ブラジル 大統領選第1回投票 10月30日は必ずルラの勝利を

まず全力でファシスト打倒へ
ミシェル・レヴィ

 10月2日のブラジルの選挙における第1回投票の結果は1色ではない。労働者党(PT)候補者のルラは得票率48・4%でリードしている。しかし第1回投票で勝利するという期待は消えた。そして特に、彼は43・2%の得票率を得た――世論調査予想よりもはるかに多い――ネオファシスト候補者のジャイル・ボルソナロに激しく追い上げられている。
 したがって10月30日に第2回投票となるだろう。そしてその投票は、予想外の逆転を阻んで、ルラによる勝利とならなければならない。しかしながらボルソナロの支持者は、数州の知事に加え議会を統制しているように見える。すなわち、ネオファシスト潮流は、大統領職を失うだろうが、しかし極度に強力な政治力を維持している。

悪夢が再来の
権威主義体制

 ブラジルの支配階級は、民主主義に大きな愛着を持ったことは一度もない。3世紀におよぶ欧州による植民地化、および4世紀におよぶ奴隷制の継承者として、かれらはこの数百年、以下のよう形で権威主義国家に向かう強い性癖を示してきた。つまり、カウディーリョ(ラテンアメリカで独裁者に着けられた称号)のジェトゥリオ・ヴァルガスの個人権力下にあった1930年から1945年、1964年から1985年の軍事独裁、2016年の、選出されたディルマ・ルセフ大統領に対する議会の準クーデター、そして、2018年から2022年のジャイル・ボルソナロのネオファシスト政府だ。
 多かれ少なかれ民主的だった時期は、ふたつの権威主義体制に挟まれたカッコ付きの時期であるように見える。
 ボルソナロの大統領期の4年は、ブラジル民衆にとって巨大な惨害となった。彼はブルジョア新聞、実業界、地主、銀行、ネオ精霊降臨派教会の支持に基づき選出されて、彼を打ち破ることができる唯一の政敵であるルラが偽りの告発の下に投獄されていた、という事実を利用した。
 この元陸軍大尉は、軍事独裁を再確立し、「3万人の共産主義者」を銃殺する、という彼の夢を実現することはできなかった。しかし彼はコヴィッドを前にあらゆる公衆衛生政策をサボタージュし、結果として60万人以上の死者を残した。
 さらに彼は、脆弱な公共サービス(公衆衛生、教育、その他)を荒廃させた。彼は、数千万人のブラジル女性を貧困に引き落とし、大豆や牛の大物たちによるアマゾンの破壊を力を込めて支えた。彼は、ネオファシズム、ホモ排撃、女性蔑視、また気候懐疑といった諸々の考えを後押しした。また彼は、準軍隊的民兵(マリエレ・フランコの暗殺に責任がある)を支援し、権威主義体制を据え付けようとの試みを止めなかった。
 2022年10月の選挙はこの悪夢に終止符を打つことになるのだろうか? ルラは10月30日の第2回投票では勝利しそうに見える。しかしボルソナロは、政治における彼の手本であるドナルド・トランプにしたがって、不都合な結果を認めるつもりはない、と早くも広く知らせている。つまり、「もし私が負けるとすれば、それは票が偽造されたからだ」と。
 政府内に強力な代表をもつ軍の一部は、彼を支持しているように見える。軍は、選出された大統領、つまりルラ、に敵対する軍事クーデターを先導する点にまで進むのだろうか? それは大いにありそうとは見えないが、この仮説を除外することはできないのだ。
 確かに軍は、ペンタゴンや米国務省からのゴーサインなしに動くことに慣れていない。そしてまさに今バイデンは、ブラジルを支配する熱帯のトランプを支持することにはいかなる利点も見ていない。しかしボルソナロは、選挙での敗北後に議事堂周辺でトランプが引き起こした状況に比べることができる危機的情勢をつくり出そうと、彼の支持者――警官、民兵、退役将軍、ネオ精霊降臨派教会の牧師たち――を動員しようと試みた。彼は、北米の彼のアイドルと同じ成功を得ることになるのだろうか?
 副大統領へのルラの立候補仲間として反動的ブルジョア政治家(ジェラルド・アルクミン)を選択するという、ルラの高度に疑問視される方針にもかかわらず、はっきりしていることは、ルラ――元金属労働者で1979年の大ストライキを率いた労組指導者、そしてPTの創設者――が現在この4年のネオファシストのエピソードに終止符を打つというブラジル民衆の希望を体現し続けている、ということだ。
 彼は広範な諸勢力の連合から支持されている。その連合には、左翼諸組織と社会運動――労組、土地なき者の運動、家なき者の運動――のほとんどだけではなく、産業ブルジョアジーの幅広い部分も含まれている。後者の部分は、ボルソナロに忠誠を保っている大地主とは異なり、元陸軍大尉はビジネスにとってはよい選択肢でなかった、との結論に到達したのだ。しかし確認しておくべきことは、選挙戦に先立ってコロンビアのような民衆の決起の高揚はなかった、ということだ。

