イタリア9・26総選挙
ポストファシスト指導者が勝利
人民連合は議席獲得にいたらず
民衆的決起を迂回はできない
デイヴ・ケラウェイ
9月26日の速報結果は、右翼連合の得票率43・9%を示している。小選挙区と比例投票の混合という条件の下で、正確な議席配分を算定するにはもっと長くかかる。しかしながら、あらゆる予想が、右翼連合に確かな機能する多数派を与えているが、しかし大統領制に向かう憲法改正に必要な3分の2は与えていない。
メローニとは
どんな人物か
ポストファシストの「イタリアの同胞」の指導者であるジョルジャ・メローニが、イタリアで初の女性首相になるだろう。彼女の党は1週間かそこら前に行われた最後の世論調査よりもむしろ好結果だった。彼女は、1年前スペインのネオファシスト党のVoxの集会で、伝統的なファシストのスローガン、ディオ、パトリア、ファミルジア(神、祖国、家族)を叫んだ政治家だ。
メローニは、自分はファシストではないがハンガリーの極右指導者であるオルバンに似たやり方をとりたい、と語っている。彼女は、ムッソリーニは人種法のようないくつか間違いを犯したが、よいことも行った、と語る。フランスの極右指導者のマリーヌ・ルペンはメローニの成功に早くも大喜びを示した。イタリアの指導者は、ゲイやトランスの権利を攻撃し、積極的な福祉改革である「市民所得」を拒否し、移民船すべてのイタリア上陸を止めると力説し、イタリア人第1の考えを強調する、そのようなキャンペーンを率いた。最後の考え方には欧州共同体との衝突も含まれている。
大量の棄権と
右翼内大再編
イタリアの同胞は2018年比で得票を6倍化した。国営放送局のRAI(イタリア放送協会)のためにコンゾルツィオ・オピニオが行った、選挙から選挙の票の移動に関する分析によれば、彼女の票の40%は前レガ(極右政党の同盟:訳者)支持者から来た。ドラギの国民統一政府の外部にとどまるというメローニの選択が成功した。サルヴィニは政府の一部だったのであり、彼の党であるレガはよろめきを示し続け、その政策に関し、特にコヴィッドパンデミックとの関係で不明瞭になったように見えた。
別の13%は、ベルルスコーニのフォルッツア・イタリアから、また9%は五つ星運動(M5S)から来た。得票の10%は以前は棄権だった。棄権の巨大なプールから獲得する仕事では、この戦術に優先度を置いてきた民主党(PD)よりも極右がうまくやったように見える。
棄権率は37%に上がり、2018年よりも10%悪かった。普通の人々は議会の中にある種のサーカスを見ている。2018年以来3つの完全に異なった政権――ポピュリストのレガ・M5S連立、次いでPD・M5S、そして最後にほぼ全主要政党からなるドラギ政権――が存在してきた。これが意味することは、政治への信頼と信用が空前の低さになっている、ということだ。人々は、高まる一方の不平等と生活危機の犠牲を今経験中であり、かれらの票に大した価値はない、と見ている。
これらの結果からのもうひとつ心配な事実は、メローニが南部を除くイタリア全体で第1党だ、ということだ。そしてその南部では、彼女が26%という得票をあげたM5Sに6ポイントおよんでいない。
イタリアの同胞は右翼連合内部の上下関係を完全に変えている。その得票はレガとフォルッツア・イタリアの合計よりも大きい。それらの結果がもしもっとよかったならば、われわれはメローニが首相になることを妨げようとする策謀を見ていたかもしれない。その結果はサルヴィニにとって、その指導性が今脅威にさらされているほどの悪さだ。レガの目的を地域的自律性/独立というその元々の使命に狭めたいという諸潮流が、早くも闘いを始めている。
危険な道への
新首相の挑戦
メローニはまた効率的にキャンペーンを進め、すぐさまファシスト的身振りのどのような表現も抑え込もうと動いた。そして、ローマ式敬礼を行った1候補者を切り捨てた。彼女は、ベルルスコーニとは異なって、ウクライナ戦争に関し一貫して親西洋的観点を押し出した。そのベルルスコーニは、プーチンはゼレンスキーをもっと良好な者で置き換えたかったにすぎない、などとまで力説したのだ。サルヴィニもまた以前のプーチンとの近さ――プーチンを柄にしたTシャツを着た彼の写真があり、彼の党にはモスクワとの間であらゆる種類のいかがわしい金銭的取引があった――で評判をけがされた。
メローニはさらに、新生事物であること(一新したブランド)、およびこの4年の諸政策には関わっていないこと、その上彼女が初の女性首相になるために立候補していたという事実、からも利益を得た。
彼女の経済政策は確固として、以前のイタリア諸政権の新自由主義的アプローチに据え付けられている。そして彼女はEUへの敵意に満ちた攻撃の調子を落とした。メローニは自身を他の政党と似かよった首相としてもち出したがっている。しかしながら彼女はオルバン型社会に挑戦し、イタリアをそこへと動かすだろう――悪辣な反移民政策、彼女が「開明的」と決めつけるあらゆるものごとに対する戦争、さらに市民所得という福祉給付の解体、という見地から――。彼女は後者を失業者を雇用する事業への支援を基礎とする制度で置き換えたがっているのだ。
