ウクライナ 敗北なしにロシアは交渉しない

デニス・ピラシュ

 デニス・ピラシュが、キーウから話す形で、「グリーン・レフト」の2022年エコソーシャリズム大会の一部としての「ウクライナ、帝国主義、そして左翼」の研究パネルで講演をした。以下は、討論の中で出された質問に対するいくつかの回答と共に、彼の講演の、大幅に短縮され編集して書き換えられ、ピラシュにより訂正されたものだ。この編集版は「グリーン・レフト」に掲載された。

最悪な悲劇の
ひとつの中で


 われわれは、わが国で最悪な悲劇のひとつの真ん中にいる。第二次世界大戦のナチスの侵略以後、ウクライナは、ウクライナに侵略攻撃するというプーチンの一方的な決定によりわれわれにもたらされたような荒廃とテロのひどさを経験したことがない。
 この侵略は都市と町々を荒廃させている。東部と南部のウクライナの多くの場所が、ほぼ完全に破壊された。また、キーウとハリコウ――ウクライナ人が成功裏に侵略者を追い払ったところ――の周辺にも、イルピン、ブチャ、イジウムといった、数え切れない遺体が発見されたところがある。
 南部と東部では市民のインフラや家屋を標的にした恒常的な砲撃がある。キーウでは、都市が数百のミサイルやドローンで狙われてきた。
 しかしウクライナの民衆は、この帝国主義の攻撃――イラクのような西側帝国主義の攻撃にならった攻撃――に抵抗してきた。そしてもしロシアが成功するならば、それは他の帝国主義大国すべてにとって、もっと多くの国すらも侵略するための先例を作ることになるだろう。

抵抗と連帯
二重の試練


 人々は、侵略の最初の数分から出現した非常に自然発生的な、連帯に基礎を置いた抵抗にほとんど基づいて、この悪夢に何とか抵抗できてきた。
 ロシア軍は、武器で抵抗する民衆だけではなく、占領地域で丸腰で抵抗する民衆をも加えて、抵抗のあらゆる形態で迎えられた。ヘルソンと他の占領された都市では、ウクライナ語を話すもの、ロシア語を話すもの、また他の民族的コミュニティを巻き込んだ巨大な集会が、これらの抗議が抑圧されるまであった。
 前線の背後で働く人々もまた不可欠となっている。何百万人もが、戦争に引き裂かれた地域出身の人々を支援するための人道活動に関わってきた。この抵抗は、ウクライナの労働者階級の民衆を数え切れない数で巻き込んできた。
 これらの民衆こそロシア帝国主義の標的なのだ。なぜならば、別個の実体としてのウクライナをプーチンが根絶したいと思っていることがはっきりしているからだ。
 同時に、これらの不可欠な労働者は、われわれ自身の支配階級によっても今標的にされようとしている。みなさんは、ウクライナで惨事便乗資本主義が作動していることを見ることができる。支配階級が今、新自由主義の緊縮、反労働者的立法、さらに社会的諸権利の削減からなるそのショックドクトリンを押し通すために、今この機会をつかもうとしているからだ。
 これは、ウクライナ人民が直面する二重の試練だ。

平等な世界へ
左翼は独自に


 侵略の始まり以来、左翼の過半――労組活動家、フェミニスト、社会主義者、アナーキスト――は、あれやこれやのやり方でさまざまな人道活動や戦争活動に参加してきた。
 ある者は領土防衛部隊や一般的にウクライナ軍の隊列に加わった。反権威主義のアナーキストですら、軍内にかれら自身の部隊をつくり出した。われわれの「社会運動」には、志願したり徴兵された多くの労組活動家と並んで、軍内の同志たちがいる。
 何人かの活動家は、主にアナーキストだが、武装抵抗中の同志に向けて助けを提供するために、「連帯共同」のようなネットワークをつくり出している。ある者たちは、居住、食糧、またそれを必要としている人々への支援を提供する日々の人道活動に関わっている。
 われわれは「社会運動」として、この人道活動と共に、戦時におけるウクライナの住民の必要を反映した政治的要求を、それらをより平等主義な世界を求めるより幅広い世界的な設定課題に結びつけつつ、押し出そうとしてきた。
 これこそが、ウクライナの債務帳消しといった要求をわれわれが今押し進めている理由だ。債務は、それがグローバルサウスの数多くの国々に悪影響を及ぼしていると全く同じように、東欧の周辺的な国としてのウクライナに悪影響を及ぼしているひとつの問題なのだ。
 われわれはさらに、もっと社会的な方向をもつ、ジェンダー平等の、環境的に公正なウクライナの再建の必要を、一握りの民族資本や多国籍資本の利益としてではなく、働く多数の利益のために行われる再建の必要をも押し出している。これには、労働者の保護、および再生可能で持続可能な経済の創出、を求める諸要求も含まれている。