PSOL多数は
全力でルラ支援


 ブラジルで急進的左翼あるいは反資本主義左翼の主要勢力である「社会主義と自由の党」(PSOL)――そこには、ひとつあるいは別の形で第4インターナショナルと協力している数潮流が存在している――は、長期の内部論争の後、第1回からのルラ支持を決定した。この選択に同意しなかったエコノミストのプリニオ・デ・アルダ・サンパイオ・ジュニアに率いられた小さな異論派は離党した。しかしPSOLの主な左派潮流――たとえば、そのスポークスパーソンが2014年にPSOLの大統領選候補者だったルシアノ・ジェンロである社会主義左翼運動(MES)――は、1回目にPSOL独自の立候補というかれらの切望があったとはいえ、多数派の決定を受け入れるにいたり、ルラ支援キャンペーンに精力的に参加した。
 ほとんどのPSOL活動家は、ルラとPTが率いる政府がどんなものになると思われるか、について何の幻想ももっていない。つまりそれは、PTという楯の下で、以前の階級和解連合の社会自由主義諸政策という経験のもっと均衡を欠くとすら言える改訂版になるということだ。
 衆目が認めるように、これらの実験はいくつかの社会的前進を可能にした。しかし今回それが現実になるとははっきり言えない。これはもちろん、急進的左翼の、特に社会運動の、搾取され抑圧された者の、自律的かつ自立的に行動する能力にかかることになるだろう。そうであっても明白なことは、ブラジルの民衆をジャイル・ボルソナロの体制がこれまでに示した邪悪な悪夢から解放する上で、ルラ支持の票が不可欠に必要とされている、ということだ。

ファシスト打倒
の統一最大限に


 ルラは選出されるや否や、多くの困難に直面するだろう。つまり、軍の諸部分や牛や大豆の大物たち、ネオ精霊降臨派教会、凝り固まった(多くの場合武装した)ボルソナロ支持者、これらからの猛烈な反対だ。彼は、反動的な諸勢力が優勢な敵対的議会を敢えて前にしている。現在の議会はいわゆる4B、牛肉、銀行、聖書、弾丸、すなわち地主、金融資本、福音派宗派、そして準軍隊的民兵、によって左右されているのだ。将来の決定的な戦闘のひとつは、今アグロ資本主義によって破壊が進められているアマゾンの救出になるだろう。
 加えてルラは、ディルマ・ルセフ同様、「議会のクーデター」という永久的な脅迫の下に置かれるだろう。これの源は、副大統領に対するジェラルド・アルクミンという破滅的な選択だ。この人物は、元サンパウロ州知事で、2014年にディルマ・ルセフを敗北させた右翼の政敵だったのだ。ルラはおそらく、ブルジョアジーに担保を与え、右翼の反対派から武器を取り上げるために彼を選んだ。しかし彼はこうすることで、支配階級に決定的な武器を与えてしまっている。
 ルラがもし議会の多数派を牛耳るブラジルのオリガルヒが喜ばない何らかの行動をとれば、彼は弾劾手続きの対象になるだろう。それは、2016年のディルマの場合と同じだ。この悲しむべき前例では、彼女は実におかしな口実で処罰を受け、いわゆるブルジョア「中道」の反動派であるテメルで置き換えられたのだ。その同じことが、つまり弾劾とアルクミンによる代用がルラにも起きる可能性があると思われる。
 コロンビアのグスタボ・ペトロはもっと巧妙だった。彼は立候補の仲間として、アフリカ系コロンビア人の女性で、フェミニスト、そして環境保護活動家のフランシア・マルケスを選んだ。
 そう言ったとしても、2022年10月というこの時の必要は、疑いなくルラ支持の票だ。ほぼ1世紀前まさに十分トロツキーが説明したように、ファシズムを打ち破るための必要条件は労働者運動の全勢力からなる最大限に幅広い統一なのだ。(2022年10月3日、「ニュー・ポリティクス」より)

▼筆者は第4インターナショナルの活動家でエコソーシャリスト、社会学者、また哲学者。彼は1938年にサンパウロで生まれ、1969年以後パリで暮らしてきた。CNRS(フランス国立科学研究センター)の研究主任(名誉職)で社会科学高等研究院の教授。29の言語で出版された数多くの本の著者。インターナショナル・エコソシャリスト・マニフェストの共同(ジョエル・コヴェルと共に)筆者。また2007年にパリで開催された第1回国際エコソーシャリスト会合の組織者のひとりでもある。(「インターナショナルビューポイント」2022年10月5日) 

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