米国 ストの対応が政治への圧力に

鉄道ストをめぐる
労働者、労組、政治
ダン・ラボッツ

 9月はじめ、この国の長距離貨物輸送(旅客ではない)の40%を動かしている15万人を代表する鉄道12労組が、賃金、労働条件、公衆衛生問題をめぐってストライキに訴えると脅した。現時点でそのようなストライキはありそうに見えない――政治と労働法のために――にもかかわらず、だ。9月15日バイデン大統領は、鉄道諸企業と労組と共に努力している労働省長官のマーティ・ウォルシュが暫定合意に達することができた、と公表した。

ストライキへと
導く条件が山積
 「これらの労働者全員はもっとよい賃金、改善された労働条件、またかれらの医療ケア費用に関し安心感を得るだろう」、「私は、誠実な交渉の点で、またわれわれの極めて重要な鉄道システムが機能し続け、われわれの経済の混乱を回避することになる暫定合意に達したことで、諸労組と鉄道諸企業に感謝する」、バイデンはこの取引を公表する中でこう語った。
 この政治的な動きの力説には特異さがあるが、150年の経験から出ているこの問題の取り扱い方は古典的だ。
 鉄道労働者は、より大きな生産性を求める雇用主の継続的な圧力によって、病休がないことによって、さらに跳ね上がる物価によって、ストライキで脅しをかけざるを得ないようにされた。鉄道が私有化され、数十億ドルの利益を上げている米国では、1950年には100万人の鉄道労働者がいた。しかし、合併、自動化、また単純な経営的圧力を通して、その数は今日僅か15万人にまで減少している。
 「仕事はまさに本当に、もっと少ない人間でもっと多くの仕事をこなすようになっている」、アイオアのユニオン・パシフィックを代表し、鉄道労働者組合副議長の機関車エンジニアであるロス・グロータースはひとりの記者にこう語った。鉄道労働者は多くの米国労働者同様、いかなる病休も規定していない契約の下にあった。そして労働者は、インフレ率が8・5%になったことで、賃上げを勝ち取らなければならない、またそのストライキが必要になれば業務放棄の準備はできている、とも感じた。

鉄道めぐる
激闘の歴史
 しかしながら米国の労働法は、全国的な鉄道ストライキをほぼあり得ないものにしている。この法は、政府の暴力によってすべて押し潰された過去のストライキの破壊的な影響を理由につくり出された。1877年のボルチモアとオハイオの鉄道ストライキは数百万ドルの資産を破壊し、100人のいのちを犠牲にした。ユージン・V・デブス(米国の著名な労働運動指導者、鉄道機関士で米国初の産別労組の米鉄道労働者組合を組織:訳者)が率いた1894年のプルマン旅客列車(プルマン社が製造する豪華旅客列車:訳者)ストライキは、25万人の労働者が関与し、40人の命が犠牲になった。一方1922年の工場労働者のストライキは25万人の労働者が関与、10人が犠牲になった。
 米国議会は鉄道ストライキを終わりにしようと決意し、1926年に鉄道労働法(RLA)を採択し、それが今も有効だ。RLAに込められた意図は、雇用主と諸労組に全国仲裁委員会の下でのだらだらと続く仲裁プロセスに入ることを強いることで、ストライキを止めることだった。双方と同委員会が暫定合意に達した時は、経営者も労働者も次のいかなる行動もとることができない30日の冷却期間が始まることになっている。最後の全国鉄道ストライキは、1992年の機械工労組が率いたものだった。

改善提供あるが
合意に不透明さ
 労組の活動家たちは、この新契約に何があるかを正確には分からない、と不満をこぼしている。機関士エンジニア・訓練士友愛組合メンバーのロン・カミンコウは「この合意が意味することを理解することは今は不可能、それがこのように不透明では恥ずべきことだ」と語った。見たところでは、労働者たちは2024年の契約終了時点までに平均賃金で11万ドルになる24%の賃上げ、および5000ドルのボーナスを獲得している。労働者たちはまた、1日目の有給病休および追加的な無給医療欠勤数日、さらにもっと柔軟な勤務予定をも得ることになっている。
 11月8日の中間選挙で今共和党と向き合っている民主党とバイデンにとって、このストライキを止めることが必須だった。それは、サプライチェーンをさらにかき乱し、多くの工場での生産を止める形で、この国に非常に深刻な経済的な諸問題を引き起こしていたと思われるのだ。
 労働者と諸労組はまだこの計画を否決することも可能だと思われるが、かれらはこれまでにかなりの改善を提供されていて、政治家、経営者、また何人かの労組役員からの、その受け入れを求める圧力は巨大なものになるだろう。(「インターナショナルビューポイント」2022年9月25日)

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