英国 ジョンソンが党首辞任

被害者気取りと思い違いのまま
労働者攻撃への態勢の立て直し
デイヴ・ケラウェイ

 7月7日、彼の政府メンバー50人以上が48時間のうちに辞任し、閣僚の代表が彼が退陣するよう告げるためにジョンソンとの会談に出かけた後、ボリス・ジョンソンは保守党党首から身を引いた。これが引き金となり、その後首相になる新指導者に向けた選挙の過程が始まっている。(IV編集部)

選挙敗北の恐怖で保守党が反乱


 彼は結局、彼が彼の職から叫び声を上げながら引きづり出される中で、ダウニング街10番地の扉に指の爪跡を残さなければならなくなった。辞任演説は、ジョンソンがどれほど被害者気取りであり、思い違いしているかを示した。甘やかされた、特権的な金持ちの子どもその人らしく、彼の取り除きは全員の失策だったが、彼自身の失策でもあった。
 彼は厚かましくも、彼に代わってことを進めたのは議会保守党だ、と示した。彼は今も、保守党下部党員は本当に彼を応援している、と信じている。確かに、彼はそこで議会内よりも多くの支持を確保している。しかし、多くの保守党党員ともっと重要だが、保守党支持者は、彼を捨てたのだ。この転落への彼の言及はメディアに向けた当てこすりだった。しかし真実は、彼がコービンが受けたのと同じ扱いを受けていたとしたら、彼は何ヵ月も前に突然放り出されていたと思われる。
 したがって彼を押し出したのは、「群れの本能」だった。この2日間に辞任した60人の閣僚と政府メンバーは、幾分かは合理的に行動していたわけではない。本当を言えば彼らは恥知らずにも何年もの間、ジョンソンの嘘と彼らには分かっていたことを受け入れてきた。そして彼らは、彼らが選挙での惨事に突っ込みつつあると実感してはじめて動いたのだ。
 先週を通じた議員たちの行動すべては、ジョンソンから「常軌を逸している」、労働党政府に導くだろう、と明示された。彼は厚かましくも、世論調査はそれほど不利ではないとまで示唆した。彼は、相対的な党の支持率を引用したが、彼自身の不人気のさんざんなレベルは無視した。もちろん彼はまた、パンデミック対処とブレグジットがどれほど成功だったか、について嘘を繰り返した。
 1922年委員会(注1)および党の古参の人物たちとの間で彼が到達したように見える取り決めは、彼が10月はじめまで暫定首相として留まる、というものだ。この考えに反対して上げられた保守党内の声が早くも多くある。ジョンソンの主なブレグジット交渉担当だったデイヴィッド・フロスト、さらにドミニク・カミグス(元顧問)とジョン・メージャー(元保守党首相)は、これは極めて悪い考えだ、と発言している。労働党、自由民主党、スコットランド国民党はすべて、即時の辞任を求める、と語った。労働党は、彼に対する信任投票動議を出すつもりだ、と語っている。
 あり得ることだが、指導者を争う者たちすべて、あるいは何人かは、この取り決めの容認は親ジョンソン保守党党員に十分受け入れられるだろう、と感じている。彼の暫定的役割に反対して登場することは、指導者選挙の中で票を獲得する機会に害を与えるかもしれない。
この種の役割を果たしたテレサ・メイの前例は、本当のところ当てはまらない。メイは、ブレグジットという大きな政治課題をめぐって敗北したのであり、個人的誠実さが問題だったのではない。このように欠陥のある指導者とは続けられないと語った閣僚たちすべては、どのようにして変節が可能になり、今後3ヵ月彼を穏やかに受け入れることができるだろうか?

ろくでもない候補者の面々


 早くも、スエラ・ブレーヴァーマン(司法長官)は、自身を候補者と宣言し、指導部選論争の基調を定めた。彼女は、政府支出がより少ない、軽い税負担、規制の緩い経済を支持している。また、移民船を「動けなく」したい、そしていわゆる「覚醒」や「キャンセル・カルチャー」のがらくたに対する戦争を続けたい、と思っている。EUへの支持、あるいはそれどころか国際人権のルールもまた終わるだろう。
 党内には、より純粋なサッチャリズムの価値への回帰とジョンソンのブレグジット新連合による底上げのデマゴギー間に、はっきりした緊張がある。同時に、合意をより重視するひとつの国民的なアプローチを支持する、保守党議員の少数派――その何人かはまたブレグジットには批判的だ――が今もいる。
 しかしながら、どの勝者もブレグジットの歩みに批判的になるということはありそうにない。党と党員は大挙して反動的なブレグジット構想に移行しているからだ。ジョンソンに対し起きたことを前提とすれば、個人的な誠実さと適性がはるかに考慮されるだろう。同時に彼らは、一定のキャンペーン能力をもつ者を欲している。それゆえ、テレサ・メイの同類は除外される。
 彼のEU調査グループによって鍵を握る右翼のブレグジットリーダーだったスティーブ・ベイカーは、もうひとりの非常な懸念を呼ぶ候補者だ。中心的な課題に関するブレーヴァーマンと共通のアプローチに加え、彼はさらに、気候変動否認派であり、グリーンの諸課題に関する党のむしろみみっちい政策すら投げ捨てさせたがっている。
 サジド・ジャヴィドは、議会におけるジョンソン体制に対する彼の批判を自制しなかった自身の辞任声明が理由で、人気順位を上昇させたように見える(注2)。国防長官のベン・ウォーレスもまた、彼自身関心があるとは示していないとはいえ、真剣な競争者として話題に上げられている。ウクライナに関する彼の傑出度は、保守党議員と党員内部ではまったく害になっていない。彼は、ジョンソンの不安定なカリスマに完全に反対であるとの欄に、チェックを入れるかもしれない。
 リズ・トラス(外相)とリシ・スナクは、後者の資産と税務問題に関する暴露が彼に打撃を与えたとはいえ、依然先頭グループの中にいる。トラスはすでにしばらくの間キャンペーンを続けてきたが、スナクやジャヴィドとは異なり、ジョンソンに反対する動きができなかったことが、彼女の票を一定程度減らしているかもしれない。
 保守党指導部選はしばしば、部外者を有利にして人気者を脱線させる。ペニー・モーダント(貿易相)のような者が、ジョンソン体制の外部にいたように見えるとして、その人物像に合うかもしれない。トマス・タジェンダット(外務委員会委員長)がもうひとりの者かもしれない。

