米国 中絶への新たな正面攻撃
反抗には大衆行動の強化不可欠
過去の成果はそうして得られた!
バリー・シェパード
女性の中絶する権利を合法とした1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆そうという最高裁判事のサムエル・アリトによる決定案「リーク」は、最高裁の反動派がおそらく最終決定でそうするつもりでいる、という合図だ。
「60年代」への
全面的な反動
5月4日のニューヨークタイムス1面見出しは、「中絶判決案は地震のような政治的移行の合図」だった。だが以前の最高裁決定は、1973年以後の数十年間でこの権利を少しづつ削り取ってきた州の諸規制(二党の支持によって)を支えてきたのだ。
この裁判所はすでに、事実上ローをひっくり返している近頃の州法を支えてきた。アリトの決定案が提出された裁判所の前に今あるのは、ミシシッピー州議会が採択したそうした法だ。
しかし、最高裁の裁定を詳細に追いかけていないほとんどの人は、アリトの決定案に衝撃を受けた。その案は、最高裁が半世紀の間憲法上の権利となっていたものに攻撃をかけ、ローをひっくり返したいと思っていることを明確にしていた。
トランプによって形作られた共和党が今「60年代」の成果すべてに反対する推進力の槍先になっていることは、ほんのわずかの例外を除く議会の共和党政治家すべてが、アリトの案への支持を表明したという事実で示されている。
反応は、中絶の権利を擁護する主要都市での大衆的なデモで即座に示された。自身の体を支配する権利を女性がもっていなければ、女性は男と平等ではあり得ないのだ。
これは、おそらく社会主義革命によってのみ達成が可能になる、この家父長的な社会と対決して女性の完全な解放を求める終わりのない闘い、に対する一撃だ。
階級的に分断された社会の台頭と同時的な、またその一部でもあった家父長制の始まりについて、エンゲルスは「女性の世界史的敗北」と書いた。
ローは、自身の体を支配する女性の権利を断言したわけではなく、代わりにその主張を、女性のプライバシーに対する権利に限定したのだった。その時以来プライバシーに対する権利は、憲法上の権利とみなされ、同性カップルの結婚する権利の中で引用されてきた。それはまた避妊する権利をもはっきり示している。しかしアリトの決定案は、プライバシーのいかなる権利をも明確に否認している。
被差別諸民衆が
法外な犠牲者に
『デモクラシー・ナウ』は次のように伝えている。つまり、法律専門家は、ローの逆転は保守的な裁判官が同性婚や避妊利用をも終わりにすることに道を開く可能性がある、と今警告を発している、と。
下院議員のプラミラ・ジャヤパル〔民主党進歩派議員〕はシアトルの抗議行動で以下のように発言した。「中絶の権利をひっくり返すことから避妊利用の権利を取り除くことまでは、またゲイの結婚を禁止することまでは、一直線だ。そしてわれわれの低所得コミュニティ、われわれの黒人や褐色の肌のコミュニティ、われわれのLGBTQのコミュニティは、法外な犠牲を払うコミュニティになるだろう。今後中絶が消え去ることはなく、安全で合法的な中絶も、何百万人もの人びとを危険にさらして、これからも残ることになるからだ」と。
13州の共和党議会はすでに、ローが逆転されるならば即刻中絶を非合法にする控えの法を採択済みだ。そしてその数は今後26州に増える雲行きにある。
ジャヤパルが語ったように、中絶はそれらの州でも依然残るだろう、1973年判決以前同様非合法かつ不安全な中絶として。死そして女性や医師の投獄が起きるだろう。
裕福な女性は、それでも中絶が合法的である州でそれを得るために飛行機で飛ぶだろう(あるいは、彼女たちのお抱え医師に大枚を払うだろう)。しかし低所得の労働者女性は、特に黒人と褐色の者たちは、仕事を休むことはできず、旅の余裕もないだろう。
いずれにしろ、ローがたとえ直接には逆転されていないとしても、最高裁は、これらの26州でこれから事実上中絶が非合法になる、ということを明確にしてきた。そして今後は残りの24州で州毎にごたまぜの法が存在することになる。すでに反中絶の「いのちの権利」運動は、残りの州で中絶にもっと多くの制限を課そうとギアを上げている最中だ。(なお、「いのちの権利」は間違った名称だ。受精した卵子、あるいは胎児は生きている、そして適切な条件の下では生きた赤ん坊へと成長できる、ということを否定する者は誰もいない。しかし、ドングリはかしの木の若木ではないのだ。受精していない卵子や卵子と結合していない精子も生きている、そして適切な条件の下では人間へと展開する可能性をもっている。他の細胞のクローンにもその可能性がある)
反中絶勢力は今、今年11月の選挙で始まる議会の支配、および2024年における大統領職、を共和党が取り戻すことに、また中絶を全国規模で非合法化することに照準を合わせている。民主党は、中絶の権利への攻撃に対する反対を、2022年と2024年における彼らへの投票へ転換しようと追求中だ。
しかし反攻の唯一の有効な方法は、大衆的な行動を続け、それらをもっと強力にすることなのだ。それこそが、非常に腰が引けていた最高裁がローを採用するよう強いられた――当時の大衆的な女性解放運動によって、そしてそれは、街頭におけるもっと大きな大衆的な急進化の一部だった――やり方だった。(2022年5月4日)
▼筆者はベイ・エリアのソリダリティのメンバー。社会主義労働者党の指導的メンバーの一人として、彼の時代に関する2巻の政治的伝記を書いている。オーストラリアの週刊「グリーンレフト」とソーシャリスト・オルタナティブ誌に向け、米国から毎週寄稿している。(「インターナショナルビューポイント」2022年5月8日)
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