米国 2023年の米社会
止まらない銃暴力、女性の闘い
草の根の労働者の活動意欲好転
恐れ抱え暮らす強ストレス社会の逆転へ
ダイアン・フィーリー
もくろまれた「反乱」の2年後、そして2022年11月の中間選挙後、米国の政治の全体条件は、キム・ムーディの「ぬかるみに沈み右翼に傾いて」で描かれている。
筆者は以下でその傾向を説明するのを助ける近頃のできごと、つまり殺人的な警察の残忍さ、わが当地に特有の銃暴力、中絶の権利、そして限定されているとはいえ重要な草の根の労働者のエネルギーの好転に焦点を絞るつもりだ。
―以下、紙面の都合で分量の多い警察の暴力については割愛する(訳者)―
わが国固有の大量銃撃殺傷
昨年、米国には647件の大量銃撃事件があった。ちなみにそれは4人以上が負傷するか殺害された事件だ。そしてこれは、1万4000人の死に帰結し、ほとんどが、家族、友人、同僚から孤立していた男によって実行された。何人かはその後自死した。それらの行為は、絶望の行為とレッテルを貼られてきた。2023年1月、大量銃撃は平均で1日当たり1・5件以上になっていた。
2022年における最大の大量殺人は、テキサス州ユヴァルディの学校で起き、そこでは19人の子どもと2人の教員が死亡した。銃製造業者は、「銃が人を殺すわけではない」、したがって規制の必要は全くない、と主張する。政治家たちは、銃を身につける権利を主張するために米合衆国憲法修正第2条――とはいえ、曖昧に言い表された修正は、「十分に統制された民兵」を指している――の背後に隠れるのを好んでいる。
結果としてほとんどの州では有権者登録をするよりも銃を得る方が簡単だ。火器を使って殺害されたり自死したりする人びとを算入すると、総計は高まり5万人近くにも達する。米国人口の3分の1が最低1丁の火器を所有している。多くは個人的防護のために購入されている。すべての学校銃撃事件の後には、学校がどのようにして警察の常駐や武装教員を確保するか、に関する議論がある。
自衛のために武装した住民と軍事化した警察力からなるこの組み合わせは、ストレスの下に置かれた社会が呈する暴力形態を説明することに大いに役立つ。以下は、米国労働者の63%が給料日から給料日へと暮らしながら直面するストレスを、バーニー・サンダースがどう描いているかの例だ。
……「あなたは毎日信じられないようなストレスの下で――もしあなたの車が壊れたら、もしあなたの子どもが病気になったら、もしあなたの地主が地代を上げたなら、もしあなたが離婚したり、別居になったら、もしあなたが妊娠したら、もしあなたが理由が何であれ職を失ったら、あなたは金銭的に破綻のど真ん中にあるのに気づくことになる、と死ぬほど怯えて――暮らしている」(注)。
個人がどれほど孤独で恐れているかに注意を! 広大で広がるばかりの不平等の世界になっているものの中に、集団性は皆無だ。50万人が、毎年医療が追い込んだ債務が理由で破産に向かっている。この国は、公的医療ケアのない唯一の工業化された国なのだ。
リプロダクティブヘルスと権利
米国が高い幼児死亡率と並んで高い産前産後の母親死亡率を抱えている理由で主な要素は私有化された公衆衛生システムだ。再度、その質と並んでケアにたどり着く同等性の欠如を伴って不平等が問題だ。
黒人と先住民米国人の女性と子どもは、その白人の相方よりも3倍から4倍以上死ぬ確率が高い。疾病管理予防センターの専門家は、少なくとも80%は予防可能、と示している。これらの死の逆転もまた、共同体の支えを物語る食糧不安の克服と手頃な住居の入手を意味している。
最も問題になっていることは、母親の死亡率がパンデミック期間中高まったが、新型コロナウイルスは死の原因ではなく力を貸した要素にすぎない、ということだ。中絶の権利に対する連邦の保護を無効にした最高裁決定を前提にした、南部と中西部の州ほとんどにおける産児制限と中絶の利用の縮小は、条件を悪化させるだろう。
同時に、性と生殖の自由を州憲法に加える、あるいはそれを確認する住民投票への、また街頭へのこの両者における殺到は、問題の州をどう見るかに関わりなく、つまり共和党の拠点か、あるいは民主党の拠点かに関わりなく、一貫したものになった。
ミシガン州では、われわれの上首尾の性と生殖の権利住民投票が、身体の自律に必要なサービスの幅広い範囲に関する討論の幕を開けた。われわれの仕事は今、法的な権利だけではなく利用にも保険をかけるために活動することだ。これは、患者に正確な情報を教えること、不必要な要件を取り外すこと、州の資金による親の休暇その他を与えることを意味している。
さらに、諸州は1970年代から1990年代に米国憲法に同権修正を加えることができなかったとはいえ、多くの州憲法には同権、プライバシーの権利、また適正手続きの条項がある。一定数の弁護士は現在これらの条項の下に、中絶に対する法による禁止に異議を申し立てている。サウスカロライナ州最高裁はプライバシー条項を根拠に、妊娠6週後の中絶に対する法による禁止を無効にした。
会期が再開した下院――そしてまたほとんどの州議会――に対し、問題の両側で諸々の法の争いがこれから持ち込まれ、いくつかが採択されるだろう。性教育や避妊や中絶に反対する者たちは少数派であるものの、それはある種職業的に専心する少数派であり、その尻尾である右翼政治家が支持者の確固としたブロックと見ている。
