エクアドルさらに力加え、再び民衆が決起

今度こそ新自由主義との決裂を
多数のための構想は可能だ
フェルナンド・ロペス・ロメロ

 世界的にインフレが進行中だが、エクアドルではこの物価高騰に対し、6月はじめから全国的な民衆の抗議行動が激化した。これに対し政府は非常事態を宣言、強権的な弾圧で抑え込みを図ったが、民衆の決起は勢いを弱めず継続してきた。最新の情報では、この決起の力が政府に対話を強要、一定の合意が達成された、と報じられている。以下では、この合意報道以前のものだが、当地の同志が今回の決起を巡る諸問題を伝えている。(「かけはし」編集部)
 われわれはもうひとつの10月19日を許すつもりはない。6月13日の朝以来、これが内務相のパトリシオ・カリージョからのメッセージになっている。そしてこの者は、情報部長官のファウスト・コボと共に、政府の抑圧計画では中心の位置にいる。

先住民・民衆の
決起と非常事態


 もっと包み隠された調子であるとはいえ、それは閣僚のデイビッド・ジメネスからのメッセージと同じだ。それはまた、実業界からの、銀行やメディアからの叫びでもある。ギレルモ・ラッソ(現エクアドル大統領:訳者)は数日間の沈黙の後、同16日に対話について発言し、同18日には、イムバブラ、ピチンチャ、そしてコトカクシに非常事態を宣言した。そこではこの週、先住民衆決起と民衆決起が最強になっていた。
 数日間、社会的決起はキトで成長を続け、それは17日午後に最高レベルに達した。キトでの決起に関する地図は、状況をむき出しにしている。つまりその場所は、この都市の南部にあるもっとも貧しい周辺の居住地区であり、市中央部と共に北部と峡谷の社会的周辺部なのだ。そしてそこでは、2019年10月にそうだったように、先住民衆の決起と都市貧困層の存在感がより強くなっていた。国民議会に向かった決起はひとつもなく、抗議の対象は明確に執行権力であり、銀行家のギレルモ・ラソその人だ。
 非常事態宣言は、政府からの衝突水準引き上げであり、CONAIE(エクアドル先住民連盟)の公表、すなわち「対話イエス、決起を無視することなく、また結果を伴って」、に対する回答にほかならない。

先住民決起の
陰謀論的歪曲


 政権、実業界、右翼メディアからのコーラス、ますます反動的かつレイシスト的になっている中間階級の幅広い部分を含む政治的右翼、そしてかの治安機関からなる深部の裏の国家の場合、先住民と民衆の諸決起は、大きな陰謀の枠組みの中で見られている。それは、組織犯罪とつながっているコレイスモ(注1)であり、彼らが今もラッソ打倒を試みている、というものだ。つまり先住民運動はこの目的に向けた彼らのツールということになる。
 それこそが、レーニン・モレノ(2017―同21年の大統領、前任のコレアの継承を唱えたが、着任間もなくその逆転に向かった:訳者)の下での元政府閣僚、マイア・ポーラ・ロモによる総合情報企業のテレアマゾナスに対しボゴタから送られた6月17日の声明、に込められた意味だ。ちなみに彼女は、米州人権委員会報告の中で、2019年10月の厳しい弾圧に責任がある主要な人物として指摘された。この解釈上の枠組みの中で、メッセージは、われわれは経済危機から抜け出すために働く必要があるが、社会的闘争は破壊行為およびバーバリズムとして失格だ、というように響いている。

銀行家大統領の
ふたつの選択肢


 ふたつの見解がある。第1は弾圧強化だ。これらの線に沿った最初の大失策は、6月13日夜のCONAIE議長の逮捕だった。そしてそれは、ラッソの大統領としての成果がどのようなものだったかを示す最良の形で、自分で自分の足を撃つようなものだった。それはただ、先住民の新たな諸部分、社会的な諸組織、また民衆の諸部分の決起への統合を加速するのに役立っただけだからだ。
 第2の方策は、諸決起を敵とした軍の直接的な統合となった。とはいえ軍は今なお、エリート警察部隊の後ろの第2線にいる。エクアドル警察はラテンアメリカの似たような機関の多数同様、この間イスラエル政府から助言を受けてきた。そして決起の始まり以来これらの部隊は、デモ隊に対するゴム弾使用と並んで、即応装甲車を利用してきた。第3の方策は、非常事態の強制であり、命さえも危険にさらす力の行使の公表だ。
 非常事態は必然的に、キト首都圏が軍部の支配下に置かれた治安地区と宣言されること、午後10時から午前5時までの夜間外出禁止、家屋の不可侵性の廃止、民衆のデモや決起の禁止、を伴っている。ギレルモ・ラッソはこうして国家機関の中に避難している。
 第2の道は、時間を稼ぎ、社会的な不満を薄めることを目的に結果を伴わない対話を繰り返すことをもうやめ、直接的な方策を導入することだ。政府からはひとつの方策しか公表されていない。基本的生産品の価格統制だ。しかしながら、これまで投機で告発されたのは仲介業者だけだ。
 さらに、どの生産品が統制されることになるのかは語られなかった。ところが一方で、価格が上昇した産品の中で最高のものは、小麦粉に加えて、製造者価格における調理用油であり、流通の中間価格ではない。その油部門、パーム栽培者と精油業者、また全体としてのアグリビジネスが、ラッソの自由主義政策から最大の利益を受けてきた部門の部類に入る。
 これらの直接的方策は燃料価格に対処しなければならない。そして次のような諸問題、パンデミック期間も維持されてきた、そして中小規模の銀行債務者を溺れさせている、金融資本の極度の利潤、パンデミックの中で度を高めた、先住民地域での鉱山開発の前進、トウモロコシ、バナナ、米の生産者による公正価格の要求、がある。そして後者の民衆もまた、銀行と大資本によって溺れさせられている。さらに、公立病院に対する医薬品供給、コレアの任期終盤以来圧縮されてきた教育予算の引き上げ、民衆経済と農民経済向け貸し付けの有利かつ即効的な目録提供、などもある。
 ここに挙げた綱領は、住民多数の要求を満たしているが、それはギレルモ・ラッソの綱領ではないのだ。これは可能であり、IMFへの服従政策を変更することで、大アグリビジネスや大通信会社や金融資本の法外な利潤率を引き下げることで、それはなされ得るだろう、とずっと前から指摘してきた声が多くある。
 それが意味するのは、方向を変えること、新自由主義の教条を放棄すること、もうひとつの計画に賭けること、そして金融資本を代表することの拒絶だ。

