保守党の英国
支配階級の惨事便乗資本主義に労働者と労働組合が闘争で回答
ストライキ復活の確かな動きが各労組に拡大
シェリー・ラビカ
今英国で進行中の保守党党首選で決選投票に残った最有力候補がストライキに対する抜本的な制限法導入を公約し、英国労組の怒りを呼び起こしている。資本主義の明らかな危機の中で、支配階級がどれほどまで反動化しているかを指し示す動きだが、他方それは、今英国で湧き起こっているストライキの波に対する支配階級の恐怖を表すものとも言える。以下は、フランスの英国研究者による英国内のストライキ復活の現況解説だが、日本ではほとんど報道されない事実であり紹介する。(「かけはし」編集部)
英国首相のボリス・ジョンソンが7月始めに辞任した(厳密には党首を:訳者)。彼自身の政府が決定した公衆衛生に関わる制限に対する彼の多くの違反、またそれ以外の違反に関連する「パーティーゲート」スキャンダルを受けたものだった。
ジョンソンが今日厄介者に見えるとしても、彼は、民族主義・レイシズムおよび「反エリート」――まったく逆説的だが――の態度を体現することで、彼の使命を完全にやり遂げたということになるだろう。ちなみにその態度は、特にナイジェル・ファラージが代表した公式のもっと極右的な潮流を利する選挙の大損失を避けるために(2019年の議会選までは)、ブレグジットのもっとも右翼的なタイプが必要としたものだった。
資本家の貪欲を隠した大騒ぎ
フランスの全国メディアの評論家集団は、「スキャンダル」と宮廷内騒動を背景にした政治的策謀というこの楽しいひとときを前に、進んで熱に浮かされたように見えた。この中で、「ボリス・ジョンソン」という主題がいくつかの都合の良い視覚効果を誘発している。
第1に、パーティーゲート事件は明らかに、緊縮の年月よりも深刻に見える。しかし後者は、「絶望からの死」症候群の広がり、期待余命上昇の停止といくつかの地域におけるその低下、そしてワーキングプアおよび前例のない比率に達している不平等によって、英国社会の諸部分全体を大量に殺したのだ。にもかかわらず「パーティーゲート」はともかく、政府の反コヴィッド戦略を名目とした巨額契約配分に関する破廉恥な身びいきよりも、もっと憤慨の籠もった注目に値している。
そして今この裁判ドラマの空気が、主な、かつ差し迫った問題をわれわれにほとんど忘れさせると思われる。その問題とは、フランスにおけると同様、2年にわたる公衆衛生危機から巨額な利益を上げることができてきた支配階級に奉仕する形で、極度に「正常な」社会的残酷化という同じ政策を、いかにやり遂げるか、ということだ。
保守党にとっては、権力を握った12年の中では、この同じ政策をいかにやり切るかという問題が今特に急を要するものになっている。まさにその今こそ、例外的な大きさをもつだけではなく、世論の多数によっても支持された労働組合の闘争の復活に基づく、本物の階級的反対勢力が存在しているのだ。
労働者が直面する耐え難い状況
6月の間にひと組の労組のイニシアチブが合流したが、それは、英国組合会議(TUC、英国の労組連合)が組織した全国デモ(同18日)で中断された。主な要求は、中でも、賃金引き上げ、ゼロ時間契約(拘束待機時間に賃金を払わない超短期の随時雇用契約)および雇用主の「解雇と再雇用」行為(解雇しその後劣悪化した条件での再雇用)の停止、エネルギー企業に対する課税、社会的最低基準(「ユニバーサル・クレジット」制度に統合された)の引き上げ、はびこるレイシズムとの闘い、そして労働組合への団結権の強化、に関係していた。
これらの優先的課題のどれひとつとして新しいものではないが、そのすべてがこの2年の終わりに当たって前例のない切迫性を帯びることになっている。つまり、公衆衛生危機が誘発した緊急事態は、雇用、賃金、そして今も存在している労働組合の諸権利、に対する攻撃の全般的強化を可能にしてきたのだ。他方でその間、まさに多数のまた大量の雇用主助成金(保守党に近い企業向けの、あるいは僅か2ヵ月前に折良く創立された企業向けの、何億という直接援助や「コヴィッド契約」)として、国家援助への近道が解放された。換言すれば英国では、コヴィッド危機は典型的に、数年前にナオミ・クラインによってまさに適切に描かれた「惨事便乗資本主義」の論理を例示したのだ。
しかしながら、追加的な決定的要素が、現在の情勢の中で鍵となる役割を果たすものとして登場した。つまり、2008年以後の賃金契約(何人かの分析家によれば、2世紀の間では前例がない状況)を背景に、7月に小売価格上昇が11・7%に達したのだ。エネルギー費用は、規制当局のOfgem(非政府組織のガス・電力市場事務所)が4月に上限を設定する中で(今秋にはさらなる引き上げが準備されている)54%上昇という形で爆発した。インフレのその水準は1982年以後では経験がない。全国統計局によれば、6月後半と7月始めの間で、住民の49%が、食糧を切り詰め始めた、と語った。
