オーストラリア モリソンをやっかい払いした総選挙

親雇用主明言の労働党と闘う時
左右主要政党への不信も表面化
極右による不満の利用許すな

ム・ブラムブル

「連合」の悪政に審判が下った

 5月21日の選挙で、富裕層向けの支配の9年後、「連合」政権の票は6%以上下落し、それは多数の議席――と政権――を失った(注1)。これは、富裕層に対しては減税、労働者に対しては賃金カット、住宅に関しては無作為、高齢者に対する冷淡な無視、そして気候変動に対する無関心、というその設定課題に対する民衆的判決だった。
 この敗北はまた、森林火災が何千という家屋を破壊している中でハワイへと立ち去り、パンデミックに対処するために十分なワクチンと急速な抗原検査を手配できず、東部諸州でコヴィド19が猛威をふるった中で高度に評判がよかった西部オーストラリア境界閉鎖のサボタージュをもくろみ、議会内の性的虐待文化に対抗するために何もせず、その統治に対する考えが写真撮影のためにポーズを取る以上はほとんど何にも帰着しなかった、その首相のスコット・モリソンに対する判決でもあった。
 百万長者は、この「連合」ほど十分に勝利したことは一度もない。彼らの富は、成層圏の高さまで跳ね上がった。「連合」は私立学校にシャワーのようにマネーを投じた。モリソンは、銀行業、老齢退職手当、金融サービス業の誤った管理に対する王立委員会による勧告に従うと約束した後、それらのすべてを事実上そっと握りつぶし、自由党の裕福な仲間たちを保護した。それは、私的経営施設におけるぞっとするような状況を明るみに出した高齢者介護に関する王立委員会に対しても同じだった。王立委員会がその報告を伝えた後でも事実上何も変わらなかったのだ。
 モリソン政府は、対象の事業が多くの事例で相当な利益を上げ続けていた時でさえ、パンデミック下の事業に対する補助金として、何百億ドルをも投げ込んだ。
 貧困層は引き続いた自由党の閣僚の下でひどい目にあった。求職者手当はスキャンダルと言ってよいほどの低いレベルにある。社会保障の受給者たちは、ロボデット・プログラム(さまざまな政府機関に申告された個人所得間の同一性を電子的に照合するシステム:訳者)の下で虐げられ、それは偽造的な債務を作り出し、何万もの人びとを街頭へと、また何人かは自殺へと追い込んだ。
 そしてインフレが激しく動き出す中で政府ができたことは、際限のない将来の賃金カットを差し出すことだけだった。閣僚たちは安定した賃金を求める労働者には、ただより良い賃金の職を探すべきだと、また家賃の圧力に苦しむ者たちには、ただ家を買うべきだと告げた。そして学生たちは、大学授業料の大幅値上げでひどい打撃を受けた。
 そのすべての中で、軍隊は拡大され、モリソン政府は中国との戦争の脅威を膨らませ始めた。福祉、公衆衛生、教育に向かうべき何千億ドルもが、代わりに大量破壊の手段に向かおうとしている。
 だからモリソン政府がやっかい払いとなっている。

歴史的低得票による労働党勝利
 労働党は政権を勝ち取った。しかし響き渡るような承認はほとんど受けていない。その得票は歴史的な低さに沈んでいる。それは少なくとも7議席を上乗せしたが、大きな部分はただ緑の党の選択が理由だ。西オーストラリアにおける好成績のみが、潜在的可能性として労働党を過半数政権形成の地位に置いている。メルボルンのいくつかの外縁郊外では、労働党の得票はふた桁も下落した。
 労働党得票がそれ以前に低かった2019年の時よりも低かったということは、敗北した前回選挙以後のこの党の右翼的移行に対するいわば告発だ。その敗北から党の指導者たちが引き出した結論は、労働者階級への再配分というもっとも穏健な計画を差し出すことすら控えなければならない、ということだった。
 中間層や富裕層のための課税停止――信用供与の無料化、資本所得税の特権、マイナス調整――に挑む政策は窓の外に出された。町の頂点を攻撃することに関わるレトリックすべては消された。労働党は気候変動と化石燃料産業に真剣に対処するかもしれない、というほのめかしもすべて消された。
 アルバニージー(労働党党首で新たに首相に就任)と影の財務相のジム・チャルマースの下で、レトリックは今や、「野心家」の支持者を助けることに関わるものになった。2019年選挙のすぐ後、労働党はモリソン政府の富裕層向け減税計画を後押しし、カルミチール炭鉱(グレート・バリア・リーフへの環境的影響で批判を浴びている:訳者)とクイーンズランド州中央部のガリリー盆地開放に支持を与えた。労働党に差し出すものが何もなかった理由を説明するものこそ、3年前の敗北へのこの反動だった。たとえば選挙の僅か数日前に記者クラブでチャルマースは次のように告げた。「われわれは親ビジネスでありたい、親雇用主の労働党だ」と。

