供することは、NATOの兵器在庫を減らすことに貢献するだろう。もちろん、この効果は限定的なものだろう。というのは、NATO諸国がウクライナに提供しているのは、ほとんどが旧式兵器、とりわけEU東部のNATO加盟国がまだ使用しているか保管しているソ連時代の兵器だからである。
ヨーロッパのNATO諸国では、軍事基地の強化や建設、アメリカの最先端の戦争技術の導入に対する民衆の支持も高まっている。EU東部に位置するNATO加盟国の中には、さらに西側の豊かなNATO加盟国からより近代的な兵器を受けとる代わりに、自国のソ連時代の兵器をウクライナに提供することを提案する国もある。ヨーロッパの旧ソ連諸共和国や衛星国のほとんどは、現在NATOに加盟している。これらの国の多くは、ロシア、ウクライナ、ベラルーシと国境を接しており、ソ連・ロシアの侵略と占領の記憶が比較的新しい。現在の戦争はもっともな不安の感情を証明した。この不安感を当局と主流メディアが当然のこととしてさらに助長している
現在中立の立場にあるヨーロッパ諸国の政府が、NATOへの加盟を申請する可能性は高く、これに対する大衆的支持も高まっている。西ヨーロッパの中立国はおそらくNATOに歓迎されるだろうし、ロシアが領有権を主張していないバルカン諸国もそうだろう。EU内の中立国(スウェーデン、フィンランド、アイルランド、オーストリア)に対しては、共通安全保障・防衛政策(CSDP)におけるEU内のNATO加盟国との共同平和維持、紛争予防、その他の軍民協力に参加するよう継続的な圧力がかけられるだろう。CSDPの範囲が拡大され、中立国がますますNATO加盟国が支配する事実上の同盟に引き込まれる可能性が高い。
ヨーロッパでNATOに加盟していない旧ソ連共和国・衛星国は、モルドバとウクライナだけである。NATOは、これらの国々に将来加盟するという偽りの約束を続けるかもしれないが、今回の紛争はNATOが旧ソ連圏にこれ以上拡大することを拒否していることを確認するものである。しかし、NATOの軍事支援は、これらの国々や旧ソ連の他の西側同盟国に対して、とりわけ最近においてロシア軍と地元の同盟者による紛争・侵攻・占領の歴史があるジョージアに対して拡大する可能性がある。そうした地域の住民は、信頼できる代替安全保障の取り決めがない以上、NATO加盟という展望を選択すると思われる。
国境を超えた
露軍展開反対
われわれは、ロシア軍のロシア国境外へのすべての展開に反対である。われわれは、集団安全保障条約機構(CSTO)加盟国間の警察部隊の国際的展開に反対である。われわれはCSTOの解散を支持する。
もしロシアがこの戦争で部分的な勝利または大きな勝利を獲得するなら、モスクワはベラルーシや南コーカサスおよび中央アジアの旧ソ連諸共和国との関係において、威嚇や武力行使の可能性がますます高まるだろう。集団安全保障条約機構(CSTO)は警察を中心とした組織であるが、これを拡大することも可能だろう。しかし、軍事的にも経済的にもロシアに依存しているのはベラルーシとアルメニアだけであり、他のCSTO諸国は、とりわけ中国に対して同盟関係を多様化させる誘惑に駆られるかもしれない。ロシアの敗北はこのプロセスを加速させるだろう。こうした国の多くにとって、ロシアの商品市場と労働市場は依然として重要であるが、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンなどの石油・ガス産出国には経済発展のための選択肢がより多く存在する。
核兵器の先制
使用許すな!
核兵器・生物兵器・化学兵器の廃絶は、これまで以上に重要な課題となっている。ロシア、アメリカ、フランス、イギリスは、核兵器を先制使用しないという約束を改めて言明すべきである。プーチンは現在の軍事的膠着状態に直面して、核の脅威を振りかざし、さらにポーランド国境付近の標的に中距離極超音速ミサイルを発射するなど繰り返しより大きな戦略的賭けに出ている。また、相手が化学兵器や生物兵器による攻撃を計画しているとして、双方が相手を非難している。われわれは、核兵器を保有することによって戦争が不可能になる(「力の均衡」ドクトリンと「相互確証破壊」への懸念)のではなく、実際には、核兵器の所有が、侵略者の核の傘の下で、ヨーロッパの中心部で通常戦闘を可能にするために利用されていることを目の当たりにしている。平和運動は長い間、核軍縮のみがこの脅威からわれわれを解放することができると主張してきた。プーチンはわれわれが正しいことを証明した。しかし、警戒しなければならない。核兵器を保有するすべての大国は、核兵器が政治的に受け入れられるようにして、より小型で受け入れやすい核兵器の戦術的使用の構想を繰り返し打ち出そうとしている。
ウクライナとの連帯に関するテーゼ
民族解放のために! ウクライナ人は平和に暮らす権利がある!
