危機の時代に際した地政学的考察(下)

地政学的変動の新構造地質学

積み重なる危機が全体貫き作用

ピエール・ルッセ

危機深いグロー
バリゼーション

 市場のグローバリゼーションは、今行き詰まっている。とはいえこれは、金融のグローバリゼーションに関しては当てはまらない。地政学は原理的には、多数の要因間の相関を研究する。そしてそれは、集団的努力としてのみ可能だ。それはここでは私の主題から外れている。しかしながら、ユーラシアが第一義的重要性をもつ新たな地政学的要素を提供した。コヴィッド19パンデミックだ。それは中国で生まれ欧州で広がり、欧州が全世界に達する跳躍台の役目を果たしたのだ。
 地域的感染がパンデミックになった速度は、行動がのろかった政府の無視(欧州でも)、世界化した資本主義の密になった貿易、変異型をつくり出す能力およびほとんどあらゆる呼吸器系、血液、神経、消化器官その他を攻撃する能力を含んだ(それゆえインフルとはまったく関係がない)この系列のウイルスがもつ諸特性、で説明されている。唯一の前例は第一次世界大戦時の間違って名付けられたスペイン風邪(発生源は米国だった)かもしれない。しかしわれわれは当時、ウイルスの分析方法を分かっていず、したがってわれわれは比較ができない。
 われわれは、気候と環境の危機に加えて、地域的感染の時代に入っている。コヴィッド19は、カンバン方式生産と限界を知らない貿易成長を基礎としたグローバル経済の諸矛盾を爆発させた。元への回復は決してないだろう。

世界情勢の
表面的特性


 ウクライナへの侵略から5ヵ月近く経ち、世界情勢の特性付けは単純に見えるかもしれない。すなわち、ユーラシアとインド・太平洋は相変わらず地政学的対立の震央のままであり、西側陣営内で米国の指導性は回復され、NATOは新たな野心に基づいて再創出され、ロシアと中国はわれわれが議論してきた彼らの紛争にもかかわらず共に立ち、あらゆる戦線で「戦争の脱世界化」が進行中であり、気候や環境や公衆衛生の危機はそれに応じて加速中であり、民衆の苦しみは進行中の惨事にしたがって増大し続けている、と。

脆弱な能力抱え
NATO再創出


 ウクライナへの侵略は予想通り、それに新たな存在根拠と正統性を与える――この組織と軍事同盟に反対する闘いに対する極めて厳しい打撃――ことで、そのポスト・アフガニスタン危機の克服を可能にした。2022年6月末のマドリードサミットは、それがどのようなものであろうが、あらゆる「脅威」に対し世界規模で介入することが認められる形で、無制限の権限委任を得る好機だった。ロシアは当面「もっとも重要な脅威」と、中国は長期的に全分野における主な「戦略的競合者」と表現された。
 NATOの「新戦略概念」にはまったく曖昧さがない。問題は残っている。つまり、この組織はその政策のための手段をもっているのか? それに関し明白なことは何もない。国連でほとんどの国はこの侵略を糾弾したものの、制裁の道に進んだのは圧倒的な少数派にすぎなかった。
 ジョー・バイデンとNATOは今、ユーラシアとインド・太平洋の諸国がロシアと中国両者に反対する立場を共にすることを求め続けている。彼らは何を得ただろうか? これは重要なことだが、この組織への民衆的支持を得た新たな欧州諸国の追加、米国の軍事的傘の下に置かれることに対するEUメンバー国の幅広い多数の合意、そして日本の熱を帯びた連携だ。
 日本に関しては、この国の憲法は、軍隊の再建を、また国際的紛争解決の手段としての力の行使または脅迫をこの国に禁ずる平和条項(第9条)を含んでいる。この条項は、第9条に矛盾する「自衛隊」を発展させてきた自由民主党(右翼民族主義者)により、1945年から迂回(「解釈変更」)された。
 こうして日本は、世界で5番目の大きさの軍を保有している。それは、米国、ロシア、中国、インドに次ぐものだ。それは、1450機の航空機(それ以上は米国のみ)、36隻の駆逐艦をもつ海軍を保有している。駆逐艦は空母に次ぐもっとも強力な戦闘艦だ。東京は、核兵器は保有していないが、しかしそれらを非常な速度で得ることも可能だと思われる。政府は、多国間作戦への参加により、既成事実をつくり出し、外国の作戦の場にその部隊を派遣することができるようになる、と確信している。東京は、それ自身のゲームを行い、ワシントンの従属的同盟者にはならないつもりでいる。
 インドの場合、ジョー・バイデンはニューデリーを対中国の共同戦線に統合するために、インド・太平洋圏の概念を押し上げてきた。彼には今、ロシアに反しワシントンの側に付くことにモディ政権の合意を取り付けるチャンスは全くない。インドは、便宜主義という明白な理由から、表面上外交的中立の原則を示している。それは、1960年代以来モスクワとの連続的な結びつきを維持してきた。そしてその軍の必需品の約60%はロシアによってまかなわれている。それは、ドルによってではなく、ルーブルでの貿易を考えることにも合意すると思われる。

