米国中間選挙を経て
レイシズム政治の部分的敗北だが煙はなお濃くなっている
自立した左翼の再建へ協力した議論と行動を
「アゲンスト・ザ・カレント」編集委員会
米中間選挙の結果が出て、煙は晴れたのか、いやもっと正確にいえば濃くなっている。ジョージア州上院選決選投票の結果は、民主党の上院支配がギリギリとなる(51対49)ことを意味する。「われわれの民主主義」の危機は過ぎ去ったのだろうか? 少しもそうではない。
進歩の兆し不在の不透明な未来
11月に向けた右翼の意図は明確だった。すなわち、失敗した2021年1月6日の「反乱派」の暴動を、もっと系統的な政治手段によって完結させることだ。この目標は、上下院で圧倒的過半数を確立することだけではなく、「接戦」州で将来の選挙結果をひっくり返す権限をもつ政府に向け候補者を諸々選出することでもあった。
その目標は、ペンシルベニア、ミシガン、アリゾナのようなところの有権者出現のおかげで、ほとんど砕け散り燃え尽きた――時には決定的な差で、またある場合はほんの僅差で――。右翼の支持者は今回、選挙結果のいつも通りの証明を阻止しようと試みている。つまり、アリゾナやミシガンで。極右の権力横領というこの局面における後退は重要な画期を印しているとはいえ、これらの策動が露わにした脅威は、いかなる意味でも終わっていない。
共和党は予想されてきたよりもはるかな小差で下院をつかみ取るだろう。民主党は、地球上で最も卑劣な人間のひとりにまで感謝の言葉を届けるのかもしれない。つまり、中絶に対する連邦の保護に関する半世紀を一掃する錯乱的な最高裁判決の起草者であるサミュエル・アリートのことだ。アリートは、ローは「尊敬に値する」と彼が語った2006年の彼の資格確認公聴会以来、今回の機会を藪の中で待機し続けてきたのだ。
右翼がその勝利を祝う中で、その決定に関する女性が主導した民衆的反感が、予想された反動の「赤い波」を抑え込んだ有権者の出現を先導した。
共和党はドナルド・トランプの汚れた上着の裾に今後もすがりつくのだろうか、あるいは彼をもう役に立たないとして捨てるのだろうか? この党の内戦はどれほど血の流れるものになりそうか、トランプは犯罪行為の驚くようなリストを理由に訴追に直面することになるのかどうか、あるいはふたつの資本家政党のどちらかで、2024年大統領選で誰が立候補するのか、このすべては評論家に完全雇用の好機を与えることになる。
もうひとつの未回答の問題は、次の2年の間、議会はどれほど停滞する可能性があるか、だ。しかしながら確実に、この諸々の危機に支配された社会の中の人々の暮らしを形作る基本的な諸問題に関する重大な進歩は――医療ケアの利用権であろうが、不平等であろうが、子供の貧困であろうが、あらゆるレベルでの不平等であろうが、潜在的なスタグフレーション不況の可能性であろうが、何よりもむしろ悪化中の気候破局であろうが――、ほとんど起こりそうにないだろう。
二極化と米政治の危機は継続
ひとつの結果がはっきりと浮上している。つまり、二極化と米政治の危機は継続している。選挙結果はいつも通りの不変の政治的安定性という「再正常化」を意味する、という幻想があってはならない。
正常さへの回帰という外見は、爆発的な選挙後の暴力という直後の見通しの減退から来ているかもしれない。しかし、クラブQの大量銃撃のようなできごと、コロンバス、オハイオにおいてプラウドボーイズ(ネオファシスト集団:訳者)が組織したグループがLGBTの集まりを混乱させたできごと、おそらくLGBTの集まりへの電力供給を止めるための、狙いを定めたノースカロライナ送電システムへの攻撃、これらすべては、極右によって目標にされた社会内の特に傷つきやすい人びとが直面するしつこい危険を例示している。
共和党の弱い下院支配は今、かれらが全国的な中絶禁止を固く打ち固めようとするだろう、あるいは政府の資金手当に関する危機を強要するだろう、といったことをありそうなことだ。しかしこの国の「安定性」に関する諸機構は、ぼろぼろにされたままにある。人口の40%ほど、そして共和党支持者の過半数は、2020年選挙の否認、「白人復位」論、過激なトランス嫌悪、また他の集団的錯乱の兆候からなる、現実と離れた並行的なイデオロギー的宇宙に生存し続けている。
この悪意をもって操作された精神的病変が、各地域の学校運営委員会や図書館委員会に表出している。そしてそこで右翼は、「自由のための母親」といった名称を使って、ゲイ、レズビアン、あるいはトランスジェンダーの子どもたちの暮らしを描写する中の「性的に露骨」と思われる書籍を力づくで排除しようと繰り出している。これらは、この社会のもっとも傷つきやすい若者たちのいくつかの人間性に対する、悪質で冷笑的な攻撃にほかならない。