われわれは全員、国外に逃れたウクライナ人が平和デモで掲げている「ロシア人が戦いをやめれば戦争はなくなる。ウクライナ人が戦いをやめればウクライナはなくなる」と書かれた横断幕を見たことがある。ウクライナの抵抗が強ければ強いほど、そして進歩的なウクライナ人がその闘いに参加し、闘いを形成する能力が大きければ大きいほど、平和はより良いものになり、その後のウクライナ社会はより良いものになるだろう。
侵略者への抵
抗の権利支持
ウクライナ人が軍事的抵抗の継続を大衆的に支持しているにもかかわらず、部外者がいかなる代償を払ってでも平和を、と呼びかけるべきではない。この状況では、いかなる代償を払っても平和をというのは、ウクライナ人の犠牲の上でロシアの利益を最大化することを意味するからである。
ウクライナは中立を憲法で約束し、外国の恒久的な基地を拒否することを改めて表明する可能性が高い(ウクライナに恒久的に兵力を維持している外国はロシアだけであり、ドンバスとウクライナの一部にすでに数年間軍隊が駐留している)。ロシアはウクライナに対し、いくつかの種類の重火器や攻撃的な兵器を永久に拒否するよう要求してきた。問題は、新しい平和の中でウクライナはどのような安全保障を得られるのか、ということである。ロシアと西側諸国は、ウクライナが核兵器をすべて放棄したとき(そうした唯一の国である)、ウクライナの国境を尊重することを約束した。その約束の価値は、今や悲しいほど誰の目にも明らかである。おそらくウクライナは、国連やOSCEの何らかの権限を求めるだろう。そのような取引に対する最大の障害は、ロシアの反対であり、とりわけロシアがドンバス地域に事実上の植民地を維持する場合、ロシアによる介入の脅威が続くことだろう。
われわれはウクライナでのロシア軍による戦争犯罪を糾弾する。不当な侵略に加え、ロシアは市民を攻撃し、病院などの民間インフラを攻撃してきた。ロシアは、包囲された都市から市民が退去するのを阻止し、それと同時に退去しなければ軍事裁判を受けることになると市民を脅している。西側諸国の指導者たちがロシアの戦争犯罪を非難しているという事実は、われわれが黙っているべきということを意味しない! むしろ、われわれは、責任の所在にかかわらず、すべての戦争犯罪と人道に対する罪を糾弾する。われわれは、国際的な合法性と重要な人道主義的原則を持ち出してモスクワを糾弾する西側諸国の偽善を糾弾する。それらは自らが繰り返し違反してきたものだからである。
この戦争の勝者は、おそらく何らかの法廷を設置するだろう。われわれが望むのは、民主的なウクライナにおける独立した法廷であり、それがウクライナ人同士、およびウクライナ市民とロシア市民の間の賠償と和解という視点を持ったものであるということだ。
ウクライナにおける少数民族の権利は承認されなければならない。しかし、この権利を擁護することは、「大量虐殺の危機に瀕したロシア語を話すウクライナ人を守るために介入する」と主張するプーチンの言説を煽るものであってはならない。法的な言語的平等を取り戻し、ドンバスやクリミアを含む国内のさまざまな言語を教育・行政・メディアで使用するという問題は、ロシアの占領下で解決することはできない。ウクライナの少数民族に対する真の関心には、クリミアにおける少数民族であるウクライナ人とタタール人を保護する施策も組み入れる必要がある。彼らは人口の4分の1以上を占めるが、ロシアの侵攻とその領土のロシア連邦への一方的編入以降、事実上すべての言語的・文化的権利を失ってきたからである。
「文明の衝突」
論を拒否する
ロシアはドンバス地域のロシア語を話す人々の状況に関するプロパガンダを広めることに成功し、多くの西側左翼を混乱させ、場合によってはロシアの要求を支持するように導いた。われわれは、ドンバス地域の自称人民共和国は、ロシアに支援された「国家」であり、ロシアからの全権公使、地元のマフィア、極右冒険主義者の同盟によって運営されていることを明確にすべきである。大規模な社会的・政治的・文化的抑圧があり、ヨーロッパ大陸のどこよりも、ロシアのアジア部分のどこよりもひどい状態である。ロシアは、国境を定義することなく、これらの「国家」を承認した。おそらくロシア軍は、近隣地域で偽りの住民投票を実施し、こうした地域を徐々に「新ロシア」植民地プロジェクトに統合していくだろう。この状況では、こうした地域におけるロシア語を話す人々の自決権をただちに要求することは、ロシアによるウクライナの植民地化ときわめて反動的な植民地行政の強化に対して、効果的な支援を与えることになる。ドンバス出身の多くの活動家を含むウクライナ左翼は、侵略軍を追放したあとの新たな民主的合意の一部として、ロシア語を話すウクライナ人の権利を強化するよう求めている。
ウクライナ社会運動の友人たちが指摘するように、プーチンの言説はウクライナ語を話す超国家主義者の言説と倒錯した形で結びついている。彼らは常に、ロシア語を話すウクライナ人が[ロシアへの]忠誠心を持っているか疑わしいと考えてきたのである。
「文明の衝突」という毒をすべて拒否せよ!