フランスにおけるような大統領制もまた彼女のキャンペーンが行った約束のひとつだが、議会でそれを単純に行うためには圧倒的な多数が必要になる。彼女の成功は、フォルッツア・ヌオヴァや他のもののようなもっと過激なファシストグループすべてへの鼓舞になるだろう。そしてそれらは彼女を、制度内部の友人と見るだろう。労働者階級による新たなあらゆる決起は鉄拳と向き合うだろう。
PDが喫した
政治的な完敗
エンリコ・レッタ(PD書記長)とPDは多かれ少なかれかれらの支持を維持したが、彼の野心は、単一政党として最大になること、またメローニの右翼連合を止めることだったのだ。この両方の戦線で彼は敗北した。そして彼の指導性は、この後の大会で厳しい圧力の下に置かれることになりそうだ。
彼は、カレンダやレンツィのような穏健な新自由主義者と連合を組むことができずに、PDの左翼衛星政党であるシニストラ・イタリア/グリーンとの連合で終わった。この策動全体が不格好に見えた。現にカレンダ/レンツィ連合はかれらの目標である10%には達しなかったとはいえ、およそ8%を獲得し、その37%はPDから来ていた。シニストラ・イタリア/グリーンもまた議員獲得のための閾値3%を何とか超えることができ、こうしてPDは、その左翼に対しても少しばかり敗北した。
イタリア政治には近頃の英国の状況と類似している点がいくつかある。その英国では資本家階級が、ブレグジット、経済危機、公衆衛生危機、また環境の危機に直面して、政治の安定した支配的影響力を打ち立てようと闘っている。
イタリアの逆説は、元共産党であるPDが唯一の安定した政党、ということだ。他の主要政党すべては、ひとつの選挙から次の選挙に進む中で大きく上下動している。同時にPDは多くの側面で、既成エリートからもっとも信用されている政党だ。そしてそれは、ドラギに対する最も熱烈な支持者だった。レッタの失敗はまた、今回の選挙で少しばかりの左転換を見せたM5Sと再度連合を組むことについて、党内論争の幕を開くだろう。
左転換のM5S
は少し元気回復
今回のキャンペーンと結果でひとつの驚きは、M5Sの幸運に関する復活だった。その議員数はこの4年の成り行きを通じ、分裂と脱党を通して半減した。コンテはその歴史的指導者を欠いたままキャンペーンを率い、ベッペ・グリッロ(コメディアンで党の創設者)は沈黙を守った。外相で最新分裂の指導者であるディマイオ(長い間M5Sの指導的メンバーだった:訳者)は、ナポリ地区でM5Sの1候補者によって敗北を喫し、彼のグループであるインペグノ・シヴィコ(市民の約束)は3%を超えなかった。
コンテの主なキャンペーンの焦点は、党の看板政策だった市民所得の防衛に当てられた。これは特に南部で人気だった。そこはより貧しく、そこからより多くの人々が利益を受けていた地域だ。彼は、より短い週労働時間のような他の進歩的な考えをも取り上げた。もちろんこの党は2018年以来政府内にとどまり、多くの新自由主義政策を黙認してきた。しかし政治的に、PDとの間に多くの違いがあると言うことは当面難しい。
労働運動の敗北
が依然重く作用
急進左翼とディ・マギストリス(急進左翼からも支持を受け、2011年から2021年までナポリ市長:訳者)のオルタナティブであるウニオン・ポポラーレ(人民連合)は、人々を投票に連れ出そうとする活動家たちの模範的な動員にもかかわらず、3%に達することができなかった。それが受け取ったのは、あらまし2018年における同等のグループと同じ票数だった。PDの穏健路線に批判的と私が知っている一定数の人々はコンテを選んだ。そして、シニストラ・イタリア/グリーンの相対的な成功は確かに、ウニオン・ポポラーレが真に離陸を果たすことを困難にしていた。
その結果は、労働者運動の諸々の敗北とその活動の低水準を反映している。職を守ろうとする労働者による抗議行動と戦闘的な行動は、ホィールプールやGKNでのように起きている。しかし全国労組は、EUの資金による2000億ユーロの予算をもつ「国民復興と回復力に向けた計画」に関する議論に統合される中で、これらの闘争を全体化できていない。闘争と抵抗の再建に代わる選挙による迂回路は全くないように見える。
これらの選挙結果は勤労民衆にとっての敗北だ。移民やゲイやトランスの人々は特に最前線にいる。われわれには、過度にオオカミ少年にならないことが必要だ。ポストファシストはここで以前も政府内にいたことがある。ファシスト国家が次の2、3ヵ月で押しつけられることはないだろう。
しかしわれわれは、しのびよるファシズムの特徴すべてが生きているのを見ている。右翼連合諸政党間の違いがひとつの政治危機に導く可能性もあり得るとはいえ、レガとフォルッツア・イタリアの弱さはこれをほとんどありそうにないものにしている。議会内の政治的反対派の状態を前提とすれば、街頭やコミュニティや職場での決起のみが、ものごとを変えるように見える。(2022年9月26日、アンティ・キャピタリスト・レジスタンスより)
▼筆者はアンティ・キャピタリスト・レジスタンス内のソーシャリスト・レジスタンスと第4インターナショナル支持者。(「インターナショナルビューポイント」2022年9月27日)
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