スウェーデン 政治的地震引き起こした総選挙

社民党から右翼連合に政権交代
外国人排撃の極右が政権を左右

気候危機と福祉国家再建軸に右翼との対抗へ

キイェル・エストベルク

 中立の下での高度に発展した福祉国家として識者の多くから長く模範とされてきたスウェーデンで、今年9月の総選挙で外国人排撃を掲げる極右政党が第二党に躍進するという出来事が起きた。しかもこの躍進は、以下でも明らかにされているように、突然のことではなく、時間をかけて進行したものだった。資本主義の行き詰まりと極右の台頭が世界的な共通現象として並進していることが、また資本主義の論理への屈服がそれを許していることが、このスウェーデンの事例であらためて示されている。特に極右に対しどのような闘いが求められているかを考える参照素材として、やや時間が経過しているが現地の同志による報告を紹介する。(「かけはし」編集部)

右への急激な転換を映し出す


 9月11日の総選挙でスウェーデン社会民主党が政府権力を失った。かれらは十中八九、穏健党(保守派)、キリスト教民主党、さらにおそらく自由党から構成される右翼政府により置き換えられるだろう(現実にそうなった:訳者)。この政権は、右翼ポピュリストで外国人嫌悪のスウェーデン民主党(SD)の精力的な支持を求め、またそこに完全に依存するだろう。
 有権者のもっとも重要な課題が公衆衛生ケアであり、また気候の惨害がますます明確になる一方で、攻勢的な右翼が、思想を欠いた受動的な社会民主主義の助けを得て、移民と犯罪間の結びつきを主張しつつ犯罪についての議論に基づいて選挙キャンペーンを支配することに、また気候危機に対処することを回避しつつ代わりに原子力発電の拡張を支持してキャンペーンすることに成功した。
 右翼はスウェーデンについて、統制の効かない暴力の波に襲われているという絵を描いてきた。事実を言えば、暴力犯罪を含む犯罪は、この数十年スウェーデンで全般的に減少していたのだ。しかしひとつの分野では、つまり主に薬物に関連した犯罪集団間の武装衝突では、ある程度の増大が起きていた。圧倒的多数はギャングのメンバーだがまたたまたま居合わせた人も含んで、数百人が殺害されてきた。これが、相当に強化された処罰と抑圧を求める口実として利用されてきた。
 結果は右への急激な転換となっている。この転換は特に右翼陣営内部で目立っている。その選挙での成功は完全にスウェーデン民主党のものとすることができる。他の右翼政党はすべて票を失った。
 他方スウェーデン民主党は、得票率を3%以上増大させ、右翼の側の抜きん出た最大政党になっている。今後のブルジョア政権は完全にかれらの支持次第になる。これが意味することはスウェーデン政治における地震にほかならない。長期間、特に左翼の側では、スウェーデン民主党の成功は何よりも、今も社会民主党支持でありつつもSDへの抗議として票を投じている不満な労働者に原因があるとの、またそれらは少しばかりもっと急進的な社会民主主義の政策によってすぐに取り戻すことが可能だろうとの観点が存在してきた。これは、スウェーデンのもっとも成功した政党を大いに過小評価し続けている観点だ。

SD―もっとも成功した政党


 スウェーデン民主党は、レイシストとファシストの運動に根をもつ、熟練し、決意の固い指導部をもっている。それは、系統的に強力な党を作り上げてきた。それは少なからず、諸政党が党に組織的な強さを与えるために受け取っている自治体や国家の都合のよい助成金を利用できてきた。スウェーデン民主党はさらに、主な統一的メッセージとして外国人嫌悪を使ってソーシャルメディアを利用することにも、あらゆる政党の中でもっとも成功している。これが少なからず、若い有権者内部での高まる影響力をかれらに与えることになった。
 この党の選挙における諸々の成功はこの間ずっと目立っていた。2010年のその議会デビューの時、党が受け取った得票率は5・7%だった。その支持はそれ以来、12・9%へ、17・5%へ、そして今年20・6%へと上昇してきた。同じような強い凝集力をもつ政党は他にひとつもない。スウェーデン民主党支持者を説得して味方に引き入れようとの左翼からの試みは失敗に終わっている。2018年から党の支持者であった者の86%は今年再びこの党に票を投じたが、それは類を見ない高さの党への忠誠度だ。
 実際スウェーデン民主党は、右翼と左翼双方から継続的に新しい支持者グループを説得して味方にしてきた。今年の選挙では、14%が穏健党から、12%が社民党から来ていた。スウェーデン民主党は長い間、男性労働者の中で最強政党だった。しかしまた企業家の大きな諸集団も、また前回選挙後は農民もこの党に投票した。党は政治的に均質だ。その支持者の圧倒的多数は、自らを右翼と表現し、SDの民族的保守主義と外国人嫌悪の信条と深く一体化している。SDがレイシズムとファシズムの中に根をもっていることは、かれらにとってやっかいな問題では全くない。
 2018年の選挙までは、スウェーデンブルジョアジー内部にも、外国人嫌悪政党や右翼過激派政党との協力に反対する体面上の境界線があった。この線はずっと前に越えられている。最初の者は実業界だった。そしてそれはうまいこと、SDにスウェーデン人の福祉の私有化を継続的に受け入れさせることが何とかできた。次いで、キリスト教民主党指導者のエバ・ブッシュが肉団子を差し出し、議会内協力を組織するために右翼に道を開くまで、長くはかからなかった。すぐさま、あらゆる警戒線が消え去った。
 しかしこの党は簡単に取り込まれる犠牲者では全くなかった。逆にSDの綱領は、大幅にブルジョア諸政党のそれになってしまった。穏健党の指導者で首相候補者のクリステルソンは「増大する移民反対への強い向かい風の中でスウェーデン民主党のように立ち上がった政党は他にひとつもない」と感嘆して言明した。かれらは犯罪に対する戦いにおいて好ましい事例になってきた、自由党の指導者であるヨハン・ペルソンもこう語った。
 われわれは今その結果を見ている。今日、SDは伝統的なブルジョア政党をまさる大きさになり、支配的な右翼政党だ。大都市を除くあらゆる地域で、かれらは普通に25―30%の票を確保し、この40年間指導的なブルジョア政党だった穏健党を10%になるまでの差をつけて上回っている。かれらはおそらく公式の入閣は選択しないとしても、疑いなく、新政権に影響力を行使する例外的に良好な好機を得ている。

