ベルギー 11月9日のゼネストを経て

賃金物価連動があらためて焦点に

社会的非和解性が政治枠組揺さぶる

マテオ・アラルフ

 ベルギーはこの熱い欧州の秋におけるストライキの波の例外では全くない。
 3つの労組連合組織――社会党系のFGTB(ベルギー労働総同盟)、キリスト教民主党系SC(キリスト教労組連盟)、自由党系のCGSLB(ベルギー自由労組連合)――が決定したゼネストは、積み重なった社会的憤激の産物であり、以前の数多くの決起に続いている。早くも9月21日、意図としては象徴的行動だったブリュッセルにおける労組集会は、活動家たちの切望に応えてひとつのデモに変わった。11月9日のストライキはこの国を麻痺させ、完全な成功だった。参加は私企業部門と公的部門の両者で巨大となり、重要なこととして、小規模小売店主や多くの自営労働者も賃金労働者に合流した。

賃金物価運動を
崩した賃金基準


 1980年代まで、多くの国は物価の動きに結びつけられた自動的な賃金連動から利益を得ていたが、ベルギーは、諸労組の決意と断固さを理由に、賃金、年金、さらに生活経費の間のこのつながりを維持した数少ない国のひとつだった(ルクセンブルクとマルタと並んで)。労働者たちは、この連動制に非常な愛着がある。そしてそれが労働者に、相対的にではあれ、かれらの購買力を維持することを可能にし、経済的な沈滞期に社会的な緩衝装置として機能してきた(注1)。しかしながら諸労組は、連動制の維持と引き換えに、一つの法(1996年法)の採択を認めざるを得なかった。それは、フランス、ドイツ、オランダと関係する「企業の競争力を保護する」目的で賃金基準が設定されることを認め、こうして連動から外れて賃上げを閉じ込めている。当初から指示的傾向をもっていた「賃金基準」は、その後強制化され、その諸規定はシャルル・ミシェル(2019年以来EU理事会議長)率いる右翼政府により2017年に締め付けが強化された。
 労組と雇用主代表は、高度に制度化された産業関係システムの中で、私企業部門全体に向けた部門横断的な労働協約を取り決めるために2年ごとに会合をもつ。そしてこの協約が部門の交渉と企業の交渉に対し枠組みとして機能している。FGTBは、賃金基準によって認められた交渉余地がごく僅かであることを理由に、この協定に署名することを繰り返し拒否し、1996年法の廃止を訴えて声を上げてきた。
 今年、ゼロ%の交渉余地、およびEU内の天然ガスと電力の最高価格を前に、3つの労組連合が反旗を翻した。労働者の極めて大きな諸層の困窮から帰結する憤激と切望がそれらを、ゼネラルストライキに訴える以外何の選択肢もない状態にしたのだ。
 そのような賃金の難局を受け入れることのできなかった諸労組はさらに、家計のエネルギー勘定書に何とか対処することに対する不十分な政府援助に疑問を突き付け、諸企業を利する目標を定めない諸方策に異議を突きつけた。特に、社会保障に対する企業拠出の一率的引き下げが、巨額な利潤を抱える企業に対する社会保障歳入を犠牲にした贈り物、として糾弾された。
 雇用主たちは、企業の競争力を危険にさらす連動制に起因するベルギーの被雇用者のより良好な保護、を盾にした口実を利用する一方、諸労組はこの保護が内包する部分的な性格を力説した。実際一方では、ある種の産品(たとえば燃料)が連動化から外されてきた。また他方では、物価上昇とその賃金への反映の間には、一定のタイムラグ(部門別の諸協定に応じて違いがある)がある。結果として、連動は物価上昇を部分的に埋め合わせるにすぎない。
 その上に、2015年にミシェル政権によって実行された「連動飛び越え」(注2)が、賃金の体系的な下落を引き起こした。連動制は被雇用者にとってかなりの保護になっているとはいえ、それもかれらの購買力減少を妨げるものにはなっていないのだ。

圧力下に置かれた
7党の連立体制


 ゼネストの成功は、政府を圧力下に置いている。7政党の異質な連合で構成されたこの政府は、自由主義派(右翼の立場に立つ)、社会党、そしてエコロジスト(中道左派)間の分極化で引き裂かれている。社会党は、以前のように生活経費に賃金基準がつながるようにするという諸労組の要求を支持すると語る一方、自由主義派は逆に、1996年法のいかなる修正も賃金連動の廃止を条件にしている。
 労組諸組織は、エネルギー価格上昇にうまく対処できない中・小規模企業を利する諸方策の必要を認識している。困難の中にある中・小規模企業に、株主に記録的な配当を配り、かなりの利潤を蓄積している企業や部門を融合させることで、あらゆる賃金交渉を拒絶している雇用主組織(FEB―ベルギー企業連合)の立場は、ストライキ参加者にある種の挑発を感じさせている。
 政府内での自由主義派との合意に縛られている社会党は、好景気部門における賃金交渉に道を開くと思われる、1996年法の緩和を得ることができるようには見えない。せいぜいのところ、実質利益の記録をつくっている部門で被雇用者にボーナスを配ることからなる妥協が、政府内であり得る最良の合意であるように見える。

一時金ではなく
賃上げが不可欠


 「コヴィッド・ボーナス」という不愉快な経験をすでに刻み込まれた労働者たちがそのような妥協で満足させられ得る、などということは疑わしい。民衆的怒りをなだめるために政府によって幅広く実行されたボーナスや「1回限りの」小切手は、ほとんど安心を与えるものではない。低賃金を基準としたとき、ボーナスは年金水準にも社会保障の資金充当にも貢献することはなく、自分たちの未来を心配している労働者たちをなだめるものでもない。ボーナスでの妥協は、ただ民衆的怒りを激化させるだけだと思われる。
 賃金の自動的連動制は、不完全だとしても、労働者の購買力保全を可能にしている獲得成果だ。それを終わりにすることを目的にした事業界と右翼からの変わることのない攻撃にもかかわらず、この制度は労働者たちの確固とした関与を理由に持ちこたえている。これは、ベルギーで諸労組が守ることができてきた争う余地のない強みだ。
 他方で、賃金基準に交渉を従属させる1996年法は、賃金交渉の麻痺へと導いている。11月9日のゼネストは、この国を分断している社会的な危機の程度を露わにしている。深く分断され、弱体化し内部からそこなわれている政治的構成によって危機にある国で、「コミュニタリアン」(注3)よりまさっているのは今や社会的な側面だ。
 ベルギーのゼネストは、今欧州中に広がっている、英国、フランス、ドイツ、ギリシャ、その他における大規模な社会的決起再開からなる同じ運動の一部だ。それは、これまでは政治によって消され、支配されてきた労働組合運動が今や最前面にある、そうした外形だ。地平線は欧州における極右ポピュリスト/国粋主義者の勢力の台頭で満たされているだけではない。現在の社会的非和解性もまた、別の地平線に道を開く可能性もあるのだ。(2022年11月12日)

▼筆者は、ULB(ブリュッセル自由大学)の社会学名誉教授。
(注1)ベルギーでは、賃金連動制が労働者階級の歴史に深く根付いている。1920年代に早くも、労働協約の13%が自動的な賃金連動を規定していた。
(注2)中軸になる指標(2%)に達しても賃金は上昇しない。これが「連動飛び越え」だ。連動はその後、物価がさらに2%上昇してはじめて再開することになる。
(注3)フレミッシュ(ベルギー北部のフラマン語圏)とワルーンズ(同南部のワロン語圏)間の分断にベルギー内で与えられている名称。(「インターナショナルビューポイント」2022年11月25日)

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