スウェーデン NATO論争

高まる加盟圧力と左翼の抵抗

ベラ・フランク/ファルーク・スレーリア

 ベラ・フランクはジャーナリストであり、気候変動、人権、労働者の権利といった課題に関し世界中から声を調査し発表するために努力している新聞、「ティドニンゲン・グローバル」と共に活動している。彼女はファルーク・スレーリアによる以下のインタビューの中で、NATO加盟に関するスウェーデン内の論争を考察している。この論争は、ロシアによるウクライナ侵略によって引き金を引かれることになった。

ロシアによる
問題持ち込み


――フィンランドとスウェーデンは、特に後者は、長い間中立を保ってきた。今両者とも、NATO加盟に用意ができているように見える。ウクライナがもし侵略を受けなかったとすれば、両国は〔ほとんど確実に〕中立のままだっただろうか、あなたの考えは?

 そう思う、少なくとも短期的には。私の確信では、それ以前には想像も困難だったと思われるような形で、多くのスウェーデン人に向けてロシアのウクライナ侵略がこの課題をこの国に持ち込んだ。スウェーデンの中立は、200年以上の間その国境内部で平和を維持できてきた理由に関するもっとも重要な要素として、幅広く受け入れられてきた。
 多くのスウェーデン人は今なおNATO加盟に確固として反対している。しかし私は、スウェーデン市民の大きな部分は今単純に、NATO加盟に関する賛否両論をもっと多く自ら学ぼうとしている、と考えている。また、スウェーデンが中立であると主張していた時期でさえ、実践上これが必ずしもそうではなかった、ということも言われる必要がある。たとえば、スウェーデンは2014年以来、「切迫度高度化時パートナー」のひとつとして、NATOとの緊密な協力を行ってきた。スウェーデンはさらに、国際安全保障支援部隊(ISAF)に基づき、アフガニスタンの部隊に参加してきた。

――世論調査によれば、フィンランドではNATO加盟に70%の支持がある。スウェーデンでの世論のムードはどうか?

 フィンランドやスウェーデンでNATO加盟に70%の支持があるとは私は考えない。しかしながら、スウェーデンもまた加盟を決定するならば、フィンランド人の支持は70%まで進むかもしれない。
 ロシアの侵略の1週間後、スウェーデンでのNATO加盟支持は急増した。3月4日に公表されたNovusによる調査では、回答者の49%が、スウェーデンはNATOに加盟すべき、と信じ、他方27%は反対だった。回答者の大きな塊である24%は、分からない、と答えた。それでも、ロシアのウクライナ侵略以前、およそ49%がNATOにノーと言うのが常であり、およそ35%しかNATO加盟を支持しなかったと思われる。
 DN/イプソスによるもうひとつの調査は、フィンランドが加盟するという条件では、NATO加盟支持がスウェーデン人の多数派になる――この場合では、およそ54%がスウェーデンのNATO加盟を支持するだろう――、と示している。
 世論のムードは計るのが難しい類のものであり、広い意味での左翼の多くは、論争は今NATO加盟の方向へ歪められている、と感じている。それで、加盟への明確な多数派がなくてもスウェーデンは加盟しなければならないとの幾分総意らしきものが生まれることになり、左翼や平和陣営の多くは、NATO加盟がバルト海地域全体にとっては不安定化になるだろう、と恐れている。
 それが意味するかもしれないこととして、評論家は、今後スウェーデンは軍事紛争に引き込まれるだろう、そしてスウェーデンはそれに代えて、非軍事化のための努力を強化しなければならない、と力説している。また多くの評論家は、極めて短い時間枠となるかもしれない中でそのような重要な決定を行うことに警告を発してきた。しかし左翼のいくつかの声は今、スウェーデンの加盟をある種の必要悪と考えているように見える。

NATO加盟へ
主流政党の移行


――ウクライナでの戦争以前にすら、スウェーデンの右翼諸政党はNATO加盟を唱えていた。主流的左翼(社会民主党、緑の党、左翼党)はその考えに反対してきた。今主流的左翼の立場はどういうものか? また、スウェーデンが今年9月の総選挙に向かっているという事実を考えた場合としても。