歯止めのない社会民主党の順応


 社会民主党は、議会内でブルジョア諸政党プラスSDが過半数を得ているとしても、この8年間政権内に存在してきた。これは、ふたつのブルジョア政党の自由党と市場自由主義の中央党が社会民主党と政治的合意に達したことが理由で可能だった。その目的のひとつは、SDを政治的影響力の圏外にとどめることだった。
 社民党はその合意を通じて、はるか先までいたる諸々の譲歩を行い、中でも高所得者に対するもっと低い課税、労働者への職の保証の切り下げ、そして市場が決める家賃の導入、を受け入れた。この社民党政権はさらに、移民を減らすための、そしてスウェーデンの難民政策をEUの最低水準に置くための一連の方策をも実行した。国境監視は厳格化され、家族の再合流はもっと困難にされ、難民はもはや永久的な居住許可を当てにできなくなる。
 今年の選挙キャンペーンにおける社民党の戦術は、本質的にかれらの綱領を右翼のそれに順応させることとなった。気候危機や福祉国家の防衛といった設定課題は今日、社会民主党の選挙政綱の公式的一部になった商業的利益による攻撃の下で、ともかくも掲げられたとはいえ、二次的な役割を演じた。
 社民党はむしろ、さらに重い処罰への要求――政府がこの方向でおよそ70の法案を提案したということが、常に繰り返されるメッセージになっていた――という形で、右翼より値をつり上げようと試みた。同様に、移民と犯罪間のつながりが強調された。「非ノルディック」の人々向けに特別法が提案され、首相は「ソマリア人町」について恩着せがましく発言した。新規の原発も受け入れられた。
 しかしながらもっとも注目に値する屈服は、200年におよぶ公式のスウェーデンの中立政策を放棄し、スウェーデンのNATO加盟を支持するという決定だった。2月24日後当初の社民党の対応は、スウェーデンのNATO加盟は北欧における安全保障の政治情勢をさらに不安定化することに力を貸すと思われる、というものだった。しかしながら、党指導部は右翼諸政党からの激しいキャンペーンを受けて、党員に立場をとらせないまま、この圧力に屈することを選択した。主な理由は、全く確実なことだが、この課題を選挙キャンペーンの課題設定から取り除くことだった。そしてかれらはそれに成功した。NATO加盟とウクライナでの戦争は、選挙キャンペーンから完全に消えた。

左翼党票の後退が提起する課題

 社民党は、28・3%から30・4%への得票率上昇にもかかわらず、111年間で2番目に悪い結果になり、こうして政府権力を失った。社民党の得票増加は、左翼陣営内部でも右への移行があったという事実で説明が可能だ。左翼党は並の結果を得、8%から6・7%に後退した。党指導部は、自らを新たな社会民主主義として提示しようと試みる中で、米国人から吹き込まれた党指導者を中心にしたキャンペーンを行った。SDに引き寄せられている「製鉄業の町の労働者」を説得して味方にしようと挑む目的には、特別の注意が払われた。
 左翼党はその理由から、たとえば気候を救うために暮らしの変更を求める要求やNATOといった、そうした労働者たちが難色を示すと思われるとかれらが考えた課題を控え目に扱った。党はまた、石油価格の大幅引き下げを求めるブルジョア諸政党からのひとつの提案をも支持した。加えてかれらは、新自由主義の中央党――SDと協力しないと強調した唯一のブルジョア政党――も含むと思われるやがて登場する赤―緑政府に入ることを求めた。結果として左翼党は、特にそれが影響力を伸ばそうと挑んだ労働者の中で敗北した。他方SDは、これらの環境の中でその成功を継続した。
 他方で左翼党は、社民党同様、より大きな都市で善戦した。スウェーデンはこうして、赤い大都市と青い(あるいは青/褐色の)田舎を抱える多くの他の欧州諸国と類似した状態にある。
 はっきりしていることとして、今日右翼の波に対する抵抗を主に提供している勢力は、気候危機、レイシズム、性的抑圧、さらに社会的緊縮と対決して闘っている諸運動の中にある。いくつかの労組、何よりも福祉と社会サービス内部の労組もまた急進化している。
 今日左翼には、気候危機と福祉国家防衛を中心として、これらの勢力と共に幅広い対抗攻勢を築く巨大な任務がある。(2022年9月18日)

▼筆者はスウェーデン支部の長い経歴をもつ(1968年以来の)メンバー。(「インターナショナルビューポイント」2022年9月19日)  

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