この国のための
相対立する構想


 エクアドル内で今起きていることに関する陰謀論は、すさまじい音を立てて現実にぶつかっている。その中で先住民運動の1部ではなかった非常に幅広い民衆層が決起した、10月19日の偉大な社会的爆発の中で提起された巨大な諸問題はすべて、パンデミックの2年と新自由主義政府の1年を経て、悪化してきた。
 さまざまなやり方で自らを組織し、自らを表現し、そして抵抗している、その多数のための国に向けたひとつの構想がある。
 次いで、常に他者を略奪し、常に破綻している大ビジネスエリートの国家構想がある。それは、1982年における事業家債務のスクレティゼイション(スクレはエクアドル通貨、注2)の構想であり、不正選挙の構想であり、ワシントン・コンセンサス(新自由主義路線推進を内容とする:訳者)の、銀行一時閉鎖の、天然資源採掘依存主義と金融資本の構想だ。
 学究諸機関、公的諸機関、また社会的諸組織が提出しているデータは、分かりやすい眺望であり、この国のための2構想間の衝突を示している。つまりひとつは、コミュニティ領域の取り上げ、小所有者の財産の取り上げ、労働者の賃金の取り上げを通した資本蓄積の国、どう猛な資本主義が指令する国だ。他のものは、多数の利益に基づく、社会的かつ環境的公正に、民主主義の拡張と深化に、富の再配分に基づく国であり、多民族かつ多文化のエクアドルだ。
 一方の側には、マクロ経済的指標の健康の防衛、IMFおよび国際金融との合意の遵守、ほとんど宗教的指令としての利潤率引き上げ、浪費と贅沢、がある。他方には、巨大な、進む一方の都市と田舎の貧困、ホームレス、栄養不良、苦悩と移民、の増大がある。

民衆の反乱
は持続する


 6月14日のエクアドル中央大学大学評議会による声明は、われわれが今通過中の深刻な状況についてその諸側面を次のように提示した。
 つまり、マクロ経済指標の回復は、雇用率の改善やエクアドル人の、特に田舎の地域の生活水準改善には反映されてこなかった。2021年12月当時、統計・人口調査国立研究所(INEC)によれば、田舎の地域ではエクアドル人の10人に4人が貧しく、10人のうち2人が極度に貧しい。それは、国際的な諸関係と適切な政府政策の欠如によって、さらに悪化する可能性もある情勢だ。
 それは、高等教育と公衆衛生の状況について次のように付け加えた。
 つまり、あらゆるレベルで公立教育は、予算の、特に2019年以来の持続的な削減によって影響を受けてきた。初級と中級の公立教育は、2019年と2020年の間で9億1100万ドルの予算カットを受けた(資料の元は財務省)。公立の高等教育の減額は、これらの年で総計3億2600万ドルになった。公衆衛生では、2020年の減額が2億2700万ドルだった(資料の元は財務省)。この傾向は、現政権によっても正されていない。
 財政赤字を削減し、国際通貨準備を強化することを目的として、原油歳入の上昇や徴税から得られる財源を偏愛する政府の政策は、疑問に付されている。
 あり得る対話に対する前口上としての非常事態宣言は、情勢を悪化させている。これを使ってギレルモ・ラッソは、社会的諸組織と政府の間にある種の分割線を引いてしまい、むしろさらに緊張を高め、政治階級を自ら呼び寄せた。そしてこれらの者たちは概して、大統領の行動、つまり彼らは私と共にあるのか、それとも……、というあり方を疑問視する点で非常に厳しかったのだ。それは、そうした弱体な政権にとっては非常に高くつく賭だ。
 非常事態宣言と抑圧の引き上げは、それでも社会的闘争を抑制できるかもしれない。しかしそれもさし当たりというにすぎない。社会的諸組織が彼らを解体する戦略的な政治的敗北を喫していない限り、また社会的不満の原因が生き残り続ける限り、闘いは持続するだろう。民主主義への回帰以後進行中の新自由主義の綱領が押しつけられる可能性は、唯一、公然とした権威主義と右翼の体制を通じる場合だけだ。
▼筆者は、第4インターナショナルエクアドル支部のコリエンテ・デモクラシア・ソシアリスタの、全国指導部の1員。
(注1)コレイスモは、幾分ポピュリスト的だったラファエル・コレアの、2007―2017年のエクアドル大統領としての任期中、またその後に発展したさまざまな勢力を指す。
(注2)「スクレティゼイション」は、1983年当時の私有部門が抱えた対外債務のほとんどが無差別に、公的部門の、つまり社会全体の債務になる、と決定した。(「インターナショナルビューポイント」2022年6月28日) 

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