既成政党の後退と左右の新勢力
 二大主要政党の組になった低得票は、政治的な現状維持に対する重要な、また高まり続ける不満を示している。1946年から1990年代はじめまで、両党の合計得票は90%、あるいはそれ以上になった。そして続く20年では最低でも80%だった。今回の選挙では、2政党が獲得したのは有権者の68%でしかない。
 主要政党からのこの移行の受益者は極めて大量になる。緑の党は確実に、労働党に対する忠誠の下落から利益を受けてきた。そして今回の選挙では、上院と下院で以前の最良(2010年)を破るこれまでで最高の得票結果を受け取った。この党は、メルボルンの唯一の下院議席としてそこへの変更を獲得し、ブリスベーンでは2議席獲得、さらにもうひとつ獲得の見込みがある。緑の党はまた、上院の特別枠数議席もつかみ取った。
 この党の傾向は全体的に労働党の左に向かうものだった。それは、メディケアの中での歯とメンタルの医療ケア、無料の児童ケア、公立学校基金増額、学生債務の一掃、100万戸の新住宅建設、に資金を充てるための大企業と鉱業に対する課税政策、および新たな炭鉱と天然ガスの計画すべての停止によるものだ。その強力な支持は、選挙の夜に歓迎を受ける数少ないことのひとつ――それはわれわれに、100万人を優に超える支持者が労働党よりも進歩的な党を今求めている、と告げている――だった。
 今回の選挙でおそらくもっとも意味のある発展かもしれないこととして、いわゆる小ガモ無所属が、シドニーとメルボルンの富裕地区で自由党議会代表の多くを破壊した(注2)。彼らはそうすることで、オーストラリア支配階級が好んだ政権党内にある、深い亀裂を白日の下に出した。相対的に豊かな、専門職の中間階級有権者、大きく女性に傾いたこの層の何万人もが、その極度の女性差別と気候変動に真剣に取り組むことへの拒絶に抗議して、彼らの伝統的な党に突如襲いかかったように見える。この亀裂がどれほど長続きできるか、また彼らが安定した議会ブロックを形成するのかどうか、それを言うのは不可能だ。
 極右もまた主要政党から票を拾い上げ、ひとつの高まる問題を表現している。ワンネーション党は、クライヴ・パルマー(多数の事業を所有する実業家であると共に、後継政党の議長:訳者)の統一オーストラリア党(UAP)と組んで、2019年の時よりももっと多くの議席に立候補した。そしてこのふたつは得票を9・2%へと2・7%押し上げた。自由民主党と他の極右の極小政党を加えれば、極右の得票は前回以後5%上がり、11・7%にまで達する。
 心配なことに極右は、彼らの伝統的な拠点や伝統的な自由党の郊外でだけうまくやったのではなく、伝統的に労働党に投票する労働者階級のシドニーとメルボルンの外縁郊外でも得票を増やしたのだ。そして後者で彼らは、15%から20%を拾い上げた。驚きではないがUAPは自由党からの新入りであるクレイグ・ケリーの下院議席を失った。しかしこの党は、ヴィクトリア州の上院議席を獲得する可能性がまだある。
 最後に、百万長者に反対して公然と労働者階級を擁護し、メルボルンの北と西の郊外地区全体で11議席に立候補した「ヴィクトリアの社会主義者」(VS)は見苦しくない闘いを示した。VSは700人のボランティアを運動に投入し、選挙の夜に締め切られた票の集計時点で、第1選票を2万以上獲得した。これはもちろん、何十年もの中での社会主義者の選挙計画では最大の得票数だ。メルボルンの北郊外のカルウェルでVSは、5%に僅か満たない票を、西のフレーザーでは5・4%を収めた。VSは北部の他で、3%から4%を勝ち取るために、左翼票を求める猛烈な競争を闘い抜いた。いくつかの事例では、VSが極右の票を上回った。VSは11月、ヴィクトリア州議選でこのものすごい努力を繰り返しているだろう。