ロシア語話す
人びとの闘い
大多数のロシア語を話すウクライナ人は、侵略者に対して戦っている。最近ロシア軍に占領された都市でさえ、非武装の市民が大規模かつ平和的なデモによって占領を拒否していることを明らかにしている。ロシア語を話すウクライナ人は、ロシアの戦争の犠牲者として倒れ、砲撃の犠牲者となり、亡命の道を歩んでいることにずっと気がついている。ウクライナ政府は最近になって、ロシア語を話す人々の圧倒的な忠誠心を認め、ロシアのソーシャルメディアのブロックを解除し、ロシアにいる家族や友人と直接交流することを促した。ウクライナの部分的勝利、あるいは完全勝利は、行政・教育・公共メディアへのロシア語の再導入の基盤となる可能性がある。逆に、ウクライナが屈辱にまみれた場合には、極右がロシア語を話すウクライナ人を忠誠心に欠けた、信頼できない存在として再び標的にするのを助長するかもしれない。
ウクライナ左
翼への連帯を
ロシア国内および他国のロシア語を話す人々の間では、ロシア帝国主義は、かつてロシア帝国やソヴィエト帝国の一部であった地域においてロシアの民族的・言語的・文化的支配を回復するための文化的・政治的十字軍として宣伝されている。その要素の一つが、ウクライナのアイデンティティの否定である(ウクライナにはロシアと切り離された意味のある歴史はない、ウクライナ語はロシア語の方言である、ウクライナ文化はロシア文化の変種であるなど)。西側左翼の一部は以前からこの大ロシア的プロパガンダを受け入れやすかった。その理由はおそらく、彼らの地域的知識がロシア帝国における革命のロシア的要素やソ連における反スターリン主義の抵抗のロシア的要素についての研究に限定されていることにあるのだろう。また、西ヨーロッパではウクライナ文化の地位が低いことも理由だろう。それは、ウクライナがヨーロッパ大陸の最貧国として周縁化されていることや、西ヨーロッパ経済のもっとも不安定で賃金の低い部門にウクライナ人移民が集中していることを反映したものであろう。その説明がどうであれ、西側左翼の大半がウクライナの思想家や活動家と関わろうとしないことは、われわれにとって驚きと落胆の源であり続けている。
また、ロシアの「オリエンタリズム」やバーバリズムと対比して、西洋の「文明的」優位性を主張する動きも復活している。この西側の言説は深く反動的な根を持っており、「ヨーロッパ」を文明や進歩と同一視し、東や南の人々は誰も「西洋的」価値観への忠誠を示す程度でしか、文明や進歩に寄与できないというのである。
われわれは、ウクライナの左翼勢力と独立した社会運動との政治的・財政的・物質的な連帯を支持する。
われわれは、ウクライナ人民の抵抗闘争に左翼からの連帯を提供することによって、新自由主義者や極右に闘いの場を明け渡すのではなく、われわれの全力をあげてウクライナ左翼が自らを強化するのを助けている。われわれは、実践的で具体的な人民同士の連帯を提唱する。われわれは、単なる政治的立場、原則の発表、自国政府への批判だけでは満足できない。
前線の両側で連帯が必要である。われわれは連帯を押し付けるのではなく、連帯を提供するのだ。われわれは、ウクライナの抵抗闘争と侵略国における反戦運動から手本を得ている。それが意味するのは、第一に耳を傾け、第二に考え、そして行動するということである。
われわれは、ウクライナ人を犠牲にして平和を求める西側左翼の数多くの呼びかけに関わるべきではない。こうしたとりくみの中には善意のものもある。しかし、それらは、ウクライナ人について、ウクライナ人抜きで、立案され、推進される傲慢な提案であることに変わりはない。
ウクライナの左翼勢力は、解放闘争のあらゆる側面に全面的に関与している。いくつかのグループの支持者は、同じ軍隊や市民防衛隊に参加しているが、そうしたとりくみの規模はまだ小さい。左翼は、われわれの支援に値するいくつかの人道的とりくみを展開している。ウクライナの進歩的な人々は市民的・政治的要求のために、組織・ロビー・出版活動を続け、戦争を口実に反動的改革を押し付けようとするあらゆる企てに抵抗している。また、ウクライナから国外に逃れた人々には左翼活動家がおり、平和運動や難民支援活動において重要な役割を果たしている。