極右の観点への
社会による拒絶


 ウクライナの極右は、親ロメディアによって、しかしまたそれらをヒーロー視する多くの親ウクライナメディアによっても、大いに報道されている。内務省の下にあるひとつの連隊であるアゾフをめぐって、数多くの話しがある。そしてマリウポリ防衛の物語は、 海兵隊や他のウクライナ部隊もこの都市の防衛者ではより役割の小さな部分になったわけでは全くなかったのに、アゾフをめぐるものが中心になった。
 しかし、われわれが現在のウクライナの抵抗における極右民族主義の役割を注視し、ロシアがクリミアを併合し、ドンバスでの戦争を扇動した8年前とそれを比べるならば、極右は、それがかつてほどの意味をもっていない。
 これこそが、みなさんが多様な背景から抵抗に加わった人々を知り、そのために、極右が主要なウクライナ防衛者であると見せかける独占的な能力をまったくもっていない理由だ。みなさんは、あらゆる背景から軍の諸部隊に加わった人々を知っている。それは、ウクライナのあらゆる地域の住民、ユダヤ人、クリミアタタールのようなムスリム、アナーキストを含むベラルーシ人移住者、おそらくもっとも権利を奪われ、ウクライナ社会の中で排除されているロマの人々だ。
 われわれの下にはふたつの傾向がある。つまり、純化した民族主義のウクライナ像により傾く傾向、そして多元的かつ多文化的なウクライナを奉じるもうひとつだ。
 これは、前回の大統領選で示された。そこでは、ポロシェンコが保守的な民族主義の政綱に基づいて立候補し、他方ゼレンスキーはもっと全体を含んだ、また反民族主義の政綱を推し進めた。そしてゼレンスキーが、現職を打ち破り、決選投票で票の75%を勝ち取った。
 全体として、極右の観点はウクライナの社会によって拒絶されているのだ。

ロシア語住民も
明確に占領拒否

 親ロシアと見られてきた人々を含んで、数百万人に上るロシア語を話す人々は、ロシアと結びついたすべてへの忠誠を失っている。
 ロシア語を話す人びとの多数はゼレンスキーを支持して投票し、和平プロセスを支持して投票した。ゼレンスキーは任期の1年目に、長続きする平和に向け歩みを数歩進めた。しかしプーチンは、あたかもウクライナ人が存在していないかのように、ワシントンとしか話さないだろうと語って、極めて乗り気がなかった。
 プーチンは、あらゆる直接交渉を回避しようとし、その後侵略を選択した。明らかだが、みなさんがロシアの爆弾とミサイルの標的になる場合、みなさんにあるかもしれない親ロ感情のすべては傾向として消える。もっとも破滅的な都市の多くには、圧倒的にロシア語を話す住民がいた。それらは、ともかくもロシア語を話す住民を守っていると主張していた、その同じロシア軍によって平らにされたのだ。
 最近になって占領されているウクライナの部分にいるロシア語を話す人々の過半は、はっきりと占領を拒絶している、みなさんはこれを、戦争活動へのロシア語を話す人々の参加として見ることができる。