 確かに、右翼の立場は今まで主としてそのようなものであり続けた。伝統的な右翼政党のいくつかは、長い間NATO加盟を求めて圧力をかけてきた。穏健党(保守派)と自由党(自由主義派)、そして2015年以後はキリスト教民主党と中央党の両党が、スウェーデンがNATOに加盟するよう促してきた。極右のスウェーデン民主党はつい先頃立場を変え、今はスウェーデンの加盟を支持している。
 緑の党と左翼党は今もスウェーデンの加盟には強く反対している。政権党の社会民主労働党は伝統的にそれには反対だった。しかし彼らもその立場を変えようとしているとの報道がある。社会民主労働党がNATO加盟を主唱することで先に進むならば、議会ではその点での多数派が生まれるだろう。スウェーデンがフィンランドと共に、もしかしたら早くも6月末のNATOサミットの中で申請を行いたがっている、との報道もある。

――皮肉なことだが、スウェーデンとフィンランドの両国は女性の首相を抱えている。またフィンランド政府は、フェミニスト政権だと自慢してもいる。あなたはこの皮肉をどう見るか?

 スウェーデンはここ何年かフェミニズム的外交政策をとっていると主張してきた。しかし多くのフェミニストはそれを、その主張に恥じない行動はしていないとして一貫して批判してきた。両国が実際にNATO加盟を申請するならば、スウェーデン首相のマグダレナ・アンデションと彼女の相方であるフィンランド首相のサンナ・マリンについて同じことが言われるだろう、と私は思う。
 しかし私の観点では、彼女たちが女性であり、幾分フェミニストの野心を抱えた政権を率いているという事実よりも重要なことは、この状況がロシアのウクライナ侵略によって生み出された、ということだ。
 明らかにその情勢は、クリミア併合によってずっと前の2014年に始まった。しかしEU境界のまさに近くで今起きているウクライナへの全面侵攻(そしてそれ以前のチェチェンとシリアでの爆撃)が、非同盟に留まるというフェミニストの大望とは関わりなく、問題を前面に押しやることになった。
 多くのスウェーデンとフィンランドのフェミニストは確実に、それに同意するつもりはない。そして人は彼女たちが左翼とスウェーデン平和運動双方の立場をとっていると気づくと思われ、彼女たちは今後も、スウェーデンのNATO加盟申請に抵抗し続けるだろう。

加盟をめぐる
賛否両論の今

――あなたの考えでは、現実主義的観点から、NATO加盟についてスウェーデンとフィンランドは正当と見られるだろうか? たとえばウクライナでは、侵略後にNATO加盟への支持が80%にまで達した。「論理的に」すべてのウクライナ人は、NATO加盟は彼らに残忍なロシアの侵略に対しある種の緩衝物を提供していただろう、と考える点で正当と見られると思われる。あなたのコメントは?

 私の考えでは、これは、スウェーデンの多くの民衆もまた今考えていることだ。民衆の、しかもプーチンが「兄弟」と呼んできた民衆と都市の破壊、ブチャと他の都市の大量の墓、レイプの報告、を知ることで示されることは、ロシアとプーチンができることに関する幻想はほとんど、あるいは全くない、ということだ。
 ある人びとは、フィンランドが加盟すれば、スウェーデンの周囲の国ほとんどがNATO加盟国になると思われる以上、スウェーデンにとって加盟の必要は全くなくなる、と主張している。他の者たちは、それはまさに利己主義の立場になろう、と主張している。フィンランドとスウェーデンには極めて大きな文化的な近さがある以上、フィンランドが加盟を決めれば、それは多くのスウェーデン人に影響を与えるだろう。
 フィンランドはロシアとの間に非常に長い国境――1300㎞以上――を抱えている。それゆえ私の考えでは、フィンランドがロシアからの侵略の場合にどれほど脆弱になるか、今スウェーデン人内部での理解はより大きくなっている。

――スウェーデンにおける平和運動はどうか? NATO加盟に反対している社会民主党内部には、何らかの平和グループや分派があるのだろうか? 極左についてはどうか?