同じくひどいことに、これらの反動は、マイノリティの諸コミュニティー――たとえばミシガン州のデアボーンの例では、アラブやムスリムの住民――にも達している。その住民たちは、白人クリスチャン民族主義によって威嚇されているのだ。
議事堂暴動の精神は陰で生きている。共和党支持者の初期的内戦にもかかわらず、あるいは実際はそれゆえに、かれらは、1月6日の下院調査の無効化に向け、ハンター・バイデン(大統領の次男、ウクライナでの汚職疑惑に巻き込まれている)のラップトップからアフガニスタンの挫折までのあらゆることに対する、どこへも行き着かない下院「調査」を使ってかれらの基盤に燃料を送り込む、と予想してよい。
女性や若者の決起と左翼の不在
「ロー対ウエード」撤回に対する有権者の反応は、明らかに目立つものだった。中絶の権利が投票にかけられたすべての州で女性の選択する権利が勝利した。それは、これらの住民投票が人民の意志を行使する点で果たし得る重要な役割を――そしてそれらを認めない州における民主主義に対する障害を――示している。
女性の、また全体としてのまともな人々の憤激した反応は、共和党勝利の波になると予想されたものを鈍らせた有権者の出現にエネルギーを与えた。当日に有権者登録があるミシガン州では、学生が登録のために何時間も行列をつくって待ち、その後票を投じた。
その出現が、拡張的リプロダクティブ・ライツ(性と生殖の権利)のミシガン州憲法修正(提案3)の採択に貢献した。それは楽勝だった。同じく最高職位を保持する3人の女性――知事、司法長官、州務長官――も、共和党の対立候補が過激な反選択、選挙否認、MAGA(トランプの大統領選スローガン、メイク・アメリカ・グレート・アゲイン:訳者)の熱烈な支持者であったという環境に助けられて楽勝だった。
3人の現職(グレッチェン・ホイットマー、ダナ・ネッセル、ジョセリン・ベンソン)すべてが、1931年の中絶禁止州法(今は効力を失っている)に対する知事による法廷での異議提出、および司法長官のネッセルによるその州法の執行を行わないという誓約を含んで、親選択の政綱に基づき立候補した。
ミシガンの有権者はまた、有権者の投票権行使機会拡張、および候補者の資金開示を確実化する提案をも採択した。何十年かで初めて共和党は、党派に関係しない選挙区再区割りのおかげで、州議会両院の支配を失った。右翼のゲリマンダー操作は、あらゆる種類の悪意がこもった害悪を可能にしてきた。そこには、黒人が多数派であるデトロイトに破綻を押しつけ、フリントの水道を汚染した、有害な「緊急管理者」諸法が含まれる。
全国的な絵柄は、企業資本の米国政党が支配を求めて戦闘する中で、いつものように混じり合ったパターンだった。活力を呼ばないジョー・バイデンは、民主党の票を引き下げることも、決定的な戦場での競争でドナルド・トランプの極めて有害な磁力を高めることもなかった。そして、マネーがすべてを支配するわけではないと心に留めれば、それは再度元気づけるものになる。たとえば、サマー・リー(民主党から下院選に立候補した黒人女性:訳者)に狙いを絞ったAIPAC(米・イスラエル公共問題委員会)による猛襲(ペンシルベニア12区での)は、ものの見事に失敗した。
全体として、境界が曖昧な「進歩的」民主党の翼は、それ自身を保持したように見える。しかしながら何人かの左翼の幻想に反してそれは、企業に忠実な党の既成エリートの確固とした支配に対する挑戦を全く意味していない。遺憾ながら自立的左翼は、いくつかの草の根的存在感――投票権署名、次いで提案3のための投票実行を求めて活動家たちが投票勧誘を行ったミシガン州の模範的な事例のような――を除いて、今回の選挙での要素ではなかった。
見通しを曇らす具体的な要素
反動的な立法の波の恐れられた猛襲が今やほとんどありそうになく見えるということは、このやっかいで非理性的かつ長期の選挙サイクルの、もっとも前向きで希望のある結果だ。
われわれは、強力な親選択有権者の出現を経て、反中絶の州議会が、合法的に中絶を得ることができる州への女性の移動を犯罪にしようとするかどうかを、検察官が中絶医薬品を提供する医師たちにつきまとうことになるのかどうかを、また女性の中絶利用に関する全国的な危機をさらに焚きつける他の非道を、確かめなければならないだろう。 より深刻な課題はなお残っている。そして以下はその僅かだ。
(1)長い間保証済みの「安定性」の支柱と見られた諸要素――権力内部で規則的にかつ定例的に交替するふたつの資本家政党による支配、諸州との関係での多くの権限の非集中化、そして立法の「過激さ」に関するチェックとしての最高裁、といった――は今、不安定化の作用因に成り果てている。トランプがいようがいまいが、以前は伝統的な保守であった共和党の支配的な翼は今や基本的に、高度にゲリマンダー化された州議会に基づく縛りを抱えた、拘束を解かれた金権政治、クリスチャン民族主義、そして白人至上主義の調達者になっている。