代理戦争論は
受容できない


 攻撃の犠牲者には、たとえそれらがたちの悪いところからのものかもしれないとしても、自らを守るのに必要な武器を得る正統な権利がある。クルドの人々をよく見てみよう。かれらはある時点で米国から支援されたが、その後そこから見捨てられた。
 しかしこの事例を条件としてわれわれは、解放運動を支援する帝国主義大国は、それらが何らかの種類の連帯を感じているからではなく、実用本位の利益からそうする、と理解しなければならない。われわれはこれらの帝国主義大国に一切幻想をもってはならない。
 われわれは、西側がエリツィンとプーチンの新たな資本主義ロシアを打ち固める上での共犯者であった、ということを忘れてはならない。それは、西側が他の多くの独裁者に対したことと同じだった。スハルトのインドネシアとまさに同じように、プーチンのロシアは始めから右翼権威主義の反共産主義体制だった。そしてそれは、周辺共和国を征服する残忍な軍事作戦への西側の同意を確保した。
 しかし東チモール占領に関係する類似性は、チェチェン戦争を取り巻く前後関係の中以外でも考えられてよい。1999年、オーストラリア、ポルトガル、そして米国の進歩的活動家たちは、かれら自身の国がもつ植民地主義の歴史とこの紛争におけるそれらの以前の役割に対する批判を維持しつつ、それでもかれらの政府と国連に、チモールの住民と自己決定権を守るよう迫った。
 同様に、ウクライナの民衆を含む他のあらゆる攻撃の犠牲者が必要としているのは、国際的な支援なのだ。
 ウクライナ政府もまた、それ自身の階級的利害の中で行動している。ある時点でこれは、全体の住民の利益と、たとえばウクライナの保全という共有された利益と一致する。また、ロシア拡張主義に関し懸念を共有する地域の数ヵ国からの、ウクライナに対する意味のある支援もある。
 ある時点でそれは、それらの企業のためにこの国を開発したがっている西側資本の意図と一致する。そしてある時点で、西側資本の西側諸大国は、フランス、ドイツ、英国、米国、その他が異なった利害関心をもっているように、相互に一致しない。
 しかしウクライナ人は、かれらがある種の代理と見られるならば怒りを覚える。ウクライナ人は自らの意志で戦っているからだ。ここで戦闘する他国からの人々を意味する直接的な軍事支援は全くない。ただ何百万人というウクライナ人の抵抗があるだけだ。
 「最後のウクライナ人まで戦う」というこの決まり文句は、第一次世界大戦中のドイツのプロパガンダ、英国はフランスで最後のフランス人まで戦っていると語ったものと類似性がある。それは、侵略者に頑強に抵抗し続けているこれらの何百万人という人々を傷つけるものだ。
 ウクライナ人はかれらが今行っていることについて非常に意識している。かれらは、これがかれらの家族、友人たち、かれらのコミュニティ、そしてかれらの国にとって存在のかかった脅威である、と理解しているのだ。

交渉実現には
圧力が必要だ


 戦争の最初の何ヵ月か、ウクライナ側は交渉に向けその提案を投げかけた。基本的に、ウクライナが中立を維持し、NATOに加盟せず、ロシアとの間で言語の権利を相互に保証することの見返りに、2月24日以前の原状を回復し、そしてドンバスとクリミアの運命に関する長期の交渉に入る、というものだ。
 しかし交渉は停滞し、ロシアは、その戦略がウクライナの土地をできる限り多くつかみ取るというものだったため、話し合いから抜けた。
 このような成り行きにおいては、ウクライナへの武器供与は労組の組織化に似ている。そこでは、経営者に交渉を強要する目的で、みなさんはみなさんを後押しする何らかの力をもつことを必要とするのだ。ウクライナは、ロシアの軍事力に対抗し、ロシアを適切な交渉に強制するために、一定の軍事力を必要としている。
 われわれが付け加えなければならないことだが、ウクライナに対する軍事的、財政的支援は、西側の諸々の予算ではほんの小さなかけらにすぎなず、本当のところ、ウクライナを支援するために軍事予算を増額する必要は全くない。
 われわれはこれらふたつの疑問の間を区別することができる。ウクライナを防衛するという課題は、どのような意味でも、軍産複合体の食欲を正当化するものでは全くない。
 クレムリンはいくつかの敗北を喫した後はじめて交渉に押しやられる、というように見える。おそらく、ウクライナ軍がヘルソンを確保した後に――うまくいけば――これがロシアの思考に影響を及ぼすかもしれない。
 ウクライナ人の過半は、さらなるテロと併合を止めるために――少なくとも、われわれが合理的な外交的結論を達成できるまで――戦闘を続ける必要を理解している。
 なぜならば、もしウクライナが屈服するならば、それは、その領土を引き渡すだけではなく、大量の殺人、レイプ、その他の暴力があるロシアの占領下、に残されることになる数百万人もの人びとをも引き渡すことだからだ。(キーウ、2022年11月3日)

▼筆者は政治学者、かつウクライナの民主的社会主義組織である「社会運動」(ソツイアルニイ・ルク)を基盤とする活動家、また「コモンズ:社会批判誌」の編集委員会の一員。(「インターナショナルビューポイント」2022年11月7日)

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