次から次へとスト権確立の波
これらの条件の下で、過去2年を通じて幅広いさまざまな部門の中ですでに進行していた労組の闘争が、この夏の前夜に新たな強さと可視性を獲得した。2、3の例示が読者に一定の考えを与えるだろう。
たとえば、ブリティッシュ・エアウェイ(BA)は2020年4月、1万2000人の削減(「自発的」退職6000人を含んで)、および残る従業員の3万人に対する賃金カット――即刻、こうして雇用保護のための賃金助成計画の終了――を公表した。6月末、GMB(全国都市一般労組)とユナイト(民間部門最大の労組)内のヒースロー空港チェックイン労働者の95%が、パンデミック間に行われた10%賃金カットをBAが回復しないならばストライキ決行、に票を投じた。BAは最終的に、このストライキを回避するために、「十分に改善」と思われる提示を行うことに同意した。
通信労働者組合(CWU)は、ブリティッシュ・テレコム(BT)グループ(1984年に私有化された)とその下請け企業であるオープンリーチとEEの従業員に、ストライキ行動に票を投じるよう訴えた。CWUはこうして、企業の従業員5万8000人に対する1500ポンド(1770ユーロ)引き上げ(交渉を経ていない)という提示、つまり11%以上というインフレを背景とした+3%から+8%という提示、に対抗した。この実質賃金カットが現れたのは、BTが13億ポンド以上の利益(3月31日の会計年度末)を公表し、7億ポンドがこの企業の株主に配当された中でのことだった。BTのトップであるフィリップ・ジャンセンの年収は、350万ポンドまで32%も上昇していた。
6月30日、BT子会社オープンリーチの3万人にのぼるCWUメンバーの74・8%が参加した投票を経て、ストライキ行動は投票の95・8%によって承認された。BTのCWUメンバー9000人の中では、投票率58・2%、支持91・5%だった。EE(携帯ネットワークオペレーターおよびインターネットサービス提供)のCWUメンバーもまた、95%でストライキを支持したが、その結果は有効とならなかった。投票率が49・7%でしかなく、2016年の最新の反労組法が最低投票率を50%と定めていたからだ。交渉が労働者の要求を満足させることがまったくできない場合、BTグループでは1987年以後初めてのストライキが行われるだろう。
ロイヤル・メールでは、ユナイトに組織された2400人の職制が、86%(北アイルランドでは89%)でストライキを支持した。この企業(2013年から2015年にかけて私有化された)は、700人を削減し(2021年の1200人削減に続き)、年当たり7000ポンドの賃金カットを押しつけるつもりでいる。この同じ企業は、2021年に4億ポンドを株主に配当し、3億1100万ポンドの利益を公表した。そして、この企業のトップであるシモン・トンプソンは、そこから75万3000ポンドを取り上げた。2022年5月19日、この企業グループは、2021―2022年の会計年度で7億5800万ポンドの利益(前年比でほぼ6000万ポンド上昇)を上げたと公表した。その後に7月20―22日のストライキが続く、7月15―19日の順法闘争が計画された。
郵便局の11万5000人の従業員も、2022―2023年に対する3%賃上げという提示に反対して、CWUが6月28日から7月19日に呼びかけたストライキに票を投じる可能性がある。NUT(全英教員組合)のメンバーである45万人の教員とNASUWT(全国女性教員校長組合)メンバーの他の28万人も、この職業が2010年以来その俸給レベルが20%も下落してきたのを経験した中で、さらに教員の3人に2人が今退職を考慮中という中で、まったく変わりばえのしない提示に異議を突きつけるために、今秋にも投票を行う(何回もの延期の後)と予想されている。
そして、われわれがPCS(公務員組合)の方に向きを変えれば、状況は同じままであり、そこでは、2%に設定された雀の涙の「キャッチアップ」という、インフレ対比では加速された賃下げ、および5月にジョンソンが公表した9万1000人削減、という両者の見込みがあるのだ。PCSはすでに9月のストライキ行動に関する投票を公表している。
しかしおそらく、以下から始めるだけで十分だ。つまり、ユナイトが委託した最新研究は、ロンドン株式市場のFTSE指標に登録された主要英国企業の利ざやが公衆衛生危機以前水準よりも73%も高くなっていた、と示したのだ。われわれはもっとさらに見なければならないのだろうか?