(2)最高裁の場合、中絶に関するその悪逆な判決が有権者から平手打ちされたとしても、その多数派は依然として、極右の「白人至上主義合衆国最高裁」(WSCOTUS)に確固としてとどまっている。それは必ずしも、ドナルド・トランプを守ることでその正統性の中で残っているものを犠牲にはしないだろう。まさに、それがフライに揚げるべきもっと大きな魚を抱えているからだ。それは、すでに公民権法を破壊し終えているし、アファーマティブアクションを一掃する用意ができており、さらに将来の選挙結果をひっくり返す「州の独立した立法」を可能にする信じ難い公式宣言を真剣に考えるだろう。
(3)2023年にもあり得る、スタグフレーション不況(1970年代半ばに最後に経験した、しつこいインフレを伴った経済後退)は、医療ケアや労働者の居住権から社会的セーフティネットや銃の暴力などの、米国における進行中の機能不全を悪化させるだけだろう。この経済情勢にどちらの政党もまじめな対応策をもっていない。共和党の政策は富裕層に対する減税と他のすべての者に対する悪質な予算切り下げであり、他方民主党は、企業の価格ゆすり取りに立ち向かったり、かれら自身の巨額寄付基盤の願いに反する他の方策を取り入れたりはできないからだ。
(4)米国政治の権威主義的でレイシズム的な傾向は、国際的な傾向の極めて大きな部分だ。われわれが引き合いに出すことができるのは、米国の白人民族主義者のお気に入りであるハンガリーのヴィクトル・オルバンや今や幸いにも打ち破られたブラジルのジャイル・ボルソナロだけではなく、パレスチナ人の民族浄化やかれらの市民権剥奪を公然と主唱する諸政党を含むイスラエルの新連立政権でもある。さらに、ウクライナでの戦争が厳しい冬に長引く中で、ますます大声になりそうな共和党内親プーチンの翼まである。
この結びつきの中にわれわれは、悲しいことに、米国の選挙と同じく、またあらゆる国際的な動乱――まさに今、ウクライナに対するロシアの侵略から結果している戦争、そして世界全体の経済と食糧供給に対するその結果――と同じくその中で、パレスチナとその民衆が、付帯的な被害者になっている、ということを認めなければならない。AIPACの同類がパレスチナ民衆の権利を求めるどのような下院の声をも潰そうと骨を折っている中でさえ、パレスチナ占領地でのイスラエルによる日々の攻撃や殺害は、米メディア内にほとんど印象を残さない。これは、草の根の親パレスチナ活動の重要な高まりにもとづいてのみ変わり得る。
(5)濃くなる一方の煙と高まる洪水について言えば、環境の崩壊が米国政治だけではなく人間の未来にも覆い被さっている。われわれは、2024年に大統領選に誰が立候補することになるのか、あるいは経済がどのようなものになるか、あるいはウクライナでの戦争が変わっているかどうか、またあるいは他の多くのことも分かっていない。しかしわれわれは、森林火災、洪水と干ばつ、諸々の種の絶滅、さらに生息地の崩壊は今後、それらが今すでにそうなっている以上にもっと悪化することは分かっている。
(6)確かなことがもうひとつある。この選挙に関する170億ドルと見積もられた支出は、空前の高さを示しているということだ。そしてそれは、次の選挙までずっと続くだろう。米政治における選挙運動資金支出記録は、野球の筋肉増強時代の中でのホームラン記録よりも早く破られている。それは、システムの機能不全の兆候であると共に原因だ。
2022年選挙における極右の女性蔑視とレイシズム政治の部分的敗北は、ある程度の安堵の理由になっているが、しかし米国の政治的、社会的、人種的な危機の深刻さに関する限り、新たな自信にはならない。あるべきところにない最大の要素は、根源からそれらに取り組むことができる自立した左翼だ。この課題は、急を要する、また協力的な議論と行動を必要としている。
▼「アゲンスト・ザ・カレント」誌は、第4インターナショナルのシンパサイザー組織である米国のソリダリティにより発行されている。それは、その目標を説明する分析の隔月誌だ。すなわちこの雑誌は、米国左翼内の再結集と対話というわれわれのより大きな構想の一部として、さまざまな幅広い課題に関する観点を提供している。そのようなものとして、論争は頻繁であり、また左翼の活動家、組織者、学者内部の討論を推し進めるという目標によって教育的だ。(「インターナショナルビューポイント」2022年12月31日)
The KAKEHASHI
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