文化的な課題が政治課題に変態する中で、バイデン政権は、たとえ一握りの票によるだけだとしても極右の統制下に置かれた共和党の下院によって、動きを止められているのに気づいている。
極右共和党のこのグループは、かれらのトランプ派としての設定課題を進める目的による、バイデン大統領と彼の息子であるハンターを調査すること、および民主党から妥協を引き出すことほどには、法の採択に関心をもっていない。(共和党下院の議会役職指名については省略:訳者)
労働者が草の根で動き出した
2023年の潜在力をもつ最も重要なできごとは議会ではなく、これから始まる7月末のチムスター(IBT)のUPS(米国の世界最大級の宅配会社:訳者)における契約、および9月半ばにおける全米自動車労組(UAW)とビッグスリーとの契約だ。両労組では、下部組合員のコーカス(一定の路線を軸に結集した活動家集団:訳者)が重要な食い込みを勝ち取り、それらは、賃金と諸手当の階層化を終わりにすること、さらにもっとよい労働条件を要求する中でストライキを準備中だ。
それらの前にはまた、労働の安全と有給の病休に対する権利を求めた鉄道労働者の闘いという前例がある。鉄道労働者の事例では、バイデン政権はかれらの要求の正当性を認めつつも、これらの問題に応えなかった契約を強要した。
こうしてチムスター内のコーカス(民主的労組をめざすチムスター、TDU)とUAW内のコーカス(民主主義をめざす全労働者連合、UAWD)が、政権の裏切り、およびかれらの労組が鉄道労働法の下にはないことを意識した上で、会社が求めるはずの妥協に立ち向かうと約束する最高位役員数人を選出することができた。ちなみに前記の法律は、政府による契約強要を容易にすることを可能にしている。
かれらの産業内で進んでいる再編と展開中の景気後退の双方から、労働者と強固な意志をもつ最高位役員たちは、会社が少しばかりのカネをばらまくことで今回も勝利可能と傲慢にも期待している、と気づくだろう。
現在、3月1日に票の集計が始まる形で、UAW会長を選出する決選投票キャンペーンが進行中だ。労組機関コーカスは、12人の役員たちによってぐらつかされてきた。そのすべては当該コーカスのメンバーであり、全労組員から盗みを働いた、あるいは会社から賄賂を受け取ったと有罪を認め、かれらはまたこの40年にわたる妥協的な契約を擁護する立場にいる。
労組機関コーカス(AC)の候補者であるレイ・カリーは、AC候補者のガリー・ジョンズが罪を認めたために臨時的に会長になるべく執行委員会によって拾い上げられた。カリーは家を掃き清めた、そして印象に残る契約を交渉する用意ができている、と主張している。彼は、選出されれば初めて選出されるアフリカ系米国人のUAW会長になるだろう(以前ロリー・ギャンブルが暫定の立場で職務に就いた)。
彼の対立候補であるシャウン・フェインは地方支部をおさえてきた熟練した電気技師であり、現在は、クライスラーの2007年全国協定にはじめて導入された時2階層賃金制度の実施に反対した経歴をもつ国際代表だ。フェインは契約の準備に向け全労組員と共に働くと誓い、もっと民主的な労組を築き上げる必要を強調している。
UAW選挙の一回目では、UAWDが支援した名簿が最高位役員14人の内5人を勝ち取った。そこにはマーガレット・モックの選出が含まれ、彼女は会計書記になった最初のアフリカ係米国人女性だった。
決選投票でUAWDは、フェインと地域指導者ひとりを支援している。両者が勝てば、ウォルター・ルーサーの下で1948年以来権力と会長を連続して確保してきACは、労組指導部に対する固い支配を失うことになるだろう。
契約交渉はもっと戦闘的な道筋で進むだろう。そうならないとしても、一般労組メンバーはもっと民主的な組合を建設する第一歩を踏み出している。
投票用紙は退職者を含む全UAWメンバーに郵送済みであり、それは今集計作業を委託された会社に返送され始めている最中だ。ACが選挙を無視し、かれらが「信用する」組合員大衆にのみ接触しようとした一回戦とは異なり、今回かれらは、UAWDが支援する戦闘的メッセージを携えた候補者が反響を呼んでいたことを理解し、一群のメンバーを動かそうと、またフェインの実績を歪めようと今試みている。
UAWの要求決定大会は3月末に予定されている。それは、指導部が契約要求と交渉準備に関し代議員団との一致を確認する必要がある場だ。昨年改革派名簿を選出したチムスターの場合、それはすでにストライキ準備で活動中だ。
戦闘的な伝統があり、新たな指導部と企業エリートに立ち向かう決意のあるコーカスを抱えるこれら2労組は、米国人の暮らしを今日特性付けている絶望と怖れを逆転する可能性を提供している。(この論評は「ランティカピタリスト・ラ・レビュ」向けに書かれた)
▼筆者は下部組合員コーカスの「自動車キャラバン」で活動している退職自動車労働者であり、「アゲンスト・ザ・カレント」誌編集部の一員。
(注)「米国の労働者階級の状態に関するバーニー・サンダース」、2023年1月17日付け「われわれの革命」。
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