イタリア ドラギ政権の危機
反改良への態勢修復許すな
フランコ・トゥリグリアット
イタリアでは先週、与党の3政党が信任投票で支持を拒否したことを受けて、マリオ・ドラギ首相が辞任した。この国の大統領であるセルジオ・マッタレッラは彼に、選挙管理内閣指導者として留まるよう頼んだ。こうして今秋には前倒しの選挙となるだろう。
マリオ・ドラギ政権は、イタリア資本主義に底深い再編をもたらすために、ブルジョアジーから後押しされて2021年2月に形成された。その再編は、労働のさらに大きな柔軟化を強要し、資本に有利な新たなかつ底深い新自由主義的反改良を実行しつつ、もっとも成功している企業を資金的に支援することを狙いとしたEU基金の相当な投入(ほぼ2000億ユーロ)を通じるものとされている。
破廉恥な政策の
明白な結果前に
この政府は、極右政党のフラテリ・ディタリア(FdI、イタリアの同胞、党首はジョルジャ・メローニ:訳者)を除く主要全政党を含んだ「国民統一」政府だった。そしてFdIは、政府が取り入れた策すべてに対し大きな部分で同意を与え、単に野党の見せかけを示していたにすぎない。
ドラギの政策は破廉恥なものだった。何よりも、公衆衛生危機に対する「何もしない」があり、社会的支出(公衆衛生および学校)を犠牲にした軍事支出増額、国をさらに分断することになるいわゆる地域の差違ある自治、そして最後に、賃金と年金の削減および不安定化の全般化を奨励した経済諸政策も続いた。
この政府は今、それが種をまいたものの刈り取りを始めている。それは、劇的な社会的崩壊に責任があり、その崩壊はたとえば、社会保障国立研究所(INPS)や統計調査所のデータで証明されている。すなわち、560万人にのぼる貧困な人々、労働者の中で月に1000ユーロ以下しか所得のない者が3分の1、新たな極度に短い雇用契約の非常な多さ、EUで最低部類に入る賃金と年金、そしてそれさえインフレの拡大により浸食されていること、といったことだ。
危機の収束
はまだ遠い
社会的不穏、怒り、そして絶望感が、社会の大きな諸部分を貫いて広がり続けている。それは、政権内部でさえ、統制不能な民衆的反乱を恐れ、「社会的課題設定」についての話しが始まっているほどのものだ。しかしその話しも、賃金や年金の不安を少しばかりやわらげるための何らかの減税であり、利潤や賃料への攻撃はどのような形でも行わずに公的財源を減らすようなものなのだ。
この構想は、資本主義の「正常な」局面であってさえ、大きな社会的諸対立をつくり出していたと思われる。しかしそれは、戦争、帝国主義間対立、気候と環境の危機、インフレの再来(8%)、しかもこのすべてがしつこく続くパンデミックを背景にしていることを前に、この国を劇的な社会的危機へと投げ込むことしかできないだろう。
社会的危機というこの流れの中で、与党の全部(右翼と中道左翼)が、総選挙(遅くとも来年春)の前に政治的に他のものから際立つような提案や戦術的位置取りを互いに探して、紛争へと入り込んでいる。特にそれは、単に外見だけとはいえ野党に区分けされているFdIが何ヵ月も世論調査でリードしてきた以上、避けがたいことになった。
ジョゼッペ・コンテ(2018年6月から2021年2月まで首相、その後M5Sの代表に:訳者)のM5S(五つ星運動)は、部分的には妥当性のあるテーマを有害になり得る目標や実践と組み合わせる違いがよく分からない論争の政党であり、この間の別々の3政権で多数勢力だったが、この党を一層「正常な」ブルジョア党に変えることを狙った圧力にさらされ、ますます周辺的な役割を引き受ける中で、選挙での崩壊という脅威に直面している。その基層からの圧力の下に、また民衆的な支持の回復という期待の中で、この党は今、ある種の連続性の断ち切りによって行き詰まりを突破しようとしている。
それゆえの政府の政治的危機、ドラギの辞任、大統領による彼への負託、誰もが対立的に位置を定めるような刺々しい空気なのだ。
右翼と極右を
封じる闘いへ
多くが、政権を再構成し、元銀行家(ドラギのこと、米国のゴールドマンサックス出身で元欧州中央銀行総裁:訳者)を定位置に維持しようと今駆けつけている。ブルジョアジーの利害関心はかつて以上に、金融法を通過させ、いわゆる国家復興・レジリエンス計画(PNR)を押し通すためにドラギ政権と協力することなのだ。西側の指導者と経営者たちが、今ドラギを支援し、資本家のために彼が開始した「薄汚い」仕事を続けるよう彼に圧力をかけ続けているのは、偶然の一致ではない。
この政治的危機の結論がどうなろうが、労働者階級にとっての主要なものごとは、かれらが社会的決起を建設する強さを今後身につけるかどうか、ということだ。そしてその社会的決起は、ブルジョアジーとその政府の政策に反対し、高い生活費用や貧困やさまざまな形態の不安定と闘い、資本家の利潤を削り取る本当の賃上げや年金の再評価を求め、資本家の資産や賃料や利潤に対する実質課税を強要するために闘う、その能力を備えた決起にほかならない。それがまた、社会の広範な層が抱えるシラケや怒りが右翼や極右という極めて危険な方向へと動くことを妨げることにより、それらに向かう道を閉じる唯一の方法でもある。
▼筆者は、元上院議員で、イタリアの第4インターナショナル2組織のひとつであるシニストラ・アンティカピタリスタ(反資本主義左翼)の指導部の1員。(「インターナショナルビューポイント」2022年7月26日)
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