ロシアの左翼、フェミニスト、平和運動は増大する弾圧に直面しながらも、その努力を続けている。そうした人々は、海外に逃れたロシア進歩派の動員が拡大することで支えられている。これまでの戦争では、戦死した兵士の遺族が学生などの活動家集団とともに、民衆の意識を高め、軍国主義に対して抗議する上で重要な役割を果たしてきた。
ベラルーシの左翼は数的には弱体だが、民主化と社会正義のための努力を継続している。兵役に召集された若者の脱走や移住を奨励・促進する地下ネットワークが存在するとともに、兵站活動に対する妨害行為に関する未確認の報告もある。
中央ヨーロッパ(かつてはソ連の衛星国だったが、現在はEUに新たに加盟した)の左翼政党は、ウクライナ社会運動(SR)と政治的に連帯しながら活動を強め、SRの提案を中継しているが、ウクライナ解放に関する立場を避けている進歩派インターナショナルのような左翼フォーラムから脱退さえしている。
ウクライナのいくつかの進歩的なグループは資金調達を開始した。オランダやドイツなどの進歩派組織は、ウクライナの進歩的・人道的とりくみのために募金活動を組織している。
プーチンの野
望を打ち砕け
物質的支援という点では、たとえばフランスの労働組合は、連帯を示し、援助を届けるために、労働者による輸送隊を送る準備を進めている。
われわれは、ウクライナに対するロシアと西側の帝国主義的な計画を拒否する。ロシア軍は撤退せよ! ウクライナの商品・サービス・労働者は、ウクライナに自国の市場を開放する義務を負わせることなく、西側市場にアクセスできるようにすべきである。ウクライナの負債は帳消しにされなければならない。西側諸国の制裁による資金はウクライナ当局に送金されるべきである。
ロシアの支配下にある旧ソ連の資本主義的経済統合に向けたモスクワの努力は近年停滞している。これまでの西側による制裁に対応して、プーチンはロシアの長期戦略の変更を課し、西側の経済回路と西側支配の制度から手を引き、輸入に代わる国内の農業・工業能力を向上させ、戦略部門へ集中的に投資をすすめてきた。プーチンは、周辺領土としてのウクライナのEUへの経済統合、およびウクライナの土地を欧米企業の手に渡す民営化計画を破棄させたいと考えている。その代わりに、旧ソ連第二の経済大国でありながら今やヨーロッパ最貧国となったウクライナを強制的に再統合することで、「旧ソ連諸国」に対するロシア帝国の支配をもう一世代にわたって強固にしようと決意しているのだ。
彼の野心は、東ウクライナの肥沃な平原と産業中心地をロシアの経済空間に統合し、幅広い農産物や鉱産物の生産におけるモスクワの支配的役割と、その産業能力、競争力を強化することである。今回の侵攻は、クリミアの併合に続いて、ロシアのヨーロッパ側の端にある唯一の通年航行可能な海路である黒海へのロシアのアクセスを拡大することを目的としている。
このプロジェクトのために、プーチンのロシアにとって必要なのはウクライナの東部と南部「だけ」である。東部の肥沃な黒土と産業がなければ、そして海岸線がなければ、残されたウクライナ国家は、貧困に陥り、資源を奪われ、すべての隣国の言いなりになってしまうだろう。モスクワの保守的な戦略家はすでに、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアにウクライナ西部の領土を提供するというアイデアを持ち出しており、ヨーロッパのさまざまな国家間の緊張というパンドラの箱が再び開かれることになる。
この戦争のあと、ウクライナは破産し、その経済が混乱・悪化する可能性が高いだろう。とりわけロシアがウクライナの東部と南部の領土を支配し続けるなら、なおさらそうなるだろう。
西側帝国主義は、近隣諸国との既存の新自由主義的で不平等なEUパートナーシップ協定にもとづいて、ロシアが占領していないウクライナの領土をすべて支配しようとするだろう。
2022年3月25日
(『インターナショナル・ビューポイント』3月25日)
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