 前言ったように、左翼党と緑の党は依然断固としてNATO加盟に反対だ。しかし大きな問題は社会民主労働党だ。この党はウクライナ侵攻後、欧州とスウェーデンには新しい安全保障情勢がある、とあっさりと書いた。つまりこの党は、「2022年2月24日を挟んで明らかなビフォー・アフターがある」とひとつの声明で語り、前回大会でこの党が採択したNATO加盟への「ノー」を破棄した。
 彼らは5月末までにこの問題で党内討論を行うだろう。そして指導部は、5月24日に決定のための会議を行う予定だ。多くの古参社会民主党員は今も確固として加盟に反対だ。しかしながら、現指導部は改宗しているように見える。
 多くの左翼の個人の他にも主要な平和組織は、NATO反対の点で確固さを保っている。この陣営は、非軍事化、和平会談、また平和的紛争解決への注力を力説し続けている。それらはまた、スウェーデンがNATO加盟を決定すれば、第三者的な和平仲介者としての声を失うことになる、とも警告している。
 繰り返しだが、幅広い民衆的論争を許さない可能性のある拙速な進め方に反対して、多数が警告を発してきた。この陣営の何人かは国民投票を提案した。他の人々は、申請が提出される以前に、少なくとも加盟支持の多数が存在していなければならない、と力説している。
 NATOに反対している多くはまた、米国が2年のうちに再び大統領としてドナルド・トランプを抱える可能性があるという事実を、そしてその時スウェーデンはNATOにいたいと思うだろうか、とも示している。トルコのエルドアンやハンガリーのオルバンはどうだろうか?

NATO加盟の
オルタナティブ

――あなたの考えでは、NATO加盟へのオルタナティブはあるだろうか?

 もちろんある。非同盟に留まるという、あるいはより一層EUの安全保障連携のために活動するというオルタナティブがある。そこであらためてだが、NATO加盟を支持している者の多くは、EUメンバー国のほとんどがすでにNATO加盟国でもあるという事実を示している。そうであれば彼らは、代わりのEU連携の強化をなぜ支持するのだろうか? 前左翼党指導者のヨナス・スジェーステッドは、ノルディック諸国間の防衛連携を求める主張を行ったことがある。それは、EUやNATOと平行する形で機能するものと思われた。

――前ロシア大統領のドミトリー・メドベージェフは、スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟するならば、ロシアはバルト海地域に核弾頭を配置することになる、と警告してきた。プーチン政権による近頃の行動を考えた場合、核の脅威はどの程度現実的か?

 その評価は非常に困難だと認める。しかしリトアニア防衛相のアルヴィーダス・アヌシャウスカスのようなバルト海地域の人々は、リトアニアとポーランドの間に位置しているロシアのカリーニングラードには、すでにロシアの核弾頭がある、と指摘してきた。これらの核弾頭は、約ここ4年そこにあった。カリーニングラードはスウェーデンからおよそ300㎞だ。
 それは、スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟することになっても、ロシアはこの地域にもっと多くの核弾頭を配置することはないだろう、と言いたいためではない。NATO加盟に反対している多くはこのことを加盟しない主張として示しているが、他の人々は、NATOに関係してスウェーデンが決定することをロシアが指令すること許す考えとしてこれを反駁している。

大デモ不在の
背景要素は?


――欧州内でのウクライナに対する巨大な共感にもかかわらず、われわれはまだ、イラク戦争前にあったような、大規模なデモや運動の出現を見ていない。あなたの観点でこれを説明するものは何だろうか?

 戦争が始まった時、ドイツでは巨大なデモがあった。スウェーデンでは、小規模な示威行動が数多くあった。しかしもちろん、2003年のイラク戦争前ほどの巨大なものはまったくない。当時はストックホルムで、ベトナム戦争以後では最大のデモが行われた。
 それは、社会運動登場の必要が他の場合ほど大きくない程まで、欧州諸国政府からの公式の大規模な対応がある、という事実と何ほどかは関係しているかもしれない。それはまた、広い意味でのスウェーデン左翼がラテンアメリカや中東といった他の地域に焦点を当ててきたという事実にも関係しているかもしれない。またそれゆえそれらの場合には、もっと多くの確立されたネットワークが存在しているかもしれない。
 もうひとつの側面は、ロシアのような加害者に対応する点でのある種の惰性と関係している。シリアを見てみよう。いくつかのグループは、シリア市民への爆撃の件で一貫して年々ロシアを批判してきた。しかし、シリア人へのロシアの残虐さに対する抵抗は、イラク戦争に反対する怒りと同じ近さにはまったくならなかった。一定の人々とグループは、怒りをもって本当に街頭に繰り出すためには、主な加害者である者として米国を必要としているように見える。それは中でも、ウクライナとシリアの左翼が指摘してきたことだ。(「グリーンレフト」2022年4月27日)

▼ファルーク・スレーリアはラホールのビーコンハウス国立大学で教鞭をとっている。以前は、スウェーデンを拠点とした傑出した急進的ジャーナリスト。(「インターナショナルビューポイント」2022年5月1日)

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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