チリ  「拒否」の勝利はなぜか?

新憲法案敗北に関する考察
ブルーノ・マガラエス/ペドロ・フエンテス

 チリでは、2019年の民衆的反乱の要求に基づき、新たに選出された憲法制定会議を通じ、ピノチェト独裁体制の基本骨格を維持した現行憲法との根底的絶縁をめざす新憲法策定が進められ、この9月4日、極めて野心的な改革を盛り込んだ新憲法案が国民投票に付された。しかし新憲法案は多数の支持を得られなかった。それはなぜだったか、以下でブラジルの同志がいくつか検討している。(「かけはし」編集部)
 新憲法文案に関する「拒否」選択の勝利は、国際主義者にとって一定数の疑問を提起することになった。新憲法を求めた闘争が短い時間の後に僅か38%の民衆的支持にしか達しなかった、ということはどのようにしてあり得たのだろうか。この闘いは、2019年の大規模な民衆反乱により要求され、その後には、憲法制定プロセスを開始させた最初の国民投票での、ほぼ80%の支持というめざましい勝利が続いたのだ。

ボリッチ政権
の曖昧な性格
 この疑問は、可能な限りもっとも正確なやり方で回答される必要がある。この否定的な結果に対する説明は、われわれにひとつの教訓を、チリと他のラテンアメリカ諸国で現れつつある今後の挑戦課題にいかに立ち向かい続けるべきか、に関するいわば見習い経験を与えているのだ。
 確かにこの結果は、ただひとつの原因から説明されてはならなず、それらの組み合わせにより説明が可能だ。われわれは、以下の短い文書で、考慮に入れなければならないいくつかの要素を示す。
 第1の要素はガブリエル・ボリッチの政権の性格にある。つまりこの政権は、2019年の民衆的決起から現れた大望を代表していない、ということだ。以下のことが思い起こされなければならない。つまり、民衆が、ピニェラ前大統領の辞任を求める要求の中に表現されて、かつての体制を終わりにするために決起していた当時、ボリッチは、改憲に合意が可能になるようにとの目的で、憲法に関わる右翼との合意に支持の票を投じていたのだ。
 こうして生まれた新憲法提案は、「キッチン協定」として知られた。この合意が、この国中で組織された民衆評議会(カビルドス)の中に動員された大衆の背後で作られたからだ。しかし、第1回国民投票ではじめて、投票者の80%という多数が憲法制定プロセス開始を承認し、混合憲法制定会議(現職の国会議員と新たな憲法制定代表者たちで構成される)という提案を拒否、もっと権限をもつ憲法制定会議を選択した。そしてその会議が、ピノチェト憲法の条項のない、いわゆる「白紙」からその作業を始めた。

無力な和解政策
への民衆的処罰
 ジェンダー同数や先住民の代表といった前例のない諸特性を備えたこの憲法制定プロセスの期間に、ボリッチを権力に就けた選挙が行われ、それはともかくも今回の敗北を予示していた。元学生代表は、大統領選第1回投票で極右候補者(ホセ・アントニオ・カスト)に敗北し、第2回投票での彼の勝利は、1回目では投票所に行かなかった100万人以上の有権者に直接関係していた。
 彼の政権形成から現在まで、彼の政策は支配的な諸階級との和解のひとつとなった。それは、チリが現在通過中の諸問題を解決するための何らかの具体的な方策に基づいて彼らに立ち向かうことがないものだった。政府は13%のインフレ率と、賃金価値を考慮しない基本的食料品一式の費用上昇、の間で自らをすり減らした。結果として現在の彼の支持率は30%以下になっている。
 したがって彼の新憲法に対する政策は、矛盾し、優柔不断で、彼の支持もおずおずとしていた。彼は、彼の和解政策と合わせる形で、保留を示し、前コンセルタシオン(中道左翼の政党連合、ピノチェト独裁終了後のチリを右翼連合と交替で統治:訳者)の指導者たちと共に、憲法案の諸規定に変更を加える必要を提起した。
 このような脈絡の中で、「拒否」票は同時に、その無能さを理由に政府に罰を与える票でもあった。つまりそれは、右翼支持を意識した票ではない。確認されなければならないこととして、社会党を含むかつてのコンセルタシオンの重要な部分も「拒否」を支持した。

憲法案討論の
民衆との切断
 加えて、選出された憲法制定会議議員は、住民を引きつけるような憲法制定プロセスを実行しなかった。議員たちの選出はチリ人の決起が進行した結果だった。そこには無所属と左翼に向かう投票者の多数があり、右翼は、2019年の協定によりこの陣営に拒否権を与えると思われた比率の、3分の1議席すら得ることができなかった。
 2019年に民衆評議会が数を増した国で、憲法制定プロセスはこれらの民衆的組織化との切断を示した。民衆によって選出された彼らが、どうしたことか彼らを選出した人々から切り離されるようになったのだ。彼らは民衆的な憲法制定プロセスに、2019年の評議会に基づいた、チリ労働者の草の根組織に基づいた民衆的諮問というプロセスに、扉を開かなかった。
 チリの憲法制定プロセスは、人民権力を、右翼とコンセルタシオンの古い諸政党に代わる真の権力を組織すると思われる路線を、探求した。しかしこれは行われなかった。投票所に85%以上の有権者を連れ出した前例のない義務的な投票を前にしたまさにその時、討論は、憲法制定会議の議員と前衛の小さなグループに閉じ込められ、否定的な結果を生み出した。

2019年決起
の炎の再燃必要
 これは新憲法文案に込められた前進面すべてに対する拒否を意味していたものではなかった。しかしむしろ、労働者階級にもっとも密接な諸側面を優先させた方がもっとよかったと思われる。そしてこれらの諸側面は、新自由主義のモデルに扉を閉ざし、この国の新しい国民経済モデルという、具体的なモデルに向け扉を開いたと思われる。
 新憲法に敵対するメディアの偽情報キャンペーンの影響力も軽視されてはならない。それは、キャンペーンの調子を「拒否」有利に整えるために、フェイクニュースと代表的とは言えない小グループの諸行動を利用した。
 敗北があるとはいえ、古いピノチェト派のならず者たちの日々は数えられるものになっているという事実、そして新しい憲法制定プロセスがまもなく始まるだろう、という事実もある。しかしその中でボリッチはそれでも再び間違いを犯し、議会と体制支持諸政党の中に彼の場を示した。この情勢に対応するためには、決起した前衛と労働者階級の諸組織が2019年の決起と民衆評議会の炎を再燃させることがこれからの必要になる。(2022年9月7日)

▼ブルーノ・マガラエスは、ブラジルの「社会主義と自由の党PSOL」内社会主義左翼運動(MES)潮流を基盤とするオルガナイザー。(「インターナショナルビューポイント」2022年9月8日) 

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