反労働者政策の継続は確実

 誰が勝者になろうが、この保守党政府の反労働者階級政策には何の変更もないだろう。実際、「底上げ」の課題設定に含まれていた国家投資増額ですら、サッチャリズムの祭壇上で切り落とされるかもしれない。候補者の誰ひとりとして、民衆の生活水準に対する厳しい切り詰めを逆転する計画のことで心配することはないだろう。誰ひとりとして、レイシズムの反移民政策や民主的諸権利のさらなる制限を逆転しそうにない。全員が、進歩的な文化に対する、たとえばトランスの権利に対する戦争を続けるつもりだ。
 ジョンソンが暫定で首相を続けるという問題、また指導部をめぐる戦闘双方とも、保守党内の分裂を高めるだろう、そして次の選挙で労働党が勝つチャンスを高めるだろう。ここまでのところ、スターマー(労働党党首)はジョンソンの誠実さを正しく攻撃し(最終的に!)、彼の退陣を要求してきた。しかしこれは、国益を名目に、そして英国の民主的諸制度の尊厳を守る、として行われている。
 賃金カットや諸物価上昇を前に勤労民衆の生活水準を守るため、労働党が労働運動による協調された対抗を支持する必要とは、何も結びつけられていない。現に、影の内閣メンバーは、彼らが鉄道労働者のピケットラインに出かけたり、連帯を表明すれば、制裁を受けることになっている。諸事業の公的所有や15ポンド最賃のような、大衆的支持を動員できると思われるコービン下で発展させられた諸政策は、安全、繁栄、そして尊厳に関する陳腐な決まり文句(それらが何を意味すると思われようと)の方を選ぶ形で捨てられた。
 スターマーからのひとつの印象的なコメントは、ジョンソンは「いつであれその職にふさわしくなかった」というものだった。そうであれば彼はなぜ、コヴィッド・パンデミックの中で首相への攻撃を延期したのだろうか? 適性については、辛うじていくつかのもぐもぐがあっただけだった。彼が(そして彼以前にコービンも)ジョンソンの人格をもっと攻撃していたならば、世論調査における労働党の大きなリードに、はるかに早く導いていた可能性もあるのだ。
 われわれが決して忘れてならないことがある。今日ジョンソンの不十分性を大々的に示している同じマスメディアが、「ボリス」の人物像を高める点で大量の仕事を行った、ということだ。アルクリ(米国人のIT企業家:訳者)談合のようなスキャンダルをめぐって、彼らはどれだけジョンソンに従おうと試み、また実際にそうしただろうか? ちなみにこの問題の時彼は、ベッドを共にした女性が経営する企業の管理に公金が向かうのを助けたのだ。メディアは、反ユダヤ主義についてのフェイクニュースをでっち上げることで、また2019年にジョンソンがジェレミー・コービンを破ることを確実にすることで、コービンをごみにすることにもっと関わっていた。
 今日メディアと議員たちは、ボリスがどのような腐った卵かについてもみ手をしている。しかし思い起こそう。彼に代わろうと張り合っているこれらの者たちすべてもまた、金持ちをもっと豊かにし、勤労民衆が資本主義の緊縮の費用を払うことを確実にするために、エネルギーを注いできたのだ。サジド・ジャヴィドは、バス運転手のお父ちゃんがいるという彼の身の上話の宣伝を好んでいるが、しかし彼は、高額金融取引に何十年も費やし、彼に有利に税務取引を組織してきたのだ。(2022年7月7日、「アンティキャピタリスト・レジスタンス」)
▼筆者はソーシャリスト・レジスタンス支持者かつ、アンティキャピタリスト・レジスタンス内の第4インターナショナル支持者。
(注1)1992年委員会は、保守党の後部席議員から構成され、指導者選挙を組織する。
(注2)サジド・ジャヴィドは、もっとも最近では保健相として、2019年以来ジョンソン政府で鍵になる役割――その他は、リシ・スナク財務相――に着いてきた。そして7月6日の彼の辞任が他の者たちに防水扉を開いた。(「インターナショナルビューポイント」2022年7月8日)
(訳注)最後のガーディアン紙コラム引用部分は省略。  

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