労働党に期待できるものはない
 アルバニージー政府は、5月24日に発足するだろう。しかしその政府は、モリソン政権を投げ出すことを強く求めた何百万人もの人びとにはほとんど何も差し出していない。労働党の指導者たちがたとえ党は労働者の生活水準を守るつもりだと主張するとしても、彼らは、最低賃金実質引き上げに向け圧力をかけることを拒否している。彼らは物価抑制の維持にも何もするつもりがない。彼らは、家賃統制や公的住宅拡大にも何もしないだろう。さらに彼らは、より高い賃金を求めて闘う労組の力を労働者が築くことを助けるためにも、何もしないだろう。
 あらゆる圧力は今別の方向にある。2013年の2730億ドルから来年予想の1兆ドルまで膨らんだ政府債務に対し、また利子の上昇に対し、経営者たちと金融界の彼らの代表たちは、政府支出を削減する緊急行動を今求めている。数年間彼らは政府に、賃金凍結のために何かをするよう迫り続けていた。今や彼らは、インフレ抑制のために賃金はカットされなければならない、と語っている。
 今後の数年、この労働党政府発の公的支出の削減を予想しよう。そして、労働党が応分の努めを果たすよう富裕層を追い回す、などとは期待するな。労働党は、収入が大枚10億ドルまで達する20万ドル以上の者たちを利することになる、2024年の減税を約束しているのだ。
 われわれは、この数年間よりも今やもっと心許なく見える世界経済に基づいて、労働党政府は労働者階級に対する犠牲強要として、経営者の命令にしたがうだろう、と予想してよい。アルバニージーとチャルマースは、選挙キャンペーン中の彼らの資本家に対する約束を証明するために、以前の労働党政権の経験、特にホーク(ボブ・ホーク、1983年から1991年の首相)とキーティング(ポール・キーティング、1991年から1996年の首相)のそれを示した。実際その時労働党は、労働者階級を締め上げるために(あるいは、労働党の指導者たちの言い方にしたがえば、生産性と利潤を引き上げるために)、労組の指導者、経営者、政府を集めたのだった。これこそまさに、彼らが今われわれに代わって心に思っていることだ。
 われわれは、労働党が気候変動に対処する真剣な行動をとるのを見ると期待してはならない。労働党は化石燃料産業に傾倒している。そしてその炭素排出目標はひとつの冗談だ。

不満の高まりには闘争の回答を
 労働党が何も差し出さず、また経済環境が何百万人という人々にとって酷になる中で、われわれが予想してよいことは、弱い基礎を抱え、実際には有権者の3分の1しか支持しなかった政府に対し、不満の高まりを見る、ということだ。右翼は疑いなく、この不満につけ込もうとするだろう。多数の議席を失ったいわゆる自由党穏健派、議席を維持したピーター・ドゥットン(自由党反主流派の指導者:訳者)、そして得た票を振りかざす民族主義者、これらにより「連合」内力関係は右へと移るだろう。
 トニー・アボットの元首席補佐官、ペタ・クレディンは時を置かずにマードック(ルパート・マードック、メディア・コングロマリットを創設、世界的に有名なメディア界の大物:訳者)のタブロイド紙「サンデー」で、自由党は、極右諸政党に明け渡した外縁郊外の支持者を再度つなぎ止めるために、さらに右に動かなければならない、と力説した。極右は、今回の選挙の経験によって大胆になるだろう。そして、彼らの諸勢力を結びつけることができるならば、彼らが、労働党連邦政府に反対する抗議に民衆を動員する一定の位置にいるかもしれない。まさに彼らは昨年末と今年はじめに、ワクチン義務化とロックダウンに反対して、ヴィクトリア州でそれを示したのだ。
 右翼からの脅しに闘いを挑まなければならない。高まるインフレを前に、アルバニージー政府が労働者の生活水準を守るために指を上げるつもりがないのであれば、労組がストライキに立ち上がらなければならないだろう。
 そしてそれは、われわれの労組内でひとつの議論を必要とするだろう。組織できると仲間の労働者を説き伏せるための、また同時にわれわれの組合指導者に抗して闘うための議論だ。この指導者たちこそわれわれの組合を、労働党への票を引き出す選挙機構へと変えるために、全力を挙げてきたのだった。そして彼らは、経営者と政府が職と職場の権利をとがめを受けずに少しづつ削り取っていた中で、何年もの間傍観してきたのだ。それは終わらなければならない。
 そのような闘いを行うためにわれわれは、職場で、また大学のキャンパスで、もっと大きな社会主義者の潮流を建設する必要がある。この選挙での極右票の成長は、他の勢力が現在の情勢を利用する潜在的可能性をはっきり示している。われわれは、分断と絶望の政治と対決し労働者と学生にあらゆるところで前進への道を指し示すために、連帯と社会主義の政治を求めて闘わなければならない。(2022年5月22日、「レッド・フラッグ」より)

▼筆者は、長年の左翼活動家で、ブリスベーンの「ソーシャリスト・オルタナティブ」メンバー。クイーンズランド大学で労資関係の教鞭をとっている。
(注1)「連合」は、中道右派政党のオーストラリア自由党とオーストラリア国民党の連合。
(注2)ガーディアン、2022年5月23日「小ガモ無所属:彼らは何者であり、オーストラリアの選挙をどのようにひっくり返したのか?」。(「インターナショナルビューポイント」2022年5月24日) 

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