断固とした交通ストが支持獲得
こうした背景の中で、鉄道と海運の労働者からなる小さな労組(RMT、鉄道海運運輸労組)とその書記長であるミック・リンチが、労組運動の大きな部分に刺激を与える点で決定的な場を占めて登場した。この部門における状況は、上記の状況に確実に対比できる。鉄道利用の周期的な低落を口実に、主な鉄道インフラ管理会社のネットワーク・レールは、支出の1億ポンド削減を目的に施設保全職の2500人削減を計画している。政府は、1万人の減員となりそうな鉄道部門における20億ポンド節約を目標にしようとしている。しかし、鉄道労働者には賃金凍結と人員削減が見込まれている中で、鉄道企業は年に5億ポンド以上の利益を上げ、ネットワーク・レールのトップ73人の管理職は、全体総額で年に1500万ポンドを分け合っているのだ。RMT組合員は投票率71%、支持率89%でストライキに票を投じた。
RMTの行動は、いくつかの理由から相当な反響で迎えられた。まず、他の組織が依然として組合員に持ちかける局面にあった6月21、23,25日に早くもストライキに打って出た、という単純な事実があった。また、鉄道部門のストライキの影響は(重要な現業の活動に影響を及ぼして)より直接的に見え感じられるもの、という理由がある。しかしもっとありそうだと言えるものは、RMT指導者のミック・リンチの、あからさまに敵対的なメディアを前にした以下のような介入だった。多くの観察者から見て、2、3日のうちにストライキへの見方を公衆の53%により「正当」とすぐにみなされたように変えることに力を貸したのは、リンチの意見と彼の曖昧さのない階級闘争の立場がもつ効力とまったくの率直さだった。人々は当初、ストライキに好意的ではなかったのだ。その間に、運転士の労組であるASLEF(鉄道運転士労働組合)もまた、7月のストライキに支持の投票を行った。
労働党が最大の克服すべき障害
組織された労働者の行動とそれに不可欠な連帯のあらゆる形態への数多くの障害が今も残っている。第1は、1980年代に実効化され、2016年までにさらに強化された法的な締め付けからなる冷酷な仕組みだ。上記から理解できるように、僅かなストライキの計画も、中でも、郵便投票の手続きを通過しなければならない。そしてそれは、有効となるためには、組織メンバーの50%以上の参加を獲得しなければならないのだ。2016年の法以来多くの部門(公衆衛生や教育や交通を含んで)では、ストライキは関係する組織の全メンバーの最低40%から支持されなければならない。この同じ条項がもし議会の被選出メンバーに適用されるならば、どれほどの者が議席に着くことができるだろうか?
また、これとつながった政治評論家集団の慣習化した敵対もある。基本的に、請願に限定されないと思われる労働組合運動のあらゆる表現に見込まれる「混沌」を確信したものだ。さらにまた、英国労組運動の伝統それ自身の多くとその改良主義的忠誠が設けた諸限定もある。
最後に、もうひとつのまったく相当な障害がある。つまり労働党それ自身であり、今それを支配する指導部の反動的偏見は、ひとつの悲劇にほかならない。党指導者のケール・スターマーは、労働党内で左翼に似た可能性のあるものすべてを粛清したことで満足はせず、彼の影の内閣メンバーがピケットラインでストライキ参加者に加わることを禁じた。他方で彼は、この国の「新しい幕開け」という彼のビジョンを提示しようとした7月11日の彼の演説では、進行中の諸々のストライキを完全に無視した。
その他では、彼の影の外相が、BA従業員の要求を支持することへの「断固とした」拒絶を力を込めて言明した。また3月にはコヴェントリー市の労働党評議会が、より良い賃金を求めて闘っている70人の清掃労働者のストライキ破壊に挑むよう、臨時労働者に援助を求めた(2、3日前、このストライキは労働者に対する12・9%の賃上げをもって終わった)。スターマーは、ジョンソンと同じように信用を失って最後を迎える可能性もある。それは一種の成果と言われる可能性のあるものだ。
明らかに、現在と将来のストライキ運動はただ自らの強さのみを頼りにできる。そのような深い社会的かつ政治的な危機の連なりの中では、いかなる新しい可能性の出現に対しても、先の強さが依然第1の条件としてあり続けている――即刻のまた不可欠の改善を超えて――。そしてその可能性は、今なおこれから形を取らなければならないものだが、期待をかける価値のあるものなのだ。
▼筆者はナンテール大学で英国研究を行っている講師で、フランス反資本主義新党(NPA)のメンバー。(「インターナショナルビューポイント」2022年8月3日)
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