権威主義者の
新たな非同盟


 非同盟は再び繰り返しの主題になっている。その用語は、1955年のバンドン会議の記憶を呼び覚まして、人を引きつけるものだ。この会議は、インドネシアの指導者だったスカルノの後援の下に、中国の周恩来、インドのネール、エジプトのナセル、カンボジアのシアヌーク、ユーゴスラビアのチトー、また日本(唯一の工業化を果たした国)とアルジェリアFLNを代表したホシネ・アイト・アフメド等を表看板にして開催された。非同盟運動(NAM)は、植民地解放に向けた広大な闘争の一部であり、支配的秩序を問題にするものだった。
 これとはまったく関係のない今日の非同盟諸国は、全般的に非同盟に関する進歩的なものを何ももたない体制から構成されている。こうして、モディのインドは、多くの左翼からファシストとみなされている。しかしながら、非同盟への言及は、ビジネスが今後も以前同様継続する、また特にロシアによる西側の不実行為に対する糾弾がイラク侵略や植民地化に対する民衆の記憶と共鳴するがゆえに、ロシアは国際的に孤立しない、ということを意味する。
 ロシアの欧州国境上では、すべてが相対的であり続け、NATOとEUは、戦後期を見通してルガーノ(スイスの都市)で議論されているウクライナ復興計画が住民に新自由主義的注文からなる基準を押しつけようとしているとしても、確実にプーチン体制よりも民主的に見えている。

国際連帯再構築
へ闘いの学びを


 未来は非常に不確実なままだ。われわれは、一国的な民主主義の変容という危機が国際情勢にどのように影響を及ぼすか、を分かっていない。あるいは、トルコをめぐる地中海での周期的発生性の危機が明日起こるかどうか、また中東で、「全面戦争」(制裁や対抗措置を含む)がどれだけ続くか、気候危機の作用が移民の波を、また要塞の欧州の新たな強化を作り出すことになる場合どうか、も分かっていない。    
 しかしながらウクライナ危機は、西欧左翼が東欧左翼自身の経験の重要性を理解し、彼らの「観点」を取り入れるためのひとつの機会となった。われわれは地政学について、われわれの一国的視野を克服することなしに、またよその所から世界を理解することを学ぶことなしに考えることはできない。ロシアの国境の両側で今戦っているわが同志たちを、特にソツィアルニイ・ルク、ウクライナ「社会運動」の同志たちを支えることだけで十分ではなく、われわれはまた、彼らの声をよく聞き学ぶこともしなければならない。
 同様に、ビルマ(ミャンマー)を荒廃させている恐るべき戦争を、あるいはマルコス閥の権力復帰後もフィリピンで続く闘いの危険な性格を、ウクライナがわれわれに忘れさせるようなこともあってはならない。急進的左翼は行動の中で国際主義者になるだろう。そうでなければ国際主義者にはならない。(了)

(2022年7月13日、ESSEより)(上記には多数の注が付されているが省略した:訳者)(「インターナショナルビューポイント」2022年7月20日)

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